第137話 暗黒街の仲間たち
みんなが、自分のことをミルだと言っている。
レイラにも、やっと状況が呑み込めた。
ミルは、裏街から姿をくらまし、他の星へ行った。手術で、顔を変えた。そして最近、双子の妹アスターシャに、新しい顔の画像を送ってきた。
画像を送ったのは、アスターシャだけだと思っていた。
が、違った。
裏街の仲間たちにも、送ったんだ。
ミルの新しい顔、つまりレイラとそっくりの顔は、仲間も知っているんだ。昨日の酒場では、まだ知られていなかったが、今日になって、画像が送られてきたらしい。
裏街に現れたレイラを見て、仲間たちは、当然、ミルが帰ってきたと思った。
「どうしよう」
レイラは、慎重にカードルームの中を伺う。
暗黒街住人だ。
そう感じた。いや、わかった。地下組織犯罪やギャングは、レイラの担当管轄ではなかった。しかし、刑事の感。ここの雰囲気、他とは違う。
惰れたような、2人の女。ぽかんとしている少年のような男。
そして。
トロンとした目の長身の男、ジロモ。骨張っている大きな拳。フラフラと落ち着かない目線だが、独特の凄みがある。普通の市民なら、こんな目で睨まれたら、慄っとして動けなくなるだろう。
レイラの横に立つデニムの男、クーゴも、白い歯を見せて、人の良さそうな顔をしているが、その目は鋭く、はしっこく動いている。
これが、ミルの仲間。
ミル。やっぱり、本物の暗黒街住人の世界にいたんだ。
◇
「ねえ、歓迎会しようよ」
背の高い女が言った。
「とりあえず、座ろう」
隣のクーゴが、レイラを促す。
「ああ」
と、ジロモ。トロンとした目が、異様に輝いている。大きな拳、ぶるぶると震えている。
「スキッドの兄貴が、いよいよ出てくる。ミル、それで戻ってきたんだな。当然だよな。兄貴にはいつも、ミルがいなきゃな。兄貴のミル、俺たちのミルだ。急にいなくなって連絡も寄越さねえんで、ほんとに心配してたぜ。俺たちは、いつでもスキッドの兄貴と、ミル、お前を待っているんだぜ。今日は大勢呼ぼう。パーティーだ。兄貴の出所の前祝いといこう」
ジロモ、喋ってるうちに、興奮して、甲高い声になる。スキッド。よく出る名前だ。ミルの彼氏か?
ともかくも。
これは、まずい。切り上げなきゃ、と、レイラは、
「あの、私、ミルじゃないから」
言った。
ええっ、とみな。キョトンとして、お互い顔を見合わせる。ジロモのフラフラした目線、どう考えていいのか、わからないといった様子。
「人違いよ。私、ミルじゃないからね。ミルって誰? 知らない」
レイラは、また、言った。
さっさと退散しよう。こっちは、アスターシャの感傷に付き合っているだけだ。暗黒街住人の世界に、首を突っ込みに来たわけではない。
だが、ミルの仲間たち、そう簡単には納得しない。
背の高い女が立ち上がって、レイラに、自分の携帯端末を見せる。
「ほら、これ、ミルから送られてきたんだよ。間違いなく、あなたでしょ?」
画像。アスターシャに送られてきたものと、全く同じだ。やっぱりミルは、アスターシャだけでなく、仲間たちにも画像を送ってきたんだ。
面倒なことになった。あれこれ話をすると、もっとややこしくなりそうだ。
「ほんとに私、違うから」
そう言うと、レイラは、カードルームを飛び出した。
ジロモが、ミル、と叫んで追おうとしたが、クーゴが手で制した。




