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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
141/195

第141話 約束



 警察のデータに目を通して。


 だいたいの状況は、わかった。


 レイラは、アスターシャのことを考える。


 データには、アスターシャの名前は一切出てこなかった。姉に誘われて、何度か裏街(アンダーグラウンド)に足を踏み入れた、ただそれだけなのだ。本当に、ギャングとの関係は無い。臆病な少女。


 アスターシャがアルデランタ家の養女になったのは、半年前。スキッド一味の一斉摘発と、同じ頃だ。


 アスターシャは、ミルが裏街(アンダーグラウンド)と決別し、自分とアルデランタ家で平和にのんびり暮らすことを、望んでいる。


 だが、ミルがこの星に帰ってきても、それは望めないだろう。


 ミルは、自らの意思でギャングの女になったのだ。スキッドと離れることは無いはずだ。だから、仲間たちにも自分の画像を送ってきたのだ。臆病で裏街(アンダーグラウンド)を怖がる妹とは、違うのだ。



 ◇



 これから、どうしようか。


 レイラは、思案する。


 帰りのエアカータクシーで。

 

 アスターシャと、いろいろ話をした。


 ジロモやクーゴについて訊いてみたが、知らないと言われた。スキッドやその仲間とは。顔を合わせたこともないと言う。ミルに裏街(アンダーグラウンド)に連れて行ってもらった時には、ギャングの仲間とは、会いたくないと言ったそうだ。臆病なアスターシャらしい。


 ミルが急にいなくなった理由。アスターシャは、本当に知らないようなのだ。


 

 それで。


 姉の追憶の裏街(アンダーグラウンド)巡り、アスターシャの心の聖地巡礼、どうするか?


 この状況なら、やめるべきだ。それが冷静な判断である。


 ミルが、もうここに帰ってきているかもしれない。そこに、ミルと同じ顔のレイラが裏街(アンダーグラウンド)のミルの縄張りをうろうろしていたら、また、今日のようなトラブルになるだろう。


 そもそも、ミルが戻ってくれば、またアスターシャと会えるのだ。


 しかし。


 「お願い、レイラ」


 アスターシャは言ったのだ。


 「ミルの関係に巻き込んじゃって、ごめんなさい。でも、あと2回、どうしても、続けたいの」


 「え?」


 と、レイラ。聖地巡礼。約束は、確かにあと2回残ってるけど。

 

 もう、追憶だ感傷(センチメンタル)だという段階じゃない。裏街(アンダーグラウンド)に、余計なさざなみを立てすぎてしまう。


 「やっぱり、ミルの顔だとみんなに知られている以上、私の存在が出てきたら、おかしなことになっちゃうよ」


 「うん……」


 アスターシャ、目を伏せる。


 「そうね……私、確かに、裏街(アンダーグラウンド)のこと、よくわかってない。でも、あそこでのミルは、本当に輝いていたの。目に焼きついているの。ミルが帰ってくるかもしれない。それなら、本当に、いい。しっかりと抱きしめる。でも、ひょっとしたら、まだ帰ってこないかもしれない。ずっと待つためにも、ミルの姿をどうしても、もう一度胸に刻みたいの!」


 レイラは、やれやれ、と思う。


 結局、そこに戻るんだ。


 ミルが、裏街(アンダーグラウンド)で輝いていた。うん。それはそうだろう。ギャングのボスの女なんだし。


 ごめん、もう、終りにしよう、そう言おうとして、レイラは、言えなかった。


 アスターシャ。紫の瞳に宿る切迫感。姉への、尋常でない想い。どうしても、見捨てることができなかったのだ。


 それに。


 自分が関わることでは無いかもしれないが、この裏街(アンダーグラウンド)物語(ストーリー)、もう少し見てみたい気がした。なぜか、そう感じたのだ。


 聖地巡礼を続ける。危険はあるか?


 今日の様子を思い返す。


 一斉摘発は、結局大した事にならず、スキッド一味は、大手を振って活動していろ。ボスの帰りを待っている。ミルのことも、ボスの女として、尊重している。


 急に襲撃されたりとかは、なさそうだ。


 レイラも、徹底的に訓練を積んだ宇宙警察の刑事である。やばい状況が起きても、対処はできる。


 ミルだと間違われて、絡まれても、すぐに逃げればいい。


 今日と同じ。大した事には、ならない。本物のミルが現れたら? その時は、待望の双子姉妹再会。レイラはさっさと消えればいい。


 大丈夫だろう。


 レイラは、アスターシャに言った。


 「わかった。じゃあ、あと2回ね。明日と、明後日の夜。それでいい?」


 「うん!」


 アスターシャ、瞳を輝かせる。


 「レイラ、本当にありがとう。あ、でも。危ないことがないように、きっちり、ボディーガードをつける。それでいいでしょ?」


 「ボディーガード?」


 うふふ、とアスターシャ。


 「うん。私、アルデランタ家のお(かね)、使えるし。レイラの安全のためなら、なんでもするよ」


 「うーん、ボディーガードとか、別にいらないから」


 レイラは、言った。ボディーガードなんて引き連れて行ったら、また面倒なことになりそうだ。


 アスターシャ。

 

 この子は、本当に、あれこれいろいろわかってないお嬢様なんだな、と思う。


 ともあれ、聖地巡礼を続ける約束をした。あと2回。それで本当に終わりだ。



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