第135話 聖地巡礼第2夜
「さ、行こ」
と、アスターシャ。今日も、黒のワンピースに、黒の帽子と、顔を隠す黒の面紗。
その姿を見るのにも、慣れた。レイラがミルと同じ格好をして現れただけで、ミルの仲間に声をかけられた。昔のミルとそっくりの双子の妹アスターシャが顔を出して現れたら、えらい騒ぎになるだろう。何回か一緒に街に来たというから、双子の妹のことは、知られてはいるのだろうけど
レイラの今日の服装。また、キャミソール。肩から腕を丸出し。さらに大胆に露出している。そして今度は、タイトスカート。ピシッとタイトな服に、腕輪や、胸飾り、耳飾り、ジャラジャラ、キラキラとぶら下げている。
「ねえ、ミルと全く同じ格好ってのは、まずいよ。覚えてる人いるみたい。変な人に絡まれてトラブルになったら、あなたも巻き込まれちゃうかもしれないし」
と、レイラ。この前のことを思い出しながら言う。
「そうね」
と、アスターシャ。自分が選んだレイラの服装の出来に、大満足の表情。
「この前と違って、全く同じにはしてないから。ミルのイメージね。新しいミルだったら、こんなのが似合うかなって私が考えたの。どう?」
「そうなんだ。うん、これ、いいよ」
レイラは、たくさんぶら下がっているアクセサリーをしげしげと見て、
「意外と気に入ったかも。あまり普段しない格好に挑戦するのって、面白いね」
本職の下着モデルである。仕事でのトリッキーな服装には、慣れているが、モデルになって、まだ日は浅い。普段の私服、おしゃれはしているが、そこまで人目を惹くことは考えていない。ここまで大胆な格好で街歩きするのは、初めてかな、とレイラは思った。
夜の裏街。追憶の聖地巡礼2回目。
行く先は、地下のゲームセンターだった。
ゲームセンターといっても、子供は立入禁止。バーもあれば、奥のカードゲームルームで賭金をしている者もいる、大人の遊戯場。
レイラとアスターシャ、けばけばしい電飾の扉をくぐり、中に入る。
◇
やたらとまぶしい照明。昼よりも明るいな、とレイラは、目をしばたたせる。
今日は、夜も遅い時間に来た。中はごった返している。熱気と汗、香水の匂いが渦巻く。目がチカチカしている者もいる。さっそく違法薬物をキメてるのか?
レイラ、周囲の様子を伺いながら、ゆっくりと歩く。少し離れて、アスターシャがついてくる。今日は、いろいろ歩いてゲームをしてね、離れてついていくから、と言われている。
ミルっぽくゲームをする? よくわからないけど、とりあえずいろいろやってみればいいんだ。
レイラは、まずは勝手知ったるクレーンゲームに取り掛かる。このゲームは普通だ。いつもやってるように、ぬいぐるみを取ろうとするレイラ。
かわいい熊のぬいぐるみに、狙いを定める。
ふと、気づいた。
アスターシャの視線。いや、そうじゃない。アスターシャのいる方の、反対側から、視線が。
それとなく伺う。見てる。はっきりとこっちを見ている。デニムの男。若い。まだ少年のようだ。
なんだ? ちょっと距離を置いてクレーンゲームを見るのが、ここで流行なのか? いやいや、なんでもない。こういうところじゃ、誰かを見たり、見られたり、当然だし。
デニムの男の視線をずっと感じる。どうも落ち着かない。レイラは、クレーンゲームを何度も失敗し、そこを離れた。
ゆっくり歩く。店内に並ぶゲーム機。狭い通路。すれ違いざまに、肩が触れそうになる。わざと迷路のように入り組んだ店内になっている。隠れてあれこれするのに、絶好の場所。
ついてきている。
デニムの男。かなり近い距離で。別に、姿を隠して尾行するつもりはないようだ。ふらふらと、レイラの後ろについて来る。
「一夜のお相手探しか?」
それがたぶん、一番ありそうな可能性。そうだったら。すぐ断って、場所を変えよう。
背後に注意を向けていたレイラ。不意に脇から現れた男に、ぶつかりそうになった。
「おっと、危ねえな」
だいぶ酒が入っているのか、男は顔を赤くしている。大柄だ。
顔をくっつけるようにして、レイラを覗き込んでくる。
「おい、嬢ちゃん、気をつけるよ」
ニヤリとして、酒臭い息を吐く。
「見ねえ顔だな。ここは初めてなのか? ここは嬢ちゃんが遊びにおいでになるようなとこじゃ、ねえんだぜ。ここのことが、よくわかってねえなら、俺が教えてやろうか?」
レイラの腕をつかむ。
落ち着いて腕を払おうとしたレイラだが、その時、
「やめろ」
デニムの若い男だ。すぐ後ろに立っていた。
「お前、この人が誰か、わかってるのか?」
え?
何を言ってるんだ? レイラ、何のことかわからない。デニムの若い男。初めて会うはずだ。私の事、誰だかわかっているの?
なんで?




