第129話 アウトローのコーデ
「レイラとお出掛け! ミルと街歩きした時のこと、思い出すよ。本当に、2人ですごく楽しかったよ!」
アスターシャ、はしゃいでいる。
こうしてみると、本当に無邪気な女の子だ。複雑な境遇を背負ってはいるけど、今日はその翳は、見えない。
レイラとアスターシャ。
2人で待ち合わせて、裏街へ行く日だ。
レイラは、昼間は下着モデルの仕事があった。宵闇の頃、アスターシャと出会う。同僚モデルたちから、レイラ、夕食いっしょに行かない? と誘われたのを、用事があるからと断って、急いできたのだ。裏街が本格始動するのは、夜だ。だから、夜に行くのが、1番いい。
待ち合わせの場所、先に来ていたアスターシャ。黒のワンピースを着ている。
「待った?」
ハアハアと息をするレイラ。
「そんなことないよ。さあ、行こう」
アスターシャは、うふ、と笑う。
すごくいい笑顔だ。生き生きしている。レイラは思った。この少女の追憶と感傷にとって、今日のお出かけは、とても重要なんだ。やっぱり、一緒に行くことにしてよかった。
「ねえ、レイラ」
踊るような足取りのアスターシャが、言う。
「裏街に行く前に、あなたに、プレゼントしたいの」
「プレゼント?」
「うん。散々、私のわがままに付き合ってくれたんだもん。プレゼントぐらいしないと」
なにか楽しい企みを考えてほくそえむアスターシャ。レイラを服飾店へ引っ張り込む。
「これかな、いや、こっちかも」
レイラのために服を選ぶアスターシャ。本当にうれしそうだ。そして、とても真剣。
いろいろ着せ替えをさせられた挙句。
「うん、これ! これで決まり! レイラ、すごくいいよ!」
「う、うん」
鏡で、自分の服装をチェックするレイラ。
キラキラした青地の大胆なキャミソールに、黒のハーフパンツ。そして、軽い真紅のジャケット。
「ちょっと、チグハグ感があるな」
レイラの、第一感。
トップ下着モデル事務所の周辺では、あまりしない格好だ。
しかし。これにも、一本筋の通った主張のようなものを感じる。
「さあ、次!」
アスターシャは、さらに、張り切る。
今度のお買い物は、装飾品。ジャラジャラとした、首飾り、耳飾り、胸飾りを、ぶら下げさせられる。みんなキラキラで、黄金と宝石の細工物。髪には、大きな羽飾り。
「これって、さらに方向性が……」
レイラはたじろぐが、アスターシャは、出来栄えに大満足である。
「いいよ、レイラ、本当に素敵! もう夢みたい!」
夢?
レイラは、ふと気づく。
「アスターシャ、あの、これってさ、ひょっとして、ミルの服装だったりするの?」
「うふふ、気づいた? そうよ」
アスターシャは、レイラをうっとりと見つめている。
「ミルが街で、どんな格好してたか、必死に思い出したの。やっぱり、もう一度見たかったの。かっこよかったミル。誰よりも素敵なミル。あなたに、本当に、今日はミルになってほしくて。あ、これ、結局、私へのプレゼントになっちゃったよね。あなたにプレゼントするって言ったけど」
「う、うん、いいよ。へえ、こういうのも、意外とイケてるんじゃないかな」
レイラは、微笑んで見せる。
なるほど。この服装、ストリート系、というより、暗黒街系ファッションだ。派手で、挑発的で、崩れてはいるが、強い主張がある。こういうのが好きな人もいるんだ。
ドン・ハルキサワ事務所は、〝高級感〟を売りにしている。だから全然方向性が違う。でも、ファッションなんだから。いろいろあっていい。たまには、違うのを着るのもいいだろう。気分を変える、視点を変える。それも悪くない。
これが、ミルなんだ。
全身鏡を見ながら、レイラは、思う。
裏街のヒロインの子。
飾り立てながらも、どこか、子供っぽい。




