第138話 ミルの新しい顔
「おい、クーゴ」
不満そうなジロモ。
「なんで止めないんだよ。さんざん探し回っても見つからなかったミルが、せっかく帰ってきたんだぞ。どうするんだ? ここに顔を出したけど、また出ていかれた、どこに行ったかわからない、もう見つかりません、兄貴に、そう報告するのか? おまえ、どうなるかわかってるのか?」
甲高い声。トロンとした目、殺気を帯びている。カードルームの暗黒街住人たち、固唾を飲むが、クーゴは、
「これでいい」
静かに言った。
「なんでだよ」
「ミルには、ミルの考えがある。どこかに行って、顔まで変えている。まだ完全に俺たちのところに戻ってくる踏ん切りが、ついてないってことだ。今日はちょっと様子を見にきたんだ。なに、裏街にいるんだ。問題ない。また、しっかりと顔を出してくれるさ。兄貴の出所の事だって、知ってるんだろう。それで戻ってきたんだ。だいたい、ミルのこと、どうするんだ? 逃げ出さないように、捕まえて、どっかに閉じ込めておくのか? それこそ、兄貴を怒らせるぜ」
みなは、黙った。ジロモは、まだ不満そうにしている。物事がすんなり運ばないと、苛立つのだ。
「ねえ」
と背の低い女。
「今の子、ひょっとして本当に別人て事は無いのかな?」
「それはない」
クーゴが、首を振る。
「ミルが手術で変えた顔と、そっくりの女がこの裏街にいて、しかも、いかにもミルな格好をしてる。偶然で、そんなこと起きるはずがない。あれは、間違いなくミルだ」
独り、頭を忙しく動かすクーゴ。
突然帰ってきた、ミル。これは思いがけない獲物かも。
◇
カードルームを飛び出したレイラ。
ゲームセンターの迷路の中に、潜り込む。
大きなゲーム機の後ろに隠れて様子を伺うが、誰も追ってこない。
とりあえず、ほっとした。
ギャングだ暗黒街住人を恐れているわけではない。今は、トラブルを起こしたくないのだ。
「そうだ、アスターシャは」
どこにいるんだろう。レイラは、慌てて連れを探そうとするが、
「レイラ」
ぽんと、肩を叩かれた。
アスターシャだった。レイラは、一つ息をして、
「よかった。あなたは、何もなかった?」
「うん。それよりレイラ、何があったの? あなたこそ、大丈夫だった?」
「話すよ。とりあえず、外に出よう」
2人は地下ゲームセンターを出て、エアカータクシーに乗りこむ。
「ねえ、アスターシャ、びっくりすることがあったの」
「うん。なに?」
「ミルは、新しい顔の画像を、ここの仲間たちにも、送ってたの」
「えっ」
アスターシャは、目を丸くする。
「本当に?」
「うん。さっき、私、奥のカードルームに引っ張りこまれた。会ったのは、ミルの仲間たちよ。ミルから新しい顔の画像が送られてきたって言っていた。見せてもらった。あなたに送られてきたのと同じ画像を、持っていた。だから、私の顔を見て、みんな、ミルだと思ったの。私、困っちゃって、別人だって言って逃げ出してきたの」
「そんな……」
アスターシャ、考え込む。
「レイラ、それ、どういうことだろうね。なんでわざわざ、変えた顔を、ここの仲間にも送ったんだろう」
「私にも、わからないよ」
レイラがそれを知りたいくらいだ。
「やっぱり、ここに戻ってこようとしてるんじゃないのかな」
「帰ってくる……それなら嬉しいけど。それならまず、私の所に来て欲しいな」
アスターシャは、ミルが裏街を離れて、自分とアルデランタ家で優雅にのんびり暮らすことを、望んでいるんだ。
だが、そうはいかないようだ。
「ねえ」
レイラは訊く。
「ミルの仲間から、スキッドって名前が、よく出るの。知ってる?」
アスターシャは、一瞬の沈黙の後、
「ギャングよ」
目を伏せて言った。
「ミルは、スキッドの女だったの」




