ギルド兼飲食店
峡谷の町を出発したカルドラたち。
宿で対岸へ行くルートを教えて貰い、その通り1日ほど峡谷沿いの街道を歩くと、崖際で何か作業をしている人たちに出会った。
話を聞くと、ここには谷底に下りるための細い通路があるのだが、峡谷の町とカルドラたちが目指す対岸の町が協力し、将来的に馬車が通れるくらいまで道幅を広げる工事をしているそうだ。
今は単純に道幅を広げている段階だが、それが終わったら今度は斜面を緩やかにするため崖を削り込んでいくらしい。
「何年掛かるかわかんねぇけどよ、将来ここを馬車が行き交う光景を想像するとわくわくしちまうよ」
いろいろ話を聞かせてくれたおっちゃんは最後にそう言って笑い、作業に戻っていった。
3人はほっこりした気持ちで崖を下り、谷底の森を突っ切って対岸へ伸びる谷底の街道を進んだ。
本来ここには大きな川が流れているのだが、植物たちの根がそれを覆い隠し、悠久の時を掛け腐葉土を積み重ねたそこは、地上と見比べても差がわからない普通の地面になっていた。
対岸へ着くと、そこでもやはり工事をしている人たちがいて、3人は作業の邪魔にならないように崖を上った。
崖を上り切ると、遠くに小屋がいくつも建つ場所が目に入る。近くで休憩していたおっちゃんに聞くと、前まで盗賊がよく襲撃してきたため簡単な野営をしながら工事に当たっていたのだが、最近なぜか盗賊が来なくなったため小屋を建てて寛いでいるとのことだ。
「そのうちこの辺に村ができてるかもな」
笑いながら冗談めかして言うおっちゃん。
しかしもしもこの崖の工事が完了したら、この辺りはおそらく村の規模を超えて発展するだろう。おっちゃんはここの小屋がその足掛かりになることを予見しているように思えた。
3人は話をしてくれたおっちゃんにお礼を言い、再び街道を歩き出す。
峡谷の町からも見えていた対岸の大きな山。その山を回り込むように伸びる街道を突き進む。
峡谷から少しずつ離れ、そのまま1日ほど歩く。
そして峡谷の町を出発して約2日半、3人は目的地の町へ到着した。
「わー! 着きましたー!」
「おー! 着いたなー!」
「ピー!」
門を通り、町に入ったアイーシャは今回も元気に声を上げ、カルドラとソラも追従する。
「……おー」
そしてサニアは恥ずかしそうに呟く。
「あーサニアさん! 前の町では『着きましたー』って言ってくれたのに! このいけず!」
「いやです! 言いません!」
そのようにわちゃわちゃする2人を眺め、カルドラはうんうんと頷く。
(うん、平和だ)
前の町ではアイリスが泣き出したりアイーシャとの関係を茶化されたりと、とにかく慌ただしかった。目の前の微笑ましい雰囲気をじっくり噛みしめる。
「もう! そんなことより早く宿を探しに行きますよ!? もうすぐ日が傾いちゃいます!」
纏わり付くアイーシャを引き摺りながら歩き出すサニア。「いけず~」と言いながらアイーシャは離れない。
カルドラはクスクス笑いながらその後をついて行く。
その後すぐに宿は見つかり、周辺の情報を聞くとギルドが近くにあるとのことなので3人でギルドへ移動した。
ギルドで一応魔族の情報が無いか確認してみるも…。
「ん? そういう情報は無ぇな。仮にそんな情報があったらギルドも兵士も大騒ぎだぞ?」
と言われてしまった。
ホールにたくさん置いてあるテーブルの1つに腰掛け、3人で話し合う。
「魔族の進行方向はたぶんこっちなんじゃないかと思ってこの町に来てみたけど…、まぁ普通は痕跡は残さないよな」
鉱山の町の坑道、フェルステラ邸のある町の古代遺跡、そして谷底の森での魔族との会敵。古代遺跡の件は確定ではないが、それでも、カルドラたちの進行方向のことごとくに魔族の影が見え隠れする。
地図で見た時にその延長線上にあるこの町に「もしかしたら何か情報があるかも?」と思い足を運んでみたが、見事に外してしまった。
「まぁまだ着いたばかりですし、それにこの町に来た目的は魔族の情報だけじゃないですしね。ハピさんの住んでるところ見てみたいです♪」
サニアがわくわくした表情で話す。
そう。この町に来たのはハルピュイアの生息域が近いからでもあるのだ。
これまで2回遭遇したハルピュイアのハピ。彼女(?)の住んでいるところがどんなところなのかとても興味がある。
「それについても情報収集ですね! 峡谷の町であれだけハピさんが馴染んでるなら、家が近いこの町ではもっと交流が盛んなはずですし♪」
アイーシャもニコニコしている。またハピと会いたいのだろう、再会への期待に胸を膨らませているようだ。
「よし、それじゃ明日はハルピュイアについて情報収集だな。今日はもう飯食って宿で休もうぜ。正直、ここに入ってから良い匂いがして…、早く何か食いたい」
お腹を触ってカルドラが苦笑いをする。この町のギルドは飲食店も兼ねているらしく、扉を潜った瞬間からおいしそうな匂いが建物内に充満していた。
たくさん置いてあるテーブルには冒険者と一般客が入り乱れて座り、楽しそうに話しながら食事をしている姿が映る。
「そうですね、私もお腹空きました…」
「実は私も…」
アイーシャとサニアもお腹を触る。そして3人で頷き合い、近くを歩いていた店員さんを捕まえて料理を注文した。
一息つき、3人で雑談しながら料理を待っていると、ギルドの受付から大きな声が聞こえてきた。
「何で魔石が買取不可なんだ!? そんなギルド聞いたことないぞ!」
見ると、先ほど魔族の情報について話を聞いてくれた受付のおっさんが1人の冒険者に絡まれていた。




