第127話 暗黒街のミル
レイラのアルデランタ家への訪問は、何度目かを迎えた。
気持ちの良いポーチで。あれこれ喋るのは、アスターシャの役割だった。急展開した自分の人生を、一つ一つ確かめるように、アスターシャは、話した。誰かに知ってもらいたいのだ。自分のことを。
孤児院でのこと。
姉のミルは元気で活発すぎて周囲と馴染めず、自分は臆病で引っ込み思案すぎて、周囲と馴染めなかった。そう言って、アスターシャは笑った。正反対の双子の姉妹だったの、と言う。
アルデランタ家の養女になってからは、どうすれば養母の心に沿うか、使用人たちが自分をどう見ているか、そんなことばかり考え、夜も眠れなかった、と、首を振った。
なるほど。満ち足りた生活をしている。でも、気苦労が絶えないんだ。確かにそうだ。レイラは、うんうんと、話を聞く。
◇
「ミルとの思い出、それが私の支えなの」
姉の話になると、アスターシャの顔は、ことさらに輝いた。
「ミルは、私を何度か、孤児院から、裏街に連れて行ってくれたの。私は、そこがすごく怖くて、あまり寄り付きたくなかったんだけど」
裏街。一般市民が出入りする、活気ある星都の一大繁華街である。普通には、そんなに怖いはずはない。アスターシャが、怖い、というのは? やはりミルは、暗黒街のギャングか何かと、つながっていたのだろうか。
「でも、ミルは活き活きしていた。孤児院を出て、裏街に来て本当によかった、そう言っていた。街では、みんなと顔なじみだった。肩で風を切って歩いていた。堂々として、本当に素敵だった。したいように振る舞っていた。かっこよかった。私は、ミルの後ろを、小さくなって歩いていたんだけどね。ビクビクしながら。よく覚えているの。ミルの笑い声、叫び声、仕草、格好。目に焼き付いている。本当に、私のミル、最高なの」
興奮気味に話す、アスターシャ。
レイラは、お茶を飲みながら、考える。15歳で、裏街に飛び込んで、肩で風を切って歩くようになった。したいように振る舞った。自分が宇宙警察学校に行ってる時に、全く別の世界を歩んでいる同じ歳の少女がいたんだ。正反対の道。
「私の目に焼きついているミル。その姿を、もう一度しっかり見て、胸に刻みたいの。絶対に忘れたくないの」
アスターシャは、力強く言う。
「そう」
と、レイラ。
「また、きっと会えるよ」
何気なく言ったのだが。
アスターシャは、ぶるぶる震えている。なんだか、ただならぬ様子。瞳の光り方が、尋常でない。
「レイラ、お願い!」
「なに?」
「あの、一緒に、裏街へ行って!」
「え?」
何を言い出すんだ? 目を丸くするレイラ。
アスターシャは、真剣そのもの。決然たるまなざし。
ミルが、肩で風を切って歩いていたという、裏街へ。




