10.襲撃
10.襲撃
「かやく……火薬とは……その……花火とかクラッカーの原料で……花火とはこう……ピューッと上がってバーンッて開き……夜空に眩いばかりの大輪の光の花を描く……光って言っても火薬が燃えた火の玉が散って、そう見えるようですけどね……クラッカーと言うのは、音が出るだけのグッズで……。」
ううむ……花火とかクラッカーって……説明がこんなに難しいとはなあ……こっちの世界には存在しないものだから翻訳魔法使えないしなあ……。
「ほう……その花火……と言うものは、何か節目の行事などの際に使われるものなのか?」
「そうですね……新年……この世界ではそんなんでもないですけど、俺がいた前の世界では年が変わるというのは結構なイベントでして……十年ごとの節目の年には結構大きな花火が何本も打ち上ったり、それでなくても夏祭りなんて毎年大きな花火大会がありました。
何十万人もが見に来る一大イベント……だったようですね……俺は参加したことは一度もなかったけど。
まあでも……火薬なんだからもしかすると鉄砲とか大砲とか……そんなもんに使われていますかね?拳銃から火薬の匂いがプンプンするとは思えないけど……もしかして……タッタルンって、どこかの敵国に攻め込まれていますか?」
ううむ……火薬なんだから鉄砲とかの可能性だってある訳だ……考えてみれば……平和的利用ばかりではないのだからな……
「鉄砲?大砲?けんじゅ?とはなんだ?」
またまた事務長が首をかしげる……
「だから鉄砲とは……じゅ……銃……のことですよ……こう……パンパンって……引き金引くと弾が飛び出して人を傷つける……パチンコの玉よりもはるかに高速に鉛の玉を打ち出して、簡単に人の命を奪ってしまう怖い武器です。
大砲は……その筒も玉も大きくしたもので……そう……俺が提案した投石器ありますよね?人が重しとなって乗らずに火薬の爆発的な力で鉄の玉を勢いよく飛ばすのです。いわば……戦争の兵器ですよね。」
取り敢えず鉄砲と大砲の説明をしておく……俺のつたない説明でどこまで伝わるものか……
「銃とは……火縄銃のことでしょうかな?他の大陸から伝来の……鉄の玉を発射する武器……元は輸入するのみで目が飛び出るほど高価なものしたが、最近では国内でも製造が開始され……確かバンターレ商会が製造権を一手に受けて製造しているようですな。勿論大筒も……あると聞いております。
エルムグリムからもたらされたパチンコと言う武器よりも遥かに強力と……評判ですが、一発撃ってしまうと筒の清掃と火薬を込め、更に弾を込め……と、手順に時間がかかり……連射が利かないことが欠陥と指摘され改善中……。
まずいですぞ……そう言えばあくまでも噂の段階ではありますが……バンターレ商会には私兵がいて、それが暗殺軍団と言われるほど狂暴で手荒いものたちのようなのです。もしかすると……昼間のことを逆恨みして……皆さんを捕らえようと画策しているのかも知れませんね。
先程は私の命により兵を押さえることはできましたが……サーベリアンは何と言ってもこの城の主幹事も兼任しておりますから、護衛兵の配備を操作するくらいお手の物のはずです。」
火縄銃のことでハーゲル暫定王が、話に加わって来た。なんと……銃が……この世界にも存在するのか?しかも……国賓である俺たちを捕まえようとしているかもって?無茶苦茶だ……
「おーいっ……待て……食事には手を付けるな!タッタルンは怪しげだから……あらかじめ魔導士に強力な解毒魔法を唱えさせてはいるが……睡眠導入薬などの場合は毒の部類に入らぬから、解毒魔法がきかない可能性がある。残念だが本日の食事はあきらめろ。
それから……外食も禁じる。全員慌てず静かに自室に戻り荷物をまとめ、甲冑装備の上で再度食堂へ集合だ。もしかすると既に囲まれているかもしれんが……向こうだって食事を終えて眠らせてから……と考えているかもしれん。食事の準備をしていることからも……十分隙はあるはずだ。
いいか……廊下で兵士に出会っても、慌てず騒がす平然と振舞うのだぞ……そうして荷物は纏めるだけで持ち出さず……持ち物は最小限度にしてここへ戻ってくるのだ。外出予定だった魔導士は外出のための正装として甲冑を着込んでいるから都合がいい……すぐに装甲バスに向かって、窓を戦闘用に切り替えておいてくれ。
今日は全員で外食だとでも言っておけば、怪しまれずに装甲バスまで行けるだろう。
いいか……落ち着いて行動するのだぞ……。」
『はいっ!』
全員が気合入りまくりの形相で、緊張気味に返事をした。最早終戦から5年以上も経過しているのだからな……久々の命のやり取りの緊張感に、額が汗ばんできた……。
装甲バスは今は窓は全て大きなガラス窓だが、元々軍事用を改造したものなので、はめ込み窓を取り外して鋼板のスリット覗き窓付きに取り替えれば、すぐに戦闘モードに変わるのだ。
「そ……それはそうと……火縄銃なるものがタッタルンには既に存在していて……その上で、エルムグリムに対して魔王国に対して勝利した際の武器を教えるよう、要求してきたのですか?自分たちが所有している、火縄銃のことは極秘のままで……?」
銃があるのにエルムグリムのボウガン(実際にはボウガンは渡さずにパチンコに切り替えたのだが……)や投石器を欲しがったというのか?銃の存在は隠したままで?卑劣すぎる!
「い……いやあ……当時は魔王国の軍事力が強大であり、主要戦力はやはり魔法でした。その為バンターレ商会が他の大陸伝来の火縄銃を軍備に取り入れるよう、前タッタルン王へ要望していたのはすべて無視していたようです。
ところが魔王国があっさり破れ、戦勝の要因となった武器としてエルムグリムからはパチンコや投石器などが送られてきました。サーベリアンは勝ち誇ったかのように、かねてより火縄銃や大筒の導入を促していたのに取り上げなかったとして、国王を責め立てたわけで……私もその時点で初めて火縄銃のことを知りました。
ですがまあ……先ほど申し上げた通りに火縄銃は連射が利かない……火縄銃伝来当初に評価を行った軍の幹部は、初撃は強力だが次弾を込めるどころか、筒の中の燃えカスを掃除している合間に叩き斬られるか若しくは火弾の餌食になっているであろうと……戦闘にはおよそ不向きという評価がなされておりました。
潤沢な台数さえあれば3人で一つの班を作り、先頭で照準を合わせ攻撃→最後尾へ回り筒の清掃→火薬を投入し弾を込める→先頭へ……と言った具合に戦術がたてられるが、いかんせん高価であり耐費用効果では弓矢に遠く及ばない……旨の結果となっておりました。
そのうちに解析が進み……今では国内生産も可能となったようですが、バンターレ商会が提示した火縄銃の価格は輸入とほとんど変わらず高額……とても軍への導入はできないといった評価でした。
為に武器としては未完であるとして、エルムグリム供給のパチンコや投石器の方を重宝したというわけです。
決してエルムグリムを騙したり出し抜こうとしたわけでは……そのためタッタルン国軍には火縄銃も大筒も配備されておりません。恐らくバンターレ商会の私兵のみが扱っているものと考えます。」
ハーゲル暫定王が火縄銃関連のいきさつについて、簡単に説明してくれた。成程……戦前のことだから物理攻撃手法はあまり重要視されていなかったうえに高額……他の大陸から輸入じゃあなあ……。
俺が提案したボウガンも連射が利かないことでは同様だけれども……火縄銃ほどの手間ではない。更に事務長ら工房の人たちで内作できていたからな……少しずつだけど数を増やしていって、戦況が改善したんだったな。
全員で食堂を出て談笑しながら各自自室へ戻って行く。招待客とはいえ、隣国の王宮で寝泊まりしているため、至る所に護衛兵が立番しているのだから、怪しげな行動はとれない。
部屋に戻るとベッドの上に散らかしたままの道着や下着などを、急いでまとめてカバンに詰める。カバンからは2,3日分の替えの下着を取り出し小さな巾着袋に詰め、それからステンレス製の甲冑に着替える。非常に重いので俺は好みではないが、一応正装として認められているので、この場では有難い。
急いで食堂へ戻ると俺はおそらく最後から1,2番手位の感じで、既に大半が甲冑姿で食堂内に待機していた。
「全員そろったようだな……では行こうか……あくまでも全員そろっての外食と言う名目で城を出て行くのだぞ。慌てず騒がず……談笑も忘れずにな……。」
事務長が極力さりげなく城を出ていくよう指示を出し、食堂出口に向かって歩き出した。
「おーやおや……これから外食の予定でしたか?門番から馬のいない馬車の準備をしているという言付けを受け、急ぎ隠れて配置していた兵らを取りまとめやってきたのですが、どうやら間に合った様子ですね。
素直に出された食事に手を付けて眠っていれば……怖い思いもせずに安らかに眠ったままあの世に旅立つことが出来たでしょうに……残念でしたね……少々不快な思いをするでしょうが自業自得と諦めて下さい。
ここにいるものたちは全員射撃の名手たち……射撃と申しましても何のことかお分かりにならないでしょうが、火縄銃と言う最新式の武器……貴国から伝授されたパチンコなどと申す武器よりも遥かに強力で、殺傷力の高いものです。おとなしくさえしていれば急所を一発で仕留め、苦しまずにあの世へ送ってくれるでしょう。
皆さんのご遺体は海へ捨てたうえで……エルムグリムには洋上視察中に事故が起こり全員を乗せた船が転覆した……と報告しておきます。」
食堂を出ようと事務長がドアノブに手を伸ばすよりも早くドアは勝手に開き、十数人の黒づくめの男たちがなだれ込むかのごとく食堂へ乱入してきた。先頭は誰あろうというか予想通りと言うかサーベリアン……彼らの手には短筒ともいえる銃身の短い火縄銃が握られているようだ。
くっそ……やはり眠り薬を食事に……しかも捕らえるわけではなく容赦なく全員撃ち殺すだと?とんでもないこと考えるやつだ……。
「全員兜を装着……戦闘モード!」
「コムオテリアンダラミンシュ………………」
事務長が号令を発し、すぐさま小脇に抱えていた甲冑の兜をかぶる……日頃訓練しているからこの辺は慣れたものだ。そうして僧兵がすぐさま結界魔法を唱え始める。
「火弾!」「火弾!」「火弾!」
同時に魔法兵が短縮詠唱した初級魔法で、火炎魔法を発しまくる……が、全て魔法障壁に阻まれ無効となり消滅……だが……これは必要な作戦行動なのだ。
「おやおや……抵抗なされると……そんなに苦しむのがお好きでしたか……構わんから、撃ち殺しなさい!」
サーベリアンの号令を待っていたかの如く、食堂内は耳をつんざくかのごとき爆音と鼻をつく硝煙の匂いと青白い煙に包まれた……が……弾は全て甲高い金属音を発し甲冑に弾かれ壁や床へ散って行く。
ステンレス鋼で作られた甲冑は……とても重い……それもそのはず……元は厚さ1mmのステンレス板をプレスして形成し、組み立てていたのだが、先の魔王国軍との決戦で小鬼たちの力が予想外に強く、こん棒や素手による打撃で、中身の兵士にダメージはなかったが甲冑がへこむという事が良く起こった。
強度の問題であり……元のなめし皮に銅板を貼り付けた程度の簡易甲冑に比べたら武装強度は格段に上がったのだが、それでも実際の戦闘時に兵士を完全にガードするには至らないと分析し、終戦後に甲冑のステンレス鋼の板厚を2.3mmに切り替えて作り替えたのだった。
流石にこの板厚をプレス成型するのは困難で、鍛造となってしまった。だが……やはり予想通りと言うか……火縄銃程度の弾であれば容易にはじき返し、中の人間にはダメージは全くない。問題点はただ一つ……重い……浮き球を数多く貼り付けているのだが、それでも人一人分くらいは担いでいるのでは?と思えるほど。
だが……命あっての物種なのだ……
「だありゃあっ……」
腰の剣を抜き、入り口付近で火縄銃の短筒を手に唖然としている黒づくめの賊めがけて突っ込んでいく。
「だあーっ」「とうっ!」「でやあーっ」
俺につられ、複数人の魔法兵士が剣を抜いて相手目がけて突っ込んでいったようだ。
俺の刀は特注の日本刀に模して造られた鍛造鋼鉄の刀だが、刃はつけていない……だから殺傷力には乏しい。他の魔法兵士らの刀に至っては、全て銅剣の模造刀であり、例え突いたとしても相手に刺さることすらないであろう。だが……これでいいのだ……逆に刃がある本物の剣ならば……人間相手に振り回せるはずもない。
「おりゃあっ……どうりゃあっ……」
頭全体を黒い布で覆い、目だけが見えている男の左肩口から袈裟懸けに斬りつけ、倒れたところをさらに踏み込んで後ろの男目がけて斬りかかっていく。彼らの手には初弾を放ってしまった空の火縄銃が握られているだけで、身を守る武具すらないので楽勝だ……。
男たちは拳法着というか……どちらかと言うとテレビなどで見た忍者装束……に近い服装で、開襟の胸元を覗いた限り上着の下には鎖帷子を着込んでいるようだ。なので……ますます遠慮なく剣を持つ手に力を込めて斬りつけていく……大怪我さえもしないで済むであろう安心感は……心強い。
「さっ……ハーゲル王も御一緒に……逃げましょう!皆ッ!王様の周りを囲んでお守りするのだぞ!」
後方で事務長がハーゲル暫定王を守りながら逃げ出すと大声で指示を出した。短筒程度であれば十分耐えうると判断し、敵を蹴散らしながら逃げ出すと決めた様子だ……。
「どうりゃああっ!」
事務長の指示を受け、俺は先頭にたって剣を大きく振り回しながら賊の群れの中へと突っ込んでいく……
敵と対峙したときにはまず先に魔法結界を僧兵が唱えるのだが……急襲を受けた時などには呪文の長い結界魔法の効果が発揮できない。その為……魔法結界を張る前に魔法兵は火炎魔法や雷撃魔法を短縮呪文で発して敵を狙うのだ。
それを嫌って敵兵はあらかじめ継続魔法で魔法結界を張ってから攻め込んでくる……そうなると自分たちも攻撃魔法を発することが出来ないので、こちらも安全なのだそうだ……攻撃は最大の防御ともいえるようなことだが……魔法戦とはそういう戦いのようで、互いに魔法効果をつぶし合いながら疲弊した隙を突いたりして攻撃を仕掛けていくそうだ。
つまり……魔王国軍が百万もの大軍で攻め込んできたのはそう言った理由からで、圧倒的軍勢差を持ち攻撃し続け、魔法結界効果が薄れたところを一気加勢に攻め潰す……そう言った戦法なのだそうだ。
だがまあ……いまは……俺が来てからは……魔法攻撃主体で敵の隙や疲弊狙いではなく、魔法効果を互いに消し合ってから物理攻撃……今回の場合は敵は火縄銃でこっちは刃のない剣で攻撃……一見火縄銃の方が有利に見えるのだが、こちらは分厚い甲冑で弾が通らないうえ、向こうは連射が利かない。
こっちは刃がないとはいえ……当たれば痛いし骨だって折れるであろう……剣を振り回して敵を崩れさせていく……敵は他大陸伝来の新兵器……火縄銃の威力にかけて攻め込んできたのであろうが、こちらの方が一枚上手だったようだ……武器はなんてことないものだが……なんせ甲冑の防御力が格段に上だ。
「ひっ……ひいっ……」
取り敢えず食堂内へ攻め込んできた黒ずくめ軍団は……瞬く間に打ち倒し、サーベリアンが顔面真っ青にして逃げ去るのを見届けてから、食堂のドアを開ける。廊下にはドタドタと無様に逃げていくサーベリアンの足音だけが響いていた。
「大砲……大筒もあると先ほど聞いたので……城も安全とは言えません。逃げ出しましょう。」
取り敢えずの脅威は去ったが、ぐずぐずしてはいられない……なんせサーベリアンとこの私兵の戦力が全く分からないのだからな……。
「ああそうだな……タッタルンの支援が遅れてしまうが仕方がない……エルムグリム迄逃げ込もう。
ハーゲル王も……よろしいですよね?」
「はい……サーベリアンの……バンターレ商会の悪事の実態を知ってしまったからには……恐らく生かしてくれないでしょう……どうせ父も母も今はエルムグリム王宮で幽閉されている身……丁度いいと思います。まずは一旦この場は引き……戦力を整えてからタッタルンを改築に戻りましょう。
もしかすると父は……前王はサーベリアン率いる暗殺軍団の報復が怖くて……それで言いなりになっていたのかも知れませんね……タッタルン国軍の装備は……魔法の他はエルムグリムから導入されたパチンコと投石器及び弓矢だけですからね……動きやすいからと軍服のみで簡易甲冑ですらない……先ほどの単筒相手でも全滅だったでしょう……。」
ハーゲル暫定王は悔しそうに俯き、一緒にエルムグリムへ逃げることを承諾した……まさか私兵を使って暗殺に来るだなんて……とても考えていなかったからな……だがまあ……この場にいる大半が魔王国軍との凄惨な戦いを勝ち抜いた兵士たちという事が幸いだった……暗殺軍団すら退けてしまえたのは豊富な実戦経験があったからだろう。




