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双棍のトラベラー  作者: コルミ
はちみつと風と光
186/215

アイーシャの解像度

「あ! カルさんいました!」

「こんな奥にいたんですね、少し探しちゃいましたよ」

「ん?」


 声の方を見るとアイーシャとサニアが棚の向こうから覗き込んでいる。

 いつの間にか店内に入って来ていたらしい。


「じゃあよろしくお願いします」

「あぁ、明日には仕上げておくよ」


 カルドラは男と軽くやり取りをし、2人のところへ向かう。


「悪い、奥で装飾品の職人さんが作業してて、眺めてたら楽しくなっちまった」

「へー…、私も見てみたいです…」

「アイーシャさん、一緒に行ってみましょう」

「じゃあおれは入れ替わりで店内の物色に行くとしますかね」


 2人を奥へ通し、カルドラは周囲の品の物色を開始。

 ここの雑貨屋は消耗品などはあまり置いておらず、お玉や鍋などのキッチン用品、あとは謎の置物や小物などが並んでいる。

 ざっと商品を見ながら入り口近くに歩いて行くと、ダンテがおばちゃんと話しながら会計をしていた。何か買ったらしい。


「ダンテ、何買ったんだ?」

「ん? ほれ」


 チャラ…と、大小不揃いのガラスが連なった"何か"を見せてくるダンテ。


「なんだこれ?」


 カルドラが首を傾げるとおばちゃんが説明し始める。


「魔除けみたいなものだよ。旦那がどこかから割れたガラス貰って来てテキトーに繋げて作ったものさ。意外と人気あるんだよ?」

「実家への土産にでもと思ってな。雑にぶら下げるだけでも良さそうだろ?」


 それはダンテが指で摘まむ紐の下に木製のリングがあり、そのリングから何本も不揃いガラスが連なったものがぶら下がっている。揺れるとチャラチャラと不思議な音が鳴る。


「ダンテ、意外にマメなんだな…」

「おい意外とはなんだ。これでも家族は大事にしてる方だぞ?」


 カルドラの失礼な物言いにダンテが不服そうにするとおばちゃんが笑い出した。


「はっはっはっ! 大丈夫だよ、あんたきっと良い父ちゃんになるから! そんな未来の父ちゃんにおすすめの商品があるんだけど――」

「ん? どれどれ――」


 …ダンテがおばちゃんに捕まってしまった。まぁ懐は温かそうなので問題は無いだろう。

 カルドラは2人から離れ、また周囲の商品を見ながら歩く。そして通りに出ている棚も見ようと思い外に出ると、ソラを頭に乗せたままのアイリスが1人でアクセサリーと睨めっこしていた。


「真剣だな。何悩んでるんだ?」

「あ…、カルドラさん…」


 真剣かつ困った顔で振り返ったアイリス。本当に悩んでいるようだ。

 しかし本題に入る前に少し言いたいことがあった。


「アイリス、"カル"でいいぞ? 呼び難いだろ」

「いえ、名を略すのは失礼だと思うのでこのままいきます」

「そ、そうか…」


 ずばっと提案を却下され、少しへこむカルドラ。アイリスはとてもまじめらしい。


「で、何悩んでるんだ? 誰かにプレゼントでもするのか?」

「…えぇ、アイーシャさんに何か渡したくて…。きっと明日には…、いえ、早ければ今日お別れになってしまうので…」

「そっか…」


 出会ってからのアイリスのアイーシャへの振る舞いを見れば、彼女がどれだけアイーシャを尊敬しているかわかる。下手に言葉を重ねるのは野暮だと思い簡単に返した。

 アイリスの手を見ると、その手には2つのアクセサリーが乗っていた。そのどちらかで悩んでいるようだ。

 1つはイヤリングで、金色の金具に青い小さな宝石が下がる美しい物だ。もう1つはヘアピンで、どんな加工をしたのか、金と銀が絡み合った複雑な模様をしている。


「どっちも綺麗じゃないか。両方喜びそうだ」

「えぇ、きっと喜んでくれます。それで、私としてはヘアピンが可愛いかなって思ってるんですが…」


 微妙な表情になるアイリス。何か気になるらしい。


「ヘアピンだとダメなのか?」

「アイーシャさんですよ? 絶対無くします」

「あぁ…、なるほど…」


 普段のアイーシャを思い浮かべる2人。元気に動き回り、パタパタ走って髪を揺らし、ヘアピンが放り出される様子が鮮明に脳裏に映し出される。


「イヤリングも耳に付けたらどこかにいきそうだな…。あー…でもこれなら最悪服の装飾として付けられるかも」

「なるほど…、無くすリスクは遥かに低そうですね。これも可愛いですし…、うん、イヤリングにします」

「そっか、決まって良かったな」


 「ありがとうございます」と言いながらヘアピンを棚に戻すアイリスを眺め、カルドラはうんうんと頷く。

 しかしリスクは低いと言ってもアイーシャだ。この小さいイヤリングを無くす可能性は捨て切れない。こんなに一生懸命選んだプレゼントを無くしてしまうのはアイーシャもアイリスも可哀想だ。

 なので少し提案をすることにした。


「なぁ…、保険として"片方だけ"渡しておくのはどうだ? もし無くしても、次会った時にアイリスが予備を渡せるぞ?」

「!!!!!」


 それを聞いたアイリスがすごい顔をした。その驚き様にカルドラも驚く。


「(一組のイヤリングを2人で分け合う…? 良い、すごく良い…! 神官服の同じ場所に付けておきましょうって言って物理的に固定しちゃえば落ちることも無い…! 最高じゃないですか…!)」


 ぶつぶつと早口で独り言を言うアイリス。完全に1人の世界に入ってしまった。


(……うん、まぁ、アイリスなりに理想的な着地ができたみたいで良かった)


 1人盛り上がるアイリスをそっとしておき、カルドラはじっくり棚の商品を眺め始めた。

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