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27.新たな難問

27.新たな難問


「折角のお誘い……受けたいところではあるが、私も勇者もどちらも御承知の通りに元老院議員を兼任している身の上。今は元老院の休院期間を利用して、魔王国及び妖精国を経由してここタッタルンへ訪問している最中だが、来週より定期議会が再開されるため帰国せねばならん。


 どの道……議会制民主主義へ移行するには、国民審査が必要なのであろう?一旦はハーゲル王子様に暫定的に政権運用をお願いし、その間にどうするのが最善か熟考され、国民審査を行うのが適切かと……。


 但し、王家一族は財産を没収されてしまった身の上……ハーゲル王子様には王政を肩代わりする代わりに、俸禄の支給をするのが適切と考えます……。


 タッタルンを今度どのように変革していくのか、方針が決まり次第エルムグリムへお越しくだされ。エルムグリムの元老院制度も参考になるとは考えるので、勉強していかれては?それで……よろしいかな?」


「ははっ……承知仕りました。ハーゲル王子様にお願いして暫定的な王政を行い、その間に国民審査等検討いたします。ですのでどうか……タッタルンの今後を輝く未来へ導くための、ご指南をお願い致します。どうか何卒……」


 事務長が元老院再開を理由に、やんわりとお断りしてくれたのだが、一旦はこれで大丈夫そうと感じたけど、やはりどうしてもと願われてしまった。


「仕方がありませんね……では定期議会が終了次第、勇者とともに顔を見せることはお約束いたしましょう。」

 深く深く頭を下げる助役に対し、事務長も根負けしたのか再度の来訪を約束してしまった。


 小鬼たちの帝王切開の確認のために飛行船の試乗を兼ねて魔王国へ出向いたら、タッタルンの背任行為が発覚……妖精国へ国際法廷開催を依頼しに出かけた。そうしてタッタルンでの国際法廷が終了し、タッタルンの陰謀は暴かれ、大陸内に根強く張り巡らされたタッタルンによる搾取機構が、これで解消されるはずだろう。


 なのに……まだ……今度はタッタルン国を導いてくれって……この間約2ヶ月間ほど……一度もスーパー堤防住居ビルへ帰っていないのだ……そりゃあ事務長は常に一緒にいるけれど……他の妻たちが……何より子供たちに会えていないのが辛い……。


 このまま元老院の定期議会が始まってしまうと……またまた1ヶ月間以上は帰宅できなくなってしまう。それからタッタルンへ来てくれって言われても……ああ……自由が欲しい……子供を風呂に入れる時間が……ほ……し……い……。



「はあ?嫁候補者……ですか?だって俺は、もうこれ以上嫁はいらないと……昨年お断りして対象者から外して頂きましたよね?まさか……毎年意思表示が必要とか……そんなめんどくさいこと言いませんよね?


 一度対象から外れてしまうと、好みの子が見つかったからやっぱり参加させてくれと言われても無理だから、名前は残しておいた方がいいと、勧められたくらいでしたよね?それでも俺はもう十分だからとお断りしたはずですよ?毎年毎年……俺だけが嫁にする子の名前を、全国に発表し続けるなんて……嫌なんです!」


 久々にエルムグリム王都へ戻ったら、毎年恒例嫁ドラフトが、最初の登録者である俺が不在のために3ヶ月も延期されているから、すぐに嫁候補者を発表するよう指示があった。メリアンちゃん含めると既に6人の嫁を貰い、もう十分だからと……これ以上の嫁はいらんと、昨年丁重にお断り申し上げたはずだ。なのになぜ?


「それがな……どうしても勇者殿の嫁になると言って、聞かない子が現れたんだ……。」

 兵士長が困り果てた……と言った表情で、俯き気味に腕を組む。


「はあ?逆指名という事でしょうか?そんな制度……聞いてませんよ!そもそも一夫多妻制度が始まってから、すでに5年も経っていますよね?どうして今頃?もっと前に言い出すなら分からんでもないですけど……。」


 そうなのだ……嫁ドラフトが始まってからすでに5年……いくら女性の方が多いとはいえ、重婚が認められているのだから、大抵は俺以外の男性諸君らの目に留まり、指名されていない子なんてほとんどいないはずなのだ。なんせ……この世界の女の子は、皆飛び切りの美少女か絶世の美女ばかりなのだからな。


 まあ……男の方も……背がちょっと低めの所を除けば、皆美男子か美男と言える外観だ。指名されても女性から断ることは可能なのだから、未だに独身者がいることは不思議ではないが、どうしてまた……こんなタイミングで逆指名したのだ?毎年毎年指名を受けるので、断り続けるのが面倒だから……とかなのか?


「ああ……それには理由がある。なにせその子は、今年初めて成人……つまりようやく15になったばかりだからな。だから……結婚年齢に達した時点で、勇者殿の嫁になると宣言したわけだ。」

 すると兵士長がとんでもないことを言い出した、なんと……15歳?


「そっ……」


「兵士長殿……確か5年前に制定された王令では、一夫多妻制の重婚を認める対象は、終戦時点で15歳から25歳までであり、その対象者以外との結婚を望むものは重婚を認めないとしていたはずです。


 なので今年15歳になる子は、重婚対象年齢から外れていますよね?なのにどうして今ここで、その子のことが論じられているのでしょうか?」


 今年15になる子では、重婚対象者ではないはずと言い返そうとしたら、同席していた事務長が立ち上がって、強い口調で兵士長に詰め寄った。そりゃそうだ……こっちだって忙しいのだ……やること満載だし……必要ない揉め事で、時間を使いたくはない。


「それがそうはいかんのだ……相手はマリアンだからな。」

「ま……マリアンちゃん?」


「そう……メリアンの妹のマリアン……一緒に暮らしていてわからなかったのか?彼女は勇者殿のことを慕っていて、成人した途端に姉の遺志を継いで勇者殿の嫁になると言い出した。勇者殿以外の誰とも結婚しないともな……。


 勇者殿を守って犠牲となった姉のメリアンのことを想うと、彼女のことが不憫でな……王様もその意思を汲んで、逆指名に限り対象年齢を外れる場合でも、重婚を認めると王令の改定案を提出、緊急元老院会議が招集され、勇者殿以下5名欠席の会議だったが、出席者8名全員が賛成で議員過半数を超え可決された。


 勿論不公平感をなくすために、対象者は勇者殿だけではなく、他の男性対象年齢者全てが逆指名さえ受けたなら、対象年齢を外れる女性とも重婚が認められることとなる。


 王令が改定された途端……逆指名が多くてな……大半は勇者殿……嫁になりたいとのご指名だが、その他の一般男性への逆指名もちらほら集まり始めている。そこで……勇者殿の意志を確認しなければならず、帰国を待っていたわけだ……まさか国際法廷を行っている場に持ち出すことも出来なかったからな。」


 兵士長が、後頭部を掻き掻き説明する。ステンレス製の甲冑が支給されているのだが、やはり重いのか、城での公務の際は昔通りに簡易甲冑姿だ。


 まさか……マリアンちゃんが逆指名だなんて……そりゃあ確かに……一緒に暮らしていた時に何度も、大きくなったらお兄様のお嫁さんになる……だなんて、妹のミリアンちゃんとともにしょっちゅう口にはしていたのだが……女の子が幼い時にパパのお嫁さんになる……と言い出すことと同じと考えていた。


 彼女の気持ちをもっとちゃんと受け止めて、重婚対象年齢から外れるから無理なんだよって……強く否定しておくんだった。そうすれば……こんな力業にはならなかったはずなのに……。


「勇者殿を逆指名順位の1番に指名する子は多くて、今年の新成人のうちの8割が対象となっている。その数何と……約2万人……大半が思いつき……というか、勇者殿なら頼りがいがあるし金も持っていそうだと……選ばれたら儲けもの……みたいな感じではないかな……勇者殿の本名すらまともに書けないのがほとんど。


 勇者殿の名前が書けなかったもの、複数人逆指名したものは面白がっているのだろうと除き……850人にまで絞り込んだ。その中で、勇者殿以外とは結婚しないと宣言しているのは、マリアンだけだ。


 レルムに頼んで、対象者の名前や出身地に兵役時以外の職業や趣味に加えて、全身と顔が分かるようプロフィールと肖像を水晶球に封じ込めておいた。大変だろうが2日以内に確認して、嫁候補者を報告してくれ。」


 兵士長は椰子の実大の水晶球を俺の目の前のテーブルの上に置くと、そそくさと議事堂の俺の部屋から出て行ってしまった。


 はあ……なんてこった……俺以外とは結婚しないだなんて……俺が断ったらどうなってしまうのだ?一緒に暮らすのも難しくなってしまうわな……それは嫌だ!大好きだったメリアンちゃんの妹は、俺がちゃんと面倒見て嫁に出すと決めたのだ!だがその嫁ぎ先が……俺って……どうする?


 じっと事務長を見つめるが、いやいや……と、胸の前で右手を何度も振った。あたしに相談されても困る……と言った態度だ……そりゃそうだわな……。


「じゃあ……あたしがいると候補者を選びにくいだろうから、あたしは自分の部屋に戻っているから、何か用事があったら呼びに来てくれ。」


 そうして事務長まで……部屋を出て行ってしまった。事務長も議員なので、議事堂内に自室が割り当てられているのだ。テーブルの上に置かれた水晶球の脇には、操作方法が書かれた紙が添えられている。勉強に勉強を重ねて、最近ようやく文字が読めるようにはなってきたのだが、あまりうれしくはない。



「うん?どなた?」


 水晶球のリストなど見る気もなく……マリアンちゃん以外の候補者など検討するはずもないので、完全に不要だ……今は……いかにしてマリアンちゃんを傷つけずにお断りをするのか……思案しどうしで疲れてベッドで横になっていたらドアをノックする音が……


「私です……マリアン……。」

 はあ?マリアンちゃん……恐る恐る、ゆっくりとドアを開ける……と、そこには絶世の美少女が……


「めりあ……いやっ……マリアンちゃん……一体どうしたんだい?」


 余りにも瓜二つで思わずメリアンと呼びそうになって、ようやく耐えた……何の用事か知っているのだが、まあ礼儀として尋ねておく。クリックリの大きなお目目と言い、高くて形の良い鼻に痺れるくらいに魅力的な唇……何より透き通るような透明感……俺の記憶の中のメリアンちゃんが、今目の前に立っている。


 たったの2ヶ月会っていない間に急成長して……?いや……これまでだって何度もメリアンちゃんに見間違うことはあった。だけど……普段は中学生だったから、化粧っ気など一切なかったけど、卒業したからなのか、薄化粧しているのではないか?頬にチークしているのかほんのりと赤いし唇だって……美しい……。


「その……もうお聞きになりましたか?私が……お兄様のお嫁さんに立候補したこと……。」

 そうしていきなり本題を切りだしてきた。


「あっ……ああ……つい先ほど……兵士長さんからね。他にもなんと850人も、俺のことを逆指名してきた子がいるらしくて……どうしたものかと……。」


 緊張のあまりか、ついうっかりと余計なことまで……マリアンちゃんにとって他の候補者の話など、いらぬ情報だ……。


「えっ?そう……ですか……850人もお兄様のお嫁さんになりたい人が……じゃあ私なんか見向きもされないですよね……残念です。」

 途端に涙目になり、背を向けて走りだそうとする。


「ま……待って……ごめん……ほっ他の候補者なんて……全く眼中にないから、プロフィールも写真も見てもいないよ。1人だけ……マリアンちゃんとのことをどうしようか……悩んでいた。」

 速攻で逃げ出そうとする彼女の腕をつかみ、本当のことを打ち明ける。


「えっ……そうなんですか?」

 振り向いた彼女の両眼からは、頬を伝わり幾つもの涙が……


「まっまあ……部屋に入って……。」

 取り敢えず、こんなとこ人目につかれたくはないだろうから、彼女を部屋の中へと導き入れる。


「わっ……私を……お兄様のお嫁さんにしてください。」

 部屋に入った途端、開口一番マリアンちゃんは恐ろしいことを口にする。


「だっだって……めめめ……メリアンちゃんが僕の妻なんだよ。妻の妹であるマリアンちゃんとは……いくら重婚が認められているとしても……結婚はできないよね?


 だって……メリアンちゃんと俺とは……兄妹なんだから……ね……分かるだろ?」

 まずは兄妹論を振りかざし、当然のことだとお断りをする。


「メリアンは……お姉ちゃんはもうこの世に居ません。お兄様とお姉ちゃんは結婚どころか、お付き合いもしていなかったはずです。お姉ちゃんはお兄様のことを知的で行動力があり、尊敬できる素晴らしいお方だと常に話してくれていました。


 エルムグリムを導いてくれる御方で、お慕いしているけれども手の届かない高みの方だとも……。


 お兄様はその優しさ故、戦争の犠牲となったお姉ちゃんを第1妻として迎えてくれました。そうして私たち妹を、本当の家族のように温かく育ててくださいました。心から感謝しております。


 そうして私も……お兄様のことをお慕いするようになりました……お姉ちゃんがもし今も生きていて、お兄様と素敵な家庭を持っていたなら……そうして重婚が認められていなければ、こんなお願いはせずに、お兄様への気持ちを胸に秘めたまま、1人で一生を終えたことでしょう。


 ですが私の我儘を王様も認めて下さり、対象年齢以下の私でもお兄様のお嫁さん候補になれる次第と変わりました。どうか……不束者ですが、よろしくお願いいたします。」


 最後は床に正座して、三つ指ついて頭を下げた……そういえば昔……メリアンちゃんに、新婚初夜のお嫁さんの作法を尋ねられたことがあった……。


 この世界の男性は中学を卒業したら11年間の長い兵役につき、幼馴染の許嫁を家に迎え入れ、夫が不在の間家業の手伝いをして頂かなければならない為、それはもう大歓迎で、一家総出で嫁を迎え入れ、お輿入れから夫が出兵する当日まで接待し続けると聞かされた。当然ながら初夜は……夫が退役帰省してからのようだ。


 旦那だけが働く専業主婦も稀にはあるが、ほとんどが夫婦共働きだった俺がいた世界で、妻だけがよろしくお願いしますなんて挨拶は、おかしいと随分と揶揄されたものだ。だが未成年だった俺の知識は、あくまでも古い時代の映画や小説だけの知識だから、現代日本は違っていただろうと釈明した記憶がある。


 そんな日常の……たわいもない会話迄、メリアンちゃんは包み隠さず妹たちに聞かせていたんだ……ふうむ……なんかちょっと恥ずかしい……なんせこの世界へ来たばかりの俺は……随分と情けない人間だったからな。引っ込み思案で独りよがり……知的で行動力がある?……だなんて、メリアンちゃんの思い違いだ。


 そんな俺を……最初に励まして勇気づけてくれたのがメリアンちゃんだった。まあ……当初は俺のことを、異世界からエルムグリムを救いにやって来た、大魔導士様だと勘違いしていたのだからな……だから、人とまともに会話できない俺のことも、翻訳魔法がうまく機能できていないと勘違いして色々助言してくれた。


 彼女がいなければ……恐らく俺は思っていたことの1割も怖い事務長に伝えることも出来ず、裏の竹やぶにでも一人籠ってうじうじしていたことだろう。事務長はそんな俺のことを気にも留めるはずはなく、王さまだって無理に俺から知恵を引き出そうとはしなかったはずだ。


 そうしてエルムグリムは魔王国軍にことごとく打ち破られ、やがて落城し……俺も捕まって処刑されたか、あるいは奴隷として一生こき使われていたか……だろうな……考えてみればメリアンちゃんがエルムグリムの……いや……この世界の救世主と言えるのではないのだろうか。


 もし彼女がいなければ……俺なんかが召喚されたところで何もできず、エルムグリムは魔王国軍にいいようにされたのちに予定通りにタッタルンに併合され国民はひどい扱いを受けて、タッタルン王は更に魔王を焚きつけて、いずれは妖精国や獣人国へも攻め込み……この大陸はひどいことになっていただろう。


 今は全く逆だ……魔王国は魔王以下エルムグリムの献身的な援助に感謝し最友好国と変貌しているし、小鬼たちだって開腹術により明るい未来展望が出来てきている。タッタルン王の野望は潰え、国として大きく変わろうとしているし、奴隷も完全開放されて妖精国や獣人国とも友好的な関係に修復されつつある。


 全てはメリアンちゃんがいてくれて、俺を一生懸命励ましてくれたからこそ……いや……だからと言って、メリアンちゃんの妹を……どうすればいいのかの答えにはならんわな……。


「ごめん……今日の所はその……さっ……サッサーとアーミナたちもこっちへ来ているから……議員秘書用の部屋だけど……そっちへ泊ってもらえるかな?兵士長さんから2日以内に報告してくれとも言われているし、すぐに答えを出すから……悪いけどもう少しだけ待っていてくれ。


 みっ……ミリアンちゃんは……1人で留守番かな?大丈夫……だよね?」


 聞いてすぐに結論を出せるようなことではないので、秘書用の部屋に泊まってもらうようお願いする。議員用の住居は家族帯同時の為に寝室が2部屋あるのだが、普段ならそっちで寝てもらうはずだがさすがに……嫁にしてくれ……なんて言われている女性を、同じ住居に宿泊させるわけにはいかん。


 もう一人の妹のことがふと頭をよぎったので、念のために確認しておく。


「ここへ来るときはサッサーさんとアーミナさんとご一緒しました。荷物もそこに置いてあります。ミリアンはミーティアさんとスーメリアさんに預けて来たので大丈夫です。では……明後日もう一度ここへ参ります。」


 マリアンちゃんは少しはにかんだような笑みを見せ、頭を小さく下げると部屋を出て行った。そうか……マリアンちゃんの気持ちは、俺の妻たちは全員知っているのか……しかも応援?まで……ふうむ……。



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