第131話 ざわめく街
とうとう裏街に着いた。
シン・トーキョー星の大繁華街の1つ。
広く、とても深い区域。
レイラとアスターシャ、エアカータクシーを降りる。
宵闇をかき消す明るいネオン、イルミネーションの洪水が2人を歓迎する。この街は、夜の顔が本当の顔なのだ。
「賑わってるね」
レイラ、あたりを見回す。
これから活気づいていく時間だ。
街に刹那の快楽を求める人々が、次々と吸い込まれていく。
面紗の下のアスターシャの表情は、見えない。しかし、迷いなく歩き出す。レイラもついていく。今日は、アスターシャの追憶と感傷に、とことん付き合うのだ。
街のメインストリート。雑踏の中、2人は歩く。
裏街。といっても、普通のショップや、飲食店、ゲームセンターで賑わっている。もちろん、それだけではない。夜の蝶が舞う店も多く、違法な地下賭博場もあるはずだ。客引きに、たむろする酔っ払い。昼も夜も関係なく、へべれけになっている人間は、この街に多い。
アスターシャの格好。思ったより、目立っていない。さすがに面紗をしてる人は見かけないが、何しろ裏街だ。型破りな格好、トリッキーな服装の人は、いっぱいいた。面紗の少女など、それほど目を引く存在ではない。なにかのテーマの衣裳だと、思われているようだ。この街で人目を惹くには、もっとパンチの効いた格好でないとダメだ。
アスターシャは、ずんずん進んでいく。メインストリートから、横路へ。そしてさらに狭い裏通りへと、曲がっていく。迷いは無い。携帯端末で、地図の確認もしない。道順を、しっかりと覚えているようだ。
「ここに、入ろう」
ややくすんだ色のビルの前で、アスターシャは立ち止まる。どぎついネオンが輝いている。
「地下に、酒場があるんだ。何回か、ミルに連れられてこの街に来た。その時、ここに入ったの。ミルの、お気に入りの店だったみたい」
ちょっと妖しい雰囲気がする。ミルのお気に入りの店なら、そんなものだろう。
「うん。いいよ」
「あの、お願い、レイラ」
「なに?」
「あなたに、なるべく、ミルそっくりにして欲しいの」
「そっくりに?」
アスターシャは、レイラに、どこにどう座るか、何を注文するか、そしてどんな身振りをするか、などなどを説明する。
「わかった、いいよ」
と、レイラ。
今日は、アスターシャの追憶と感傷に付き合うと、決めたんだし。
「それで、私は」
と、アスターシャ。
「ちょっと離れて座るね。ミルの姿を、しっかり見ていたいの」
「え?」
戸惑うレイラ。どういうことだろう? 店の中で、離れて座る? それってつまり。今日は、アスターシャは、レイラとおしゃべりをしたいのではなく、ただ、ミルを感じたい、ミルとの想い出、感傷に浸りたい。ミルらしく振る舞うレイラは、追憶の走馬燈の情景、ということか。そうしたいなら。別にいいだろう。
2人は、地下への階段を降りる。
酒場。けばけばしい装飾の扉を開けて入ると、中は意外と広かった。ダンスフロアがある。暗い照明。重低音の音楽。
まだ、宵の口。
客は、少ない。
レイラは、カウンターの隅に座った。
アスターシャは、もう一方の端に、座る。
2人で店に入って別々に座るって、なんだか変だけど。
アスターシャは、レイラを見つめている。
面紗の下の表情は、見えない。
ミルのお気に入りの店。
ミルの世界。




