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23.大ピンチ?

23.大ピンチ?


「お言葉ですが旧議長殿……エルムグリムが貧しい国となって行ったのは、あなたたち旧貴族議員らの汚職や背任行為が主な原因……タッタルンからの国費を使った魚介類の輸入品を横流しして私腹を肥やしたり、公共工事の談合への加担に工事予定地を親族で買い占め地上げなど……挙げればきりがありません。


 魔王国進攻の際に破壊した東方の町や村々の復興を行っておりますが、過去2百年分に行った公共工事に匹敵する工事が、わずか数年分の国家予算で賄えて居ります。そのことはつまり、余計に上澄みされた分の予算が、あなたたち貴族議員らやその周辺の一部の業者たちに回り、国民に還元されていなかったことを示します。


 不正をただそうにも旧議会の議事録は完全極秘扱いで、国王様ですら見ることはできない状況であり、正にやりたい放題であったでしょう。


 今では元老院議会は完全公開で、いつでも見学者を受け入れておりますし、議事録も転写して各都市の図書館にて誰でも閲覧可能となっております。だから我々のやり方が正しいのだ……等とおこがましいことを申し上げるつもりはありません。


 ですが、はたから見て、あなたたち貴族議員らが行っていた政治は、国民に対する政治ではなく、あなたたち貴族議員らの私腹を肥やすための政治でしかなかったことは明らかです。それは……ようやく半分ほど終了した、あなたたちの不正がらみの裁判結果が証明しています。」


 自分たちの行いを棚上げし、エルムグリムを非難する旧議長にたいし事務長が反論……なんと……どんだけ私服肥やしていたんだ?2百年分に行った公共工事が、わずか数年分の国家予算で賄えたって……?


「ふんっ!最高裁判所の判事も総とっかえし、自分たちに都合がいい判決を行う裁判官ばかりだから、いくらでも冤罪を作り出せるだろうな……そんな判決……すぐにひっくり返してやるつもりだ。


 お前たち魔族も、エルムグリムがいい様に作り出した、偽善にまみれた政治とやらに乗っかかってここまでやってきたのだろうが……運のつきだったな……まさか今頃になってまたもや奴隷にされるとは……思いもしなかったことだろ?」


 旧議長は不敵な笑みを浮かべ、勝ち名乗りを上げる。


「奴隷を絶対服従させる呪文をご存知ということは、旧議長!あなたが奴隷売買に関わって来た、確たる証拠なのですぞ!奴隷に関わるのは重罪……遥か何世代も前の先祖の罪であればまだしも、今現在あなた自身が奴隷の扱いに関わってきたと言うことは、死罪に値することなのですぞ!」


「ふっ……正にその通りよ……ここに連れてこられた旧議会議員らも同様、わしらがエルムグリム国内で先祖代々に渡り、奴隷を飼っておったわ……だが別に、ひどい拷問をしたり虐待していた訳ではないぞ……何世代か前に余りに酷い仕打ちで呪詛文字の一部が消え、力を持った魔族が逃げ出すという事件が起こった。


 幸いにもその家の主人は外出中で、屋敷の護衛のものたちが殺されただけで済んだが、そいつは復讐を恐れ屋敷を売り払い、更に貴族の称号も返納してどこかへ消えて行った……。


 それ以来、ご先祖様は奴隷を虐待することは一切やめたし、互いに見せ合って自慢し合う品評会もやめた。


 だが……逆に奴隷らを開放することも出来なくなった……既に妖精国も獣人国も魔王国すらも国家として確立し、逃がした奴隷らが母国に合流してこれまでのことを告白すれば……既に奴隷禁止法が制定されて2百年……奴隷に関わったものは最高刑が死罪だ……とても開放する気にならず、ひっそりと育てていた。


 それのどこが悪い?人目に触れさせられないから地下の檻の中に匿ってはいたが、きちんと日に2度の食事は与え、日光浴や運動だってさせていた。見返りに労働を強いたこともない……どの道外へ出せぬから、畑仕事も……庭園の草むしりすらさせられなかったからな……。


 それでも奴隷を飼っていたなら死罪だと……お前は言うのであろう?だが……どうやって罰する?強いことを言える立場か?既に魔族一人はわしの管理下にあり、もう一人だってすぐに服従させてやる。


 その上で……お前たちの命まで奪おうとはせん……だがエルムグリムへ帰り、王政を取りやめて元老院も解散した上で、改めて国会議員総選挙を行うのだ!もちろんお前たちの立候補は認めない。


 参政権も被選挙権は旧令通りに、貴族かもしくは貴族の子息に限るとするのだぞ……そうしなければ、魔王以下魔王国すべての魔族らを操り、直接エルムグリムに攻め込んで大量虐殺させてやる。今度は小鬼の軍団ではないぞ……いくら勇者がいたとしても、魔族相手に戦えるかな?


 わしだってそんなことは絶対にやりたくはない……だから言うことを聞くのだ!」


 なんと……言う通りにしないと、魔王らを操ってエルムグリムを直接攻めて、大量虐殺だってーっ?


 魔王国が小鬼らを操って、にっくき人間の国であるエルムグリムを攻めさせた理由は分かっていたけど、全て小鬼ら任せで自分たちは関わっていなかった理由も今はっきりした。魔族は呪詛の為に人間を攻撃することも、それを命じることも自分では出来なかったのだ。


「奴隷を飼っていたという……罪を認めましたよ……如何なさいますか?」

 ところが事務長は冷静に、廊下の向こう側に向かって大声で呼びかけた。


「旧議長……まさかあなたたちが奴隷売買に関わっていただなんて……しかも魔族らに施しておいた呪詛を使って操った上でエルムグリムを直接攻めさせるだなんて……そんな怖ろしい事……やってはいけませんよ……もっと冷静になってください……。」


 キーの高い声色で現れたのは……ふんわりとした羽毛で作られたストールを首に巻き、華麗なスーツに身を包んだハーゲル王子だった……。


「旧議員らのお宅を回っているときに、騒ぎを聞きつけ王子様がやってこられた。すぐに事情を説明すると立ち会うとおっしゃられ……ここ迄ついてこられたのです。」

 事務長が微笑ながら王子を紹介した。


「こっこれは王子様……お見苦しいところを……ですがエルムグリム統合は、タッタルン国王さまの悲願でもあります。議会制民主主義が復活して我々が再選できればなお良しですが、こ奴らが言うことを聞かねばやむを得ないことかと……。」


 ちいっ……やっぱりタッタルン国王はエルムグリムを滅亡させ、自国領に取り入れるつもりだったんだ。その為に魔王国を操って何回も攻め込ませ……。


「やむを得ないって……大量虐殺が……でしょうか?怖ろしい……国王様だって、かような残虐なことはお望みではありませんよ……魔王国がどうしてもと主張するからエルムグリム侵攻はお認めになったが、こちらから仕掛けさせるだなどと……とんでもない。


 ましてやあなたたち旧議員らが、エルムグリム内の奴隷売買に深くかかわっていただなんて……国王様が知ったらお嘆きになられますよ……して……その……奴隷らはどこへやったのです?先ほどから事務長殿が家々をくまなく探し回っても、隠し部屋などどこにもありませんでした。


 証拠隠滅させぬためにと、家主らを拘束して連れて行くと申していたのですが、このお屋敷に全ての奴隷が捕らわれているのでしょうかね?ご承知の通り、ここタッタルンでも奴隷売買は重罪ですぞ!あなたたちのような罪人は、即刻国王様に報告してその庇護を解かせていただきます。


 重罪人として捕らえて、タッタルン国内で裁かせていただきますよ。観念しなさい……さあっ……奴隷たちはどこへ隠したのです?」


 旧議長の思惑は外れ、今度はハーゲル王子が奴隷売買は違法だと騒ぎ始めた。なんだか味方の様子だな……


「仕方がありません……少々手荒な真似をするかもしれませんが、タッタルン国王さまにはあとでお許しを請うことにいたしましょう……わしらが奴隷を飼っていたことは……国王様はご承知なのですぞ……。


 百年ほどで旧国境山脈の物理結界が薄れ、ここ何十年かはいつ結界を破って魔王国がエルムグリムに攻め込むのか、秒読み段階でしたから……流石に攻め込まれた時点で奴隷らを移動させるわけにはいかず、かといって残しておけば後で家主を突き止められ殺されかねない……20年ほど前から処置に困っておったのです。


 タッタルン国王さまにこのままエルムグリムに置いてはおけぬから、タッタルンへ移動させると申し出て、それなら国際会議の開催中は妖精族や獣人族らに嗅ぎつかれる危険性があるから、合間の期間にしろと命じられました。そうして3年かけてすべての奴隷を、タッタルンへ運び込んだのです。


 ですが……ここタッタルンでも王都で奴隷らを匿うことは難しく、国王様に全員お預けして処分していただきました。全ては国王様も関係していらっしゃることなのですよ……」


 なんと……奴隷のことはタッタルン国王承知の上でのことで……しかも……処分しただと?……妖精族や獣人族に嗅ぎつかれると困るから、国際会議の開催場所を最西部の町に切り替え、それでも心配で……処分してしまったというのか……?


 急に背中でがっしりと掴まれていた拘束が解けたかと感じるのと同時に一陣の風が……


「なんだとぅー……奴隷らを処分しただとーっ……」


「ばっ……何をやっておる!命令に背くつもりか?心の臓が止まるのだぞ!命令違反をして胸が苦しいはずだ……さあっ……馬鹿なことをやめて、勇者を拘束しなさい!」


「ふんっ……誰がお前の命令など……こいつらを殺しただけでは足りん!タッタルン国王をもひっとらえて、処刑してやる……よろしいでしょうな?賢者殿……。」


 絶対服従の呪詛で操られていたはずのギレージュだったが、そんな様子もなく旧議長の襟首をつかんで片手で高々と持ち上げた。


「ギレージュ殿……旧議長らの処罰は法廷にて正しく裁かれます。約束するので、すまぬが……手を放してやって頂けぬか……ここで殺してしまうと……今度はギレージュ殿を裁かねばならないことに……。」


「賢者殿が言われた通りだ……ギレージュ……すぐに手を離すんだ!」


「はっ……はあ……」

 ギレージュは悔しそうに涙目のままで、それでも旧議長を掴む手を離した。


「げほっげほ……どどっ……どうして絶対服従の呪文がきかないのだ?もう一度……ダーマハリヤ……」


「何度やっても同じですよ……あなたが先ほどおっしゃっていたではないですか……主人の虐待がひどすぎて、体に入れた呪詛の文字が消えて逃げ出した奴隷がいたって……それがギレージュですよ。


 ギレージュは禁呪の呪詛迄入れ墨にされていたのが、あまりにひどい虐待のために体中の皮が裂け、こそぎ落とされたがために呪詛の文字が所々消えてしまい、やがて全ての呪詛から解き放たれたのです。


 自らの意志で人間を殺すことも命じることも出来ます……魔王国の中で彼一人だけが、エルムグリム侵攻の命令を小鬼らに発することが出来たのですね……ちなみに私も……今回エルムグリムの訪問中に、ギレージュにお願いしてもらって、特級魔導士であるレルム殿に絶対服従の呪詛効果を消して頂きました。


 事情を聞いたレルム殿が急遽魔王国へと向かい、魔王様以下全員の呪詛を消して頂けるようです。そもそも絶対服従の呪詛は……至近距離でしか発動せずにしかも短時間のみ有効。更に一度唱えた術者が死なない限り他者は発動できなくなる……結構面倒な呪詛なので、ほとんど使われることはなかったはずです。


 まさかこれから魔王様以下魔族全員を呼び出して絶対服従の呪詛を使ったとして……全員を意のままに扱うには常時呪文を唱え続けなければなりませんでしたよ……ほとんど眠らずにね……そうしなければ魔族全員を意のままに扱うことなど出来なかった……まあ、現実的ではありませんが、脅しには有効でしたね。」


 そう言えばずっと前に入れ墨について言っていたような……あの時は禁呪の呪詛についてだけ話していたのだが、絶対服従の呪詛に関しては話せば死んでしまうから口に出せなかったわけか……。そうしてようやく今回訪問時にレルムに呪詛を消してもらった……それだって自分では言い出せずにギレージュの口を借りて……。


 だがレルムが魔王国へ行ったことで、これでいつでも魔王らが自由に他国へも訪問できるということになったわけだ。ある意味ちょっと怖いことは怖いな……。


「ちいっ!だったら、どどっどうしてこんな……まどろっこしいことをしてまで……。」

 旧議長が浅黒い顔をゆがめ、悔しそうに下唇を噛む。


「それは……あなたたちがちょっとやそっとのことで口を割らないと容易に想定できたからですよ……証拠を持ってきたところで捏造だのなんだのと……言い張って決して認めようとしない。


 認めないだけなら別段自白なしで法廷へ届けるだけですが、それでは未だに捕らえられているはずの奴隷の子らの消息がつかめません。なので……賢者殿とともに一計を案じたというわけです。


 わざと仰々しく旧議員らの屋敷を順に捜索していき、証人となる人物を呼び寄せた上で自白を引き出し、更に捕らえられたものたちの居場所も判明する予定でしたが……予定通りにタッタルン王子の誘導には成功しましたが、何とも残念な結果に終わりました。


 仕方がありません……このままタッタルン王宮へ出向き、国際会議の議題の下にタッタルン国王を拘束し、国際法廷にかけることといたしましょう。


 時機に妖精族と獣人族の使者がやってきますので、判事をお願いして裁定していただきましょう。奴隷の子らに手をかけたからには……如何な王たるとも死刑は免れぬかと……。」


 なんと……ここ迄のことはお芝居だったという事か……しかも事務長は知っていた……俺なんかに打ち明けておくと、表情や言葉尻から相手に感づかれると思って内緒にしていたんだな……まあ正解だろう。


「まま……待ってくれ……国王様は……悪くない……。」

 それでもハーゲル王子は、タッタルン王をかばおうとでもいうのか?


「うん?そうはおっしゃられても……かばう気持ちはわかりますが、先ほどの旧議長の言葉に嘘はないものと……恐らくタッタルン国王が、連れてこられた奴隷らの処置に困って……。」


「いや……そうではない……そうではないのだ……。」


「どういうことですか?もしや……ハーゲル王子……あなたもエルムグリムから連れてこられた奴隷のことをご存じで?」


「まさか……全く知らないことだ……20年も前だろ?当時……私はまだ5,6歳……しかも王城に連れてこられたばかりの頃で……そのようなことに関わるはずも……」


「あっああ……そうでしたか……では如何されましたか?」


「ああ……どうせこの者たちは、国際法廷に訴えられるのであろう?そうして今回の国際会議開催場所は、タッタルン王都……だったら丁度いい……これから全員で王城へ出向くとしよう。


 私が王城に召し上げられてからはずっと国際会議の開催は、獣人国との国境の町と決まっていたが、その前までは王都の王城にて開催されていたと聞いている。


 どうせ今回も王城で開催されるはずだし、王城ならば懲罰房もあるから彼らを捕らえておくにも都合がいい。

 参ろうぞ……。」


 ハーゲル王子は国際会議は王城で開催されるから都合がいいと言いだし、そのまま先頭に立って歩きだした。つられて全員歩き出したが、なんだかしっくりとこない……。


「ハーゲル王子は旧議員らの味方で彼らを擁護するものと思っていましたけど、擁護どころか懲罰房に捕らえておくって……随分心変わりしたようですね。


 財産没収されてタッタルン王家の補助で細々と暮らしているって聞いてはいたけど、流石にうっとおしくなってきたんでしょうかね……。旧議長らが先ほど冤罪を証明するために色々と動いているようなこと言っていたけど、それは自分たちが復活できることをアピールしていたんじゃあないかと……。」


 旧議員らは今ではタッタルンのお荷物でしかない。それでも各戸大きなお屋敷を構えているし、家政婦だって一人や二人ではないはずだ。専用のコックだっていそうだしな……そうなると彼らの生活援助だって、かなりの規模になってきて……これから先何年間も……となると負担感は大きいはずだ。


「タッタルンは豊かな国だが、それはエルムグリムはじめこの大陸内の他国……妖精国や獣人国からの不平等な交易によって成り立っていたと言っても過言ではないはずだ。領土が群を抜いて広いわけでもなく、広大な肥沃な大地があるわけでも海産資源が豊富なわけでもない。


 魔王国は別として……他の3国とほぼ変わらぬ資源の中で、これまで大きく発展してきたのは策謀を巡らせた上で、他国から搾取を行ってきたに相違ない。


 彼ら貴族連中は恐らく長年に渡りタッタルン寄りで、特に国会議員になってからは多くの富をタッタルンへ流し続けていたはずだ。だから……その貢献者である彼らを、見放すことはありえんだろうと思っている。


 このまま裁判になれば恐らく彼らは全員死刑だろう……奴隷の子を代々継続して飼っていた上に、すべて処分してしまったのだからな……だがその処分を行ったのがタッタルン王となると……処分した王に責任を押し付けて彼らの命乞いをするという事でもなさそうだ……どのような考えがあるのか分かりかねるな。」


 事務長は疑わし気に、少し首をひねりながら眉をひそめた。そうだよなあ……まさかタッタルン王含めて全員死罪……だなんてことに……なったら大事だぞ……。


 いや……まさかとは思うが……王城へ着いた途端に大勢の兵士に囲まれて……逆に俺たちの方が拘束された上に処刑されてしまうとか……か?こっちの兵士はたったの16人……だが魔族が二人もいるぞ……


 しかも人間を憎んでいるギレージュがいるから……そんな場面になったら容赦しないだろう。

 ううむ……修羅場だ……修羅場……そうはなって欲しくない……。



 お屋敷の外に出て、拘束した旧議員らとともに装甲バスへ乗り込む……座席にはまだ余裕があるのだが、ハーゲル王子は豪華に飾られた専用馬車におつきとともに乗り込んでいった。


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