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25.国際法廷

25.国際法廷


「では……奴隷の子らを逃がさずに束縛はしていたけど、220年ほど前から奴隷たちへの虐待や猥褻行為は一切取りやめていた訳だね。」


「はい、今回保護された奴隷であったものたちから、証言が得られております。食事も一般と同じく日に2回……朝晩十分な量を与えられ、適度な運動もでき更に強制労働などもなかったようです。


 特にエルムグリムからタッタルンへ移ってからは、快適な生活であったと証言するものが多数です。」


 奴隷だった子らが解放されてから6日後、妖精族と獣人族の使者が到着すると、その日のうちに国際会議が開催され、訴状をもとに国際法廷が開かれることになった。


 予定通り妖精族の使者が主幹判事で、獣人族の使者が副判事として裁定することとなった。被告は旧議員ら貴族とその親族で、弁護役はタッタルン王室から弁護士が派遣されている。


 検察役は事務長とダッフンバルト2世が任命された。


「では……証人であるタッタルン国王……証言席へお進みください。


 ここでの証言は記録され、今後の審理進行に大きく影響を与えることが想定されます。その為嘘の証言や、被告らに有利となる様な比喩表現を用いることはお避け下さい。偽証が判明した場合は証人も罰せられる可能性があることを十分認識した上で、証言願います。いいですね?」


「はい、良心に則って証言します。」


「では……宣誓してください。」


 最初の証人は、奴隷の子らを監禁拘束していた側のタッタルン国王……奴隷に関わっただけで重罪なのだが、処分を望む旧議員らに対し、殺さずに保護したという印象が強かったため審議を待たずに両判事共に無罪と認定し、保護時のいきさつ確認で証人として呼ばれたのだ。


「旧議員らは、どうしてわざわざエルムグリムの個人の屋敷から、危険を冒してまでタッタルンへ奴隷の子らを輸送してきたのですか?それと……どうしてタッタルンの自らの別宅に収容せずに、わざわざ奴隷制度を厳禁としている側の国王へ、奴隷の子らを預けたとお考えですか?」


「30年ほど前から魔王国と旧エルムグリム国境の山脈に張られた、物理結界のほころびが見え始めるとの報告が上がり始めました。144年前の魔王国進攻の際に召喚された大魔導士が、エルムグリムを守るために張った防御壁……ですな。それがほころび始め、いつ魔王国が再び侵攻を開始するか囁かれ始めたのです。


 そうなると……自宅に魔族や妖精族に獣人族の奴隷の子らを閉じ込めている旧議員らは大慌てだったようで、魔王国に攻め込まれて今度こそ王都崩壊……等となってしまうと自分たちが奴隷を隠していたことが明らかになり、間違いなく極刑に処せられてしまう……。


 それではまずいと……20年ほど前から安全なタッタルンへ奴隷の子らを移送すると、打診がありました。


 タッタルンには旧議員らの別宅がありますし、魔王国進攻の際はすぐにタッタルンへ避難することが出来るよう、外交関係者用の通行手形を与えていたため、我が国を頼ったのでしょう。


 ですが……タッタルンでは4年に一度国際会議が……しかも王都にて開催されます。妖精族や獣人族は、自らの仲間の存在を2里先からでも感知できると聞き及んでおりましたから、そのようなものたちを王都へ連れ込まれては困ると返事をしました。


 どうせ……魔王国の侵攻はうまくいかず、戦火が上がることはなくすぐに平和が訪れるのだと伝えたのですが、それでも自分たちの保身を第一とする旧議員らは、どうしても移動させると主張し、何を言っても聞こうとしませんでした。


 その上で……2百年以上も前からひどい虐待など一切してはいないと……奴隷としての扱いなどはしていないと、はっきりと断言したのです。


 このまま移送を拒否し続けたなら、切羽詰まった旧議員らが勝手に奴隷の子らを処分してしまう危険性があると考え、急遽城の地下に収容施設を秘密裏に造り、国際会議も理由を並び立てて獣人国との国境近くの町に変更いたしました。そうして受け取った子らは処分したと告げ、旧議員らにも内緒で匿っていたのです。


 収容した時点で奴隷だった子らに確認しましたが、虐待どころか優しく大切に扱われていたと、どの子らも証言しておりましたから、移送を断れば処分されるとの考えは杞憂であったと感じたほどです。


 どうか……彼らには温情ある裁定をお願いいたします。」


 タッタルン国王が証言席で深く頭を下げた。やはり旧議員らを擁護する姿勢に変わりはない様子だ。まあ……奴らだって先祖代々からの負債を受け取っただけではあるのだからな……。


「では……続きまして検察側の証人……かつてエルムグリム王国内で、長期間にわたって奴隷として扱われていたギレージュ殿……お願いいたします。」


 タッタルン国王に続き、今度はギレージュが証人として証言台に立った。


「あなたは長きにわたってひどい虐待を受け続けていたようですね……当時の様子をお話しいただけますか?」

 事務長が検察役となり、ギレージュに対して証人尋問を始めた。


「私はエルムグリム北部山脈に近い町で、幼少期の今から5百年ほど前から、成人となった後も解放されず奴隷として扱われておりました。生まれ落ちてから3百年ほどは、小さな集落の親切な人間たちに保護され、食べるものに窮する日もありましたが、それでも何とか平穏な毎日を過ごしておりました。


 ところがある日、突然やってきた奴隷狩りに捕まってしまったのです。後で聞かされたのですが、集落から大きな街へ働きに出ていた若者のうちの1人がうまくいかずに逃げ帰ってきて、家族に見栄を張るために少額の礼金目当てに私が集落で匿われていることを奴隷商人に告げたそうです。


 それからは本当に地獄のような日々が続きました。体中に呪詛の墨を入れられ、呪文を唱えることを入れ墨で封じられた私は、飼い主から常に虐待を受けました。鞭で打たれることは日常茶飯事で、時にはハンマーや鍬やナタなどを振られることもありました。しかもそれを避けると……さらに酷く何度も打たれるのです。


 理由などなかったように思います……目つきが悪いとか返事が遅い……歩き方が気に食わない……ハンマーで膝や脛を強く打たれ、足を引きずっただけで大げさだなどと鋸を持ち出されたこともありました。


 成人して体が大きくなり始めてからはさらに酷くなり……北部の町は冬季は極寒の日が続きますが、衣類を剥がされ猛吹雪の日に山の中の大木に縛り付けられ、一晩放置されたこともありました。


 数日たって雪が止み縄を解かれたときは、凍り付いた皮膚とともに樹皮ごと剥がれたものです。そのうちに……呪文を口にすることが出来るようになってきたことに気が付きました。禁呪の呪詛の入れ墨の一部が、あまりにひどい体罰で文字が掠れ効果が消えたのです。


 魔法の呪文など教わったことなど一度もありませんが、それでも体罰や品評会などで街中を移動する際に呪文が聞こえてくることもあり、それとなく覚えていたものです。


 それからは……体罰を受ける際に出来ることが少しずつ増えて行きました。あまりにひどい虐待と長年に渡る粗末な食事で栄養失調となり皮膚がボロボロで、おかげで呪詛が途切れやすかったようです。


 そうして絶対服従の呪詛が途切れたと体感した後、閉じ込められていた檻を破壊し、警固のものたちを全員始末したのです。ですが……拷問的なことはせず、苦しませずに殺して差し上げましたよ。


 それから数日間……私を閉じ込めていた張本人を屋敷で待ち受けていたのですが、出先で屋敷の惨劇を聞いた家主はそのまま何処かへと逃亡したようです。仕方なく私は他の奴隷たちの開放を企てましたが、移動の際は目隠しされていたため、品評会などで出向いた屋敷が皆目分かりません。


 しかも私は多くの人間を虐殺した犯罪者……いつまでも留まってはいられないと、すぐに北へ向かって旅立ち魔王国へたどり着いたのです。


 私は奴隷を隠していた人間たちを憎みます。極刑を望みます。」


「以上です。」


 ギレージュの辛く長い奴隷生活の証言が終わった。実際はほんの一部だけなのだろう……しかも何度も何度も……毎日のように鞭で打たれたのだ……理由などなく……悔しかっただろうな、辛かっただろうな。


 ギレージュがひどく人間を憎む気持ちを、否定できなくなってくるな……。


「弁護人……証人に質問はありますか?」


「はい……ギレージュさん……辛く長い日々……お辛かったであろうと察します。ですが……ご自身の証言にあった通り、生まれてから3百年ほどは人間の集落の中で、それなりに自由に暮せていた訳ですね?


 それは周りの人間たちの温かな気持ちの表れで……助けられたのではないでしょうか?人間すべてがあなたに危害を及ぼしたわけではありませんよね?」


「それはそうですが……保護されていたとはいえ、ただで食べ物を与えられていた訳ではありません。体は小さくても力は人間の大人並みにはありましたから、畑仕事だって……鍬をふるって耕したり、馬や牛の代わりに大きな鋤を引っ張ることもありました。


 肉体労働で人一倍働きましたが、見かけは子供の為給金などは一切出ず、その日の家族の食べ残しを分け与えられる程度でした。それでも収穫の際は芋や米に玉ねぎなど、懐に隠して家に帰ったこともありました。施しを受けていた訳でも、優しく援助されていた訳でもありませんでした。


 人間たちは……人間の子なら捨て子でも大切に保護して皆で育てますが、魔族の子は獣か家畜程度にしか考えていないのです。なので金に困れば平気で売るのです。


 わたしは……人間たちを信じておりません……でした。ですが……最近はエルムグリムの民……勿論奴隷の子らを隠していた旧議員以外の……ですが……勇者はじめ賢者にその他多くの兵士や魔導士に医師たち……彼らは見返りを求めずに魔王国の小鬼たちへ支援を続けてくれています。


 彼らなら……信じるに値すると考えており、彼らが信じる法廷での裁定であれば、私はそれに従うつもりです。」


 ギレージュが小さく頭を下げた。なんと……俺たちのことを憎んでいたはずなのに……随分と気持ちが変わって来たようだ……


「続きまして……被告が多すぎるので、代表として旧議会議長……裁量が決まる前に、言っておきたいことはありませんか?」

 被告代表として旧議長が証言台に呼ばれた。


「わわっ……私らは何もしていない……私らが生まれた当初から、彼らは家の地下室にいた。私らの両親も、彼らの処置に困っていた……まさか殺すわけにはいかず……かといって奴隷を飼っていたという事実だけで死刑となってしまう法律……そのおかげでどうすることも出来ず、そのまま地下に匿うしかなかった。


 奴隷として扱ってなどいない……虐待はおろか、労働さえさせずに日に2度の食事はきちんと与え、天気のいい日は中庭で日光浴などもさせた。本などの娯楽も……私が読み終わった小説は全て回してやったし、服だって……体が大きすぎるので最新流行……とはいかなかったが、それでも継ぎはぎなどない洗濯して清潔な服を着せていた。人一倍食べるので食費はかかったし、服は特注だったがそれでもちゃんと世話していた。


 タッタルンとの定期連絡会で、エルムグリムの国境の結界が薄くなってきていることを聞き及び、そのままではまずいと考えタッタルン国王さまに相談させていただいた。


 そうして数年間待ち望んでいた許可が下り、18年前にタッタルンへ運び入れたのだ……深夜に、外交手形を使って……勿論荷物は無検査だった。


 国王様にお預けする形となり、その後始末したと聞かされた時は心が痛かったし、悲しかったことを記憶している。だが今回彼らが実は無事で、地下で保護されていたことを知り、大変うれしく思った。


 流石タッタルン国王さまは慈悲深い……こうなるのであれば、父の代からタッタルンへ移送しておけばよかったのだろうと感じたほどだ。


 私らは全員、彼らに奴隷としての扱いはしていないし、人として尊厳ある生活を送らせていた。だから……罪に問われるのはおかしいのではないかと考えている。」


 旧議長ははっきりと自分らは無罪だと主張した……まあなあ……ここ迄の流れだと、そんな感じもするわな。


「では……検察側……被告らの罪状と求刑……論告求刑を願います。」


「はい……罪状はここ迄の証言及び提出した証拠が示す通り、妖精族、獣人族及び魔族の子らを拉致監禁し、人として扱わず虐待や暴行を繰り返し奴隷として扱った、奴隷売買及びそれにかかわるすべての営みを禁ずるエルムグリム王国令及びタッタルン王国令、妖精国令及び獣人国令、全ての国の法令に違反しております。


 どの国の法令でも奴隷売買に関わる、あるいは奴隷を保有していた事実だけで死刑となっております。


 ですが彼ら自身が直接奴隷売買に関わって取得したものではなく、先祖代々に渡って引き継がれてきた過去からの負債であり、彼ら自身は奴隷の扱いをしておらず、虐待もなく食事なども普通に与えていた点から、情状酌量の余地はあると考えます。


 とはいえ、奴隷として酷い扱いを長年受け続けた彼らの無念はこのままでは晴らせず、無罪放免というわけにはいかないでしょう。彼らが奴隷として先祖代々ずっと地下に閉じ込めていた存在を知った時点で、それを犯罪として認識し、すぐに開放したのであれば……それならば無罪でしょう。


 ところが逆に犯罪として認識したからこそ解放せず、閉じ込め続けた。虐待などしてはいなかったものの、先祖から受け継がれていた罪ごと引き継いだものと受け取れます。


 先ほど旧議長が証言したことが彼らの本心であるならば……同様の扱いをこれから一生受け続けて頂けばよろしいかと……奴隷として扱われてはいなかったものの、数百年間にわたって地下に捕らわれていたのは事実。それに値するだけの長期間は人としての寿命から困難であるため、彼らの終身禁固刑を求刑致します。


 タッタルン王国内及びエルムグリム王国内の監獄ではなく、妖精族を捕らえていたものは妖精国の……獣人族を捕らえていたものは獣人国の……残念ながら魔族の捕らわれ人は見つかりませんでしたが、夫々の国の監獄で終身刑と処することを求刑します。」


 検察側としてダッフンバルト2世が終身禁固刑を発表した途端に、それまである程度和やかな雰囲気に包まれていた法廷が、一瞬にして凍り付いた。証言台から被告席へ戻ったばかりの旧議長など、座り損ねて床に直接尻もちをついたほどだ。


 恐らくこの場にいる大半は、旧議長ら自身に重い責任はなく、無罪放免となることを予想していたのではないだろうか。少なくとも俺は……そう思っていた。


 だけど……検察側の主張も納得できる。奴隷として扱っていなかった……人間としての尊厳ある生活も送らせていたとはっきりと旧議長は明言したのだ。それと同じことを求刑されたとしても、それを不当とは絶対に主張できないはずだからな……旧議員連中は全員顔が青ざめている様子だ。


 見つかった16人の奴隷だった子のうち、妖精族の女性が十人で獣人族の女性が一人、妖精族の男性が3人で獣人族の男性が二人で、男性しかいない魔族は220年ほど前から檻の中の記録は残っていなかった。恐らくギレージュが逃げ出したことで魔族は危険と評判となり、処刑されたのだろうと想定された。


 自ら子孫を残すことはできず、少ない同胞を待ち望んでいた彼らの無念さは、本当に痛いほどよくわかる。

 彼らを奴隷として扱っていた人間を、今度は彼ら自身が自国の監獄で牢に閉じ込めるのだ。それでどうなる……とも言えないのだが、少しは溜飲が下がるのではないだろうか……。



「判決を下します。」

 妖精族の主席判事が獣人族の副判事と暫し協議していたが、やがておもむろに正面を向いて発した。


「被告らは全員終身禁固刑、但しタッタルン国王は奴隷制度に一切かかわりなく、彼らを保護した意味合いが強いため無罪とする。また、刑の執行場所は妖精国や獣人国ではなく……タッタルン王国での禁錮刑と処する。


 丁度王城地下に収容施設が出来ているため、保護されていた子らの代わりに今度は旧議員らをそこで保護することとする。


 外部からの接触を完全に断つため、妖精族、獣人族及び魔族の3者代表により強力な物理結界を地下施設周囲に施し、入り口は完全閉鎖してより強い結界で周囲から見えなくする。


 但し、食料や衣類及び医薬品などを引き渡すシューターのみ外界とつなげることとする。……以上。」


 妖精族の判事が判決を言い渡した。なんと……タッタルン王城地下施設での終身禁固刑……しかも妖精族に獣人族に魔族による、3重の結界で取り囲むだなんて……絶対に脱出できないし、外部から接触も出来ない。だが……そんな環境で、奴隷だった子らはずっと過ごしていたのだからな……先の見通しなく……。


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