14.開戦
14.開戦
「いっいえ……加勢頂けることは大変心強いのですけど……俺たちがやりたくないことを、他人にやらせるわけにはまいりません。大丈夫ですよ……白兵戦でさえあれば……この……刃をたてていない剣だったら……多少怪我はするかもしれないけど殺してしまう心配はないので……何とか戦えます。
重い甲冑をつけているので長時間は無理ですが……十分程度であればなんとか……剣をぶん回して相手を蹴散らすくらいは簡単……日々の訓練を生かして……一人一殺……と言う訳でもないですが、こっちもそれなりに人数いるので目の前の相手を一人ずつ押し倒してしまえば制圧も可能でしょう。」
腰から剣を抜き、構えて見せながら空元気を見せる。
「ほう……あくまでも相手のことを案じながら戦う……素晴らしいですな……はっはっは……」
テルナティは俺の覚悟の言葉を一笑に付し、拍手して見せた……。
「頑丈そうな甲冑を装備して……こちらがやられるとは一切考えていないようですね?」
「はあ……城でも十数人の賊に不意打ちを喰らいましたが……短筒の弾程度はこの甲冑ならば余裕ではじき返しました。そうして各自剣で敵をなぎ伏せ……それで脱出できたのです。」
俺の言葉を信じようとしないテルナティに、既に城で小競り合いがあったのだと説明しておく。
「まあ……火薬が少ない短筒程度の弾ならば……平気かもしれないのですが……屋内決戦ではないのですからね。火縄銃でも長筒になると火薬の量も倍以上で、弾も球体ではなく先端を尖らせて威力を増しているものもあります。さらに大筒迄敵は持っているのでしょう?
こちらも飛び道具を使って敵兵力を削いでいかなければ……向こうは余裕で突っ込んで来ますからね。至近距離で長筒に撃たれたなら……敵に近づく間もなく急所に的確に当てられますよ!
飛び道具はないのですか?あっても……飛び道具だと当たり所が悪いと敵を殺してしまうかも知れないから……なんとか手足だけに当てて動きだけ止めたいけど、それは難しいから……使えませんか?
だったら……絶対に勝てませんよ!どうします?」
「むっ……むう……」
テルナティに正論を突きつけられ、黙り込む……正にぐうの音も出ないとはこのことだろう。
「まあ……何人か仲間が目の前で無残に撃ち殺されて行ったなら……怒り狂って遮二無二撃ちまくって形勢逆転……なんてことも起こりうるのでしょうかな?出来れば犠牲者を出す前に……圧倒的武力でなぎ伏せて頂きたいものですね。こちらには……か弱い女性や子供たちも多いのですからね……。」
テルナティはさらに言葉をつなぐ……ううむ……ごもっとも……
「社長!見かけない黒づくめの連中が、スラム街近辺を漁って朝から何か探し回っている様子です。時機、こちらにまで到達しそうな勢いですが……如何します?追い払ってやりますか?」
テルナティの執拗な問いかけに言葉を詰まらせていると……助け舟?いや……悪報が届いた。
「駄目だ……敵は訓練された暗殺軍団だそうだ。戦わずに……様子だけ伺っておけ。もうすぐここへ来るのだな?」
「はっ……あと……小一時間……と言ったところです。」
「ご苦労!絶対に手を出すなと伝えてくれ。」
「へいっ」
伝言を持ってきたつかいのものが、駆け足で講堂を出て行った……ひえーっ……待ったなしの状況だ。
「如何いたします?今のうちに逃げ出しますか?でも……施設前の空き地には、あの不思議な馬車の車輪の跡が残っております。教会も養護院もあなたたちを匿ったという事で……奴らの攻撃の対象となりかねませんね……これは困ったことになった……。」
テルナティが腕組みし、目を閉じて考え込み始めた……
「分かりました。仰って頂いたこと……肝に銘じて、こちらも本気で戦いたいと考えます。
装甲バスと教会と養護院……3班に分けて防御主体で取り組むが……守りを固めるだけでは突っ込んでこられてしまうから、やはり攻撃は重要だ。
遠距離戦ではボウガンを……近距離ではパチンコを使うが……パチンコは鉄鋼弾の使用を許可する。どちらも本気で撃つように。敵のことを気遣うな……本気でやらねば此方の犠牲が出るつもりでかかるのだ。槍も薙刀も、訓練用の竹刀や木刀ではなしに、刃がついたものを使用するように。
戦闘態勢は対魔法・対物理戦用……装甲バスには魔法結界をかけ、教会と養護院には物理結界をかける。
各要員は……装甲バス各20は結界用僧兵10にボウガン兵10ずつ、教会20,養護院20は結界用僧兵10に槍または薙刀兵10ずつとする……よいな?」
『はっ……至急班組みを行い、配置につきます。』
事務長がテルナティの問いかけに答え、更に4名の魔導士と3名の工房班長が前に出て来た。
「文美雄はあたしとともに装甲バスの1号車に乗り込むぞ。ボウガンも使用しなければならんし、最悪の場合は白兵戦で槍や薙刀使用もありうる。かなり厳しい戦いになりそうだが、きれいごとばかりは言っていられない。本気で戦うのだぞ!」
事務長がいつになく厳しいまなざしで、俺の目を見て声をかけて来た。ううむ……不本意ながら……これから人と人との殺し合いが始まるのだ……相手を気遣って遠慮なんかしていたならこっちが危ない程の真剣の殺し合い……考えてみたら向こうは捕まったなら財産全て没収だ……。
さらに余罪が出てくる可能性大の様子だしな……エルムグリムの旧議会議長ら以上にあくどいことやって来た可能性大……そうでもしなければ、財なんてなせないのだろうかな……。
「教会や養護院の裏側は……王都との境目の高い石を積んだ頑丈な壁……元々スラム街とは、王都で出た残飯やごみを塀越しで捨てていたのを目当てに、食い詰めた浮浪者らが集まってきて、いつの間にかバラックのような簡易宿を建てて出来た集合体で、王都からかなり大回りして来たはずですが、このすぐ裏は王都。
初期の頃は残飯だしのための扉が壁のあちこちにあったと聞くが、今は完全に向こう側から埋められてしまい、その扉は使えないようですが……流石に王都の壁を破壊できないでしょうから、恐らく大砲とやらは使用しないでしょう。攻城戦用の兵器と聞いたことがありますからね……。
我ら側に有利な点はその一点のみ……高い壁が逃げ道塞いでおりますからね……逃げ場はありませんよ。」
ハーゲル暫定王とともに装甲バス1号車に乗り込んで来たテルナティが、現況を詳細に分析してくれる。どうにも……俺が人間相手では戦いにくいと愚痴混じりに言ったことで……随分悲観気味の様子だ。
そりゃそうだろ……人間相手では相手を傷つけることは無理なので……戦えませんって……どの立場で言ってるの?って……突っ込みたくもなるわな……。
「だだっ……大丈夫ですよ……もう覚悟は決めました。こちらが本気で戦わないことが分かれば、向こうは平気で突っ込んでくることになります。そうなったらこっちは総崩れで……教会の方たちや養護院の子供らにも被害が及ぶ危険性が大です。そうならないように……本気で戦いますよ!」
もう覚悟は決まったのだ……本気で戦う決意表明をしておく。
「ほお……そりゃあ頼もしいですが……本当に人間相手に対峙して……急所を狙って撃てますか?ちょっとでも躊躇ったら、向こうの火縄銃の弾の方が先に心臓に命中しますよ!
そもそもそんな重い甲冑装備していて……本気で斬り合い出来るとお考えでしょうか?私なんて……目の細かい鎖帷子……だけですよ!遠距離から放たれた火縄銃の弾だったら……何とか耐えるでしょうが、近距離だったら突き抜けて死んでしまうでしょうね……ですが致し方がない……。」
それでもテルナティはこちらの本気度を、余り信じてはくれていない様子だ。自分のシャツの胸をはだけて中を見せてくれる……確かに薄手の鎖帷子だけ……こっちは2.3mmステンレス製甲冑……。
いつの間にか手には俺の持つ剣の数倍は幅がありそうな……いわゆる蛮刀を持っている。
言われてみれば……王城での戦闘は、こっちが眠り薬で寝ていることを見越して少数でやって来たのだから……1対1で相手を組み伏せればよかったわけだ。短時間の戦闘だったら重い甲冑の方が案外有利だからな……なんせ防御なんて関係なしに突っ込んでいけた。
「分かりました……俺は鎖帷子と道着に着替えます。事務長はじめ……女性陣と結界要員である僧兵は、今の甲冑のままでいいと思いますが、槍兵である魔法兵は簡易甲冑か鎖帷子に着替えたほうが戦いやすいでしょう。どうせ負けて捕まれば殺されるでしょうから……覚悟して戦いやすい格好で行きましょう。」
俺は訓練用に鎖帷子も持っているので、装着して道着を着ればそれで戦える。それでも……流石に女性陣は身を守って欲しい……。
「黒い軍団……空き地の向こう側に現れました。盾を装備していて……盾で陣を敷くようです。」
何とか着替え終わった頃、装甲バスのスリット窓から外の様子を伺っていた女工が、敵の到着を告げる。
すぐに俺も窓際の席へと移りスリット窓から様子を伺うと……既に真っ黒い壁が空き地の向こう側に出来ていた。人が丸々隠れるくらい大きな真っ黒の盾……それを連ねて陣地としている様子だ。確かに……戦闘訓練されている兵士とみられる……なんか戦国時代の戦いみたいだな……。
「魔法結界を張れ!」
「既に詠唱は始まっております。」
事務長が僧兵らに指示を出したが、詠唱は既に始まっている様子だ。
「そう言えば……装甲バスが魔法結界で、教会と養護院が物理結界を張ると言っていましたよね?以前俺が聞いたところでは……魔法結界と物理結界は干渉しあうので同時には使えないと聞いたのですが……。」
さっきも何となく違和感があったのだが、今のうちに聞いておく。
「ああ……同じ空間に魔法結界と物理結界を張ることは叶わない、干渉しあって打ち消し合うからな。
だが……戦闘技術向上に伴い……特に以前までと異なり今は魔法戦だけではなく、弓矢などの物理攻撃にも注意しなければならなくなったからな……そこで結界をどれほど引き離せば干渉を免れるか研究が始まったのだ。それで行くと……十m離れれば干渉しないことが分かった。
つまり十m以上離れた装甲バスに魔法結界を施して、奥にある教会と養護院に物理結界を施せば……装甲バスには高さ数十m程の壁状の魔法結界で、教会と養護院にはドーム状の物理結界を張る……どちらの攻撃をも防げるというわけだ……まあ……装甲バスはその装甲で物理攻撃に耐えることになるのだがな。」
事務長が分かりやすく説明してくれた……そうか……俺がこの世界へ来てから魔法主体の戦闘が大きく変わったのだったな……だから……今では物理結界も必要となったわけだ。
ドンッドンッと……ハンマーで壁を叩くような打撃音が、鳴り響き始めた。見ると遥か敵陣にいくつもの細い紫煙が立ち昇るのが見えるので、火縄銃による発砲……装甲に当たって弾かれているのであろうと理解できる。魔法結界は物理攻撃には何ら影響しないようだが、装甲の厚いバスではこれくらい何でもない。
「こちらもボウガンで応戦しましょうか?」
目線の高さのスリット式小窓の下には、ボウガンの矢を通すための穴が開いているので、装甲バス側面からでも反撃は可能なのだ。
「いや……敵は長さ1.5mはある大きな盾を何枚も並べて防御策としているから無駄だ……向こうからの攻撃が通らんと同じように、こちらからの攻撃も通らんだろう。恐らく向こうも魔法結界を張っているのではないだろうかな……弓矢などの物理攻撃用にあの盾があるのだろうな……。」
事務長は攻撃は無駄だとし、大きく首を左右に振った。だけど……
「ボウガンの矢だとまっすぐ飛ぶだけだから無駄だろうけど……矢じりの付いた弓矢の矢であれば、放物線状に攻撃できるはずですよ。戦国時代の映画なんかで見たことがあります……弓矢を高く撃ちあげて何百本もの矢が塀を超えて上から降ってくるなんて状況をね……。
反撃しないと敵は悠々と近づいてくるでしょうから……恐らくその為の機動性がある盾の布陣でしょうね……当たりそうもなくても反撃したほうがいいし、恐らくうまくいきますよ……。
装甲バスの天板を外してもいいけど狭いから……バスの後方から撃ちあげればいいのではないですかね……バスの中から着弾地点を見ていてもらって調整すれば……うまくすれば火矢なんていいかもですよ……。
火縄銃や大砲があるのであれば……火薬を持ってきているはずだからうまくそれらに引火すれば……。」
合理主義者の事務長は無駄な攻撃は否定気味だが、何もしなければ手がないと見て、かさにかかってきそうだから何かしたほうがいいと俺は思う。俺の意見は希望的見地の面が強いのだろうが、それでもうまくいけば……大儲けくらいに考えてやってみてもいいのではないかと思う。
「分かった……工房の女性工員はボウガンの経験しかないが、魔法結界要員の魔導士らは弓矢の訓練を受けているはずだな?詠唱しながら矢を放てるか?」
「それは問題がありませんが……やはり二つのことを一度に行うので、狙いに関しては……。」
「どうせ盾の壁の向こうは見えないから狙いはどうでもいいですよ……撃ちだす角度さえ気を付けて撃てば……じゃあ行きましょう。」
装甲バスの後部座席の下から弓矢を取り出し、魔導士らとともに下車して装甲バスの後方に一列に並ぶ。こちらの様子を見て、2号車からも魔導士らが弓矢を手に降りて来たようだ。
すぐに2号車よりの魔導士が、小声で作戦を伝達し始めた。
「距離にして恐らく百m程でしょう。まずは50度くらいの角度で撃ってみます。」
まずは試しに50度で前方上方目がけて矢を放つ……これ以上小さな角度で放つには、もう少しバスから距離を取らねばならないが……余り離れると結界効果が薄れるので、詠唱者を連れているだけに面倒だ。
「敵の遥か……恐らく数十m以上後方に着弾の模様!」
すぐにバスのドア越しに、着弾点の様子が伝えられた。
「良かった……じゃあもっと角度をつけて60度で放ってみましょう。」
今度はさらに上目がけて矢を放つ……
「着弾点良好!敵の盾の少し向こう側に着弾!」
バスのドアの向こうから、早速朗報が届けられた……
「じゃあ……60度を越えるくらいの角度で……どんどん撃っていきましょう!」
そこからはもう……ありったけ急ぎで矢を中空目がけて撃ち放つ……撃った先もバスの影で見えないので、逆に気にせずにどんどん撃ち続けられた。60度の角度……等と言っても所詮人間なので、多少ずれるはずだが逆にそのほうが、まんべんなく一定範囲に矢が降り注がれるので効果てき面だ。
火縄銃の長筒は当たれば威力はすごいのだろうが……向こうは直線的にしか飛んでいけないので、このような盾やバスによる攻城戦模様は矢の方に軍配が上がりそうだ。
なにより……敵が矢に撃たれる場面を見ないで済むのは……やっぱりありがたい……。
「射撃中止!上方からの攻撃に備えて敵が盾を頭の上に構えたら、すぐさまバス内からボウガンで狙い撃ちしたが、すぐにまとまって中央部に前方と上方……両方を盾で取り囲んで陣を構えた。
このまま横長に攻撃しては矢の無駄だ……1号車後部窓3つ目から2号車前部窓2つ目迄……その範囲に攻撃を絞るように……。」
暫くして敵が盾の陣のフォーメーションを変更した旨、事務長が大声でドア越しに伝えて来た。
「じゃあ今度は火矢攻撃をしますか?固まったのなら効果大ですよね?」
「ああ……そうだな……やってみてくれ。」
「では次は……この……油に浸した布を矢先につけて……撃つ直前に補助者が火をつけてください。」
次は火矢攻撃だ……2人一組となって打ち手が減ってしまうが、向こうも陣を狭めたようなので好都合。
油壷に浸しておいた布を矢先に巻いて……
「じゃあ火をお願いします。」
「ほいっ」
狙いを中空に向け撃つ直前……火種から布に火がついた瞬間矢を放つ……
「よし、いいそ……次々撃っていってくれ」
放った効果はこちらでは見えないので、ドア越しの声の様子で張り切り方が変わる……全員が見えない標的目がけて、ひたすら中空に火矢を放っていった。




