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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
128/195

第128話 裏街へ




 「その、どうして」


 レイラは訊く。


 裏街(アンダーグラウンド)へ一緒に行こう。アスターシャの、誘い。何か、ただならぬものを感じる。ミルは半年前まで、裏街(アンダーグラウンド)にいたのだ。思うままに振る舞っていた。


 「私、やっぱり、このままじゃいけない、区切りをつけたいの」


 アスターシャは、きっぱりという。


 「区切り?」


 と、レイラ。何を言い出すんだろう。


  そう、とアスターシャは、頷く。


 「レイラ、率直に言うね。あなたに出会えてよかった。ミルへの想い、私、どうもうまく整理がつかなくて。どうしたらいいかわからなくて、ずるずると、あなたと一緒にいたい、そう思っちゃってたの」


 うん。確かに、そう見えた。でも、このまま自分がミルの代わりになってずっとってわけには、いかないよね。レイラも、そう思う。


 「それで私、吹っ切ることにしたの。裏街(アンダーグラウンド)に行く。そして、もう一度しっかりと、ミルの想い出を胸に刻んで、目に焼き付けて、それで、一旦終わりにする。すっぱり、1人で生きていく。あ、もちろん、お母様も、その他の人も、大切にしてね。これから新しい出会いだってあるかもしれないし。ミルには、自分の考え、自分の人生がある。きっとまた会えると信じてるけど、私は、まず自分の人生をしっかり歩む。その出発のための、しっかりと区切りをつけたいの」


 アスターシャの想い、揺れに揺れて、乱れに乱れていたのだ。でも、いよいよ気持ちに整理をつけるんだ。これは、少女にとって、大きなことなのだろう。


 アスターシャの紫の瞳、しっかりと、レイラを見つめ、


 「だから、最後に裏街(アンダーグラウンド)に行く。ミルの街へ。お願い、レイラ、私と一緒に行って。あなたには、本当に無理なこと言って、引っ張っちゃったよね。私、勝手だった。でも、本当にこれが最後なの。頼みを聞いて」


 レイラ、やや慌てる。


 「あ、別に、無理とか、そういうことでもなかったよ。おもてなししてくれて、楽しかった。いつも、お茶もケーキも、おいしかったよ。一緒に裏街(アンダーグラウンド)に行く? それでいいのね。問題ないよ」



 裏街(アンダーグラウンド)


 レイラは、刑事としても一般市民としても、話には聞いている。刑事として捜査に行ったことはないが、遊びに行ったことは、普通にある。星都に栄える大繁華街の1つ。それだけのことだ。ミルは、暗黒街住人(アウトロー)とつながっていたのかもしれないけど、もちろん、危険な場所には行かない。普通に市民が出入りできる場所に行くだけ。別に、問題はない。


 このお嬢様は。レイラは考える。まだ、自分の境遇を受け止めきれてないんだ。アスターシャの感傷(センチメンタル)ために、一緒に、裏街(アンダーグラウンド)へ。それで、このお嬢様との関係も、すっぱりと終わり。いいだろう。


 レイラは、にっこりとして、


 「裏街(アンダーグラウンド)に行くなんて、たいした事じゃないから。そんなに怖がることなんてないよ。みんな普通に遊びに行くところ。私も行ったことあるし。じゃ、行こうね。それで、あなたの気持ちの整理がつくなら、喜んで行くよ」


 アスターシャの瞳。


 その光に。

 

 レイラは、ぞわっとした。


 なんだろう。この妙な空気は。どう考えても、そんなに大した事じゃないのに。人生の全てを懸けている、そんな瞳をしているんだ。いやいや、考えすぎかな。アスターシャは、不安と感傷(センチメンタル)の間で、感情が制御できなくなっているだけなんだ。


 「ありがとう」


 アスターシャの冷たい手が、レイラの手を握る。


 「行ってくれるのね? ミルの街に。私の思い出を、永遠に刻むために。感謝する。本当に、ありがとう」


 アスターシャ、顔を、レイラに、近づけてくる。


 「これであなたへのお願いも、終わりだからね」


 吐息が、かかる。熱い。


 なんだか。


 ぞわっとする。


 何を思いつめているんだろう?


 少女の感傷(センチメンタル)……なのか?


 レイラには、わからない。


 ただ、妙に不吉な予感がした。その正体が何かは、わからないけれど。


 いや。


 何でもない。危険なことなんてあるわけない。


 その時は。


 そう思った。



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