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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
134/195

第134話 追憶の巡礼



 レイラとアスターシャ、一緒に店を出る。


 何人かの視線を感じたが、声はかけられなかった。さっきのピンクのコートの女は、コートを脱いで、ダンスフロアで踊っていた。もうレイラのことは、気にも留めてない。


 階段を上り、裏路地へ出る。誰も追いかけてはこない。ひんやりした空気。


 レイラは、ほっと息をつく。


 「これで、よかった?」


 アスターシャ、面紗(ヴェール)を持ち上げる。


 「うん。ありがとう」


 やや、体を震わせている。


 表通りまで歩き、エアカータクシーを呼んだ。



 ◇



 車内で。


 「レイラ、本当に、本当に、今日は、ミルだったね」


 アスターシャが、瞳をキラキラさせて肩を寄せてくる。


 「そうかな」


 と、レイラ。


 ただ、ミルの格好をして、ミルの好きなお酒を飲んだだけ。やった事は、それだけなんだけど。そもそも。


 「あの、何度も言ってるけど、あなたがミルと、ここに一緒に来たときのミルの顔とは、今の私の顔、違うんだよね。そういうの、気にならないの?」


 追憶を上書きしたいのか? いまいちレイラには、わからないが、


 「ミルは、顔を変えることを選んだ。私は、それを受け入れる」


 アスターシャは、しっかりとした声で。


 「だから今日、あなたの姿が胸に刻めて、よかった。本当に。ミルが新しく蘇った、そう思えるの」


 複雑な境遇の少女の感傷(センチメンタル)。そういうものなのだ、と思うしかない。


 「でも、びっくりしたね。ミルと同じ服を着てただけで、昔の知り合いに間違われちゃうんだもの。昔っていっても、半年前だけど」


 レイラは、酔って絡んできた女のことを思い出す。


 「ミルは、ここで特別だったの」


 と、アスターシャ。


 「みんなの注目を集めていた。誰よりも。みんな、ミルに憧れてた」



 ◇



 「ねえ、レイラ」


 「なに?」


 エアカーの車内。そろそろ、裏街(アンダーグラウンド)を出る。


 「もうちょっと、行きたいところがあるの」


 アスターシャの紫の瞳が、レイラを見つめている。


 「これから?」


 「ううん」


 アスターシャは、首を振った。


 「今日じゃなくて。またしっかりと準備して、行きたいの。昔、ミルに連れて行って貰った所、あと三つあるの。そこにレイラと行きたい。今日みたいに」


 「三つ? あと、3カ所回りたいってこと? 裏街(アンダーグラウンド)を?」


 「そう。1つ1つの場所が、本当に大事な、思い出の場所なの。そこさえあなたと一緒に回れれば、もう、それでいい。それで終りにする。ね、お願い」


 レイラは、考えた。


 追憶の聖地巡礼?


 聖地、と呼ぶには。なにしろ裏街(アンダーグラウンド)だ。あまり適切じゃないけど。


 姉と一緒に行った想い出の場所。そこを全部回りたい。少女の純粋な願いと言えば、そうだけど。


 今日のことを考えてみる。問題あるかな。ミルの知り合い。大丈夫だ。何があっても、大した事にはならない。なるわけない。気をつけて行動すれば、それでいい。


 「うん。わかった」


 レイラは、言った。


 「あと、三か所、ミルになりきって行けばいいのね? いいよ。それ、1日で回るの?」


 「うれしい!」

 

 アスターシャ、レイラの手をぎゅっと握る。まるで、本物の姉に再会したかのように、力強く。


 「あの、1日に、1つの場所に行く、そうしたいんだけど」


 「じゃあ、全部回るのに、あと三日必要ってことね」


 レイラ、自分の携帯端末(パッド)で、予定を調べる。


 「ええと、予定(スケジュール)開いてる日は、こことここ、1週間で、あと3回お出かけできるね」


 「うん! 夢みたい! 本当にワクワクする!」


 紫の瞳をキラキラとさせたアスターシャ。


 いつまでも、レイラの手を握っていた。



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