風と光
「…? アイリスちゃん、何で私じゃなくてカルさんに言って行ったんですかね?」
「な、なんでだろうな?」
キョトンとするアイーシャにテキトーに返事をするカルドラ。冷や汗が伝う。
「あ! 私は毎日幸せなので安心してください!」
「そ、そうか…、良かったな…」
ふんすっ!と自信満々に宣言するアイーシャ。カルドラは少し疲れた顔をした。
そのやり取りを見てクスクス笑っていたサニアが助け船を出す。
「さ、私たちも出発しましょう? 物資の調達も、お世話になった人への挨拶も昨日のうちに終わってますしね」
そう言って馬車が向かった反対方向の門へ歩き出すサニア。
「はーい!」と元気に返事をし、アイーシャも後を追う。
しかしカルドラが予想外のことを言い出す。
「あ、ごめん2人とも。おれまだ少し町に用事があるんだ。すぐ追い付くから門で待っててくれ」
「え? 何か忘れ物ですか?」
尋ねるサニアに「ちょっとなー」と言い残し、カルドラは通りを走って行ってしまった。
「…? 用事って何ですかね?」
「さぁ?」
アイーシャとサニアは揃って首を傾げた。
その後、雑談しながらゆったり歩き、出発予定の門に辿り着いた2人。カルドラはまだ戻って来ない。
「カルさんいったい何しに行ったんですかね?」
「何ですかね? どうせなら皆で行けば良かったのに…」
門の近くで通りを眺め、ポツンと立ち尽くす2人。
すると遠くにこちらへ走ってくるカルドラが見え始めた。
「あ! 来ました!」
「さて、何しに行ってたのか聞いてみましょうか」
近付くカルドラを眺めつつ、質問攻めにしてやろうと待ち構える2人。
そしてついにカルドラが到着した。
「悪い、待たせた」
「お帰りなさい!」
「お帰りなさいカルさん。どこ行ってたんですか?」
「えーと…」と言いながら、カルドラはポケットから綺麗な色合いで編まれた紐を取り出した。
「サニア、いつも世話になってるお礼だ。受け取ってくれ」
「え??? 私に???」
驚き、目を見開いて受け取るサニア。
美しい花緑青と白の紐で編まれたそれは、端に付けられた小さな青い宝石部分を結合させ輪を作る構造のブレスレットだった。
「この魔力…、シルフィードの脱皮皮ですか?」
サニアはそのブレスレットから強烈な魔力を感じ取る。材料は昨日ハピが出品していたシルフィードの脱皮皮のようだった。
「服屋の隣のおっちゃんが加工してるの見てさ。少し話したら快く作ってくれた」
「いつの間にそんな交渉を…」
受け取ったそれを眺め、呆然と固まるサニア。その様子にカルドラは少し心配になる。
「えっと…、迷惑だったか…?」
それを聞きブンブン首を横に振るサニア。そしてブレスレットを握り胸に当て、嬉しそうに口を開く。
「ありがとうございます…、すごく嬉しいです。大切にしますね」
「ふふ、サニアさん良かったですね♪」
アイーシャも嬉しそうにサニアに声を掛ける。
サニアの反応に安堵したカルドラは再びポケット漁り出し、今度はアイーシャに声を掛ける。
「アイーシャにもあるぞ」
「…え???」
そしてカルドラはポケットから雑貨屋の奥の男に頼んでいた品を取り出した。
「あ、それもしかして雑貨屋の…」
「そ、あの時頼んでおいたんだ」
カルドラのポケットから出てきたのは、昨日アイーシャが目を奪われていたルミナリウムの原石を加工したペンダントだった。
アイーシャはそれを恐る恐る受け取ると、じっくり観察し始める。
細いチェーンの中央にあるそれは、銀白色のルミナリウムをメインに石の灰色が絶妙に絡み合い、ルミナリウム単体では絶対に出せない美しさを纏っていた。
昨日見ていた原石をそのまま小さくし、ただ表面をきれいに仕上げたような、原石が持っていた存在感と美しさをそのまま凝縮したような素晴らしいペンダントだった。
周囲の魔力に反応して淡く発光する性質のあるルミナリウム。その性質通り、そのペンダントもふんわりやさしく発光している。
それを少しの間固まって眺めていたアイーシャ。するとツー…と、アイーシャの目から涙が零れた。
「ア、アイーシャ!? どうした!?」
突然泣き出したアイーシャにカルドラは慌て出す。
「ご、ごめんなさい! 違くて! なんか感極まっちゃって…!」
急いで涙を拭き、パァッと満面の笑みになるアイーシャ。
「カルさんありがとうございます! すごく…! 嬉しいです!」
そう言ってペンダントを握った手をぎゅうっと胸に当て、感情を噛みしめる。
「アイーシャさん、せっかくだから着けて貰ったらどうです?」
「「え?」」
サニアの提案に同時に驚くカルドラとアイーシャ。
「カルさんも、渡して"はいお終い"じゃ味気ないですよ?」
そう言いながらアイーシャを回転させるサニア。
アイーシャも戸惑いつつ、「じ、じゃあ…」とサニアにペンダントを渡す。そのペンダントが流れるようにカルドラの手元へやってくる。…もう逃げられない。
「よ、よろしくお願いします…」
見ると、アイーシャが緊張した雰囲気で後ろ髪を上げ、細い首筋を晒している。
その姿に、いつもぽやっとしているアイーシャからは想像もできない"色気"を感じる。
カルドラの顔に汗が滲む。"このアイーシャ"に近づくのは危険だと本能が叫ぶ。しかし…。
(……覚悟を決めろおれ。ここで逃げたらアイーシャに恥をかかせてしまう)
キッ!と気合いを入れ、アイーシャの首に腕を回すカルドラ。
その瞬間アイーシャの緊張が高まったのがわかった。それを受けカルドラまで緊張が高まる。
震えそうな手を強靭な精神力で無理やり抑え込み、なんとかチェーンの留め具を繋ぐことに成功。「良いぞ」と声を掛けると、アイーシャが髪を下ろし、ゆっくり振り返った。
「ど、どうでしょうか…」
尚も緊張した面持ちで尋ねるアイーシャ。その胸元には美しいルミナリウムのペンダントがふんわり光を放っている。
その光はまるでアイーシャの心の光をそのまま表現しているかのように感じた。
「うん…、すごく似合ってる」
率直な感想を言うと、アイーシャは「えへへ…」と頬を赤く染め、はにかむように微笑んだ。
パチパチパチパチパチ
「「!???」」
突然拍手の音が鳴り始め、カルドラとアイーシャは驚いて音の方を見る。
すると門番の1人と複数の通行人が笑顔で2人に拍手を送っている。そして何故かその中にサニアも交ざっている。
パチパチパチパチ
「良いぞ若いのー」「幸せになー」「良いもの見せて貰ったぜー」「喧嘩しちゃだめよー?」
皆思い思いの言葉を投げてくる。
「ななななななな…!」と2人の顔が真っ赤になり、カルドラが否定の言葉を叫ぶ。
「違う! おれとアイーシャはそういうんじゃなくて…! えーと…!」
「はははは! 照れるな照れるな! そんなこと言っちゃ可愛い彼女が可哀想だぞ?」
「だ・か・らっ! 違うんだ!!!」
目の前で顔を真っ赤にし、必死に言い訳をするカルドラを眺めるアイーシャ。
「……ふふふ」
自分の顔も真っ赤だが不思議と悪い気はせず、胸で光るペンダントを両手で握り、幸せを噛みしめるのだった。




