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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
133/195

第133話 酔った女



 レイラは、振り向く。 


 派手なピンクのコートの女。強い香水の匂い。トロンとした目。すでに、だいぶ酔っているらしい。レイラと同世代に見える。やや荒れた肌が、コートの下に覗く。


 「あら」


 女は、言った。


 「なんだ、ミルかと、思った。ミルが帰ってきた、そう思った。後ろ姿、そっくりなんだもん」


 ジロジロと、レイラを見て、


 「あんた、その格好、どうしたの?」


 と、訊いてくる。


 「どうって」


 レイラは、慎重に、答える。


 「ただ、こうしたいだけ。それだけよ」


 「嘘」


 女のトロンとした目が、心持ち鋭くなる。


 「わざとそんな格好しちゃって。どこで覚えたの? ひょっとして、ミルから売ってもらったの? その一式」


 「その人は」


 バーテンダーが、口を挟んできた。


 「ミルの好みの酒も、知っているんだよ」


 「へえ」


 ピンクのコートの女、まじまじと、レイラを見つめる。


 「あんた、見ない顔だね。ひょっとして、どこかでミルと会ったの? ミルを知ってるんだよね。ミルは今、どこにいるの? ねえ、教えてよ」


 「知らない」


 レイラは、言った。ミルの知り合い。当然、この店に来るはずだ。でも、顔だけじゃなくて、ミルの服装(コーデ)まで、覚えているの?


 「ほら」


 女は、携帯端末(パッド)を取り出し、レイラに画像を見せる。疑問は解けた。女と、顔の手術前のミル、つまりアスターシャの顔のミルが、並んで写っている。そしてミルの服装(コーデ)は、まさに今のレイラの格好だった。


 あっ、と驚くレイラ。アスターシャは、裏街(アンダーグラウンド)でのミルの服装(コーデ)を、正確に再現したんだ。


 「ね」


 女が、顔を寄せてくる。香水の匂いに混じって、酒の匂い。


 「これで、ミルを知らないって、ありえないでしょ?」


 いかにも。ミルを演じてと言われて、こうしてるんだけど。顔は別人だから、ミルの知人に会ってもトラブルにはならないと、すっかり思い込んでいた。レイラは、チラッとアスターシャを見る。黒い面紗(ヴェール)の少女は、身じろぎもしない。


 少々厄介なことになった。


 でも。


 酔った女が、ちょっと絡んできただけだ。たいした事じゃない。


 「知らない」


 きっぱりと、言った。


 「私はただ、自分のしたい格好して、したいことをしているだけ」


 カウンターの方を向く。これ以上、酔った女は、相手にしない。バーテンダーも、興味津々といった様子だったが、無視する。


 「そう」


 後ろから、女の声。


 「ミルを知らない、そう言うのね。まあ、いいわ。そういうことに、しとく。でも、もうじきスキッドも出てくるしね。ミルもこの街に戻ってきたら、またこの店も賑やかになるね」


 スキッド?


 誰だ?


 ミルの関係者か。


 出てくる、といった。その言葉は。こういう場所では、刑務所からの出所を意味する。そうではないか? 


 「あんた」


 後ろからの女の声。やや、凄みを増す。


 「ミルとどういう関係か知らないけど、ここのこと、よく知らないなら、変なことしないようにと言っておくわ。特に、スキッドの前でミルの真似なんてね。これ、親切で忠告してるのよ」


 フラフラと、離れていく、足音。酔った女。言いたいことを言って、離れていく。


 よし。とりあえず、なんともなかった。


 ミルの真似。こんなに気づかれちゃうものなんだ。確かに派手な服装(コーデ)だけど。


 スキッドという言葉が引っ掛かった。半年前に、急に姿を消したミル。いろいろと、いざこざ出入りがあったのだろう。


 ともあれ。



 ゆっくりと。


 レイラは、グラスを干す。


 そして、立ち上がる。


 反対の隅のアスターシャも、すっと立ち上がった。



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