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24.タッタルン王城

24.タッタルン王城


 王城までの道はきれい舗装され、装甲バスの揺れもほとんどない快適な道路だった。石切り場から巨岩を正方形に薄く切り出し、平らにした地面の上に並べているのだそうだ……いわゆる石畳……というわけだ。


 そんなことも魔法の力で楽々こなしてしまうのだろうな……重機いらず……。


 王都とはいっても、旧議員連中のお屋敷は外れの方だった……それまでも街道沿いに家々は連続して続いてはいたのだが、タッタルン王都という道路標識(俺は文字が未だに読めないので、事務長に読んでもらった)が出てからは大きめの屋敷が多くなったと思っていたら、それらが旧議長らのお屋敷だった。



 装甲バスに乗り込み30分ほど……王家専用馬車が先導しているからだろうか……どの交差点でも一切停車することなく、全て交通整理の警官が手旗で進めを誘導してくれたので、結構大きな街のようだが王城まではスムーズに到着した。


 高い石積みの城壁を城門から入ると、正面には真っ白い巨大な城が現れた……丸みを帯びたドーム状の屋根に太い石柱が何本も……1階から2階迄突き抜け、正面2階部分はテラス状になっているようだ。


 城門脇に装甲バスを停車させ、そこからは歩き……玉砂利を敷き詰めただけの殺風景なエルムグリム王城の前庭と違い(あれはあれで投石器の設置には都合がよかったのだが……)、石畳の中央通路の左右にはヤシの木だろうか……南国風の並木道が続き、通路以外は芝が植えられ所々に色とりどりの花が咲く花壇が……。


 先導するハーゲル王子に続き、俺たちは拘束して長いロープでつないだ旧議員らを誘導し、王城へと歩を進めて行く。左右には所々中央に噴水をたたえた小さな池もあり、中々な景観だ。


「どこであろうな……。」

 前を行くハーゲル王子が何かつぶやきながら地面を見つめ、時々は石畳の通路を外れ芝生の中へ入って行く。


「ううむ……わからんな……。」


 城壁から城の建物迄前庭は恐らくエルムグリム城と同様5百m程度……広いことは広いがまっすぐ歩いて行けば数分で玄関口へ着くはずなのに、案内役のハーゲル王子がウロチョロと落ち着かずまっすぐ歩かないので、一向に進んでいかない。お付きのものたちは、通路に立ち止まってただ王子の様子を眺めているだけだ。



「おお……ここだここだ!……ふうむ……城の玄関口右手……」


 暫くして大声で何かを見つけた様子……芝生のはずの地面をじっと凝視しながらしゃがみ込み、そのまま城の方へと視線を移し、顎に手をやり熟考し始めた。


 なんだなんだ……何が起きたんだ?すぐさま王子の下へ駆け寄って行こうとしたら、


「お待たせいたした……では参ろうぞ!」

 ハーゲル王子はすくっと立ち上がり、すたすたと早足で城の玄関口へと歩いていく。王子がいた場所へ向かいたかったが通路に立っているお付きが許してくれず、仕方なく通路をまっすぐ進み玄関口へ……。


「こちらです……」


 豪奢な金綺羅金の飾りがついた分厚い扉を開けて入った先は、3階まで吹き抜けの高い天井からいくつものシャンデリアが吊るされた、明るいエントランスだった。


 病院みたいに全く飾り気もなく、ただ通路が伸びているだけのエルムグリム城の玄関口とは大違いだ。


 エントランスロビーの奥には高級ホテルみたいに受付嬢がカウンター越しに待ち受けているのだが、王子はそちらには向かわずにすぐに右手に折れてエントランス右壁の行き先表示のない狭い通路を歩いていく。


「ここから地下へ行きます。」

 ハーゲル王子が通路右手のドアを開けると、地下への階段が続いていた……従業員専用なんじゃあないの?


 ああそうか……地下にある懲罰房へ向かうのだった……旧議員連中を先に牢にぶち込むつもりだ……。

 ハーゲル王子の行動に納得がいったので、後ろからロープに繋がれた議員らがついてきているか確認し、王子の後を早足で追って行く。


 地下への階段は結構長く、何度折り返したであろうか……恐らく地下4階か5階なんじゃあないの?そんな地下深くに懲罰房……わざわざ造る?首をかしげながらも、仕方なく後を追っていくと……最下層で左方向へと通路は伸びていたが、ハーゲル王子は右方向の壁をじっと見つめている。


「ふうむ……やはりな……子供のころに一度だけ……地下工事が終わった時点で探検に来た思い出がある……その時はこのまま左方向に延びる通路をひたすら歩き、突き当りの階段を上って行くと城の最奥の調理場の裏についた。当時は火災時の避難通路と教えられたのだが……わざわざ地下へ降りて避難するのはおかしい。


 そうして……城にまつわる幽霊話……城の前庭から時折姿なき女性の歌声が聞こえる……。


 恐らくこの壁には巧妙に物理結界が張られていて、更に大きな板で扉を隠しているように思える。唱えた術者以外は、余程力の差がない限り結界破りなど出来ぬはずだが……魔族のお二方であれば可能ではないだろうか……すまぬが結界を破ってみてはいただけぬか?」


 じっとただの白壁を見つめていたハーゲル王子だったが、突然振り返ってギレージュとダッフンバルト2世に結界破りをお願いした。一体どういう事?


「ほっほう……この壁に物理結界で扉が隠されているはずとおっしゃるのですね?ですが……無理やり破るということになれば……出来ないことはありませんが結界の強度も厚みも分かりませんから、衝立となっている厚板や……下手をすると扉ごと吹き飛んでしまうかも知れません。それでもよろしいでしょうか?」


 依頼に対しダッフンバルト2世が壁の前に立ち、しげしげと見つめてから王子へ振り返った。


「ああ……構いませんとも……この奥へと続くはずの通路を壊さぬ程度でさえあれば……。」


「分かりました……ではやってみましょう……デファラシュ……………………」


 ダッフンバルト2世は壁に向かって右手を伸ばし、呪文を唱えながら神経を集中させ目を閉じた……


 ハギッという甲高い木の枝が折れるかのような音がして、ダッフンバルト2世の目の前の壁が二つに折れた……というか、床から1m位の高さ部分で厚い板が真っ二つに折れ曲がったようだ……。


 すぐにダッフンバルト2世とハーゲル王子の二人で、折れた板を通路奥へとかたすと、その奥に先へと続く細い通路が現れた……本当に地下通路があったのだ……。


「参りましょう……。」

 ハーゲル王子は今現れた通路の先へと、臆せず進んでいく。


 あれ?地下懲罰房は……どうなったのだ?旧議員らも一緒でいいのか?まあ仕方がない……そのまま後を追っていく……と、途中から通路の左右にはドアノブがついた扉が現れ、恐らく両脇は個室になっているのであろう……扉上部は一部覗き窓がすりガラスになっているが、中は明かりがついていないのか暗い……。


 そのまま通路を進んでいくと……天井が高い……広場のような空間に出た……なんだ、ここは?


「アルファ……アルファではないか?」


「ぎ……ギレージュ?本当にギレージュなのか?2百年前にうまく逃げ出せたと聞いていたのだが……またもや捕まってしまったのかい?だがまあ……ここでの生活はそんなに悪くはないよ……そこそこ自由だし、何より食べ物には不自由したことはないからね……。」


 ギレージュが見つめる方向へ視線を移すと、部屋中央の2mくらいの木の上に尾長ザル並みに尻尾が長く、2足歩行ではあるが体毛がゴリラ並みに濃い獣系の獣人が立っていた。顔は……猫系……というより豹とかトラ系……?よく見るとあちらこちらに人影が見える……さっきまで見えなかったのは隠れていたのかな?


「彼がアルファ?ということは……ここに捕らえられている奴隷だった子が?処刑されてはいなかった?」


「ああ……恐らくそうではないかと思ったんだ……国王様は……そんな残酷な方ではないからね。


 先のエルムグリムと魔王国の戦争だって……どうせすぐに大魔導士を異世界から召還して、国境の山脈に物理結界を張りなおして貰うはずだから、双方に被害なんて出ないって当初仰っておられた……ところが大魔導士召喚が遅れて十数万のエルムグリム兵が犠牲になったと聞き、大変心を痛めておられた。


 下手に援軍の返事をするとエルムグリムもやる気になり戦線が拡大する恐れがあるから、わざと国境を閉鎖して音信不通としたのに軍を進めてしまった……とね……国王様の読みが外れてしまったのは残念だった。


 そんな国王様だから奴隷だった子らの処分に困って……なんてことはあり得ない……丁度20年ほど前に城の改修工事を行っていたことを思い出した……それと城の幽霊話とね……それでピンときた。


 恐らく地下施設を作って、そこに保護しているはずだとね……予想が的中したね……。」


 ハーゲル王子が自慢げに胸を張る……ううむ……王子の勘違いだったら城の地下道を破壊することになって大騒ぎだったはずだが……まあ……結果オーライか……。


 それにしても……タッタルン王は歴代の魔王国軍侵攻に際して、エルムグリムが大魔導士を召喚して追い返していたことを知っていたんだ……そうして今回もそうなる予定だった……だけど……。


 それにしてもこの部屋……案外明るいな……シャンデリアの蝋燭の明かりではない……所々から強い光が上から降り注いでいるようだ……何かの魔法なのか?


 百畳敷きくらいはありそうな地下室は、床……というかむき出しの地面には芝が一面に植えられ、点々とある明かりが強い場所には花壇があって色とりどりの花々が咲き誇っていた。更に部屋中央部には高さは2mほどだが幹の太い巨木と言える木が植わっている……。


「直接光を見ると目を傷めるよ……そこは集光して地上の光を送っているからね。」


 強烈な明かりの正体を見極めようと、花壇の脇まで来て上を見上げようとしたら後ろから声がかかった……美しい顔立ちをした細身の女性……透き通るような白い肌にほぼ黒目の大きな目、腰まで達する金髪に細い指に身長は150もないくらいだろうが……手足長っ……!


「あたしは妖精族のミレンよ……あなたのお名前は?」


「おっ俺は……多々羅文美雄と言います……地上の……前庭の光をここまで送っているのですか?」


「そうよ……鏡を縦の通路に沢山並べて……光を送っているんだって……わざわざすごいわね……。」


 妖精族のミレンは、少し上を見上げた後俺と目を合わせ、にっこりとほほ笑んだ……なんとっ……美しい……かわいい……流石妖精……。


「その……ここは……元々奴隷だった方々が閉じ込められている場所なのでしょうか?一体何人ほどいらっしゃいますか?なんか……すごく明るいですけど……不自由はありませんか?」


「えーっ……うーん……そうよ……ここにいる子らはみーんな元奴隷だった子。全部で16人いるよ。でも随分前から……何百年も前から待遇はよくなったのよ……普通に食事もできたし……でもみんな閉じ込められたままでずっと一人だった……悪いことして牢屋に入れられた囚人……って感じかな。


 ところが20年くらい前からここへ皆集められて……一緒に暮らせるようになったの。


 だから……今は普通の生活かな……本当の外には出られないけど、それでも食べることと着るものだって不自由ないし、寝る所だって……ふかふかのベッドがあるからね……。」


 ミレンは笑みを絶やさずに、それでも考え考え答えた……もしかすると未だに奴隷としての怯えがあるのかもしれない……そりゃそうだよな……今だって捕らわれの身に変わりはないのだからな……。


「皆で16人いるそうですよ!だったらエルムグリムで確認できた、未だに残っていそうな可能性のあった……ほぼ全員ですよね?」


 事務長もダッフンバルト2世も……他の魔導士たちもみな広場的な場所の隅々へ散り、それぞれ奴隷だった子らに話を聞いているようだ。まずは全員無事そうなことを伝えておく。


「勿論!全員無事なはずですよ……そんな何百年も前の暗黒世代じゃあるまいし、今更奴隷制度って……流行るわけないでしょ……さあて……全員無事なことが明らかになったことで……旧議員さんらの拘束……解いて頂けませんか?」


 地下広場入り口から動いていなかったハーゲル王子が、旧議員らの拘束を解くよう言い出した。確かに……奴隷に関わったら最高刑は死罪だが、彼らの先祖が行った事であり、もう220年も前から虐待は行っていなかったのだから、そう考えると彼らを奴隷として扱っていた訳ではないことになる。


 特にここ20年近くは、ほぼ自由に過ごさせていたわけだからな……そうなると……無罪なのか?


「よおく分かりました……確かに彼らに奴隷として扱われていたという意識はないようですね……少なくともここ2百年ほどは虐待はなかった様子。だが……奴隷の扱いが重罪となってしまったがために逃がすことが出来なくなっていただけ……それだって……逃がせばよかったのだろうと感じますがね……。


 あくまでも罪を逃れようと……虐待はしないまでも檻に閉じ込めていた……その罪は軽くはないと考えますが……それだって一世代前に行った事……彼らにその罪を問うことは難しいでしょう。


 ダッフンバルト2世殿とギレージュ殿……如何お考えでしょうか?拘束した彼ら自身にはさほど大きな罪はないように感じられますが……それでも先祖代々からの罪を背負わせますか?」


 羽が生えた小さな妖精族の子と話していた事務長が戻ってきて、取り敢えずは旧議員らに直接の罪はないことを認めた。あとは……当事者でもあった魔族の意見だよな……。


「私個人の意見としましては、彼らに直接の罪はないと思われます。遥か何百年も前の先祖が犯した罪を背負わされ、何とか隠そうと画策していただけのように見えますね……その程度なら、許してやってもいいかと……ギレージュはどう思います?」


「私は……もし今私たちがここへやってこなければ……彼らはこの先一生……ずっとこの狭い空間の中で……虐待はないにしても、ひもじい思いはしないとしても……それでも閉じ込められていたと考えます。


 確かにそこそこ自由は認められているようです……額の護符もなく手鎖も足管や重りの玉もないまま動けていますし……ですが壁や天井至る所に禁呪の護符が貼られておりますし、私たちならともかく……奴隷生活が長い彼らでは、この程度の束縛ですら打ち破ることはできず、閉じ込められたままだったはず。


 なのにそれまでの生活が……人間どもから常日頃から受け続けた暴力ともいえる虐待がひどく……この閉鎖空間での生活が幸せで自由とまで感じている……そのことを想えば……それまでの生活がどれほど悲惨なものだったのか……あなたたちにだってわかるはずです。


 私は……罪に問わずに彼らをそのまま開放することには、反対です。そもそも……彼らは始末したはずの奴隷たちが未だに……しかもある程度自由に動けている様子を見て、すっかり怯えているではないですか。


 狭い通路から未だにこの広い地下空間へ出て来れていません……報復を恐れているのでしょう……それは……自分たちに非があると認めていることになりませんか?」


 ギレージュに言われて気が付いたが、確かに両手を縛られてロープに繋がれたままのはずの旧議員らがこの広場に居ない……数歩歩いて通ってきた通路の方を眺めてみると……数人残った魔導士らがロープを掴んで旧議員らを地下広場へ誘導しようと引っ張っているのだが、全員が尻もちをついて動こうとしない。


 そうだ……ギレージュが言う通り、奴隷の子らが生きていたことを知り、報復を恐れて中へ入ってこられないのだ……彼らの額に禁呪の護符は貼られていないわけだからな……それでも実際は、人間を襲うことはできないという呪詛の入れ墨があるから安全なはずだが……20年近くも離れていれば忘れているわな。


「じゃ……じゃあ……こうしましょう……やはり彼らは国際法廷で裁判を受けていただく……それまではこのお城の地下の懲罰房に収容しておいていただく。


 行方が分からなくなっていた奴隷だった子らが無事だったことも分かりましたし、情状酌量の余地もありえますから、後は妖精族と獣人族にお願いした、裁判官の裁定次第ということになりますね。ギレージュ殿も……それでいいですよね?」


「私は……個人的には彼らを八つ裂きにしても飽き足らないところですが……まあでも正式な裁判の裁定に任せますよ……。」


「はいっ……それで……彼らはもう自由でいいですよね?解放していいですよね?国際会議には妖精族も獣人族も使者が来ますし、彼らと一緒に国へ帰ることが出来ますよね?勿論魔族の子だって……。」


 生きていたことが分かっただけで安心していたが、ここは他国……しかも王城……彼らは王城地下に監禁されている身の上なのだ。まだ解放されたわけではないのだ……。


「そりゃあもちろん……これ以上ここで生活していただく理由はもうない……あくまでも奴隷という過去の汚点を、隠し通そうというだけの画策だからね……王さまだって喜ばれることだろう……。」

 ハーゲル王子がしっかりと頷いた。


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