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.22.旧議会議長宅

22.旧議会議長宅


「民主化運動が強まる中、王政継続を望む王に加担して表面上だけは議会制民主主義の復活を宣言し、選挙前にわしら旧議員らを策謀で貶め選挙戦に勝利した途端に王政復古を宣言しおった。


 王による独裁政治を防ぐために元老院制度などと……言葉だけの民主主義を掲げおって……エルムグリムの民衆の心をないがしろにする、正に悪魔……お前なんか異世界から召還された悪魔に違いない!


 直ちにこの世界から立ち去れ!お前など、この世界には不要な存在だ!」


 俺が勇者だと自己紹介すると、それまでびくびくと怯えていたはずの旧議長はすっくと立ち上がり、厳しい語句を並べ立て俺を糾弾し始めた。なんだなんだ、これは……


「腐敗政治でエルムグリムの民を苦しめていたのは、旧議会議員であるあなたたちの方でしょう?


 汚職や背任行為で自分の懐を肥やすことだけ考えて、ひたすら搾取を続けた……エルムグリムの国民は、皆戦前の暮らしには絶対に戻りたくはないと言っていますよ……働いても働いても暮らしは楽にならず、ひたすら搾り取られるだけの生活だったから……そうして戦後の今の生活を謳歌しています。


 議会制民主主義を掲げた選挙戦には、旧議員らの息子や弟など親族がこぞって立候補したではないですか……あなたたち旧議員らは全て汚職と背任行為で有罪判決が出てしまいましたからね。


 それで全員落選した……あなたたちのころの政治を認めている人々が過半数を占めていたなら、恐らく選挙結果は逆だったでしょうね……つまりあなたたちの行っていた政治は、国民の支持を得られていなかったという事ですよ。それでも貴族以外は立候補することすらできなかったから……誰を選んでも同じ結果にしかならなかった。参政権が改定になって、ようやく民意が反映されただけです。


 そうして……誠実で信頼のおける王様の政治が続くことを願っていた……それが国民審査の結果です。


 それでも王様は、権力が一人に集中すると独裁政治となり腐敗に繋がると嫌った……だから仕方なく元老院を立ち上げ、そちらは選挙で国民の中から選ばれることとし、民衆の意志を反映できることを条件に王様の政治の継続を承知していただいたのです。


 俺はエルムグリムの王様は、本当に優しい心を持った素晴らしい方だと思っていますよ。でも……王様はおっしゃっておられました。貴族議員だって……かつての貴族とは地方の豪族であって、その地方の民の願いを受けて、体を張って領地を守った人なのだと……。


 ところが世襲が長く続くと、その権力が当たり前のように感じるようになり、やがてその権力を私欲のために使い始める……それが腐敗政治に繋がるのだとね……あなたのご先祖は恐らく地元の民のために体を張って、皆の住む土地を守った素晴らしい人だったはず……なのになぜ……と本当に思ってしまいます。」


 取り敢えず言われたからには言い返してやる……お前らこそ民を苦しめ続けた悪党なのだからな。こんなこと……元の世界の俺だったら到底できなかったことだけど……今の俺ならできる……のだ。


「ふんっ!とってつけたような理屈をどれだけ並べても、お前らと王が結託して、永い独裁政治を続けるために画策したことに違いはないのだ。庶民らの今の暮らしが良くなったと思えるのも、わしらを不当に貶めて冤罪を並び立て、財産没収して国外追放した財源があるからではないか……金をばらまけば民は喜ぶからな。


 破壊した町や村の復興に消えてしまうとはいえ……魔王国からの莫大な賠償金も経済の支えになっているはずだしな……あんたら魔族は、エルムグリムからの食糧支援や様々な技術援助に随分と感謝している様子だな……だがそれもほんの数年だけのことだぞ。


 すぐに食糧支援は打ち切られ、更に技術援助の見返りに収穫の大半を差し出せと要求してくるに違いないのだ。元々貧しい国なのだからな……ばらまき政治が長く続くはずはない。


 それよりも十分な財源が国庫にあり、今も潤っているタッタルンを頼ったほうが得策だぞ……これまでだって長い年月ずっとタッタルンとうまくやって来たではないか……今ならまだ間に合うぞ、だが……余り待たせるとタッタルンが機嫌を損ねて、これまでのような五分の付き合いが出来なくなってしまうかも知れん。


 十分吟味されて、付き合う国を考え直されるがいいだろう……。」


 それでも旧議長はひるまず、自身の解釈を振りかざし弁舌を始めた。どうやら魔王国がタッタルンとの協定を破棄し、エルムグリムと親密に付き合い始めたことを面白く思っていない様子だ。元々はエルムグリムの国会議員であったはずなのに……今はタッタルン寄りか……。


「今のエルムグリムは大きく復興し、皆豊かな生活を享受していますよ……元の生活では夫婦共働きでも子供を養う余裕もなかったと聞きました……でも今では子育て環境も充実し、暫定的な一夫多妻制度もあってベビーラッシュで、人口も大きく増加しております。


 それもこれも……今の王政が適正であることを物語っていると俺は思っていますよ。」


「ふんっ!今のうちだけだ……言いたいように言っておけ!それよりも、一体何の要件だ?まさかエルムグリムの復興自慢をしに来たわけではなかろう?こんな……開いた魚なんか持ってきおって……冷凍すらしておらん……魚がタッタルンで手に入らんとでも思っているのか?」


「いえいえ……滅相もない……ですが元々エルムグリムでは魚介類は非常に高価で、庶民には到底手に入る値段ではなかったようですが、今では普通にどこのマーケットでも流通しております。最西部の都市にだって、毎日鉄道を使って新鮮な魚介類が届いておりますからね。


 今回持参したのは魚を開いて天日干しした……いわゆる保存食です。ですが……普通に生の魚を焼いて食べるよりも味が濃くて、大変おいしく召し上がれますよ。どうやら旧エルムグリムでは干物文化がなかった……まあ海のない国でしたからね……仕方がないでしょうが、今は干物でも普通に食べられていますよ。」


 おりあえず魚の干物の説明をしておく……海に囲まれた大陸なのだが……魚介類は恐らくタッタルンが独占していて、他国の特に庶民らには流通していなかったはずだ。逆に独占した魚介類を当たり前に食べていた貴族議員らは、干物なんて食べたことがないだろうと考え持参したのだ。


「こんな生臭いもの……とてもうまいとは思えんな……だがまあいい……今晩にでも調理させてみるか。


 それよりも……エルムグリムの名産品でも持ってきて……タッタルンとの仲を取り持ってほしいとでも、嘆願に来たのか?まあ……本心から詫びるのであれば、考えてやらんでもないぞ。」


 ハルシューさんの言っていた通り、余り余裕のある生活とは言えないのだろう……口とは裏腹に土産物は捨てずに家政婦さんに手渡したようだ。そうして……とんでもないことを言い出した……。


「随分横柄な輩ですね……まずは客人をもてなそうという態度も見られない……。」

 ギレージュがこぼす通り、家政婦に魚の干物を見せに持ってこさせただけで、お茶も出て来そうもない。


「それよりも……どうですか、ここに……アルファはいそうですか?」

 周りには聞こえないよう、口の中だけでぼそっと呟く。


「駄目ですね……恐らくここにはいないようです。」


「私も同感です……ここにはいない……。」

 残念ながらギレージュもダッフンバルト2世も、アルファを感知することはできない様子だ。


「まさか……タッタルンにはいいように騙されてきたということが分かってきましたからね、仲を取り持っていただこうなどと考えてもおりませんよ。それよりも……旧議長のお屋敷に地下室がありましたよね?そこで……何百年間にもわたって、獣人族系の子が奴隷としてとらえられていた形跡が見つかりました。


 ここにいる魔族の方々が見つけて下さったのですが……ご存知とは思いますが奴隷売買は重罪で、かかわったというだけでも最高刑は死刑です。事情聴取に参りました。」

 仕方がないので、わざわざタッタルンまで出向いて来た用件を明確に告げる。


「なっ……ばっ……馬鹿な……奴隷など……そんなもの知らん!」


「おとぼけになられても無駄ですよ……ご先祖のせいにしようとしても駄目です。つい19年ほど前まで、旧議長のお屋敷の地下室の大きな檻の中で、獣人族の子のアルファが捕らわれていた形跡が見つかりました。


 つい220年ほど前までエルムグリムで同様に奴隷扱いされていたという、ここにいるギレージュ殿はアルファの知り合いで、彼が未だに獣人国へ戻っていないことを知っています。アルファは今どこにいますか?」


 こうなりゃ徹底追求だ、なんとしてでも口を割らせてやるため、魔族が見つけ出した動かぬ証拠のレンガを見せてやる。中には獣人の子の抜けた乳歯の牙と毛が入っているのだ……。


「こんなもの……捏造に決まっている!騙されてはいけませんぞ……恐らく、現場検証しましょうと誘われて、わしが住んでいた屋敷に魔族のあなたたちが連れていかれたのでしょう?


 当初わしらが立ち会った家宅捜索では奴隷に関するものなど何も見つかっていなかった……なのにどうしてわしらが国外追放された後に見つかるのだ?おかしいと思われませんか?


 こんなもの……完全なでっち上げだ。考えてみればわしらが貶められた嫌疑だって、全てはわしらがいない場で見つけられたものばかりではないか……不正不正と主張しているが、全ての証拠がでっち上げられたものではないのか?騙されてはいけませんぞ!このままではエルムグリムの思うつぼだ!」


 ところが今度はこれまでの疑惑も含め、全て捏造だと主張し始めた。


「ですが……このレンガのくぼみに納められているのは、間違いなく獣人族の子供の乳歯と、その体毛です。


 このようなもの……獣人国と直接の交流のないエルムグリムで準備できるものとは考えられません。それに……レンガに刻まれているのは文字ではなく、我ら奴隷として扱われて者たちのみに伝わる暗号なのです。


 文字として記録を残そうものなら……もしそれが主人に見つかってしまったなら、ひどい罰を受けて捨てられてしまいます。なので人間には感づかれないよう細かな曲がり方や跳ね等を用いて、符号としているのです。人間にこの符号をまねることが出来るとは、考えにくいのですよ……。」


 それでもダッフンバルト2世は冷静に、暗号文字は人間には書けないと旧議長の推察を否定した。


「だったら……だったらですよ……未だにエルムグリムでは……そっそうだ……エルムグリム王家では未だに多くの奴隷を飼っていて、そいつらに書かせたに決まっている。その……先ほど言っていたアルファ?でしたかな……そいつもきっとエルムグリム王家で飼っていて、そいつに書かせたものに相違ない!


 言われた通りに記せば……解放してやる……とか嘘を並べ立ててですなあ……そこにいる勇者や、相棒の賢者は策謀家で、先の戦争でも色々と汚い手を使われたでしょう?そうして戦勝後は我々旧議会議員らを貶めて、自らの権力の安定を図った……騙されてはいけませんぞ!悪いのは全てこ奴らなのです!


 我らにかかる疑惑は全て仕組まれた罠なのです!タッタルン王家にご協力いただき、エルムグリム王の陰謀を暴こうと、その裏付けを取っているところです。どうか……目を覚ましてくだされ!」


 それでも旧議長の糾弾は止まらない……何を言われても、全ては陰謀と主張するつもりなのか?今更そんなことして何になる?魔族含め、俺たちの怒りを買うだけではないのか?いや、でも……本当に、タッタルンと共謀して、全て冤罪と主張する裏付けを探しているとでもいうのか?まさか……


「私自身はあなたのお屋敷に行ったことは、奴隷時代にはありませんでした。ですが品評会とやらでアルファとは何度も何度も出会い、その都度近況を聞いたり打ち明けたりしておりましたね。


 その時に聞いた閉じ込められている檻の形状と、たまに日光浴で出される外の箱庭の風景の様子が……先日捜索に行ったあなたのお屋敷に酷似しておりました。何より、このアルファが隠したレンガ……このレンガが隠してあった場所が……檻の入り口から北に32個東に98個……言われた通りの場所でしたよ。


 飼われていた当時はお屋敷内の移動ですら禁呪の護符を貼られ、黒い袋を頭からかぶされ目が見えない状態で箱庭まで連れていかれましたから、お屋敷の中で知っているのは檻のある部屋の檻の中からの風景と、高い塀に囲まれた箱庭の風景だけでした。


 たったそれだけの風景でしたから、壁の傷一つ一つまでもが鮮明に覚えているのです……木々の大きさや本数は変わっても、基本的配置に庭の広さや塀の高さは変わらぬものです。


 間違いなくアルファは、エルムグリムにあるあなたのお屋敷に、飼われていたのですよ!」


 余りに往生際の悪い態度に、それまで距離を取っていたはずのギレージュはつかつかと旧議長の席に近づき、襟首をつかんで片手で旧議長の体を持ち上げた。


「うわっ……プっ……まま……お待ちください!ここでわしを殺すおつもりですか?」

 旧議長の一言に、はっとしてギレージュが手を離す。


「ふっふっふ……ダーマハリヤシュトラス……………………我の庇護下に入り、我の命じに従え。」

 何事か呟くと……突然ギレージュは両手をだらりと下げ、動かなくなってしまった。


「ようし……まずは勇者の下へ行き、奴を拘束せよ!」


 旧議長が命じると、ギレージュはつかつかと歩み寄ってきて、あっという間に俺の背後に回り込み俺を羽交い絞めにした……なんだなんだ?どうして?


「はぁーはっはっはー……元奴隷の子の体には様々な呪詛が墨で入れられているのだ。人を殺めない殺めようとするものを命を懸けて止める、人を殺めるような指示を出さない……等のな……中でも主人の命令には絶対服従という呪詛は尤も強力だが、主人が触れ合う距離まで近づいて目を合わせて命じなければ効果が表れん。


 人の庇護下から何百年間も離れていると、効果が発揮されるまでに時間がかかるものだが、人を殺める……等というキーワードを発すれば呪詛の力で体が硬直し、近距離でゆっくりと呪文を唱えることが出来た。


 一度効果を発揮すれば、発した者が死するまで絶対服従が継続するのだ。


 これらの呪詛は人間でしか取り消すことはできないが、奴隷は人を頼って消してもらう事も出来ん……人に操られてしまう危険性はもとより、消してほしいと口にしただけで心臓が止まってしまうからな。中には子供のころに言いつけられたことを何百年もたってすっかり忘れ、人を頼って心臓が止まったものもいるはずだ。


 奴隷の子が成人したら山奥へ捨てに行くのだが、捨てられた奴隷らに復讐されぬよう……呪詛はそのまま残している。妖精族や獣人族らは新たに設けた命は呪詛がなく、彼らは国を形成できたが、子孫を増やすことが出来ない魔族らは国を立ち上げても自ら動くことはできず、山奥に籠ったままだ。


 それでもいずれは山を下りてくる事があると……戦争を仕掛けさせ、待ち望んでいたのだ。


 さあっ……今度はお前だ……こっちへ来い!言うことを聞かぬと……勇者の首をへし折るぞ!」


 旧議長はギレージュを呪詛の力で操ると、今度はダッフンバルト2世を自分の方へ呼び寄せた。そうか……下手な言い訳を並び立てていたのは説得するためではなく、怒らせて魔族を一人でも自分に近づかせるためだったのか……そうして人を殺す……等といったキーワードを発すると、体が硬直するわけだ……。


「お待ちなさい、旧議長!まだ罪を重ねるおつもりですか?いい加減反省して、全ての罪を明らかにして処罰を待ちなさい!さあっ、早く!」


 どうやら各屋敷を回っていた事務長が戻って来たようだ。どやどやと何十人もの人が、ステンレス製の鎧に身を包んだ兵士らに護送され、やって来た。とても居間には入りきれそうもなく、大半は廊下で待たされているが、彼らの両手は拘束され1人1人が長いロープで繋がれていた。


「賢者殿のお出ましか……この状況を見ても冷静なのには感心するが……たかが十数人の魔導士で、魔族を相手に戦えるのかな?一瞬で黒焦げにされてしまうのが落ちだぞ。魔族は人間を攻撃できないような呪詛を体に入れられているが、それはあくまでも自ら……というだけで、主人が命じれば誰でも葬れるのだ。


 お前たちこそ、拘束された仲間を解き放すのだ!我らを貶め財産を没収し、国外追放したことを後悔させてやる!エルムグリムはどう小細工しようが、貧しさから抜け出すことはできん!いくら我々から奪った財産を投じてもな……いずれ裕福なタッタルンに吸収されて、跡形もなくなってしまうわ。


 丁度手下として使える魔族も手に入った……こ奴らを使って魔王以下全員を呼び出し、再度我らの庇護下に置き、協力もさせるつもりだ。絶対服従の呪文は至近距離でしかも魔族の動きを止めてから唱えなければならず、緊急時に使うには厄介なものだったが、お前らがあまりにも無知だったので助かった……わしの元へ魔族を連れて参ったのは不覚だったな……。


 ふわっはっはっはー……」


 旧議長が不適な笑いを発する。なんだってぇー……絶対服従の呪詛があれば人にも攻撃できるって?聞いてないよーって……そうか……言ったら心臓が止まってしまうんだった……だったら言えなかったよな……仕方がない……って、そうは言ってられないんじゃあないの?


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