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双棍のトラベラー  作者: コルミ
影の放浪者
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マナポーションの事情とおっさんの頼み事

 その後、ガルシアは1枚の依頼書を手に受付のおっさんのところへ向かい、少しやり取りをしてギルドから出て行った。

 カルドラとサニアのいるテーブルまで戻ってきたアイーシャは腑に落ちない表情をしている。


「おかしい…、あの量の淀みを吸収してあんな平然としてるなんて…」


 もぐもぐ料理を食べながらぶつぶつと呟くアイーシャ。そんなアイーシャを料理を食べながら眺めるカルドラ。


「淀みを吸収すると何がまずいんだ?」


 素朴な疑問を口にする。その疑問にサニアが答えてくれる。


「一言で言うと"だるく"なります」

「…すまん、簡潔過ぎて全くわからん」


 「んー」と少し考えるサニア。そして再び話し出す。


「生き物の体は血液と魔力が循環することで初めて正常に機能します。その魔力に変な物が混ざると体が機能不全を起こします。最悪の場合死亡します」

「え? めちゃくちゃやばいじゃないか」

「はい。やばいです」


 驚くカルドラに簡単に返すサニア。そして補足を付け足し始める。


「カルさんは"マナポーション"の生産流通を王都が完全管理しているのはご存じですか?」

「あぁ、それは有名な話だからな」


 騎士団のメイが大量に持ち歩き、カオスサラマンダーとの戦いでアルスも飲んでいたマナポーション。魔力をすぐに回復することができる便利飲料だが、一般に流通していないためその辺の冒険者では手に入らない物だ。


「その理由が"淀み"になります。マナポーションは魔石を原料にして作られますが、もし浄化されていない魔石が混ざってしまうと生産したマナポーション全体に淀みが広がってしまいます。少量なら影響は少ないでしょうが、飲料として取り込んだ淀みは確実に身体に蓄積します」

「なるほど…。その辺の町に生産を許したら、淀みを含んだ低品質なマナポーションが蔓延して収集がつかなくなるってことか」


 管理する理由に納得しか無い。

 特に冒険者にとっては魔力残量の管理は生死に直結する。服用し続けることで死んでしまうかもしれないとしても、飲むだけで魔力を回復できるマナポーションは、たとえ品質が悪くても喉から手が出るほど欲しい物だ。


「ちなみに魔石をそのまま食べても無駄ですよ? 消化されずに身体を通過するだけです」

「いや…、さすがに食わないよ…」


 笑って付け足すサニアに苦笑いで返す。


「でも王都では違法生産されたマナポーションが闇市に流れてるって話もありますよ。私がいた教会にも何人か淀みを溜め込んだ人が運び込まれてきましたし、たぶんその話は本当でしょうね…」


 アイーシャが会話に入ってきて淀みの実害の実体験を話してくれた。

 その話に「はぁ…」ため息が出る。


「まぁわかり易く金の匂いがするしなぁ…。ちなみにその淀みを溜め込んで運ばれてきた人たちはどうなったんだ?」

「私がきれいさっぱり浄化してあげました! 元気にお帰り頂きましたよ!」


 えへんっ!と胸を張るアイーシャ。さすがでございます。


「話を総括すると、"ガルシアってやつはおかしい”ってことだな。話す機会があったら吸い取った淀みをどうしてるのか聞いてみたいもんだ」

「そうですね。生き物である以上、淀みが蓄積すれば必ず異常が出るはずです。何かしらの方法で対処してると考えるのが自然でしょうね」

「…カルさん、いきなり聞いちゃダメですよ? 『何だこいつ?』って思われちゃいます」

「おれはそこまで無神経じゃないぞ…」


 アイーシャにいじられ神妙な表情をするカルドラ。

 とりあえず話が一段落し、料理も一通り食べ終わった。カウンターで会計を済ませ、宿へ向かう前にちらっとギルドの受付を見ると、外は暗くなり始めているというのにおっさんはまだ仕事をしていた。

 せっかくなのでハルピュイアの話を今のうちに聞いてみようということで、受付のおっさんに話し掛けに行った。


「お疲れ様です。まだ上がらないんですか?」

「ん? あぁ、書類の整理してるだけだよ。仕事ってほどでもねぇな」


 手元をちらっと見ると、受付の職員数人分の書類を分配しているようだった。

 このおっさん、かなり気配りをするタイプらしい。

 作業の邪魔をしないように簡単に話を聞こうと口を開く。


「この町ってハルピュイアと交流深かったりします? おれたちハルピュイアの友人に会いに彼らの住処に行ってみようと思ってるんですけど」

「あぁ、ハルピュイアと交流が深いのは隣町だぞ? この町にもたま~に交易しに山から降りてくるが、あいつらが住んでるのは山の反対側だからな。住処に行くにも隣町から上った方が良いと思うぞ?」

「え? そうなんですか?」


 まさかの情報に驚く3人。少し話し合う。


「ということは明日この町で情報収集する意味も無いかもしれませんね…」

「そうだな。さーっと特産品とか探したらすぐ出発しても良いかもしれん」

「ガルシアさんのことは気になりますけど、私たち赤の他人ですからね…」


 その話を聞いていたおっさん。「あっ」と何かを思い出したかのように声を出し、依頼書の束をパラパラと捲って行く。

 そして1枚の依頼書を引き抜くとカルドラたちに差し出した。


「ガルシアが薬草採取の依頼受けて行ったんだがよ、その辺りはグランドルの縄張りなのよ。で、少し前にこんな依頼が来たんだ」

「グランドル…、ヒヒの一種でしたっけ…」


 指し出された依頼書を受け取りながらサニアが呟く。

 そしてその依頼書を3人で覗き込む。


「えーと…、グランドルのボスの狩猟。非常に強力な個体がボスになったため縄張りの拡大が危惧される。早急に対処されたし…。え? この依頼なんで残ってるんですか?」


 "早急に対処"と書かれているにも関わらず"少し前の依頼"として出されたことに困惑しカルドラが尋ねると、おっさんは苦笑いをして答えた。


「いや~、この町の冒険者は何て言うか…。良く言えば気の良い奴らなんだが、悪く言うと腑抜けばっかりでな。とてもじゃねぇじゃこんなの任せられねぇ…」


 そして今度はカルドラの目を見て続けた。


「兄ちゃん、相当強いだろ。申し訳ないんだが助けてくれねぇか? ガルシアもあの細さだ。さっきも護衛付けろって言ったんだが、『問題無いよ』とか抜かしやがって…。頼む、間接的でも良いからあいつを助けてやってくれ」


 おっさんはそう言って頭を下げてきた。

 カルドラたちは顔を見合わせ、頷き合う。


「わかりました、この依頼受けます。特に急いでるわけでもないですしね」

「ほんとか! 助かる!」


 カルドラが受注の返事をするとおっさんは心底嬉しそうにお礼を言ってきた。

 そしてササッと受注処理をすると、真剣な顔でカルドラたちに向き直った。


「頼んどいて言うのもアレだが、十分に気をつけてくれ。グランドルは群れで行動する大型のヒヒだ。強いのはボスだけじゃない。対策はしっかりな」

「わかりました。ありがとうございます」


 おっさんに礼を言い、カルドラたちは明日に備えるため宿へ向かった。

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