ポケットの謎と頼み事
「……なぁ、前も思ったんだけど、ハピってポケット使えないのかな? あの量なら入りそうなもんだけど」
カルドラが疑問を口にする。
ポケットはほとんどの人が使える汎用生活魔法の1つだ。100リットルほどの物を収納することができる。
先ほどハピが鷲掴みにしていた荷物はざっと40リットルほど。ここに来る前に整理していれば余裕で入る量だ。
「ポケットは"人類種"に分類されている種族しか使えないそうですよ? 使えるのはヒューマ、ドワーフ、エルフ、オーガ、そしてヴァンパイアとディーマです」
サニアがつらつらと知識を披露する。
「ハルピュイアは…、人っぽいけどダメなんだ?」
「ハルピュイアは"キメラ"に分類されてますね。言葉の意味は知りませんけど、種族の枠組みを作った昔の人が何かしらの理由で分けたのは確かです」
「ふーん…」と飛んでいったハピを眺めるカルドラ。
「教会の教義的にはポケットは"神の祝福"とされていますよ。最近王都でポケットの研究を始めた学者さんがいるんですけど、教会の先輩たちが『神の御業に対する冒涜だ!』って騒いでました」
アイリスが苦笑いしながら教えてくれた。彼女としては"騒ぎ"に懐疑的なのだろうか。
「王都では学者と神官のいざこざは日常茶飯事だからな。ある意味王都の名物だよ」
「嫌な名物だな…」
ニヤつきながら話すダンテに苦笑いのカルドラ。王都にはそのうち行く予定だが、そのいざこざの現場に鉢合わせないことを祈る。
「さ! 難しい話はここまでにして散策に戻りましょう? ほら! あそこに雑貨屋があります! 見に行きましょう♪」
ポンッと胸の前で手を合わせ、サニアが皆に呼び掛ける。少し先にある雑貨屋に興味があるようだ。
それを聞きアイーシャが「わーい!」と子どもの様にパタパタと走って行ってしまった。アイリスが「待ってくださーい」と追いかけていく。「あ!ずるいです!」とサニアも後を追う。
「くっくっくっ、アイーシャは無邪気だな」
その様子を見てダンテは笑いを堪えている。
「ほんとにな。見てて飽きないよ」
カルドラもその様子を眺め微笑み、ダンテとゆっくり歩きながら彼女たちを追う。
雑貨屋に着くと、彼女たちは通りに出された商品棚に並ぶアクセサリー類を見て楽しそうに話していた。
その邪魔をしないように店内に入る。
「お、珍しいものがあるな」
ダンテが何かを発見し1人で隅の棚へ歩いていく。
カルドラも気になったが、大柄のダンテと狭い店内を回るのは窮屈そうだと思い、その一角は後回しにすることにした。
そしてカルドラは1人で店のさらに奥へ足を進める。
そこにはいくつもの工具が並べられたテーブルに座る壮年の男がいた。その手には先ほどハピが出品していたルミナリウムの原石が握られている。測りでサイズを見ているようだ。
その様子をじっくり眺めるカルドラ。すると男が話し掛けてきた。
「珍しいかい?」
「あぁ邪魔してすみません。前に工房の手伝いをしてたから懐かしくて」
「そうか」
男は作業をしながらちらっとカルドラを見た。
「君はさっきハピの交易場にいたね。邪魔にはならんから好きなだけ見て行くと良い」
「あ…、ありがとうございます」
男はカルドラがハピの所にいたのを覚えていたらしい。その時の場を乱さないようにした振る舞いがこの男の信用を買う一助になっているのかもしれない。
とりあえず見学の許しが出たので再び男の作業を眺めるカルドラ。
少しするとサイズを測り終え、次は原石にインクで線を引いていく。
「……何かに加工するんですか?」
質問してみる。
「表に装飾品が並んでただろう。あれは私の作品なんだ。ハピは面白い模様の鉱石をよく持ってきてくれるからね。今日の"これ"も加工して並べる予定だよ」
「なるほど…」
「ふむ…」と考えるカルドラ。そして男に"ある頼み事"をする。




