含蓄、言葉の裏に責任を添えて
次の日の朝、馬小屋の前で御者が馬車の準備する横で、カルドラたちとアルスたちは別れ前の最後の雑談をしていた。
そして切りが良い所でアルスがお金が入った小袋を出す。
「カル、今回の助っ人の報酬だ、確認してくれ。遅くなって悪かったね、慎重に額を精査してたんだ。決して忘れていたわけではないよ?」
「うん…、ありがとう」
ジャラ…と、小袋を受け取るカルドラ。ニコニコと笑うアルスの表情からは本当に精査していて遅くなったのか、それとも忘れていたのかの判断が付かない。
とりあえず軽く中身を確認するとかなりの枚数の金貨が入っていた。
「戦闘したとはいえ、護衛の助っ人にしてはだいぶ多くないか?」
「その戦闘の中身が"濃い"からな。妥当な額だ、素直に受け取れよ」
ダンテが補足し、ニヤッと笑い掛ける。「なるほどねぇ…」と、カルドラは小袋をポケットへ仕舞った。
そんなやり取りをする横では、アイーシャとアイリスが別れを惜しむように向かい合っていた。
互いの神官服の首元には、昨日アイリスが一生懸命選んだイヤリングが縫い付けられている。
昨日の夜に手渡し、お互いの服に縫い付け合ったのだ。
「アイリスちゃん、久しぶりに会えてうれしかったです。このイヤリング、大事にしますからね」
「アイーシャさん、私もうれしかったです。何より、アイーシャさんは私の"道"を照らし直してくれました。もう迷いません。このイヤリングに誓って、次に会う時にはもっと成長した姿をお見せします」
そう言葉を交わし、ぎゅっと抱き合った。
そしてそれを横目に見ながら、サニアとメイも言葉を交わしていた。
「今回サニアに会えて良かったわ。『マルチソーサリー』ってやつ、わたしなりに運用できないか試してみる」
サニアのオリジナル魔法であるマルチソーサリー。一昨日の宴の際にアルスとダンテからサニアの戦闘の様子を共有され、興味の湧いたメイはその場でサニアに実演してもらい感動。その流れでマルチソーサリーを教えて貰ったのだ。
「はい、でも前も言った通り魔力管理には十分に注意してくださいね。マルチソーサリー展開状態で魔法を発動すると増幅分の魔力が全部持って行かれてしまいますから」
この魔法はサニアの圧倒的な魔力量によって初めて安全に運用することができる。メイの魔力量もかなり多いが、一般に知られていない鍛錬で底上げされたサニアの魔力量には及ばない。下手に使えば魔力枯渇であっという間に死んでしまう。
「わかってるわ。飽く迄"わたしなり"だからね」
そう言ってニカッと笑って見せる。それを見てサニアも安心したように微笑む。
実はサニアもサニアで、メイに魔法の"取り回し"について話を聞いていたりする。
魔法を"使う"ことに特化した魔術士。魔力を導くことに重きを置いた魔導士とは、やはり細かい所で魔法の扱い方が異なるのだ。特にメイの魔法陣の構築スピードには目を見張るものがあり、その辺りについて細かく意見交換をしたのだ。
「騎士様、準備ができましたよ」
皆がある程度言葉を交わしたところで御者から声が掛かる。
「わかった。すぐ行くよ」
アルスが返事をし、カルドラたちに向き直る。
「カル、アイーシャ、サニア、魔族に関しては僕ら騎士団も動くことになると思う。場所は違うが、お互い無茶はほどほどにがんばろう。…あぁそれと、カルの"新しい戦術"は騎士団でも運用を検討しようと思ってるよ。ある意味"既存の戦術破壊"の情報だからね。影響は計り知れない」
「あぁ…、落ちないように気をつけてな?」
「ふふふ、わかってるよ」
カルドラの思い付きによってもたらされた"シールドを利用した空中移動"技術。鎧を着た騎士たちが空中から襲い掛かってくる光景を想像し、少し顔が引き攣る。
しかし燃費が良いとはいえシールドを1枚展開するにも魔力は必要だ。ぞろぞろと空中を行進というわけにはいかないだろう。おそらくここぞという時の引き出しの1つとして戦術に組み込まれる程度に止まるはずだ。
「それじゃ、皆元気で。また会おう」
「またな」「じゃーねー」
騎士団の面々が挨拶をし…。
「元気でな」「また会いましょう!」「お世話になりました」
カルドラたちも挨拶を返す。
するとアイリスがカルドラの近くに来て、目をじ~っと見てきた。
「…?」
カルドラが首を傾げると…。
「アイーシャさんを"幸せ"にしてあげてください」
そう言って深々と頭を下げ、「お世話になりました」と騎士団のところへ戻って行き、4人で馬車に乗り込んでいく。
「…………は???」
カルドラは目を点にして出発する馬車を見送った。
「カルに何言ってきたの?」
馬車に乗り込んだメイが隣に座るアイリスに尋ねる。
「"責任を持て"と言ってきました。アイーシャさん本人の自覚が薄いとはいえ、あれだけ惚れさせてるんです。カルドラさんにはしっかりしてもらわないと」
一昨日の宴の最中、カルドラがアイーシャを連れ出すところを目撃し後をつけ、その後のやり取りの全てを見ていたアイリス。
突然の"土下座"には驚いたが、その後に続く言葉や最後の抱擁を見て、カルドラが如何にアイーシャを大事に思っているかは良くわかった。
昨日のプレゼント選びもさり気なく相談に乗ってくれたし、人間性も問題ない。少し悔しかったが、アイリスによるカルドラの査定は『合格』だった。
「ふふふ、きっとサニアもシレっとつっつくでしょうからね。カルも大変ね」
これからのカルドラの立ち位置を想像してクスクス笑うメイ。
「なんだ、そっちも"その話"をしてたのかい? 僕らもカルを追及してたんだよ」
アルスが楽しそうに話しに加わる。
「くっくっくっ、四方から言われてるんだな。アイーシャ"からも"矢印が向いてるならほっといてもくっ付くだろ。次会うのが楽しみだぜ」
「"からも"ってことは…、あんたたちカルから何か聞き出したの?」
笑うダンテの言葉にメイが食いつく。そしてアルスが暴露する。
「カルにとってアイーシャは『魂の家族』なんだそうだよ? で、"可愛らしいと思う"とも言っていた」
「へ~…」
それを聞いてニマニマし出すメイ。アルスとダンテも笑っている。
その光景を眺め、ほんの少し寂しい気持ちといっぱいの安堵感がアイリスの胸に広がる。
そして自然に祈りの姿勢を取り、アイーシャの幸せを祈るのだった。




