地面の割れ目と異常な群れ
ソラへの疑いも晴れ、3人は更に山を登る。
周囲にはすでに高い木は無く、チラホラと小さな木が茂みを作る程度だ。
「何て言うか…、かなり"えぐい"環境だな…」
立ち止まって周囲を見渡すカルドラが呟く。
ところどころ山の地肌が露出し、その辺りは地面がパカッと割れ、口を開けているのだ。
慎重に覗いてみると底は見えず、内部はビュービューと乱気流が吹き荒れていた。
「今のカルさんなら落ちても大丈夫では? シールドで足場作れるって言ってましたよね?」
アイーシャがそんなことを言ってくるが…。
「いや、気流がやばい。これじゃ跳躍で上がって来れないからもし落ちたら復帰までかなり時間が掛かる。最悪魔力が尽きて落下だな…」
「ひぇ…、万能ってわけじゃないんですね…」
カルドラの説明にアイーシャが身震いする。
サニアも周囲を見渡し、ギルドで聞いたグランドルの縄張りについての情報を思い出す。
「ギルドの話ではグランドルの縄張りはこの辺りの高さまでのはずです。ここから上はハルピュイアとシルフィードの領域だとか。少しこの高さを探索してみましょう」
サニアの言葉を受け、3人は上へ登るのをやめ横に歩き出した。
途中にも大きな地面の割れ目があり、落ちないように気をつけながら進む。
「いませんねー…」
「いないなー…」
アイーシャとカルドラが呟く。少し歩き回ったがグランドルの影も形も無い。
「…んー、まだ完成してないですけど、使ってみますか…」
「ん? サニア、何するんだ?」
立ち止まって呟いたサニアに質問してみる。
「前に『風魔法で音を集めて聴覚を補助できるかも』って言ったの覚えてます? 実はちまちま実験して基礎的な魔法陣の構築には成功してるんですよ」
「えー!? すごいじゃないですか!」
アイーシャが驚くが、サニアは苦笑いを浮かべる。
「でも周りの音をめちゃくちゃに混ぜて集めちゃうので、実際聞くと何がなんだかって感じでして…。とりあえず方向だけ指定してぐるっと音を探ってみます。あまり期待はしないでくださいね」
そう言ってサニアは魔力を操作し出す。するとサニアの耳元の髪がふわふわと揺れ始めた。空気が渦巻いているらしい。
そしてサニアはその場でゆっくり回転し始め、一回転して止まった。
「……。何となく…ですが、このまま進んだ先から"呼吸音"っぽいのが聞こえました。行ってみましょう」
そうしてサニアの言葉に従いしばらく歩くと"奇妙な光景"が広がる場所へ辿り着いた。
「いたけど…どうなってるんだ…? 皆蹲ってるぞ…」
そこには30頭は超えるであろうグランドルの群れがいた。しかし全員動かずにじっとしている。
よく見てみるとぐったりしている者や力なく横たわる者もいる。しかし弱っているわけではないらしく、ただ"気力が無い"という雰囲気だった。
「理由は気になりますがチャンスです。ボスを探しましょう」
サニアはこの状況を好機と捉え、3人で遠目からボスらしき個体を探す。すると左端の方に一際大きな個体が寝転がっているのを発見した。
「サニアさん…! "あれ"じゃないですか…!?」
「えぇ、たぶん"あれ"ですね。しかも狙ってくださいと言わんばかりに頭がこちらを向いてます。すぐ作戦に取り掛かりましょう。カルさん、アイーシャさん、戦闘準備を」
「了解」「はい!」
指示を出したサニアもポケットから大杖を取り出し、大杖をその大きな個体に向け狙いを定める。
「サニア、準備完了だ」
「私もいつでも大丈夫です!」
2本のショートソードを持ったカルドラと魔法の発動準備を整えたアイーシャが声を掛ける。
「わかりました。では…、いきます!」
サニアが気合を入れると大杖の先に魔力の線が絡み合い瞬時に魔法陣が展開される。そして…。
「レーザ!」
ビュッと超高速の光の熱線がボスらしき個体の頭に伸びる。
ジュッ!
「…ぐがっ!」
サニアが放ったレーザは見事にボスらしき個体の頭を打ち抜き、寝転がっていたそれは一瞬呻き声を上げるとそのまま動かなくなった。
周囲のグランドルたちは一瞬呻き声に反応したものの、またすぐにゴロゴロし出す。
「……やりましたが、何ですかね…、あの異様な空気…」
「あぁ、かなり異常だぞ…。ボスがやられたのに気づいてないみたいだ…」
3人はグランドルたちの異様な雰囲気に息を飲み、少しの間目が離せなかった。
すると仕留めた個体の隣にいたグランドルがやっと異常に気が付き、ギャーギャーと騒ぎ始めた。
その騒ぎは少しずつ群れ全体に波及していき、しばらくすると仕留めた個体をその場に残し、群れはいくつかに別れてどこかへ走り去っていった。
「……とりあえず依頼は完了だな。おっさんへの報告が面倒そうだが…」
「そうですね…、一応仕留めた個体に変な所が無いか確認しに行きましょうか」
そして3人は、先ほどまでグランドルの群れがゴロゴロしていた場所を歩き、仕留めたグランドルのところまで移動した。
「んー、ぱっと見で外見に異常は無さそうだな」
「えぇ、健康状態も良さそうですし病気の線も無さそうです。本当にただゴロゴロしてただけのように見えます」
仕留めたグランドルをじっくり観察するカルドラとサニア。ますます謎が深まる。
「あ! カルさんあそこに食べ残しらしき物があります!」
「お、ほんとだ。サニア、ちょっと見てくる」
「はい、気をつけて」
アイーシャがグランドルの残飯らしき物を見つけ、カルドラと2人で確認しに向かう。サニアはクルクルとグランドルの周りを歩く。
するとその時。
がさ
「!!!」
背後から音が聞こえ、サニアは咄嗟に振り返る。
そこにはこちらへ歩いてくるガルシアがいた。
「……、何してるんだ?」
ガルシアが尋ねてくる。
「あ、私たちグランドルの狩猟依頼を受けてて…。今、仕留めた個体を調べてたんです」
「…そうか」
ガルシアは一言だけ返すとスタスタとその場を通り過ぎようとする。
「あ! 待ってください! ガルシアさん…ですよね? 私たち受付のおじさんから貴方を助けてくれって頼まれてまして…」
「…? 助ける? 何故?」
ガルシアは立ち止まり、不思議そうに尋ねてくる。
「おじさん、心配してましたよ? グランドルの縄張りに入るのに護衛も付けないって」
「……問題無いよ」
ガルシアはそう言うと再び歩き出そうする。サニアはそんなガルシアを見て小さくため息を吐く。
すると突然カルドラの叫び声が響いた。
「サニア!!! そこから離れろ!!!」
「!!!」
驚いて振り返ると、シルフィードが目の前のグランドル目掛けて急降下して来ていた。
ぶわあああああ!!!
「きゃあ!!!」
シルフィードが減速するために大きく羽ばたき、その風圧でサニアとガルシアが吹き飛ばされる。
シルフィードはグランドルを抱えて再び羽ばたき、上空へ舞い上がって行った。
「サニア!!!」「サニアさん!!!」
吹き飛ばされたサニアとガルシアは、大きく口を開けた地面の割れ目に落ちていった。




