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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿  作者: 茜見零
事件簿No.11 裏戸のスキッド
126/195

第126話 面差しの友達



 一通りの話は終わった。


 「事情はわかったわ」


 レイラは、言った。


 「ミルに、会えるといいわね。私にそっくりの顔の人が宇宙のどこかにいるなんて、ちょっとびっくりだけど。お茶、ありがとう」


 そろそろ、帰ろう。


 立ち上がろうとするが、アスターシャは、じっとレイラを見つめている。ミルの顔。名残り惜しいんだ。いきなり、どうしても会いたかった顔と出会ったら、そりゃ、そうなんだろうけど。


 「レイラ!」


 アスターシャが言った。絞り出すような声だ。


 「あの、あなたはレイラ。ミルじゃない。それはもう、はっきりしている。わかっている。そして、私はミルを、信じている。ミルはきっと、私に会いに帰ってくる。新しい顔の画像を送ってきてくれたんだもん。私は、いつでもミルを迎えられるような、立派な人間になる。そう決めた」


 うん。レイラは、思う。とりあえず前向きな展開。よかった。


 「それで」


 アスターシャは、感極まったというように、椅子から立ち上がり、レイラに駆け寄り、その手を取る。またしっかりと。握り締める。目に涙を浮かべている。


 「あの、どうしても、あなたは、ミルなの! せっかく出会ったミルの面差し。なんだか、あなたと離れたら、またミルと遠くなっちゃうような気がして……お願い。私と、また会ってくれない? 私と、友達になってほしいの。時々、お茶をしてくれるだけでいいから」


 やれやれ。


どうしようか。レイラは考える。やっぱり大ごとになった。


 アスターシャは。この半年で、急に生活が変わって、孤児院時代の人たちとは、もう付き合っていないのだろう。唯一の肉親のミルは、消えてしまった。それで寂しいんだ。心の隙間が、どうしても埋まらないんだ。


 満ち足りた生活をしていても、何かと不安があるんだろう。


 ただ、ミルの新しい顔とそっくりだというだけで、レイラがアスターシャの不安、心の隙間を埋めることができるのかどうか、よくわからないけど。


 友達になる。時々、お茶する。


 そのくらいなら、別にいいかな。大ごとでもないか。


 アスターシャは、前向きに新しい人生を受け入れようとしている。それを後押しすることができるなら、しばらくの間、付き合ってもいいだろう。


 「わかった。いいよ」


 レイラは言った。


 「あ、でも。私も仕事が忙しいから、しょっちゅうは無理。たまになら」


 アスターシャの顔が、パッと明るくなった。


 「うん! レイラの都合のいい時に、この家に来て。おもてなしするから。私の前から、消えてしまわなければ、それでいいの。ほっとするの。もう、何も失いたくないから」



 ◇



 かくて。


 レイラは、時間のある時、アスターシャと連絡をとって、アルデランタ家を訪ねることになった。


 城館(シャトー)の中を、アスターシャは張り切って案内した。真の姉をここに迎えるときの練習かな? そんな気がした。豪奢で、趣味の良い空間だった。アスターシャの養母(おかあさま)にも、友達だと、紹介された。とても品の良い、物静かな老婦人だった。養母(おかあさま)は、アスターシャがレイラにミルの面影を見ているように、アスターシャに、今は亡き娘の面影を見ているのだった。 


 レイラと、アスターシャ。


 明るいポーチで、お茶をした。香り高い高級茶葉。上質なケーキ。とりとめなくおしゃべりをし、別れた。


 気持ちの良い訪問だった。アスターシャは、いつもうっとりと、レイラを見つめていた。


 何も問題になる事はなかった。そのはずだった。


 しかし。


 ずいぶんと迂闊だった。刑事でありながら、なんて呑気だったんだろう。


 レイラは、後になって、思うのだった。



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