18.3人の魔族2
18.3人の魔族2
「ええっ?なっ……なんと……そんなことを考えていたのですか?だったら……こっそりと打ち明けてくれたなら……バンドレと示し合わせて……研究が進まないところを見せつけられたでしょうに……」
予想外の言葉に、バンターが残念そうに顔をしかめた。
「だって……檻があった地下室だって監視されていたでしょ?……常に当番兵が詰めていたからね。体術の師範代とかとは違い……監視兵は情け容赦なく、少しでも不穏な空気があるとすぐに報告していたものね。
商社に連れてこられた当初は3人で同じ部屋に居られることがうれしくて、小声で話していたつもりが……実は集音魔法とかでどんな小声の会話でも逃さず筒抜けになっていて、元の飼い主の悪口とか全て告げ口されていたからね。鞭打ちの体罰とかはなかったけど、当時の指導教官に注意されたときはぞっとしたよね。
通常の警護任務の時は個々に対応させられていて……外洋航路の商船の時だけ3人纏めて任務に就いたけど……二人とも……僕にはあまり近づいてきてくれなかったじゃない……まあ僕ら3人には完全自由な時間なんてなかったから……常にだれかしらの監視役が近くについてきていたけどね……。
まあでも……僕に極限魔法迄取得しろと命じてこなかったのは……まあ……二人がそれぞれ極めたのだってごく最近のことだったけどね……?僕にもう百年かけて勉強させるよりも、体術や火縄銃とかの物理攻撃に対して期待しているんじゃあないかなって……そう思っている。
特に……先の魔王国軍侵攻が、異世界から来た勇者の物理攻撃主体とした戦術に嵌ったせいだって、明らかになってからは特にね……。」
バンドーなりに考えて行動していたのだと……改めて聞かされたバンターもバンドレも目と口を大きく見開いたまま、言葉通りに正に固まってしまった。
「成程……結構深く熟考した上での作戦だったというわけですね、だけど実直で勤勉な二人のおかげで、極限魔法は具現化されてしまったと……まあ残念ではあるけど……それでも人間では取得は困難と認識させることはできたのだから、まあ……成功と言えたのではないでしょうか?
それにしても……取得にそれほど苦労する極限魔法を……攻撃と防御共に取得していたとされる、異世界から来た大魔導士とは……一体どれほど優秀だったのか?改めて驚かされますね。」
バンドーが描いた通りにはならなかったとはいえ、九分通り成功したといえるのではないだろうかな?それにしても……本来の召喚元の異世界とやらの住民の、優秀さには驚かされるな。召喚時にその世界で一番優秀な大魔導士……だなんて選別できるわけではないはずだからな……。
「ああ……それはそうであろう……あたしも記録上でしか知らないが、召喚された歴代大魔導士の故郷ともいえる異世界の星チキョウでは……魔法技術がそれこそ極限にまで研究発達していたとされ、あらゆる疾病や怪我の治療もほぼ完成していて、人は寿命の限界まで生きられていたと書かれていた。
人間の寿命もこの世界の時間で言って3百年ほど……実際召喚された大魔導士はかなりの高齢で召喚されたにもかかわらず、召喚後も数十年は存命していたとされる。
肉体的にもそうであろうが……精神的にも大きく発展を遂げた、正に究極の人間社会だったのではないのかな。人間間の暴力による争いごともなく平和な世界で、魔法だけではなく科学的にも発展を遂げていたらしく、空を飛ぶ機械どころか、星を飛び出して他の星へ旅するような、究極の船もあったようだ。
だが……文明があまり発達していない世界にあまりにも進んだ技術を導入すると、それらがまた破壊や殺戮をもたらし災いの種となる……と言って、科学技術も魔法技術もこの世界へは一切漏らさず、あくまでもご自身のみで管理されていた。極限魔法の取得が難しかったのは、その為であろうな。
科学技術と言えば……文美雄がもたらした数々の武器や蒸気機関などの技術はそれに値するのであろうが……文美雄のはどちらかと言うと……この世界の文明レベルとさほどかけ離れた技術ではなく、それでいて人々の生活に役立つ技術であるから……丁度良いレベルといえるのであろうとあたしは考えている。」
俺の疑問にすぐに事務長が答えてくれた。成程……あまりにもかけ離れた未来の技術は、かえって災いの元となるわけね……優れた技術を使うには精神的にも進化していないと難しいという事か……。
「俺のいた世界の地球にも……ジェット機と言って音の早さよりも早く飛ぶ船や、太陽系の他の星へ有人で行くことは時間や食料などの面で難しかったとはいえ、それでも宇宙へ飛び出す宇宙船はありました。
この世界で新式武器の火縄銃だって……もっと連射の利く……一分間に数百発もの弾丸を撃ちだす重機関銃に大砲どころか……遠くの大陸の狙った都市に命中する精度のミサイルだってあったはずです。
だけど俺は優秀でも何でもないただの高校生で……それら高度な技術的な知識なんかほとんどなく……友達もいないからたった一人だけで趣味と言えば……ビル工事現場の重機とか列車など大きな機械にあこがれて、ただひたすら眺めているだけだった。
知識と言えばそれらに関する事だけで……だからでしょうね……俺のつたない知識では、さほど危険な究極技術とは言えない……平凡なものでしかなかったわけです。だから……出し惜しみするでもなく、知っている知識フル動員で丁度良かったのかも知れませんね。
まあ俺なんて……そんな崇高な考えなど一切なく、何とかして魔王国軍の侵攻を止めようと……戦争が終わってからはエルムグリムを豊かにしようと……俺の元居た世界の最先端の科学技術を使って……なあんて考えで綿々と知識を披露していたのですが……所詮は落ちこぼれ高校生レベルの知識であって……でも逆にそれでよかったのでしょう。
それこそ核兵器とかミサイルなんて大量破壊兵器の知識が仮にあったとしても、俺にはそこまでの配慮は出来なかったでしょうからね。」
今更ながら俺のつたない知識……異世界から召還された大魔導士と違い、文明レベルをはるかに超越した知識でもなく、この時代にマッチしたともいえる知識レベルに感謝……しよう。
「いや……そんなことはないぞ……恐らく今のこの時代ですら……遥か昔に召喚された大魔導士の最新科学技術を紹介されたとしても……恐らく誰も理解できず、仮に指導を受けて試作品を作れたとしても使いこなせなかったであろう。たった一人だけの力では、いくら大魔導士が優れていたとしても、何もないこの世界で進んだ科学文明の技術の片鱗だけでも具現化する事すら、難しかったのではないだろうかな……。
余りにもかけ離れた先進の科学技術など……恐らく伝えられたとしても自分たちのものにすることなど出来なかったであろう。仮にそのような兵器を持参してきたとしても……使用している時には最強でも撃ち終わったら終わり……と言った様相であったであろうな。
実を言うと、この世界にも失われた遥か太古の文明の技術……と言ったものが少なからず存在する。文美雄がこの世界に来た当初に話した、太古の攻城戦での投石器……以外にも、文献等にその名称や図だけで紹介されていた古代兵器は、歴史書の中では存在しているのだ。
それもこれも全て……魔王国軍との初回の侵略戦争から続く、何世代にもわたる魔法一辺倒の教育や文明に起因して廃れたものであるのだが……いずれにしても極端に偏った政策に無理があったのだろう。
文美雄が常に言っている通り、機械技術と魔法技術……双方併用していいとこどりをする……しかもそれぞれ中身を理解してしっかりと使いこなす……今のやり方が最も適しているとあたしも思っているぞ。」
「そうですよ……私とギレージュ二人だけで魔導船を操船できても……勇者殿が発明なされた飛行船には、使いやすさや速さの面で到底かないません。このような素晴らしい技術を惜しみなく……しかも他国にまで配分して下さっているのですから……尚のこと魔王国はエルムグリムに対して、永劫の友好を誓うのです。
今やマッサーラ大陸はエルムグリムを中心に回っているのです。今後タッタルンにも勇者殿のお力が及ぶようになれば……それは完全となるでしょう。しかもそれは……力による支配ではなく、友好……共に成長していこうという勇者殿の素晴らしいお考えによるものですから……誰もが従うと思いますよ。」
たかが一高校生……しかも落ちこぼれの半分引きこもりみたいな……どうしようもない子供の知識が、この世界では役に立っているのだ……事務長の……さらにダッフンバルト2世の言葉が……なんだか俺に対してのものだとはとても思えなくなってきてしまう……。
「文美雄のいいところは……数々の偉業を成し遂げながら、それでも驕らず誰に対してでも優しく、どちらかと言うとへりくだった態度をとるところだと私は思っています。
普通……勇者にまで祭り上げられたなら誰もが横柄な態度をとり、自分の主張が絶対と考え皆がそれに従って当然のような気になるものです……私の長い奴隷時代の経験から……権力を持った者たちのおごり高ぶりは……嫌と言うほど見せられてきましたからね……。」
更にはギレージュまで……
「へえ……そうか……ギレージュ殿や王子様の話を聞いて……そのような魔族に対して理解のある人間などいるはずはないと思っていたのだけど……異世界から召還されたためなのか……だから偏見がないのだね?」
「いやあ……魔王国軍との戦争が終わって、最初に手を差し伸べたのはエルムグリムの兵士たちなのですよ。
新国境の大河の堤防整備で魔王国へ多くの技術者が派遣され……技術者と言っても、エルムグリム側の護岸工事を経験した兵士らが主でしたけど……彼らが食糧事情の悪い小鬼たちに対して、肥沃な河川敷で畑を作って野菜を植えて収穫するよう、農業の手ほどきをしたのが最初です。
俺はその話を聞いて感心して……だったら本格的に技術支援を魔王国に対して行いましょうと……農業や林業などが軌道に乗るまでは食糧支援も行いましょうと……食料に不安が無くなれば他国に攻め入ろうなんて考えないはずだと主張して、その提案が王様はじめ多くの人たちの賛同を受け、現実となったのです。
エルムグリムの人々は……本当に心が清らかで……戦前は搾取され続けて厳しい生活を強いられていたというのに……いえ……だからこそなのか不遇な立場だった小鬼たちを気遣って、支援に賛成してくれたのです。
魔王国での小鬼の立場を聞くたびに……魔族に搾取され続けているのだと一時期は真剣に考えていましたからね。実際は……先がない魔族の方たちは、小鬼たちだけで国家として成り立っていけるよう、ある程度の土台を与えてからは、自分たちだけの力で生業を営むよう見守っていただけと、理解できました……。
まあ……先がないと言っても……魔族の方々の寿命って……まだあと千年くらいは大丈夫なのですよね?だったら小鬼たちで言うと……20世代……いや30世代は先のことなんですから……まだまだずっと先と考えて、魔族の方々も一緒に魔王国を良い国へと発展させていくべきだと俺は思っていますよ。」
そうなのだ……異世界から来た俺だから偏見がないのではなく、元々エルムグリムの人々……旧議会議員ら大半の貴族連中は除いて……は、慈愛に満ちた素晴らしい人々だと俺は思っている。そんな人々の国へ召喚されたおかげで……俺なんかが居場所を与えられているのだと……。
「ふうん……僕は人間を信用していないし、恐らくこれからも……人間と仲良くやっていけるとは思っていない。まあ……自分たちの生活をよくするため……媚びを売ったり、表面上は親密な素振りを見せることはあるけどね……でも……今まで聞いて来た限り……ここにいる二人は……信用できそうだね。」
「あっ……当たり前だ!魔王国が……どれほど助けられているか……それはここにいらっしゃる、勇者殿と賢者殿はじめ……エルムグリムの方々全てに……今や魔王国にとって、エルムグリムと言う国は無くてはならない……それこそ魔王国の存亡すらかかっていると言っても過言ではないほどの、過分な恩を受けている。
しかも何ら見返りを求められずにだ……
よいか……バンターたちは永らく人間たちに拘束され、ようやく解放されたところで右も左も分かっていないだろうが……エルムグリムの民への尊敬と感謝の念を常に抱いておくよう、肝に銘じておいてくれ。」
やはり……長く拘束された生活があるだけに……人間に対して信用してくれという言い方に無理があるのだろうな……ダッフンバルト2世は一生懸命フォローしてくれてはいるけれど……
「見返りは……十二分に受け取っているとあたしは……いえ……エルムグリム国民は恐らく全員が……感じているでしょう。それは……大陸周辺での漁獲高割合で……未だに魔王国はエルムグリムとの共同操業を望まれていて、さらに収穫は折半として下さっている。
実質有効海岸線割合で行けば……実に数倍もの漁獲量を得られていますからね。それだけでも法外な収益なのですよ……。」
「いえいえいえ……その程度……敗戦後から3年間にも及ぶ食糧支援……未だその御恩すらお返しできていないと……魔王様も嘆いて居られます。大陸遠洋での漁業に関しましては、今後も共同での操業を決めておりますし、収穫の配分も五分五分と魔王国内では全員が納得しております。
それでもまだまだ農業に酪農及び林業の技術支援……特に棚田の開墾方法や埋め立てによる魔王国東岸への港に養殖池整備……更には小鬼たちの出産改善まで含めると……数百年かかってもお返しきれない程の恩……今後どうしていくべきなのか……魔王国では日々議論を続けておる次第です。
まとまり次第……目録としてお届けあげる所存にて……今しばらくお待ち願います。」
事務長の感じているお返し程度では申し訳がないのだと……ダッフンバルト2世は力強く答えた……だけど……そうかな?
「いえいえいえ……遠洋漁業の共同操業なんてなくても……エルムグリムは多大なる恩恵を頂いておりますよ……なんせ……生活していくうえで一番大事な……平和……魔王国との間のしがらみがほどけて……友好国になれたおかげで……妖精国や獣人国とも国交が再開できましたし、さらにタッタルンとだって……。
裏で画策してマッサーラ大陸内でエルムグリムを孤立させ、常に争いの火種を絶やさぬようにしてきた陰謀も暴くことが出来ましたし……最早大陸中全ての地域で争いごとはなくなったと俺は感じております。
それだけで……十分貢献してくださっていると俺は思っていますけどね……。」
そうなのだ……常に攻め込まれることを想定してびくびくしていた旧エルムグリムでは……明るい明日を望むという事が難しかっただろう。だが今は……常に明日は輝いているのだ……
「もともと……タッタルン王の口車に乗り、エルムグリムを奴隷売買の本拠と勘違いして攻め込もうとしていた、我ら魔王国側がいけなかったというにも拘らず、斯様な評価をして頂けているとは本当にありがたい。
しかもそれは……遠いご先祖ではなく……魔王様はじめ正に我々の見識のなさによるものである事が分かってらっしゃるのに……本当にお詫び申し上げ、感謝の意を述べさせていただきます。」
「まあまあまあ……要約すると……魔王国を……魔族の力を脅威と感じていて、食料や技術支援で旨く丸め込めることが出来て、平和が訪れてよかった……今後ともおとなしくしていてくださいってことでしょ?
別に謝ることでも、畏まることでもないと僕は思うけどなあ……逆にもっと横柄な態度で……今後も貢物を要求して少なければ攻め込むぞ……みたいな態度で十分と思うんだけど……僕の考え間違ってます?」
恐縮して直立した後深く頭を下げたダッフンバルト2世に対し、バンドーの態度は真逆であった……
「おバカなことを……本当におバカですねえ……仮に魔族の力をそのように評価していたとするのであれば……あなたたち含め……私以外は全員がレルム殿のお力で絶対服従や対人禁則の呪詛を解消していただいたことと矛盾しませんか?
そのまま残しておけば……何の憂いもなかったというのに……にも拘らず、処置してくださった。
それは何故だとお思いですか?」
「えっ?ええっ……?そそ……それはその……エルムグリムの連中が……その……おバカだから?」
「馬鹿を言うでないバンドー……あの強力な呪詛……確かに人間でなければ解消できないよう細工されていたが、人間であればだれでも……と言った簡単な構造ではなかったぞ。
我々魔族の魔法技術よりもはるかに優れた上位の魔導士の御方であったからこそ……解消できたのだ。決しておバカ……な方ではありえないのだぞ。もっとよく考えろ!」
バンドーの思いがけない発言に対しギレージュが意見し、更にダッフンバルト2世が言葉をつなげた……
「えっ?えーとえーと……ふうむ……」
「そうですねえ……我々はともかくとして……エルムグリムの民が魔王国との短い付き合いを通して……魔族のことを信じたから……と、いう事でしょうかね?
魔王様含め呪詛の解消は……ごく最近のことでしたとお聞きしましたからね……魔王国側も信頼関係を築いていった……先ほどおっしゃっていた漁業権?の共同運営とか……でね。
私は賛成しますよ……エルムグリム側は様々な技術を……人間社会がこれまで培ってきた、生活にかかわる技術を魔王国側に指導してくださる……対する魔王国側は、有り余る漁業資源を共同で使用することに同意する……互いに互いを利用し合って……協力していくという事に私も賛成いたします。
ですが……技術支援……と言っても……小鬼たちへの指導ですよね?我々魔族は……人間社会での生活がそれこそ人間一人よりもはるかに長く……しかも下働きが長かったから、農業でも酪農でも林業でも……ひとしきり力仕事であれば……熟知していますからね。
魔族は小鬼たちに対して圧倒的に数が少ないから……王都周辺の小鬼たちへの指導はできても、広い魔王国内に散らばっているすべての小鬼たちへ指導する……と言ったことは不可能ですからね。
いえ……恐らく何世代か前には行ったのでしょうが……第2世代第3世代へ様変わりすると、伝えた技術が正確に伝わらなかったり……かといって毎回毎回指導するには手が足りない……小鬼たちは文字を持ちませんから、口頭による技術伝達には覚え違いや忘れがありますからね。
ですけど……指導が一段落したなら?どうします?人間たちにそれ以上の利用価値がなくなったなら……攻め込んで領地を頂いてもいいわけですよね?あるいは国自体を占領吸収して……今度は逆に人間たちを奴隷化して……そうすれば小鬼たちへの技術指導だって……何世代にもわたって永続的に行えますよ?」
ところが更に続いたバンターの発言は……その場の空気が凍り付くようなものだった。




