アブソーブ
「……、ここのギルドって魔石買い取ってくれないのか?」
「そうみたいですね…。珍しいです」
疑問を口にしたカルドラにサニアが答える。
すると口論の続きが聞こえてきた。
「神官のやろうが浄化価格をぼったくりやがるからうちも大変なんだよ。だから浄化前の魔石は買い取れない。悪いが、浄化してから持ってきてくれ」
「浄化してから!? 浄化魔法使えるやつなんて神官しか知らねぇよ!?」
その話を聞いたアイーシャがすぐに立ち上がり、パタパタと彼らのところへ走って行ってしまった。
「あ! アイーシャ! ……全く、お人好しだな…」
「カルさんが言います?」
カルドラのぼやきにサニアがクスクス笑って突っ込み、2人で走って行ったアイーシャを見守る。
「すみません、お話が聞こえてしまって…。その魔石、私が浄化しましょうか? もちろんお代はいりません」
「え? 良いのか?」
突如乱入したアイーシャに、絡んでいた冒険者はポカンとした顔をする。
しかし受付のおっさんが嫌味を言ってきた。
「おいおい、いつもぼったくる神官様がどういう風の吹き回しだ?」
それを聞き、アイーシャは少し悲しそうな表情で頭を下げる。
「私は旅の神官です。この町の神官様がどういう経緯で浄化の献金を引き上げているかは存じませんが、神官の本分は人を救うこと。今問題になっているその魔石の浄化はぜひ私にやらせてください」
アイーシャの真摯な姿勢を目の当たりにし、冒険者と受付のおっさんは顔を見合わせる。
そして受付のおっさんはため息を吐き「悪かった」と謝罪。冒険者はアイーシャに魔石を差し出す。
「浄化、よろしく頼むよ」
「はい! では――」
そう言ってアイーシャが魔石を受け取ろうとすると、横から手が伸びて来てひょいっと魔石を取り上げられてしまった。
その手の持ち主は細身の若い男だった。
「旅人がこの町の事に首を突っ込まない方が良いよ。浄化は俺がやる」
男がそう言うと、受付のおっさんが男に話し掛ける。
「ガルシア、お前がこっちに来るなんて珍しいな」
「…、金が無くなったから稼ぎに来ただけだよ」
ガルシアと呼ばれた男は軽く返事をし、取り上げた魔石を眺める。そして…。
「アブソーブ」
ぞわぁぁぁぁぁ…と、魔石から黒い靄が滲み出し、ガルシアに吸い込まれていく。
「ちょっ! 貴方なにやってるんですか!???」
アイーシャが目を見開いて声を上げる。
彼は淀んだ魔力の結晶である魔石から"淀み"を吸い上げているのだ。そんなものを身体に取り込んだらどんな影響があるかわかったものではない。
しかしアイーシャの心配を余所に魔石は青緑色のきれいな状態に浄化され、淀みを吸い取ったガルシアという男はケロッとしている。
「ほら、これなら買い取れるだろ?」
「…あぁ。いつもすまねぇな、ガルシア」
「いいよ」
「兄ちゃん助かったよ。ありがとな」
「うん、それじゃ」
そして揉めていた2人は取引を始め、ガルシアはスタスタと依頼書が貼られている掲示板まで歩いて行く。
アイーシャはそんな彼を信じられないというような表情で眺めていた。
「なぁサニア、アブソーブってどんな魔法なんだ?」
先ほどの光景を見ていたカルドラが興味本位でサニアに尋ねる。
「……わかりません、初めて見ました」
「え? そうなのか?」
サニアは常用魔法から禁術級の魔法まで、ありとあらゆる魔法を習得している。それこそ現在存在するほぼ全ての魔法を網羅していると言っても過言ではない。そんな彼女でも知らない魔法がたった今、目の前で行使された。
「ふむ…」と、サニアは人差し指を唇に当て考える。
「見たところ対象から淀みを吸収する魔法のようです。…でも、他の物体から何かを"吸収"するという効果の魔法は、私の知る限り1つもありません。もしそんなものが存在するなら…、間違いなく禁術に指定されるはずです」
「禁術…、そんなにやばいのか?」
「はい。すごくやばいです」
そしてカルドラとサニアも、掲示板に貼られた依頼書を吟味するガルシアという男を遠目に眺めた。




