16.反転攻勢に出る
16.反転、攻勢に出る
「これは現場保存として、我々が襲われた敵陣をそのままの形にして持ってきた。
バンターレ商会の暗殺軍団に襲われ、向こうには捕らえられて絶対服従の呪詛をかけられていた魔族が3人もいて、そのままでは危険な状況だったのでやむを得ず一瞬で灰化させたものだ。こちら側にも2人の魔族が来てくれたので何とかなったが、危ういところだった。
サーベリアンを国家反逆罪で……バンターレ商会を脱税及び兌換金の不法所蔵の罪で告訴し、指名手配をかけてくれ。」
王都警察署へ装甲バスと飛行船で行き、切り取った陣地を警察署前庭に下ろしてから、ハーゲル暫定王が所長を呼び出して直々に命じた。
「かしこまりました。大至急手配いたします。」
すぐさま所長は警察署の中へと、ダッシュで飛び込んでいった。
「我々はどうします?」
「はあ……応援も来て頂いたので、こちらから攻めましょうか……バンターレ商社の本社へ……うまくすればサーベリアンも捕らえられるかもしれません。」
「そうですね……では参りましょう。」
ハーゲル暫定王が攻め込もうと提案したので、全員が装甲バスと飛行船に乗り込み出発……バンターレ商社の本社を目指した。
「ええっ?誰もいない?もぬけの殻?」
バンターレ商会本社は、タッタルン王宮と同じ中央街道に面し、王城から約1キロ地点にあった。
しかし本社ビルの玄関は既に開け放たれていて、人の気配は全くない……石造りの3階建てビルなのだが、恐らくだれ一人残っていないであろうことは、正面エントランスを入った時点で予想はついた。
本来あるはずの受付カウンターや、応接用の間仕切りやテーブルに椅子など……エントランスホールにあるべきものが一切なくがらんとしている……まるで夜逃げでもした後のようだ……。
「どういうことでしょうか?場所を間違ったとか?」
まさか隣の廃ビルへ……という事なのか?
「いえ……入り口横の看板は、間違いなくバンターレ商会と銘がありました。ここはバンターレ本社ビルで間違いがありません。ですが……これは一体……どこへ雲隠れしたというのでしょうね……。」
俺の問いかけにハーゲル暫定王は自信をもって宣言した……だとしたら……???
「ともかく金塊を探すとしよう……数十トンもの金塊のはずだから……簡単には運べないはず。まだどこかに残っているはずだ。」
すぐに事務長が金塊を探すと言い出し、数人の魔導士らが上下の階段に分散していった。
「いえ……恐らく魔族が3人もいれば……数十トンくらいの量……一度に運び出せるでしょう。
魔導船に積んで何処かへ持ち出すくらい……そう言えば……先ほど保護した魔族が昨晩重い木箱を幾つもビルから運び出し、南への街道を十数里ほど進んだ後、百台以上もの馬車に積み替えたと言っておりましたから……金塊を木箱に分割して運び出したと推定されますね。
彼らは皆さんを追跡させる必要があったので、途中で呼び戻したのでしょうね……どこか遠くの町まで運んで隠そうとしたのか……。」
「いえ……恐らく船を使って海外へ持ち出そうとしているのではないでしょうかね?遠洋航海用の大型船であれば、数十トンの金塊でも積めるでしょうし、他の大陸でも金であれば十分に財産として価値がある。
昨夕我々を取り逃がし追手をかけ、追いついて捕らえられればよし、仮に取り逃がしてエルムグリムへ到着されてしまえば……バンターレ商会は終わりだ。そうなる前に……金塊は船で他の大陸へ運んでしまおうと……どうせ他の大陸とも交易で知り合っているはずだからな。
国外逃亡どころか海外逃亡を図ったわけだ……。」
ダッフンバルト2世の解説に、事務長もようやく頷いた。
「はあっはあっ……3階迄上がってみましたが、どの階ももぬけの殻で金庫どころか机も残っておりません。」
「地下は2階迄あり、2階には太い鉄棒で囲まれた檻がありましたが、どちらも何もありませんでした。」
上下階へと確認に言った魔導士らが十分もしないうちに駆け戻って来た。やはり……全て引き払って他大陸へ逃げ込むつもりのようだ。
「急いで港へ向かいましょう。」
「装甲バスでは海上へは出られないので、我々の飛行船に勇者殿と賢者殿とタッタルン王は乗ってください。元々ギレージュと二人だけできたのですが、ギレージュが石炭をくべ続けるのが面倒だと申すので……エルムグリムで一人兵をお借りして石炭の投入をお願いしていました。ですから、まだ4人は乗れますよ。」
飛行船は3艇で、レルムらの船と兵士長らの船と魔族が乗った船……恐らくレルムらの船は十人ずつで満席のはずだから、俺と事務長とハーゲル暫定王とテルナティが魔族の船に乗せてもらうことになり 装甲バスの魔導士や工員らは、バンターレ本社ビルを詳細に手がかりが残っていないか確認後、タッタルン王城へ戻るよう事務長が指示を出した。
飛行船は上部の風船部分が大きいので街道には降りられない為、ダッフンバルト2世らも兵士長らも、船に兵を残して上空に停船したまま飛行術で降りてきていたので、俺たち4人はダッフンバルト2世と連れ立って上空へと向かった。
「恐らく港までの街道の半分近くは魔族の方が運んだのですよね?そこから一晩中街道を馬車で駆け続け、街道筋の途中の支社で馬を取り換えられれば……早ければ今日の昼前には出航しているはずです。日は傾き既に夕刻……今から追いつけるでしょうか……。」
ううむ……かなり遅れをとっているはずだ……飛行船は結構スピードは出せるが、それでもこの世界の中では……と言った程度であり、飛行機ではないからマッハどころか、時速百キロも出ない……せいぜい時速50キロ程度だ……それ以上スピードを出そうとすると飛行船の風船部分が持たない。
「タッタルンの大型船と言っても恐らく帆船のはずだ。今エルムグリムで造船している蒸気機関の大型船よりも速度はかなり遅い……なにせ風任せだからな……レルムに頼んで先ほど王宮と南部港に木霊魔法で連絡を入れさせた。新型船の就航前だが一応完成はしているからな……試運転がてら出航させるつもりだ。
困ったのは、船の目的地が皆目分からないことだ……2百年ほど前の最初の交易時は南の大陸を目指して交易を始めたのだが……そこを目指しているのだとあたしは考えていた。」
「ここからは私が説明いたします。
当初は我々の住むマッサーラ大陸の南方大陸しか大陸は知られておりませんでしたが、交易回数を重ねるにつれ、西にも東にも大きな大陸があることが、南の大陸の商人らの話で分かりました。
特に東の大陸は一番大きく港も多く、更に人口も人種的にも多いことが分かったのです。確か火縄銃も東の大陸との交易によりもたらされたものです。
その為……南の大陸ではなく東へ向かうのではないかと……先ほど申し上げたのですが……逆に逃亡を図っているのだから、これまで直接交易のなかった西も有りかな……?とも思えてきました。
その為、どちらへ向かったのか皆目見当がつかないのです。」
事務長に続いて、ハーゲル暫定王が行き先の推定は非常に難しいことを打ち明けた。
「取り敢えず東へ向かったなら、新型船の方が恐らく先に出ているはずだから見つけられるであろう。大砲を装備しているという事だから、見つけたら決して近づかずに、木霊魔法で連絡してくるよう指示しておいた。こんな時にも木霊魔法に特化した兵を増員していたことが役に立ったようだ。
南はこの飛行船が向かい、西へは兵士長とレルムの飛行船が向かうことになる。どちらも見つけたなら木霊魔法で一報を入れ、まずは停船させるよう飛行術で乗り込む手筈だ。
最悪船上での白兵戦となると、下手をすると船が沈んでしまう恐れがあるのでな……新造船が到着するまでは何とか持たさねばならんのが厄介だ。」
取り敢えず可能性のありそうな3方に向けて追いかける手筈のようだ。一番可能性のある東側が一般兵だけが乗船する新造船と言うのは心許ないが、エルムグリムの位置的関係からやむを得ないことだろうか……。
こちらの飛行船には魔族が5人もいるし、西へ向かう飛行船にもレルムや兵士長のほかに魔導士らが18名もいるので、恐らく大丈夫であろう。如何にバンターレ商会の暗殺軍団とはいえ、養護院グラウンドで戦死した以外の兵は、さほど多くはないと俺は思っているし、恐らく皆もそう考えていることだろう。
察するに大半は商社に属する一般社員であろう……だがそれでも……船に大砲を積んでいるのであれば、如何な新造艦とはいえ不用意には近づけない。下手をすると沈められてしまうだろうからな。だから飛行船ではるか上空から近づいて、飛行術で乗船するのが一番良いはずだ。
だが……一応3方向へ逃れた可能性がある限りは、どちらへも捜索範囲を広げる必要性があるのだ。
「では、我々は南へ進路を取りましょう。丁度真下がタッタルンの中央港ですから……ここから南西へ2度舵を切った先に、南方大陸の主要港があるはずです。私も行ったことはなく、父から聞いただけですが間違いないはずです。」
「方針も決まったところで……大変申し訳ないのですが、ハーゲル王さまとテルナティさんは……やはり下りて商社や王宮の後始末をお願いできないでしょうか?どうやら追跡にも数日は掛かりそうですから……何日間も責任者不在のままにはしておけませんよね?」
金塊を追って3方へと別れて捜索する方針が決まったところで、事務長が言いにくそうにも告げた。
「いやっ……でも……バンターレ商会も金塊も……タッタルンのことであり、私が……」
すぐさま暫定王が、大きく首を振って反論する。
「いやあ……確かに……賢者殿の仰る通りでしょうな。暫定とはいえ……最高責任者の王様不在で、何日間も国政を空にはしておけませぬぞ……何せ王宮の主幹事も政府の助役も……どちらも不在なのですからね。
私だって、この手でにっくきサーベリアンらを逮捕してやりたいが……仕方がありません。戻りましょう……バンターレ商会の本社は私が受け持ちますから……王様は王宮にて金塊が戻った際の手筈など整えておいてください。」
ところがテルナティは案外冷静で、一緒に戻ると言い出した。
「ぐうっ……ざ……残念です……勇者様……賢者殿……くれぐれもよろしく……御願い申し上げます。」
ハーゲル暫定王は歯噛みするように悔しげな表情を見せたが……最後は納得した様子だ。
すぐにダッフンバルト2世とギレージュが、二人を下の港まで運んで下りて戻って来た。
王都を後にして港まではおおよそ4時間ほどかかったが、当然ながら大陸間通商用の大型船は、港にはなかった……とっくに出向してしまっていた。ダッフンバルト2世と連れ立ってハーゲル暫定王が一旦港湾事務所へ降りて向かったのだが、バンターレ商会の大型船は5時間ほど前に出航済みで、さらに行き先は南大陸と東大陸両方に丸印がされていたので、どちらに向かったのか分からない。
さらに疑えば……西大陸の可能性だってあるのだ……なんせ逃げているのだからな、追っ手をまくために本当の行き先など告げるはずもない。
本日の港付近の風向きは西風……つまり西から東へ向かって風が吹いているので、東大陸へ向かった可能性は高い……だが……広い海……洋上で風向きが変わることはよくあるはずだし、やはり3方向捜索は必須だろう……。
「レルムさんから緊急通信ですね……ちょっと待ってください。すぐに水晶球を出しますから……。」
南向きへ進路を決めて洋上を進みだしてから半日ほど経過し、夜が明け始めたころダッフンバルト2世が右手の指先をこめかみ部分に当て、目を閉じて少しだけ瞑想状態に入った。どうやら木霊魔法の通信が入ったようだ。
《ダッフンバルト2世……レルムです。エルムグリム中央港から出向させた新型船から、緊急連絡が先ほどはいりました。港を出て沖合1里ほど洋上で停泊中に、タッタルンの外洋航路用大型船が、半里ほど先を航行して行ったのを確認したと連絡が入りました。
砲撃されると困るので警笛も鳴らさず、やり過ごしてから後を追い始めたという事ですが、大型船はこちらには気づいていない様子で、現在東大陸を目指して航行しているという事です。
我々もすぐに引き返しますが、そちらも東大陸へ向けて進路変更願います。》
「了解いたしました……連絡ありがとうございます。」
ダッフンバルト2世が中央機関室……と言っても他に前後に小さな寝るための部屋とトイレがあるだけだが……の食卓兼用のテーブルの上の小さな座布団に置いた水晶球に向けて念じると、レルムの顔が映し出されて声もきけた……はあ……これが上級木霊魔法……か……凄いな……正にテレビ電話……
「すぐに東へ向け進路変更を行いましょう。ですが……後を追ったりしたら向こうも気づかれたことを気にして……進路変更しませんかね?」
「そうだな……恐らくもう少し沖合の大陸棚を超えた辺りから東へ向けて舵を取るものと考えていたが、沖合1里半ではまだエルムグリム領海内……まあ……同盟国なので、領海侵犯と言うこともないが……余程焦って東へ進路を向けたかったのだろうな。丁度西風なのを無駄なく利用したいと……。
ふうむ……エルムグリム側に気付かれたことを認識しているか……そうして進路を変更するかどうか……だな……東の大陸へは、どれくらいの距離なのだろうか?」
向こうもエルムグリムの新型船のことには気がついているはずだ。恐らく新型船の就航試験程度に考えていることだろうが……それでもいずれ行き先が知れ渡ることは想定しているだろう。俺の問いかけに事務長が反応した……そうだな……大陸迄近いか遠いかも関係するか……
「東の大陸迄は風向きが良ければ1週間から10日ほど……悪ければ20日から25日くらいだね。ちなみに南の大陸までなら、風向きが良ければ3日ほど……悪くても7日あれば着くよ。
まあ、これも造船技術と航海技術が長年の交易を経て格段に進歩したからで、交易開始当初は南の大陸まで到達するのに早くても1ヶ月は要していたって……僕たちが交易船へ乗り込んだのは、タッタルンが単独で交易を始めた5回目の航海からだから……記録を見た記憶があるだけだけどね……」
バンドーが事務長の問いかけに答えた。成程……そういや魔族の3人は、護衛で交易船に乗っていたんだったな。
「あれ?そうだとすると……飛行船で東の大陸へ行くにも3日か4日は掛かりますよね?往復するには1週間以上……飛行船って……そんなに燃料積んでいませんよね?食料だって……。」
新たな問題浮上……急いで追ってきたのだが……重量制限がある飛行船……航続飛行距離はさほど長くはないのが弱点だよな……
「それなら問題はないはずだ……新型船も蒸気船だからな……大量に石炭積んでいるし食料だってあるから合流すれば洋上でだって補給は可能だ。」
「取り敢えず船には通常食が4人で2日分……さらに携帯食が10人で1週間分積んであります。石炭は3日分だけですが……なんだったら石炭使わずに私とギレージュが交代で炎魔法で窯の温度を上げてもいいですよ。炎魔法程度であれば持続魔法として、風魔法と兼用していても半日程度であれば継続出来ますからね。
そうすれば補給なしでも10日くらいは何とかなるのではないでしょうかね?」
俺の不安を事務長とダッフンバルト2世が吹き飛ばしてくれた……成程……
「分かりました……取り敢えず、食料も燃料も限りがあるという事だけは念頭に置いて、追跡を続けましょう。大洋のど真ん中で食料も燃料も……魔力も尽きた……なんてことになると大変ですからね。」
魔族の魔力が尽きるだなんて……初級魔法使っているだけじゃあ、まずありえないことなのかもしれないけれど……一応限界はあるのだと心の片隅にでも置いておくようくぎを刺しておく。
「ああ……そうだな……むやみやたらとどこまでも追い続ける……なんてことは避けたほうがいいかもしれんな。特に……すぐに見つからずに東の大陸の近海迄追う場合は……東の大陸の国の領海侵犯にでもなったなら、国交のないエルムグリム籍では厄介だからな。出来ればそれまでに……捕まえたいところだ。」
「そうですね……沿岸から1里半ほど沖合を航行中という事ですが、既にこの飛行船は港を出発してから百里は沖合まで出ているでしょう。ですがこのまま東進して、タッタルンの船にある程度追いついてから北へ進路を変えましょう。そのほうが向こうが気づいて南へ迂回した場合でも、回りこめます。
こちらの方が船足ははるかに速いですから、逃がさないよう包囲しながら追い詰めるのが得策です。」
心配性の俺の意見を事務長もダッフンバルト2世も汲み取ってくれた。ここで逃がしてしまっては元も子もないからな。
「さて……落ち着いたところで……バンターレ商会に捕らえられ、暗殺軍団に組み込まれていた魔族の3人からお話を伺ってもよろしいでしょうか?ちょっとバタバタしてしまい、ほとんど挨拶も出来ていませんでしたが、俺は別次元……異世界と言ったほうがいいか……から召還された多々羅文美雄と申します。
ご存知かどうか分かりませんが、先の魔王国軍のエルムグリム侵攻の際に大魔導士と間違われて召喚されました。ほんとは魔法なんて使えないただの高校生でした。」
逃亡したタッタルンの大型船が見つかり追跡の方針も決まってひとまず落ち着いたところで、今回奇跡的に再会できた魔族3人に話を伺ってみたいと思い、まずは自己紹介しておく。
すでに夜が明けて……朝食の支度に入ったから食べながらで丁度良い。
「おお……そうでした……余りにも色々なことが次々と起こり……紹介しそびれておりました。
今回新たに発見された魔族の……右からバンター、バンドレ、バンドーの3人です。
バンターレ商会で暗殺軍団の一員として組み込まれ、時には大陸間交易船の警護もさせられていた様です。
文美雄殿はただの高校生だなどと自称しておられるが、彼のおかげで百万もの小鬼軍団がほぼ壊滅させられた、異世界の戦略家であり発明家だ。魔王国が敗戦した後も、小鬼たちはじめ我々魔族に対しても様々な援助をして下さっている、最大の支援者と言える御方だ。
そうしてこちらが文美雄殿の発案を具体的に形にされた知恵者……賢者殿……通常は事務長殿とお呼びしているが……彼女も魔王国の最大級の恩人と言える。
他にも……兵士長殿やレルム殿にハルシュー殿、ハッカク殿、ターレム殿……何よりも王様……エルムグリムの皆様方には、本当に感謝してもしきれないくらいにお世話になっている。
彼らにはおいおい紹介していけるだろう。まずはご挨拶と自己紹介してくれ。」
俺の要求に答えダッフンバルト2世が簡単に彼らを紹介してくれて、さらに各自に自己紹介を委ねた。




