第130話 覚えている顔、新しい顔
買い物を終え、すっかりミルの服装になったレイラ。
2人は、エアカータクシーを呼んだ。
裏街へ向かう。
「ねえ、アスターシャ」
と、レイラ。
「その、今日、一緒に裏街に行くっていうのは、あなたの姉のミルの想い出の追体験をする、そういうことだよね」
「うん」
と、アスターシャ。
「レイラ、あなたと一緒だと、本当にミルと一緒にいるみたい。そんなふうに思えちゃうの」
「うーんと、ミルは、この星を出て、手術で顔を変えて、私の顔になったんだよね。あなたが一緒に街歩きしたミルと、私は別の顔。それでいいの? 思い出がおかしくならないの?」
「そうじゃない」
アスターシャは、首を振る。
「私は、今のミルと、一緒にいたいの。ミルは過去にいたんじゃない。今も、ちゃんといるんだもの。だから、ミルの新しい顔のあなたの姿を、しっかりと目に焼き付けて、胸に刻んで、とっておきたいの。絶対に忘れないようにするの。それで一緒に来てって、お願いしたの」
そういうものか。
なんだか、複雑な感情だけど。
アスターシャは、新しいミルの顔を、送られてきた画像でしか知らない。それがたまたまレイラとそっくりだった。そこで、画像だけでなく、生きているミルの姿で思い出を作り、いつか再びミルに出会うまでとっておきたい。
会えない姉への想いが紡ぐ、絡み合った感傷。
ま、街に付き合えば、それでいいんだ。
難しいことを、考える必要はない。
◇
裏街の手前で。
アスターシャは、バッグから、黒の帽子を取り出し、被る。
「どう?」
帽子には、黒の面紗がついていた。顔を隠せる。
「なぜ、面紗なの?」
面食らうレイラ。
アスターシャ、うふ、と笑い。
「ほら、私とミルは、双子で、同じ顔だったでしょ。街の人は、ミルの昔の顔を、当然、覚えている。ミルと同じ顔の私が歩いてたら、みんなにミルだと勘違いされるかもしれないじゃない。今日は、誰にも邪魔されず、街を歩きたいの。厄介事は、嫌なの。それで、顔を隠すの」
なるほど。それもそうだ。
ミルは、裏街で、暗黒街住人筋と付き合いがあったのかもしれない。まだ、半年前のことだ。みんなが覚えているミルの顔のアスターシャが行ったら、騒動になる。ミルが突然、星を出て姿をくらまし、手術で顔を変えたのは、犯罪トラブルがらみの可能性が、あるのだ。
アスターシャが、顔を隠していく。
確かに必要なことだ。
でも、面紗って。
それはそれで、目立ちすぎないかな。
レイラ、少し、心配になる。




