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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
142/195

第142話 夢の偶然



 「レイラ、どうしたの?」


 ネクリに、元気よく声をかけられる。


 ドン・ハルキサワ事務所の、広いレッスンルーム。


 仕事だ。


 白のブラジャーにショーツ、お尻にペルシャ猫の尻尾をピンと立てて、レイラは、撮影のための準備をしていた。


 「え?」


 可愛いピンクのフリフリ、フワフワの下着(アンダーウェア)のネクリの方を、振り向く。


 「私、何か変だった?」


 「うん。ぼーっとしてた。尻尾も垂れそうだよ」


 慌てて、お尻を見る。もちろん、ペルシャ猫の尻尾はピンと立ったまま。これは垂れたりしない仕様だ。


 「もう。ネクリ、からかわないでよ」


 ネクリは、くすっと笑い、


 「だって、レイラ、全然集中できてないよ。気の抜けた感じも結構素敵だけどね。仕事は仕事! きちっと自分を作らなくちゃ」


 「あ、うん……」


 集中できてない。そうだ。ついつい考えてしまうのだ。


 昨日になって知った、新しい事実が色々と。裏街(アンダーグラウンド)のギャングたちの物語(ストーリー)。刑事としてではなく、関わってしまった。


 でも。


 あれこれ考えても仕方がない。下着モデルの仕事に、集中しなくちゃと、レイラは思う。


 「じゃあね、レイラ、私、これから撮影だから。あ、今日の夜、一緒にご飯に行かない?」


 と、ネクリ。


 「今日の夜は、ダメなんだ。今度行こうね」


 と、レイラ。

 

 今日と明日の夜。


 アスターシャと、約束した、裏街(アンダーグラウンド)巡礼。これで、もう最後。


 「わかった。じゃあ、また今度ね」


 ネクリは、くるっと背を向け、スタジオに向けて、ピンクの下着(アンダーウェア)をヒラヒラとさせながら、走っていく。


 本当に無邪気だな、と、見送るレイラ。ギャングだ暗黒街住人(アウトロー)などは、無縁の世界。年頃の女の子なら、そうあるべきなんだけど。


 

 気を取り直して、壁面の鏡に向き合うレイラ。


 「おや?」


 鏡に写っているのは、カオリ。


 ウォーキング。お尻の振り方の練習をしている。ブルーのブラジャーにショーツ。お尻には、仔鹿の尻尾。かわいいお尻を何度も振りながら、確かめている。



 ◇



 「ねえ、カオリ」


 レイラは、声をかける。


 「なんでしょう」


 カオリは、お尻を振るのをやめて、こちらを向く。


 「ちょっと、聞いてもらいたいことがあるんだけど」


 「はい」


 カオリの、夢見心地な瞳。いつものこと。数列家の少女。


 なんでカオリに相談しようと思ったのか、レイラにもよくわからないけど、この子なら、別の角度から見えてくるものがあるかもしれない。


 「ちょっと変な話なんだけど、こういうことがあったとしたら、どうだろうって」


 「ちょっと変な話?」


 「うん。自分にとって、すごく大事な人。仲の良い姉妹とか、大切な身内。今までずっと一緒にいた人が、突然目の前からいなくなって、必死に探しても、見つからない。あきらめきれずに、どうしても会いたいと思っていたら、別人だけど、大切な人と顔がそっくりな人が現れた。どう思う?」


 「何のお話でしょう?」


 カオリは、首を傾げる。


 「実際にあることとは、思えませんね」


 「でも、起きるかも。起きたら、どうする?」


 カオリ、じっとレイラを見つめる。


 「ものすごい偶然ですね。本当にそんなことが実際にあったとしたら、それは、夢の世界の話です」


 「うん、そうだね」


 確かに。これが常識的な見解だろう。


 「その夢の世界、実際にあったら、夢をもっと見たくて、夢から醒めるのが嫌で、その、顔がそっくりな人と一緒の時間を過ごしたいと思う。これってどうかな?」


 真顔で訊くレイラ。カオリは、少し困った様子で、


 「あくまでも、どうしても会いたい人とは、顔が同じだけの別人なんですよね? 一時の思い出作りなら、良いのかもしれません。でも、いなくなってきた人の代わりにはなりません」


 うん、そうだ。


 アスターシャも、レイラと思い出作りをしたら、きちんと吹っ切れてミルを待つと言っている。


 「レイラさん」


 カオリが、訊いてくる。


 「何かあったのですか? その話、どうも妙ですね。そういう偶然が実際にあったとしたら、偶然ではなく、何かの作為、誰かの意図を考えたほうがいいと思います」


 「作為? 意図?」


 「はい。夢のような偶然。普通ではありえないこと。疑ってかかるべきです。何があるのかは、分かりませんが。何かに巻き込まれていませんか? 気をつけてくださいね」


 レイラは、うぐ、となる。 

 

 相変わらず鋭いな。刑事の自分をたじろかせる。


 「ありがとう、カオリ」


 レイラは、笑顔を浮かべる。


 「何でもない。本当に、大した事じゃないんだ。ただ、ほんとに、思いがけない出会いがあって、いろんな話を聞くことがあったから。ちょっと考えちゃってたの」


 「そうですか」


 カオリは夢見心地な瞳で、再び、じっとレイラを見つめる。


 「何かあったら、すぐ連絡してください。相談に乗ります」


 「そうするよ。本当にありがとう」



 ◇



 今は。下着モデルの仕事。レイラは、集中することに努める。


 夢のような偶然の出会いが引き起こした、アスターシャの追憶、感傷(センチメンタル)、自分はそれに付き合っている。


 でも。


 偶然じゃない? もし、そうだったら?


 作為? 意図?


 なんだろう。見当もつかない。


 わかっていること。


 15歳でギャングの女となったミル。レイラと同じ歳の少女。


 帰ってこようとしている。


 裏街(アンダーグラウンド)に。


 ギャングの仲間たち、そして、スキッドのところに。



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