26.判決
26.判決
「ばっ馬鹿な……もし中で病気にでもなったならどうするのだ?医者は来られないだろ?健康診断だって……その際は、外に出してもらえるのだろうな?」
判決を告げられたと同時に旧議長が立ち上がり、病気の際はどうするのか質問をした。確かに……
「我々奴隷が病気になっても……医者を呼んで治療どころか、薬すら与えられませんでしたよ。腹を下したら下痢止め、痛ければ胃薬、風邪を引けば風邪薬……常備薬は置いてあげますから、いいではないですか。」
すぐさまギレージュが立ち上がって反論……奴の頃はさらに酷い虐待を受けて、傷の手当なんて一切されなかったのだからな……。
「だ……だったら……妖精族や獣人族の監獄で終身刑の方がまだましだ……普通の監獄ならば病気になれば治療してもらえるだろうし、親戚縁者が面会だってできるのだろ?死刑囚ではないのだから、それ位当然のはずだ。」
旧議長の隣に座っている奴迄が立ち上がって、だったら他国の監獄の方がいいと言い出した。それは……検察側の求刑通りとなってしまうが……。
「妖精国及び獣人国には子供時分に奴隷として長く扱われたものが多く住んで居り、禁錮の際の君らの安全を保障できないが、それでよろしいか?妖精族や獣人族の子らを奴隷として扱っていた者たちの縁者が、そんな危険な国へ出向いて面会など……出来るとお思いか?
表立っての虐待などはしない……一応法治国家であるからな……だが何時食べ物に毒を仕込まれるか……びくびくしながら日々食するおつもりかな?毒見役など……おりはせんし、毒が入り込む余地はないとも保証はできない……それは……仕方がないことだろ?
それでもよければ……我が国での牢獄生活は許可する。
一族で何世代にもわたり奴隷を囲い、不当に自由を束縛し続けた君ら一族は、今後他国から命を狙われる存在となるであろう。我が国では不当な扱いを受けた者に対する報復は、推奨してはいないが禁じてもいない。
その為、これは保護ともいえるのだ。妻子も含めた親類縁者全員が保護下に入ることをお勧めするが、妻子や親類はそのままタッタルン王国内の屋敷で生活することも自由だ。」
妖精族の判事が、厳しい表情で告げる。確かに……これまで奴隷に直接かかわっていた人間を特定することはできなかったから、怒りの矛先はどこにもなかった。だが……今はその被疑者が明確になったのだ。
報復を考えるものが……いないとは言えない……少なくとも……彼らの先祖に奴隷としての扱いを受けた直接の被害者が、まだ多く生存しているはずなのだからな……妻子も含めた全員が対象……子供まで地下生活はかわいそうだけど……だけど命を狙われるのであれば……過去からの重すぎる負債となってしまったな。
最早奴隷として扱っていなかったのなら……解放してやればよかったのだ……恐らくその時点で申し立てをしたところで、罪に問われることはなかっただろう。特に旧議員らなのだからな……自分たちが国会を運営していたのだから、罪に問われない形にすることはできたはずなのだ。
だが……恐らくは……保身に走ったのだろう。議員としての立場を考えると、先祖がやらかしたこととはいえイメージが悪すぎる……選挙に勝てないだろうと……隠すことを選択したのだろうな。
「では引き続き……2つ目の審議を始める。
被告人は……タッタルン国王。エルムグリム共和国と同盟協定を結び、尚且つ魔王国とも共同で戦うという軍事協約を結んでいた。そうして魔王国軍をけしかけエルムグリム共和国へ攻め込ませたさい、エルムグリムとの協定を破り、兵の増援一切を拒否した。
これらは明らかな協定違反であり、更に両国への裏切り行為と考えられる。
この訴状の内容に、間違いはありませんか?」
そうして今度は、タッタルンの2重協定への審理が始まった。
「はいそうですが……エルムグリムとの同盟協定は、4百年前のタッタルン独立直後からであり、魔王国との軍事協約も魔王国独立した240年ほど前であり、どちらも両国に望まれてのことと先祖の記録にありました。
私が直接結んだものではありません。魔王国との軍事協約は当初結んだものが更新すらされておりませんでしたし、エルムグリムと結んだ同盟協定は、共和国設立後の先代王の時に更新したものです。
全て先祖の責任……とするつもりはありませんが、私は協定にはかかわっておりません。」
ところがタッタルン王はあっさり否定……自分は協定に関わっていないと主張した。まあ……これは協定書を確認したときに、予想できた回答だ。
「では……検察側の被告人質問からどうぞ……。」
「では……先ほどの奴隷裁判を思い出してください。被告人は、元奴隷であった子らを自らの城の地下に匿いましたが、彼らが移動してきた理由を、魔王国がエルムグリムに攻め込んで来る気配が濃厚であると、旧議長らに定期連絡で告げたからと、旧議長が証言しています。
あなた自身も30年ほど前から結界のほころびを確認していたと証言しておりましたね?魔王国がエルムグリムへ攻め込むであろうことを知り得ていたのは魔王国と頻繁に連絡を取り合い、その際に国境の結界についても聞かされていたからではありませんか?
それはすなわち魔王国との軍事協定が結ばれていたから得られた情報に、間違いありませんよね?
更に同盟国であるエルムグリムとは、5年に一度定期開催される合同演習の際に、魔王国侵攻の際はタッタルン海軍が魔王国穀倉地帯へ上陸して攻撃するとの密約を交わしていましたね?
互いの敵対する国と相反する協定を結び、それらを戦争へ導く行為は背任行為ではありませんか?おかげで両軍ともに、多大な損失と多くの犠牲者がでました。何十万人ものね……。」
そう……先ほどの奴隷に関する裁判をわざわざ国際法廷で行ったのは、タッタルン国王に魔王軍侵攻が事前に伝わっていたことを証言させるためでもあったのだ。
「エルムグリムとの同盟協定は、あくまでもエルムグリム共和国との同盟であるということで、エルムグリム側も納得しているはずですぞ。
おかげさまでエルムグリムとかわしていた魚介類の輸入契約を、一方的に破棄されてしまった事に苦情を申し立てたが、エルムグリム共和国との契約は王国になったら無効と拒否された経緯があります。
そもそも多大なる犠牲者を出したのはエルムグリムの怠慢のせい……魔王国進攻の情報を得たなら抵抗せず、すぐに異世界から大魔導士を召喚して国境山脈の物理結界を再設定すれば済んだはず。
そうすれば被害はゼロで犠牲者も出なかったはずなのです。
異世界からの大魔導士召喚は王室秘伝の術であるため、わざわざ議会制民主主義となった共和国制度を取りやめ議会を解散させ、王政復古迄させたというのに、大魔導士召喚どころかあろうことが軍を国境に集めて魔王軍と相対するなどという愚かなことをしたのは完全にエルムグリム国王の失策。
タッタルンの支援を当てにされると余計に魔王軍に反抗することになる為、一切の通信を絶ったにもかかわらず、折角大魔導士を召喚しても国境の結界強化ではなく魔王軍と戦うなどと愚かな選択をし、そうして多大な犠牲者を出した……それは全てこちらが予期していた事とは異なります。
常に過去の歴史を紐解き、魔王軍侵攻の際の準備……大魔導士召喚の準備をしていればよかったものを、長く続いた平和な時代ですっかり危機感が薄れ、他国の支援があるものと無謀な期待を寄せる……それらは全てエルムグリム王に責任があるのではないでしょうか?」
タッタルン王は、全ての責任はあエルムグリム王にあるという……とんでもないことを言い出した。確かに……魔王国進攻の情報が入ってすぐに大魔導士を召喚できていたなら……恐らく国境の結界を再度設定しなおしてそれですべて終了していたはずだ。1人の犠牲者も出さずに……
だけど、それで済めば事は丸く収まったのかというとそうではないはずだ。タッタルンの搾取は継続していたはずだし、エルムグリムは穀倉地帯を奪われたままだったはずだ。誰も得していない……いや……タッタルンだけが継続的な利益を確保し続けたということになる。
そもそもそれが……タッタルン王の狙いだったのだろうからな。
それに……恐らく時期が異なるから召喚されたのは俺ではないはずだが、それでも地球の誰か……レルムのことだから呪文を言い間違えて、大魔導士がいる星ではなく地球から召還したはずだ。であれば……結果は恐らく今とさほど変わらず……魔王国とエルムグリムはやはり戦争となったはずなのだ。
「そうではないでしょう?敵対する2国間に対し双方にいい顔をして、長い年月利益を得ていたのでしょう?魔王国からの漁業権受託だけでも莫大な利益を上げていたはずです。それは……現状のエルムグリムとの共同漁業での利益から計算しても明らかです。
エルムグリムと5分で分けても魚介類の市場価格が、戦前の十分の一以下ですからね。その分タッタルンは不正に漁獲量を誤魔化して、魔王国への配分を少なくしていた。
仮に正常に配分していたなら……それが2百年間続いていたなら……魔王国は困窮せずに、エルムグリムへ侵攻することはなかったかも知れません。少なくとも今回の侵攻は防げたはずです。
十分な収益があって、小鬼たちも飢えることがなければ、他国へ攻め込もうなどとは考えないものです。なのにタッタルンは自国の利益優先で搾取に走り、更に魔王を焚きつけエルムグリム侵攻をそそのかした。
それが……大魔導士召喚させてすぐに戦争を鎮静化させる腹積もりであったにしても、許されることではありません。50万を超える小鬼兵の犠牲者を出した戦争責任は全てタッタルン側にあると判断し、賠償金として敗戦時にエルムグリムへ支払った賠償金の倍額を請求いたします。」
「エルムグリム側も、魔王国進攻はエルムグリムの陰謀であると断定し、魔王国から受け取った賠償金と同額をタッタルン王国に請求いたします。」
検察担当と言いながら被害国代表であるダッフンバルト2世と事務長が、夫々タッタルンの陰謀により戦争に導かれたと主張し、賠償金を請求した。
「ば……馬鹿な……そんな金額……いくらタッタルンでも……恐らく1年分の歳費に相当するはず。
支払えるわけがない……。」
被告席のタッタルン国王は、賠償金額を聞いて立ち上がって呟き始めた。
「弁護人……検察側でもある被告らの賠償金請求に対して、何か申し上げることはありますか?」
「はい……ここ迄の審議内容を聞き及び、賠償責任が覆ることはないでしょう。ですが……先ほどからタッタルン王が証言している通り、2国との協定は先代以前の国王が行ったもの。つまり先程迄審議していた奴隷問題と同様、先祖が行った犯罪なのです。
確かに魔王国をそそのかしたのはタッタルン王自身でしょうが、それはあくまでも王個人で行った事。エルムグリムとの密約ももちろん、タッタルン王個人で行った事。現タッタルン王国として正式な協定や条約が結ばれているわけではございませんから、王個人で行ったこととして賠償金請求は王個人に行って頂きたい。
私は国民審査を提案して、タッタルン王はこの国にふさわしくないとして、議会制民主主義への以降を進めたいと考えます。恐らくこの国際法廷を傍聴している国民は、全員がそのように考えるでしょう。
タッタルン王はこの王城はもとより国内に十ヶ所の別荘を持ち、更に王城地下の大金庫には金の延べ棒が山積みされていると聞いております。それら全てで清算しても全額は払いきれるか分かりませんが、7割から8割程度には達する計算です。ですので……どうか国ではなく王個人にご請求願います。」
なんと……タッタルン王の味方であるはずの弁護人が寝返って、賠償金は王個人へ請求するよう主張し始めた。しかも……王政を取りやめて、議会制民主主義に切り替えるというおまけの提案までつけて……。
「ばかな……お前は……王であるわしを裏切るというのか?」
「裏切るも何も……これまでの魔王国との会談は全て王個人で行っていらっしゃったし、エルムグリムと密約を交わしていたということも、側近である私ですら知り得ておりませんでしたよ。全てタッタルン王が、個人で判断され、個人で行った事ではありませんか。
もし仮に相談を受けていたのであれば……絶対に反対し、戦争など起こさせませんでした。この大陸内で争いを起こさせぬために、タッタルン王国が仲介役として活動するというのが代々タッタルン王家に受け継がれてきた家訓のはずなのに……なのに、なぜでしょうか?」
タッタルン王の側近であったという弁護人が、怒りもあらわに悔しそうに下唇を噛みながらタッタルン王を見つめる。
「元々エルムグリムとタッタルンは一つの国……そうしてエルムグリム統一は、先代までの歴代王らの夢であったのだ。その為には……エルムグリムを窮地に陥れ、タッタルンなしでは国として成り立たない状況まで持っていく必要性があった。魔王国との関係を仲介し、より深くエルムグリム内部に入り込む必要性がな。
全てはエルムグリム併合の為……その為にはあらゆる手段を用いるつもりだった。代々タッタルン王家のサポート役として陰から支えてきたお前の一族なら、全て承知の上のことと思っていたのだがな……。」
タッタルン王はがっくりと肩を落とし、涙目で助役の男を見つめる。
「王様は……先ほどの奴隷の子らを処分したと偽り、秘密裏に地下に匿っていたほど人の命を大切にし、争いを好まない方と信じておりました。
それなのに……いくらご先祖様の夢であったとはいえ、過激で好戦的な思想に憑りつかれてしまうとは……本当に嘆かわしい……4百年続いたタッタルン王家もこれまでのようですね。」
助役の男は寂しそうに俯いた。
「わ……分かった……全ての元凶はわしにあるとして、わし個人で責任をとることに異存はない。タッタルン王国として全ての債務を受けるとなると、いずれエルムグリムの属国扱いとなりかねんからな。それだけは避けねばならん……。
だが……これを受けるには一つ条件がある……わしの息子ハーゲルは……使者として度々エルムグリムにも出向いたが、全てわしから表面上のことを聞かされ対応していただけのこと。
裏事情など全く知らぬ……だから息子は……息子だけは罪に問わぬことを条件とする。いいかな?」
タッタルン王は観念するかのように、最後はハーゲル王子は無関係であることを主張して終わった。
「判決を申し渡す。」
正副判事が二言三言会話を交わすだけで、結論は出たようだ。
「タッタルン王国による、エルムグリム旧共和国と魔王国との2重協定は完全な国際法違反。更に魔王国へエルムグリム侵攻をそそのかしていたことは、明らかなエルムグリム旧共和国に対する背任行為とみなす。
その結果としてエルムグリム側に十数万人、魔王国側に50万人を超える犠牲者を出した罪は許しがたく、懲役千8百年を申し付ける。この年数は、妖精族、獣人族の平均的な寿命をもとに終身刑相当を算出した。
終身刑としなかったのは、恩赦などによる減刑を受けても一生刑務所から出られないということを、本人に自覚させるためである。なお収監先はタッタルンは不適であるし、妖精国や獣人国でも囚人の安全は保障できないため、エルムグリム王国にての収監を希望する。
戦争責任による賠償金はエルムグリム及び魔王国の希望通りの金額とし、弁護人の申し立てを受け、タッタルン王国に対してではなくタッタルン王個人へ請求するものとする。この判決後、速やかにタッタルン王及び3親等以内の親族の資産を凍結し、清算するものとする。以上」
妖精族の判事が判決文を読み上げ、会場内にどよめきが走った。
タッタルン王……というか、歴代タッタルン王の陰謀と不正が暴かれ、現役の王が裁かれたというわけだ。王と家族の財産没収……王家が実質上崩壊してタッタルンは今後どうなって行くのだろうか?
「判決とは関係ありませんが、大変申し訳ありませんが、今この場を借りてお願いがございます。」
被告であったタッタルン王が護衛兵らに連行されて会場から消え、傍聴席にいた観衆が三々五々散り始めたころ、被告席に残っていた弁護人が立ち上がって叫んだ。先ほど賠償金請求は、王個人にしてくれと願い出た助役とかいう奴だ。
よく見ると……見た目はまだ若そうだ……恐らくハーゲル王子と変わらないか少し上……20台後半かな?だけど煌びやかなストールをまいて派手な格好をしている王子とは異なり、暗い色で装飾ひとつないスーツを身につけている清楚な感じがする若者だ。
「タッタルン王国のお見苦しい点をお見せして、大変申し訳ありませんでした。私、タッタルン王直属の秘書及び役場の助役を務めております、サーベリアンと申します。」
銀髪で利発そうな感じの容姿の若者は、皆の注目を集めるとさらに言葉を続けた。
「先ほども申し上げました通りに、タッタルン王国として王政を継続することは、タッタルン王が投獄されたことにより困難となっております。ハーゲル王子様の戴冠式を急ぎ王家を継いでいただくことも可能と考えますが、恐らく王子様は拒否なさるでしょう。かような状況下では議会制民主主義への移行しかございません。
そこで……今この国際法廷の場に、エルムグリムに置いて議会選挙を勝ち抜かれ、更に王政と議会政治を融合させた元老院制度を立ち上げた中心人物……勇者様と賢者様がいらっしゃっておいでです。
大変申し訳ありませんがしばらく滞在いただき、新生タッタルンを導いて頂くようお願いいたします。」
なんと……俺と事務長がタッタルンに残って、議会制民主主義を指導しろって?無理無理無理……




