キャニオン・ハニー
その後アイリスが会計をするために店内に入り、少しするとアイーシャたちと一緒にぞろぞろと外へ出てきた。
そこにカルドラが合流するとサニアが話し掛けてきた。
「カルさん、ここの奥さんからキャニオン・ハニーについて聞いてきましたよ。今は収穫時期じゃないらしいんですけど、この町にもう一軒ある雑貨屋に置いてあるだろうって言ってました。探してみましょう♪」
カルドラは頷き、また皆揃って町の散策を再開。
ゆっくり通りを歩き、昨日お世話になった食料品店や、新しく発見した衣料品店なども覗いてみた。
食料品店では昨日は気付かなかった珍しい食べ物を買って食べてみたり、衣料品店では女性陣がきゃいきゃい言いながら楽しそうにしていた。
そのようにゆっくり散策を楽しんでいると二軒目の雑貨屋を発見。さっそく店内に入って商品を見て回ってみると、店の一画に1リットルほど瓶がたくさん置いてあるのを発見した。棚に札が貼ってあり、そこには『キャニオン・ハニー』と書かれている。
「お、あったな。貴重品って聞いてたから生産量が少ないんだと思ってたけど、意外とたくさんあるんだな」
カルドラがそう言うと、それを聞いた店員さんが理由を教えてくれた。
「この辺りの蜂は"でっかい"んですよ。シーズン中は花も次から次に咲くのではちみつもたくさん採れるんです。毎年他の町からも冒険者さんたちが来て、でっかい蜂を掻い潜りながらがんばって採集してくれてます」
「あぁ…、なるほど…」
谷底の森の巨大な昆虫たちを思い出すカルドラたち。地上ではさすがにそこまで大きくはないだろうが、他の地域に比べたらそれでも大きいのだろう。谷底の森の濃い魔力は周辺の環境にも影響を与えているらしい。
ともあれ、無事に目的の品を見つけることができたカルドラたち。サニアが1瓶、アイリスは教会へのお土産にと3瓶、ダンテは自分とアルスとメイの分と言い3瓶買った。
そして店の外に出たサニアは「味見しましょう♪」と言いさっそく瓶の蓋を開ける。そしてポケットから小皿を4枚出し、スプーンではちみつを取り分け皆に渡していく。そして瓶の蓋を閉め、自分はおもむろにスプーンを口に突っ込んだ。
洗い物が1つ少なくて済むという合理的な理由なのだろうが、その思い切った行動に周りは少し驚いた。しかしそんな行動もサニアの美貌の前では美しい一コマになってしまう。サニアは本当に美の神に愛されてるなとカルドラは思った。
そして肝心のはちみつの感想だが…。
「んー♪ すごく濃厚な甘さですね♪ クラウスさんの言った通り風味が独特ですけど、それが濃厚さの良いアクセントになってます♪」
とのことだ。
続いてカルドラたちも小皿を口へ運ぶ。
カルドラとダンテはその濃厚さをじっくり味わい、アイリスはぱぁっと笑顔になり嬉しそうに口をもごもごさせる。
そしてアイーシャはぴょこぴょこ跳ねておいしさを身体全体で表現している。
それぞれの味わい方を観察していたサニアはアイーシャの子どものような表現方法を見てクスクス笑う。
「さてと、『特産物を食べる』っていう目的はある程度達成しましたけど、どうします? もう少し散策します?」
小皿を回収しながらサニアが尋ねる。
「俺はここらで宿に戻る。アルスたちが戻ってるかもしれないからな」
小皿を渡しながらダンテが言い。宿に向かって歩き出そうとする。
「それなら皆で一回戻るか。アルスたちの滞在期間の予定も聞きたいしな」
カルドラがそう言うとアイーシャとサニアも頷き、5人での散策はここまでにして皆で宿に戻ることになった。
5人で宿に戻ると、丁度戻ってきたアルスとメイと鉢合わせた。
そしてダンテがおもむろにポケットからはちみつの瓶を取り出し、「ほれ」と雑に手渡す。
アルスはニコニコしながら受け取り、メイは「何故はちみつ…?」と首を傾げていた。
サニアがメイにキャニオン・ハニーという特産品であると説明する横で、カルドラはアルスにいつまでこの町に滞在するのか聞いてみた。
「僕らの仕事はさっきの報告で完了したし、これから馬車の御者に王都まで乗せて貰えるように依頼しに行くから…、たぶん出発は明日の朝かな」
日の傾きを見ながら話すアルス。
彼の性格なら祠の封印の中身の件ですぐにでも王都に戻りたいはずだが、昨日カルドラが釘を刺したのが効いているのか、いつものように準備をしっかりしてから行動するようだ。
「じゃあここからはわたしも自由時間ってわけね! 昨日見つけた浴場行ってこよーっと! じゃーねー!」
アルスの話を聞いたメイはそう言い残すとぴゅーっと走って行ってしまった。
そしてそれを見ていたアイーシャとサニアが話し出す。
「浴場ですか…。サニアさん、私たちも行きません?」
「そうですね。久々にお湯に浸かって足を伸ばすのも良いですね♪ あ、でも私場所わかりませんよ? メイさん走って行っちゃったのでもう後も追えません」
「大丈夫です! ソラちゃん出番ですよ!」
がし
「ピ!?」
本日ずっと静かにアイリスの頭の上で伸びていたソラをアイーシャが掴み上げる。
「ソラちゃん、メイさんの魔力を追ってください! 着いたらいっぱい撫でてあげますから!」
「ピ~」
「仕方ないな~」と言わんばかりの表情のソラ。パタパタとゆっくり飛び始める。
「さ、アイリスちゃんも行きましょう♪ 皆で汗流しましょ♪」
「わ、アイーシャさん引っ張らないでください」
3人はそうやってソラの先導で浴場へ歩いて行った。
それを眺めていたアルスがクスクス笑い出す。
「ふふふ、賑やかだね。じゃあ僕は御者の所に行ってくるよ。すぐ戻るから、その後どこかへ食事しに行こう」
「わかった。おれとダンテは宿屋のホールで待ってるよ」
そう軽くやり取りし、カルドラはアルスを見送った。




