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7.窮乏の主原因???

7.窮乏の主原因???


「い……いやだなあ……なんだか業者が不当に販売価格を吊り上げているようにも聞こえてきますね。ですが私が考えるに……1次産業……つまり農産物であれば農家、畜産物であれば酪農家……魚介類であれば漁師……たちの市場への卸売り価格……いわゆる原価が高いからではないのでしょうか?」


 タッタルンの物価高という指摘に対し、サーベリアンはそれは生産者原価が高いからだと反論する。


「まだタッタルンの1次産業の調査をしておりませんが、恐らくご指摘の通りでしょう。ですがその根本的原因が、農機具や肥料に飼料及び漁網や漁船価格の高騰によるものだとしたなら?生産者原価はそういった固定費及び消耗品の価格によって大きく影響されますからね。


 まあそういった個々の解析は……明日以降にじっくりと行っていく予定です。


 本日は工房担当者の個々の技量のクラス分けを行い、明日以降クラスごとに作業を割り当てて技術教育を行っていく予定ではありますが、現状のままでは人件費が割高で……鉄道敷設も蒸気機関車建造もエルムグリムへ発注したほうが実質支払金額は割安……と言うことになってしまいそうです。


 何せ人件費も材料費もこちらでは2倍ですからね……。


 これまでエルムグリムでは機織り機はその補修や切り替えに際し、タッタルンから技術者を異常に高額で雇い入れ、そのため自国生産品とはいえ……繊維製品は非常に高価でした。ですが現状は勇者考案の新型機織り機の性能もありますが、絹製品木綿製品とも以前の半額以下の相場となっております。


 その他米や小麦に豆や野菜類……全ての農産物は以前は耕作面積が少なくとても輸出に回せる余裕などありませんでしたが、穀倉地帯を取り戻した現状は輸出できる余裕も出来ており、その価格も半値以下となっております。勿論畜産品や魚介類も同様です。


 昨年までは魔王国へ大量の食糧支援を行っておりましたが、今年はなくなりその分輸出へ回せることとなったわけです。


 現状……エルムグリムからの輸入品には同額の関税をかけておるようですが……つまりタッタルン相場と遜色ないよう2倍に吊り上げているのですね……ですがこのような異常な保護政策がいつまで続けられるものか……関税撤廃になったとするなら、安い輸入品であふれかえることになり、タッタルンは1次産業も2次産業も……恐らくすべての産業が崩壊する事でしょう。


 そうなる前に……立て直さねばならないのです……それにはこの異常な経済の根本原因を探して対応せねばなりません……先ほどハーゲル暫定王様がおっしゃってらしたように、タッタルンの商社が不平等貿易にて暴利を得ていた……とするのであれば、まずはその暴利分をすべて吐き出して頂かねばなりません。」


 事務長がサーベリアンに向けての視線を一切動かさずに長々と論じたが、その間サーベリアンはと言うと、きょろきょろと周囲を見回し、壁際に立番している護衛兵らに何やら目配せをしている様子だった。


「具体的にはどうなさるおつもりでしょうか?」


「いや……まだ方法は全然……雲をつかむような状態ですね。詳細は……明日以降……国庫の状況などご説明頂いてからになるでしょう。」


「そうですか……では……よろしくお願いいたします。」

 何やら不穏な空気をまき散らかしながら、とても食事時の歓談とは思えない緊迫した雰囲気の中の会話はようやく終了し、少しだけ料理の味が戻ってきた感じがした。



「おはようございます。本日の朝食は昨晩の予告通りに、質素なものでしたね。トースト2枚とスープに付け合わせのサラダ……デザートにミカン一つづつ……緊縮財政と言うのは大げさではなさそうですね。」


 翌朝、日課のトレーニング後に朝食を終え、打ち合わせ場所である大会議室へやってくると、既に事務長ら工房担当者も、護衛兵と装甲車担当の魔導士らとともに会議室の席についていた。


 まだハーゲル王子もサーベリアンも来ていないので、何とか会議前には間に合った様子だ。


「まあそう言うな……食べさせていただけるだけでありがたいと思っておけ。我々は決してタッタルンに多額の恩恵をもたらす、使者と言う訳ではないのだからな。それよりもどちらかと言うとタッタルンの異常な経済状況の元凶を暴き、それを解消することによってエルムグリムと遜色ない国家形成に変える。


 そのためには膿を出さねばならないかも知れぬ……かなり厳しいことになりそうだからな。結果的には招かねざる客……と言うことになりかねない……。


 出された食事が足りなければ……滞在費として十分な金貨を持ってきているだろう?金貨を使えばエルムグリムと変わらぬ……いや、より一層豊かな食事が出来るはずだ……。」


 事務長に小声で告げると、事務長も周囲を気にしながら小声で返してきた。ううむ……これからやることでタッタルンから感謝されるどころか、恨まれることもあり得るわけだ……嫌だなあ……しかも……金貨全て渡してしまったからなあ……小遣いなしだし……買い食いなんてできない……。


「文美雄は今日はどうするのだ?あたしは今日はタッタルンの財政状況について詳しく調べたいからな……ちょっと相手をしている時間はありそうもないぞ。またハーゲル暫定王に相手をしてもらうつもりか?」


「いえ……今日は開腹術を学んだ助産師と介護士が到着する予定でしたよね?ついでにアルコール醸造所の職人も来るはずだから……まずは王都の治療院や助産師の所を回って、アルコール消毒の重要性の宣伝と、醸造所を回ってみて高純度のアルコール醸造の指導など……一緒にやってみますよ。


 開腹術は……やはりエルムグリムへ助産師らを派遣して学ばせていただきたいですからね。こちらから何でもかんでも全て準備して、技術指導してやることもないでしょうから……アルコール消毒の重要性と、開腹術という新しい出産方法があることだけ宣伝して回ってみますよ。」


 先鋒隊到着後、1日遅れで医療関係者がやってくる手筈になっていたからな。俺は医療のこと何も知らないが、アルコール消毒の重要性を真っ先に提唱した責任があるので、自ら宣伝して回るつもりだ。


「ああ……そうだったな……じゃあそちらは任せるとするか。どうやら医療に関しては、エルムグリムと異なり民間主導……元はエルムグリムもそうだったのだが、戦禍で一旦医療も軍の統治下にはいってしまった経緯があったのでな……そちらの方がやりやすかったのだが、民間は民間で何とかなるだろう。


 頑張ってくれ。」

 事務長が笑顔で頷きながら、俺に任せると言ってくれた……あれ……?だけど……???


「えええエルムグリムと……違って、国の指揮下……に医療制度があるんじゃあないのですか?

 みっ……民間医療……なのでしょうか?」


「ああ……だからそう言っているではないか……文美雄の元の世界だって、大学病院や市民病院などと言った公的な医療機関もあったが、多くは民間の医者が独立開業していたと言っていたではないか。


 元はエルムグリムだってそれに近い形だったし、タッタルンは正にそれだ……王宮治療院と言った大きな施術所が王都にあるが、一般的には民間医療だ。


 エルムグリムだって……ハルシューさんやラッセールさんは民間の開業医と紹介したではないか……戦後まもなくだったから、軍の医療機関の一部として研修医を受け入れてくれたがな……民間は民間だ。」

 事務長がさらっと……周知の事実のように話してくれた……ええっ?聞いてないよー……


「じゃじゃあ……アルコール消毒の重要性を説いたところで、うちじゃあ打撲や内科治療のみでけがは扱わないとか言われて断られたり、アルコールは高くて治療費が上がるから嫌だと言われたら、どうするのですか?」


「そりゃあ……前に文美雄がやって見せた通りに……丸い陶器の容器にゼラチンを流し込み、ばい菌を目に見えるようにして説明して納得させるしかないさ。まあ……やってみろ。恐らくはうまくいく。」


 事務長は自信満々に答えた。ひーえー……責任重大……


 ハルシューさんの時は菌の説明のほかに、研修医を連れて行ったからな……彼らに手伝ってもらえたから、多少は無理がきいた……だけど今回は研修医の派遣などない……逆に研修医を派遣しろと、命じる立場だ。

 う……うまくいくだろうか……自信が……全くない……



 そんなこんなで1週間……俺は俺なりに頑張って王都内の医療機関を回りに回って、消毒の徹底の重要性と、開腹術による新たな出産方法の紹介を行った。まずは王宮治療院を回り、次の民間は診療所や施術院ごとに全てを回るのは不可能なので、医師会と言う治療師らの集まりに呼び掛け王都を4つに分割して行った。


 その後醸造所を回って、消毒用アルコール醸造が可能な大手を選抜し、市場への引き渡し価格もエルムグリムと遜色ないよう定めた。(勿論2倍の価格となってしまったが……)

 これで実質6日使って、7日目は全員集合して今後の計画展開を報告し合う場となった。



 助産師たちはやはり逆子や異常分娩に苦労しているのか、予想外に開腹術の反響は大きく、医師会ごとに研修医を派遣してもらう手筈は整った。勿論アルコール醸造と消毒の徹底も、理解して頂けたようだ。


 報告会では俺がいの一番に発表を行い、研修医らの研修スケジュールを提出した。


「おお……よくやった……取り敢えず医療現場への技術援助に関しては、順調に進みそうだな。

 では……次は蒸気機関製造と運用に関する報告をお願いする。」


「はい……では、蒸気機関技術支援リーダーの私から……」


 事務長からお褒めの言葉を頂けたがたったの一行だけー……ひえーっ……すっごい苦労したのに……事前に乗り込んで事務机とか壁とかから菌の採取に手間がかかったのに……説明だって大変だったのに……そ……それが……一行……だがまあ……皆大変だったんだろうな……仕方がない……良しとしよう。


 俺に続いて、今度は工房の班長クラスの女性が、蒸気機関の技術支援計画の詳細を発表した。



「鉄道敷設事業に関しましては、未だにタッタルン国内の物価高が仇となり、エルムグリムから輸入する場合と比較してのコストメリットが、全く感じられない状況です。どのように見積もってもエルムグリム製に比較して品質は劣るものの価格は割高……と言った状況で、未だに施行先すら決まらぬ有様です。」


 続いてタッタルン国内の鉄道敷設事業計画に関しての報告が行われたが、どうやら苦労している様子だ。そりゃあそうだろ……なんせ物価2倍なのだからな……なのにエルムグリムへ支払う余裕がないから国内生産希望……だなんて……どう考えても条件が厳しすぎる。


「そうだろうな……国内生産国内消費……でさえあれば、エルムグリムとの物価の違いは関係ないのだが、見積比較で輸出入が絡むと大きな障壁となってしまう……蒸気機関事業も同様だが、はっきり言ってエルムグリムから全て輸入したほうが遥かに安く、しかも品質のいいものが手に入るという現状がネックだ。


 なのに……わざわざ技術支援を行い国内の製造技術をかさ上げした上で、より高額なものを製造するだなどと……馬鹿げた計画では……とても現実性がないだろうな。」


 事務長が眉をひそめながら厳しい口調で話す。どうにも……タッタルンへ来てからずっと辛口だ。事務長はあの性格だから、国の偉いさんに対してでも遠慮せずにズバズバとものをいうのだが、どうにも……今回はより拍車がかかっているとしか表現のしようがないほどだ。


「そうはおっしゃられましても……出来ないのですよ……他国から……特にエルムグリムから輸入するだなんてこと……国家間での輸出入に関しては物々交換が基本ですが、ただでも貿易赤字の上に鉄道敷設など高額の代償がなく、その場合は共通の貨幣である金貨で行われるのが常套です。


 ですが……現状の国庫はほぼ空……輸入など一切出来かねます。


 なにせ……先日の国際裁判にて……多額の賠償金をエルムグリム及び魔王国へお支払いいたしましたからね……。それもこれも……先王個人の企みであり、賠償もやむなしと言ったところですが、今のタッタルンには他国と交易をおこなうような余裕は一切ございません。


 タッタルンといたしましても、より良い品物をより安く購入できるのであればやぶさかではございませんが……いかんせん、ない袖は振れぬ……と言ったところでしょう。


 幸いにも国庫にはタッタルン紙幣は潤沢に保管されてございます……勿論昨年の税収入が主ですが……これを投じることにより最新技術を手に入れ、製造業を発展させてエルムグリムとの競争力を回復したいと考えているのです。出来ることはなんでも協力させていただきますので、何とぞよろしくお願いいたします。」


 嘆く事務長に対し、サーベリアンが自信満々に答える。

 はあ?国庫が空?だって……?どうなっているのだ?


「ああ……この3日間ほど使ってタッタルンの財務状況の確認を行ったのだが、サーベルアン殿の言う通りのようだな。現状のタッタルンはまさしく火の車だ。


 ご存知のように……エルムグリムもタッタルンも通貨は兌換通貨だ。妖精国、獣人国及び魔王国は独自通貨を持たずに金貨と銀貨で交易をしている。まあ……彼らは国内では主に物々交換だからいいのだが、人間社会では金貨や銀貨ではいちいち釣銭の計算など面倒なので、国が兌換通貨を発行して紙幣や貨幣が流通している。


 兌換通貨と言うのは国がその貨幣価値を保証していて、いつでも金に交換できるものであるのだが、そのためには国庫に準備金が必要であるのは当然だ。ところが現状のタッタルンではその準備金がほとんどない。


 この状況は恐らくここ数年間は継続していたはずだが、だがまだタッタルン王家財産の金塊が大量にあったので、何とか準備金としての名目は保っていた。それでも発行通貨の半額しか準備できず、流通市場での貨幣価値は半分に値下がりしていたようだが、エルムグリムでは輸入のみでタッタルンへ輸出するものなど一切なかったので、気付けずにいたようだ。貿易の際の支払いは金貨のみであったのでね……。


 だが……タッタルン王が背任行為により賠償金を自らの財産により支払ったことにより、名目上の準備金すらなくなってしまったタッタルンは、今にも破産しかねない状況と言える。」

 事務長がサーベリアンの顔をじっと厳しい目つきで睨みつけながら、ゆっくりと語りかける。


「ええっ……?それでは……前王……というか、タッタルン王家の財産でかろうじてこの国の財政を支えていたという事でしょうか?それが……賠償金の支払いで、消滅してしまったと……。」

 ところが事務長の説明に反応したのは、ほかならぬハーゲル暫定王だった。


「そのようですな……タッタルン王は財政立て直しのために、エルムグリムが大魔導士召喚して魔王国を追い払うことを念頭に魔王国にエルムグリムへの侵攻をそそのかし、魔王国への恐怖心からさらな優位なエルムグリムとの講和条約と、通商条約を結ぼうとしていたのでしょうね。


 ところが大魔導士召喚はされなかったが魔王国は撃退され、逆にエルムグリムは旧穀倉地帯を取り戻して多額の賠償金を受け取った。その上で魔王国へ食糧や技術援助を行い、魔王国との友好関係を強固なものとしてタッタルンが受託していた魔王国の漁業権を奪ってしまった。


 財政はさらに悪化の一途をたどって行ったが、そそのかしたきつける相手もいない現状では、なす術もなくあきらめの境地だったのでしょう。だから……我々が国際法廷へ訴え出た時に、何ら抵抗せずにすべてを認めたのでしょう。


 ですが……せめて自国内の財政問題くらいは解消してから退陣して欲しかったですね……ふうっ……。」

 事務長が大きく深くため息を漏らした……意識的ではないだろうが……会議室の全員が事務長に注視することになった。


「でっ……ですが……準備金の問題を考えると……財政の立て直しするには、エルムグリムを始めとして他国に働きかけて、輸出量を増やして外貨を稼ぐしかなかったのではないでしょうか?


 それでも戦前のエルムグリムの財力では……魚介類を定額輸入する程度しか余裕はなかったし、妖精国や獣人国は基本的に自給自足だったし……ましてや魔王国が敗れた後では……。」

 ハーゲル暫定王は立ち上がったまま、事務長の指摘が何事かわからず只首を左右に振った。


「ふうむ……そうでしょうかね……。」

 事務長は相変わらず眉をひそめたまま、難しい顔をして小首をかしげた。


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