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11.脱出

11.脱出


「よしっ……では行くぞ……ハーゲル王は甲冑をつけていないので、周囲を隙間なく固めながら進んでいくように。魔法結界の持続も忘れるな……灼熱の火炎魔法を食らわせられたなら、如何なステンレス製甲冑でも中の人間が持たないからな。前衛と後衛は剣を持った魔法兵が……中軸は僧兵と工員で行くぞ。」


 以前は鎖帷子が実戦装備であった僧兵も、戦闘には参加できなかった工房の女性たちも今ではステンレスの甲冑を装備した兵士なのだ……屋内装備なので女性たちに薙刀がないことだけは残念だが……。


 事務長の指示の元……ハーゲル暫定王を包み隠すかのように一団となって城の長い廊下を進み、階段を下りてエントランスへ向かっていく。



「サーベリアンらが反乱を起こした……私兵を用いて私やエルムグリムからの客人を襲ってきたのだ。客人らに宿泊いただいた2階の食堂内に賊が倒れている。すぐに捕らえて牢獄に入れておけ!そうしてサーベリアンもバンターレ商会も決して城に入れるな……魔法障壁を張り警備の兵を増やして守るのだ。


 私は客人とともに一旦エルムグリムへ引いてから、体制を整えて必ず戻ってくる。良いか……決してサーベリアンらの手に堕ちることのないようにな……頼むぞ!」


「ええっ?サーベリアン主幹事殿が反乱?そう言えばお一人で2階へ上がって行ったあと……なんだか慌てた様子で走って戻ってきて城の外へと出ていかれましたが……あれは王様たちを襲っていたのでしょうか?とても信じられません!如何いたしましょう?」


 エントランス脇の兵士詰め所のドアを開け、ハーゲル暫定王が大声で叫びながら指示を出すと、詰所内にどよめきが走ったようだ……そうして数名の兵士らが俺たちが来た方へ急ぎ駆け出していく……そりゃあそうだ……ナンバーツーの反乱……。


「取り敢えず守りが必須だからな……城壁に沿って物理結界を張り巡らせ、城自体は魔法結界で守っていてくれ。恐らくそれほど長い時は必要としないはずだ……こちらには勇者様と賢者殿がいるからな。

 数日か……一週間程度かかるかもしれんが、必ず戻ってくるから、それまで何とか耐えていてくれ。」


「はっ……かしこまりました。」


 詰所の一番奥にいた兵が席から立ち上がり、敬礼しながら応じたようだ……へえ……専守防衛だな……詰所内には20名ほどしか兵はいない様子だが、城内には要所ごとに兵が配備されているはずだ。すぐに伝令が行って手配することだろう。


「障壁で守り固めておけば……城から何もできませんが、城へ攻撃することも出来なくなります。取り敢えず凌いでもらい……その間に体制を整えましょう……お願いいたします。」

 ハーゲル暫定王が深々と頭を下げた。


「大丈夫です……何とかなりますよ……一介のたかが商社の……反乱など……じゃあ行きましょう。」


 事務長が笑顔を見せハーゲル王を励ます。そうだ……たかが私兵……何とかなるさ……またまたハーゲル暫定王を取り囲む布陣で、ゆっくりと城の前庭を進み装甲バスへ向かう……



「遅かったですね……窓は前面後面含めて、全て取り換え終わりました。」


 装甲バスへ乗り込むと、先だって来ていた魔導士らが待ちくたびれた様子で席についていた。言っている通りに窓ガラスは全て鋼板に取り換えられているようだ……はあ……なんだか懐かしい……。


「ああ……夕食には眠り薬が仕込まれていた様子だし、食堂にいる所を黒づくめの集団に襲われた……しかも彼らは他の大陸伝来の短筒を手にしていた……装甲を厚くした甲冑を身につけていたから事なきを得たが……恐らくもっと強力な武器も持っているはずだ。気をつけろ!手ごわいぞ。」


 事務長が襲撃を受けたことを打ち明け、注意を促す。


「はっ……よもや城の中で襲われるとは……想定外でしたね……エルムグリムでは……考えられませんね。」

 事務長の言葉を聞き、魔導士らも驚いた様子を隠せない。


「賊の親玉は城のナンバー2である主幹事だからな……何でもできたであろう……なんだったら城の警護兵を使うことも出来たであろうが……恐らく内々に済ませたかったのだろうな。


 暫定とはいえ王様と、タッタルン立て直しの為に招いた客人だからな……城の兵士を使ったら正当性の説明に危惧すると案じ、私兵の暗殺軍団とやらであれば秘密裏に始末可能と踏んだのだろう。


 想定通りにあたしらが襲われたというのに城の警護兵らは全く気が付いていなかった……あたしらを倒して死体も持ち去って……天候が悪化したときに海に捨て、海難事故に遭ったと言い訳するつもりだったのではないかな……黒づくめ軍団は城の警備兵に気付かれずに平然と出入りできるという事だ。


 タッタルン王が恐れていたというハーゲル王の想定は……あながち間違っていないのだろうな。城の中まで簡単に軍団が入りこめ、しかも手には最新鋭の武器……家族の身の安全を考えたら逆らう訳にもいかなかっただろう。だから……サーベリアンに全ての罪をなすりつけられても、何も言わずに甘んじたのかもしれない。


 ふうむ……本当の黒幕が……分かって来た様子だな……。」


 ううむ……何百年間にもわたる魔王国からエルムグリムへの侵攻は、全ては歴代タッタルン国王のエルムグリム統一という野望から来ていた……と露見したと思っていたのだが……実は黒幕がいたのかもしれない。少なくとも前タッタルン王は弱みを握られ……操られていた可能性が高いわけだ……。


「まずは……サーベリアンが新たな手勢を連れて戻ってくる前に、エルムグリムに向けて逃げるとしよう。大筒と言う新兵器もあるという事だからな……今の手勢と武器だけでは戦えん……まずは伝令バトに状況を記して、送っておく……すぐに出発する準備をしてくれ。」


 事務長は話ながらもずっと手を止めず何やらしたため、書簡を伝令バトに掴ませると装甲バスの乗り口から空へと放った。


「じゃあ……出発します。」


 ドライバー役の魔導士が出発の号令をかけ……ゆっくりと装甲バスが発車した。現有兵力は全員で80名ほど……装甲バスは2台で、旗艦ともいえるこのバスには兵士に匹敵する工房の女性らが詰めていて、もう一台の40名は消毒と開腹術を指導するための医療系……こちらは回復系の僧兵主体だが結界張れるし、女性の助産師だって魔王国軍とも戦った元兵士を選抜してきた。80名全員が戦える……筈だ。


 だが……ここは向こうのフィールド……このまま戦うには情報が少なすぎる……敵兵力が全く不明なのだからな……一旦エルムグリムに逃げ帰って、一個大隊ででも連れて一掃しに来た方がいい。

 今ならそこそこ戦える兵士が育ってきているからな……。



「道を封鎖されています……どうしますか?」

 城を出て十数分走ったところで装甲バスは急停車し、ドライバーの魔導士が叫んだ。


 急いで席を立ち前方の網窓から覗くと……数百mほど先、確かに広い街道を塞ぐかのように中央に馬車が横向きに停められ、行く手を阻んでいる様子だ。街道の両端には何十台もの荷馬車が停車しているのも見える……大群できたな……いくら今は車通りがほとんどないからと言って、やることが無茶苦茶だ……。


「どうやらすんなり帰してはもらえない様子だな……確かに……あたしらに逃げ帰られては、自分らの身が危ういからな……どうやらなりふり構わず、あたしらを捕まえるつもりの様子だ。

 構わんから最高速度で突っ込んでいけ……強行突破だ!」


「了解しました……。」

 すぐにエンジン役の魔導士が叫び、装甲車は勢いよく発進……追随して後方の2台めも加速を始めた。



「全員衝撃に備えてください!」


 すぐにドライバー役の魔導士が叫び、皆座席に座ったまま頭に手を乗せ膝におでこがつくほど腰を折り、安全姿勢をとる……各シートは分厚い底板にしっかり固定されているし、シートベルトもついているから装甲バスが分解でもしない限りは安全なはずだ。


 強い衝撃とともに体が前面に持って行かれそうになるが、シートベルトの効果で何とか留まる。鈍い衝突音と同時に金属の擦れる甲高い音も響き渡り、横付けしていた馬車と衝突したことが誰にでもわかった。


 一瞬停車した装甲バスだったが、すぐさま体が後方へ押し付けられ、加速して前進を始めたことがわかる。数秒待って小さな段差を超える程度の衝撃しか感じられなくなったので、体を起こしてみる……皆もほぼ同時に体を起こし始めた様子で、振り返るとほぼ全員怪我もなく無事な様子だ。


 何とか無事に封鎖を突破できたのは有り難い……


「2号車もついてきている様子ですが……さらにその後方に何十台もの馬車がついてきている様子です。こちらも全速力ですが……道が空いていることもあり馬車もかなりスピードが出せる様子で、引き離せません。」

 すぐさま最後尾の女工がシートベルトを外し、後方の網窓から後ろの様子を伺い報告してきた。


「広い街道だ……追い越されて回り込まれると厄介だから、2号車と並行して走行することにしよう……当分直線道路だし、行き先は分かっているはずだから問題ないだろう……。


 それから……座席下から武具を取り出せ……こちらからも反撃開始だ。ボウガンも使うぞ。」


 事務長が片側2車線の街道を、装甲バス2台並行して走るよう指示を出し、更に武器を取り出すよう命じた。


 今回の訪問目的はタッタルンへの技術支援が目的だったので、正装目的でステンレス甲冑は装備しているものの、武器は腰の模造刀のみで実質武装はしていなかった。


 各自の武器は全て装甲バスの座席下に保管しておいたのだ。女性工員らの薙刀や男性兵士の槍は、最後尾の座席下に保管してある。指示に従い各自武器を取り出す……俺も座席下に置いてあったパチンコと弾及びボウガンを取り出し、パチンコは甲冑の腰につけたベルトに結んだ。


 ボウガンは極秘の武器だが、装甲バスから使用すれば相手にはどのような仕組みか分からないはずであるし、どうしてもやむを得ない場合は敵の目の前でも使用はやむなし……と言ったところだ。

 まあ……敵はもっと近代的な火縄銃を装備しているのだからな……今更……



 ガンガンと後方窓辺りで金属の打撃音が続いているのは、追ってきた馬車から火縄銃を連射しているのであろう……一度に使えるのは1,2丁だろうが、次々と弾込めして銃を交換しながら撃ってきている様子だ。


 だが……装甲バスの網窓に使用している鋼板も分厚い……こちらも終戦後に車体自体の鋼板含めて、厚く変更したのだ……勿論……敵からの投石などでもへこまないように……戦車とは言わないが装甲車並。


 網目自体は鋼板に直径5?程の穴を等間隔で開けて有り、もしかすると火縄銃の弾なら通るかもしれないのだが……流石にこの穴目がけて一直線で飛んでくることはないだろう。


 この穴はボウガンの矢を放つ目的もあるので、これ以上小さくはできない。


「距離を走れば馬はバテルと思っていたのですが、入れ替わり立ち代わり馬車が変わっていくようで、何時まで経っても振り切れません。速度をもう少しあげられませんか?」

 後方の網目窓から様子を伺っている女工が、振り返って前方に向けて叫ぶ。


「エルムグリム迄長丁場なので……これ以上スピードは出せません!」

 しかしエンジン役の魔導士が泣きを入れた、無理もない……まだ半日以上は走らなければならないのだからな。ずっと全速力だなんて……死んでしまう。


「ううむ……向こうは馬車だから、全速力で走ればついては来られないと踏んでいたのだがな……バンターレ商会とは商社と言っていたからな……商品の買い付けや配送などで大量の馬車を保有しているのかもしれんな。


 しかも街道筋にいくつも支社があるとするならば、順に馬車を出していけば夫々は短い距離を走るだけで済むはずだ……だったら全力で駆けさせることも可能だろう。


 ううむ……このままではじり貧だな……仕方がない……ボウガンを使うぞ。」


「ええっ?人を……人間を撃つのですか?死んじゃったらどうします?」


 事務長がボウガンを使うと言い出すので、人を撃って死んだらどうすると問いかける。パチンコならな……気絶するか少し痛い思いさせるくらいで済むだろうが、ボウガンの矢では当たり所が悪ければ死んでしまう。


 俺は嫌だ……魔王国との戦いでも俺は小鬼に直接ボウガンの矢を当てることは躊躇っていた。だが……メリアンちゃんが犠牲になった後は憎しみさえ湧いてきて、小鬼らの胸目がけて矢を放っていくように変わった。


 だが……あくまでも外観が全く異なる異種族の話……今では小鬼たちとだって仲良くしているので絶対に撃てない。


「仕方がないだろう……向こうはこっちが何十人も乗り込んでいることを承知の上で、火縄銃とやらで何発も撃ってきているぞ。無事でいるのはただ単に、こちらが分厚いステンレスの甲冑を装備して、更に分厚い鋼板の装甲バスに乗っているからに過ぎない。そのことすら向こうは知らないのに、平気で撃ってきている。


 このままではエルムグリムへ戻ることも出来ず、国境手前で捕まってしまうぞ。


 だがまあ……確かに魔王国軍の小鬼と違い……人間を撃ち殺すのには抵抗があるな……我々の仮想敵国はあくまでも魔王国で、兵士と言えども小鬼や魔族を倒す訓練しか積んではいないからな。さらにエルムグリムは戦前は貧しく助け合って生き延びてきて、戦後は国全体が潤って全員の暮らしが豊かになったこともあり貧富の差がほとんどなく、強盗などの凶悪事件もないから警察だって人間を逮捕・捕縛したこと等ない筈だ。


 今後は国軍兵士の訓練に対人戦法を含める必要性があるだろう。


 まあいい……今回は仕方がない……馬を……かわいそうだが馬を狙え!殺す必要性はないのだが……足を狙って走れなくなれば……馬肉として殺される運命……どこを狙っても大差はないはずだ。」


「わ……分かりました……じゃあ俺がやってみます……。」


 こんな嫌なこと……人に頼むのも何なので……俺が後席へと移り後部窓の穴から追ってくる馬車の馬目がけてボウガンで矢を放つ……命中!すぐさま矢をセットしてからまた狙いを定めて発射……4頭建ての荷馬車は、前方の一頭だけは耐えたが、2頭も撃たれてぐったりすると急ブレーキがかかり、勢いのまま客車部分が持ち上がって宙に浮き、そのまま回転するかのように横転して弾けた……同時に後続の荷馬車も巻き込まれて横転……。


 俺はもう一度弦を引き矢を補填すると、しぶとく追ってくる1台の先頭の馬に照準を合わせて引き金を引いた……今度は馬の丁度胸元に命中し、馬はすぐに意識を失ったのか横倒しとなり荷馬車ごとひっくり返った……そうしてはるか後方までの見通しが良くなった……。


「やりました……追手は全て退けられた様子です。」

 一緒に後方窓を伺っていた女工が叫んだ……ううむ……馬さん……ごめんなさい……。


「ようし……だがどうするかな……街道筋にバンターレ商会の支社があるとするならば……このまま街道を進めば、また追手がかかってしまうな……これでは堂々巡りだ……馬を何十頭も犠牲にはしたくないしな……何処かに身を隠してやり過ごしてみるか……何日間も街道を見張ることはできないだろうからな。」


「そうですね……恐らく今なら国境にはすでに手が回っていて、通関しようとしても邪魔が入りかねません。国境で銃撃戦にでもなったら、一般人の犠牲者も出るかもしれませんしね……何処かに隠れて……旨いことエルムグリムへ連絡を取れたなら、援軍の派遣を頼めますから……そこで反撃に出られますよね。


 何処か建物に囲まれた、広めの空き地……ないですかね……探してみましょうか?」


 馬でも人でも犠牲者を増やしたくはない……数台の馬車が横転して……怪我人だってそこそこ出ているはずだからな。国境まではまだまだ遠いし、それまでは隠れる所もない広い街道一本道だ。


 何処かで身を潜め追手をやり過ごし、応援を待っていたほうが得策かもしれない。


「だったら絶好の隠れ場所がありますよ……丁度王都の端へ差し掛かったところだし都合がいい。

 次の曲がり角を左に曲がってください……。」


 土地勘のないもの同士……街道筋から周囲を見回して隠れ場所を探していたら、ハーゲル暫定王が口を開いた。そういや……地元なんだからな……。


「よしっ……2号車を追い越して前に出るんだ。ハーゲル王に道案内をお願いし、先導することにしよう。」

 すぐさま事務長が飛びついた。


「了解しました。」

 エンジン担当の魔導士が連続打撃のストロークを早め、装甲バスを加速させ、ドライバー役が注意深く左方向へとカーブを切る……2号車もようやく気付いて、後を追ってきている様子だ。



「なるべくわかりにくい様に、ジグザグに回り道しながら行きましょう……次を右に曲がってください。」

 後で通行人に装甲バスの行き先を聞き回られることを危惧してか、ハーゲル暫定王はやたらと右に左にと……ぐるぐる回りながら進むよう道案内をしていく。確かにな……馬のいない黒塗り馬車……目立つからな。

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