17.3人の魔族
17.3人の魔族
「バンターです。魔族軍リーダーやってました。魔族軍と言っても3名しかいませんけど……。
得意な魔法は攻撃魔法で、特に雷撃……固まってさえいれば百人程度なら瞬殺です。炎系魔法なら最高温度の獄炎魔法も取得しています。水系魔法はあまり得意ではありませんが、1里四方までなら豪雨を降らせることはできます。氷結魔法は最高到達点の絶対零度迄取得しています。」
最初はリーダー格か……見た目は怖そうなイメージではなく、どちらかと言うと細面の優しい感じがする好青年と言った印象だが……攻撃魔法の技能の高さすごいな……ほぼ極限まで高めていると言ってもいいのだろう。身長は3人の中では一番低いが、それでも俺とほぼ同じくらいで中肉中背。
特筆すべきは1人だけ背中に羽が生えていることだ……先程空を飛んでいる時は体と同じくらいの大きさがあった印象だが、どうやっているのか……今は背中にちょこんと小さな羽根があると言った大きさだ。
だが……もう少し体に見合った服を選べばいいだろうに……デニム素材のパンツをはいているのだが……上は羽根があるから仕方がないのか素肌にサスペンダーで、顔は美青年と言えるくらいでスタイルもいいのに……ファッションセンスがないのかな?
「俺はバンドレ。防御魔法担当。1里四方までなら一人で魔法結界も物理結界も、その場にいて唱えてさえいれば継続可能だ。1週間程度であれば徹夜でも大丈夫だしな。
だが……あくまでも一般魔法……人間の上級魔導士程度の魔法効果までであり、バンターの極限魔法を防ぐとなると、せいぜい十m四方までの魔法結界を1時間までが限界だろう。
人間界の大砲程度であれば、1mの至近距離でも物理結界で完全に防御可能で、単に人や動物を通さないだけの物理結界であれば大陸の山脈丸ごととか……起点と終点と幅と高ささえ明確なら何年間でも……恐らく俺の命が尽きる程度までの年数なら持続魔法として、効果継続が可能のはずだ。」
続いて今度は防御魔法担当のようだ……それにしてもすごいな……おおよそ2キロ四方のエルムグリム城の魔法結界ですら、2万人の僧兵が2交代でようやく張っていたというのに……その4倍の面積を何とたった一人で……しかも起きてさえいれば継続可能……どれだけすごいんだ?
こいつはバンターよりもはるかにでかい……体つきも筋肉質でムキムキ……同じくデニム上下だがきつきつで……恐らくはいらないのであろう……長袖長ズボンどちらも裾部分から切り取ってあって、袖なしへそ出し上着に短パンデニム姿だ。遠目ではチビTファッション位に見えるかな?
顔はとにかくいかつい……ギレージュもいかつい系だが奴の場合は人間に恨みを抱いていて、常に俺たちを見る時はきつい目つきで睨んでいたからだったが……深い彫りの立方体かと思うくらいに角ばった頬骨の丸刈り頭……奥まった目は白目がほとんど見えない。
耳は潰れてほぼ頭と同一化しているし、鼻も潰れて獅子鼻は高さを感じず、口はでかいが唇は薄くぱっと見……お近づきにはなれそうもないほどの迫力……。
「僕はバンドー……二人と違って攻撃魔法も防御魔法もどちらも使いこなす、人間界で言うところの魔導士で、どちらも特級魔法迄取得している。魔法以外にも剣術に柔術及び拳法に槍術に弓道も極めているよ。
最近は火縄銃による射撃……特に超長筒による遠距離射撃……四分の一里の距離で無風でさえあれば、的の中心に当てることが出来るよ。」
最後の1人は魔導士系か……魔法以外にも色々と……前の二人と違って、何かを極めるというよりも何にでも興味を持って、修業して自分のものにする……と言った性格かな?
背の高さはバンドレよりも少し低めくらいか……それでもバンドレ並みに体はがっしりとしていて筋肉質に見える。顔はどちらかと言うと優しい感じで、ぱっと見は美青年。彼も袖なしへそ出しに短パンデニム姿。
どうにも……ファッションセンスが疑われるな……いや……今のタッタルンはこんなのが流行りなのかな?
「自己紹介ありがとうございます。それにしても……流石魔族と言うか……魔法能力凄いっすね。そう言えばダッフンバルト2世やギレージュに関してはどれほどの使い手なのか、これまで特に聞いたことないのですけど……魔族の魔法能力って……こんなに凄かったのでしょうか?
まあ確かに百人乗り魔導船をたった二人だけで操るくらいですから……魔力に関しては千人力……くらいかな?とは感じていたのですが……魔法能力自体もこんなに高度なのでしょうか?」
そう言えば……これだけ一緒に永い時間過ごしてきていたのだが、2人の魔法能力に関して詳細は聞いたことなかったな……魔族って魔力だけ無尽蔵にすごいって訳じゃあなかったんだ……
「どうでしょうかね……魔族は生まれながらにして成長とともに筋力だけではなく、魔力も人間よりもはるかに増加していく生き物ですが……魔法能力に関しては……さほどではありません。
なぜなら正式な魔法教育を受けてはいないからです。魔法の呪文に関しても……4百年ほど前から北方の山脈内に魔族の一党が集まりだした時点から、独自の魔族語を作り出して呪文も使いやすいように翻訳しました。それでも元は人間界で奴隷として扱われていた時点で、こっそりと聞いて覚えていた呪文が元なのです。
建国後全員から寄せ集めた呪文で、攻撃魔法も防御魔法も上級程度までならほぼ網羅できましたが、特級魔法まではほとんど取得できておりません。
それでも膨大な魔力を有する我ら……上級魔法でも恐らく人間の特級魔法効果を凌駕するはずと考え、それ以上の発展は望んでおりませんでした。なので……私とギレージュが例えばエルムグリムで魔導士検定を受けたとするならば……修得魔法で選別されて恐らく上級魔導士と判定されるでしょうね。
ちなみに……小鬼たちへも魔族語で魔法の呪文を教えておりますが、彼らはどうやっても攻撃か防御どちらかで……初級魔法までしか取得できないようです。記憶容量がさほど大きくはないと考え、飛行術のような上級クラスの魔法は、その呪文だけに限定して教育して取得させております。」
ダッフンバルト2世が、少し苦笑気味に頬を緩ませながら、言いにくいのかゆっくりと説明口調で打ち明けてくれた。成程……そういや……不遇な奴隷生活を、誰もが経験しているのだったな……。
「成程……こちらの3人の場合は……20年ほど前にエルムグリムからやってきて、彼らだけはバンターレ商会に引き取られ……それから魔法教育を受けて、高度な極限魔法迄取得できたという事でしょうかね?
商船の海賊対策となると……高度な魔法が必要になる場合もあるでしょうからね……。
そうなると、たった20年間で特級どころか極限魔法まで会得した、若しくはあらゆる武術を修めたという事に……かなり優秀な御三方という事になりそうですね?」
凄いな……レルムだって相当優秀な魔導士なわけだろ?なんせ特級魔導士……レルムだったら彼ら同様に、極限魔法だって会得できる可能性も……
「人間界の教育を5年うけてから正式な魔法教育が始まり、上級魔法取得までに5年、上級から特級魔法を取得するまで10年……極限魔法を取得するための修業……いえ研究には、おおよそ二百年かかりました。極限魔法はこの世界の魔法ではなく、過去に召喚された大魔導士がもたらした魔法です。
極限魔法の呪文は翻訳不可のようなので、大魔導士が発する呪文を速記者が記録していた資料を用いて修行しました。
言語体系も異なり、勿論単語も違う為、意味のない長い文字列をただひたすら暗唱しなければなりません。
しかもただ暗唱しても効果は具現化しないので、頭の中で発動する現象を呪文に沿ってイメージする必要性があります。その為、古文書を読み漁って異世界の言語をまず覚え、呪文の意味を正確に翻訳してイメージできるようにしました。
翻訳魔法がある為、大魔導士が住んでいた世界の言語の資料などほとんどなく、大魔導士がつけていた日記と当時の記録を対比して、日記に書かれた文字の意味を少しずつ割り出していったのです。その作業だけでも百年かかりました。
それでも……奴隷として扱われ、虐げられていた生活から仕事を与えられ、自由はなかったけど日々の食事に困ることもなくなったので、感謝して必死に頑張りました。」
俺の疑問にリーダー格のバンターが答えた……あれ?
「えっ?でも……」
「ああ……彼らはどうやらギレージュが逃亡した220年ほど前に……その惨劇を受けて、魔族を囲っていた所有者らが危険を感じ、処分をバンタレイ商会に依頼したようですね。
まずはエルムグリムからタッタルンへ移動した時から話さないと、話が繋がらないよ。」
すぐさまダッフンバルト2世が、間に入ってくれた。
「にっ……220年ほど前……今からだと多分224年前……突然真っ暗な箱に押し込まれて1週間……食事もなくて、暑い暑い中……じっとしていた。檻の中に入れられて移動するとき……中で声を出したら飼い主が鞭をふるうので、怖いからじっとしていました。
それから……頭から黒い袋をかぶされて歩かされ……階段を何段も降りた先の……檻の中で生活が始まりました。すぐにバンドレもバンドーも、やってきました……我々に名前は、奴隷の時は違っていました。私はチビ……でしたが、商会に入ってから正式な名前を頂きました。
そこから魔法の教本を頂いて、魔法の勉強が始まりました。月に一度か2度は、商会の荷物の配送時の警護で、妖精国や獣人国などへも回りました。年に一度は他の大陸へ商船が出るので、この時は3人そろって警護任務にあたりました。警護任務は普通に外に出れて、食事も一般の人と同じなので楽しかったです。
任務がない時は、商会の地下深く……の部屋の檻の中で、ひたすら魔法の勉強です。学校に通ってなくて文字もろくに読めなかったので、最初の数年間は語学の勉強から始まりました。
そうして30年ほどで人間界で言う特級魔法まですべて取得し、そこからは各自好みの研究してもいいと言われました。どの道、上級魔法だけでも魔力は強いので通常警護には十分で、外洋で襲ってくる海賊の中にも、特級を必要とするような難敵はいませんでした。
それでもいずれ……獣人国や妖精国と戦うことがあるかもしれないから、極限魔法迄取得して置けと命じられ、私は攻撃魔法を……バンドレは防御魔法を……夫々極限魔法迄取得しました。
バンドーは魔法よりも体術に興味があったので、各武術の研究に励んでいました。火縄銃も……他の大陸からもたらされ、タッタルンではあまり重要視されませんでしたが、商会では独自に研究をしていたので、バンドーも加わって一緒に研究続けています。」
バンターが思い出し思い出し……ここ迄のいきさつを話してくれた……なんと……224年前から……恐らくギレージュの反乱を受けて、魔族は危険という認識となったのであろうな……丁度そのころ……外国航路用の大型船を建造していたから……警護任務に必須と考え渡りに船で、魔族を引き受けたのだろう。
魔族を従えていれば……初めての大陸でも危険な奥地へ自由に行けたであろうし……現地との取引交渉も楽だっただろうな……そういや……他の大陸にも妖精族や獣人族はいるのかな?まさか魔族も……?
「成程……だからエルムグリムで旧議会議員らの本宅を捜索していた中で、魔族を奴隷としていた形跡はあったのに、ここ数十年の印がなかったから……タッタルン王宮にいた子たちで全員と判断してしまった訳だ。
辛かったでしょうね……実に数百年間もの間……地下の檻に閉じ込められて暮していたのですね?」
ううむ……こんな話を聞くと……タッタルン城で匿われていた妖精族や獣人族の子らは、城に入る前だって閉鎖空間ではあったが使役もなく、食事だって普通に与えられていたようだからな……ずいぶんましだ。
「そうですね……エルムグリムからタッタルンへ来ても、大半は檻の中での生活でした。地下には大きな檻が3つあって夫々別々の檻に入れられていて、仕切りがあったから互いの様子は見ることが出来ませんでした。
同じ大部屋ではあったから会話はできたけど……それでも人恋しくて寂しくて……たまに護衛で外に出られる日が、常に待ち遠しかったです。」
成程……地下の檻の中での生活は……奴隷としての立場が解消したとしても自由はなく、寂しいものだったという事か……。
「いや……僕はどちらかと言うと、商会本社にいる時の方が楽しかったね。護衛任務に就かされる時は、常に絶対服従の呪詛を唱えられていたから……社長は厳しい人だったから、へましたときなど何時死の呪文を唱えられるか……気が気じゃあなかったからね。
それに比べて本社にいる時は……檻の中がほとんどだったけど、それでも気兼ねなく結構自由に何でも好きなことに没頭できていたから、楽しかったよ。」
「お前の場合は組み手とか称して、毎日本社の師範代と地下道場で長い時間訓練できていたからな……俺たちのように狭い檻の中でただひたすら究極呪文を理解しようと、解析していたのとはわけが違う。
食事だって……激しい訓練をするからと……お前だけは本社の人たちと常に同じ食事を与えられていたようだからな……俺たちは運動もしないのだからと……通常は野菜と穀物だけの食事だったからな。
俺たちも週に一度は体を動かすよう命じられていて、格闘技の訓練をさせられていたが……俺もバンターも師範代に組み伏せられて、ほとんど身動きできない時間のほうが長いくらいだったが、訓練後の食事は量も多くてそれだけが楽しみだった。
まあそれでも……奴隷時代の残飯だけの日々に比べたら、ずいぶんましと考えていたがな……。」
「バンドーは要領がいいし人懐っこくて、誰にでも好かれる性格をしていますからね。本来は檻から出すには、絶対服従の呪詛を唱えてからではないといけない取り決めなのに、日々の道場の訓練のたびに社長を呼び出すのは申し訳ないからと、バンドーだけは呪詛なしで檻から出られていましたからね。
バンドーが極限呪文研究を嫌がって体術を極めると言い出したのも、商会へ来た当初に魔法の呪文教育と一緒に行われた、基礎体力訓練で道場の師範代らと仲良くなったから、そっちの方が楽しそうと思ったからだよね?おかげで、こっちの待遇も少しは良くなったけど、極限魔法の研究には相当時間がかかったよね。」
「いや……だって……全く異世界の言葉の呪文を覚えるだなんて……しかも言葉の意味を理解してだなんて……言語に対する資料も何もないのに……そんな雲をつかむようなこと……やりたかった?
僕は絶対嫌だったね……そんな不毛な研究とも言えないようなこと……でも二人ともすごいよね……大魔導士の日記の研究だけで……異世界言語体系をほぼ完全に解き明かしたんだよね?
おかげで……極限魔法が攻撃も防御も唱えられるようになった……凄いよ……。」
「魔法関連で使われる言葉を主体とした、言語体系を解き明かすだけで百年かかったがな……」
「そうですよ……特級魔法の取得だって……バンドーが一番早く攻撃も防御も取得できていました。バンドーは頭の回転が早いし記憶力もいいから……仮にバンドーが極限魔法研究に携わってくれていたなら……恐らく半分の期間で取得できていたでしょう。」
どうやらバンドーは他の二人とは違い、極限魔法研究に対して興味がなかったというか……どちらかと言うと体を動かす方が好きで格闘技系に走ったという訳かな?
「でもそれじゃあ……あんまり早くに極限魔法迄取得できてしまうと……だったら人間の魔導士にも極限魔法の呪文を教えて使えるようにしろと、命令されてしまうでしょ?
多分……50年で取得できたとしても……がんばればなんとか生きているうちに取得可能って……何人か選抜されて勉強を始めちゃうでしょ?そうして極限魔法の取得者が何十人かできてしまったなら……タッタルン王をそそのかして、獣人国や妖精国へ攻め込もうって……なったんじゃあない?
勿論エルムグリムは魔王国に攻めさせると同時にね……そうなったなら……また無用な殺戮が起こって……しかも獣人族や妖精族の奴隷制度……なんてのが始まりかねないでしょ?
でも……二人が本当に頑張って研究していたってのは……みんな知っていた……それこそ地下にいる時は、寝る間も惜しんで研究していたからね……それでも言語体系解明に百年かかった。
言語体系は解明されたからもういいとして……そこから極限魔法取得までにまた百年……しかも攻撃か防御どちらか片方だけでも、それだけ時間がかかる……そうなるともう、人の寿命じゃあ取得は無理ってことになるじゃない?真面目で実直な二人が努力を重ねての結果だからね……説得力がある。
おかげで極限魔法は二人だけの特技みたいに認定されたからね……ほんとはね……何百年頑張っても言語体系の半分も理解できず……極限魔法なんて片鱗も具現化できない……ってのを期待していたんだけど……二人とも本当に努力家で勤勉で……コツコツと積み上げて……成し遂げてしまった……。
そのこと自体は本当に尊敬するし、称賛に値すると僕も思う……だけど……やっぱり……そんな危険な魔法は……この世界に必要なのかな?」
不満げな二人に対しバンドーが、心の内を打ち明ける……なんと……




