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21.お宅訪問

21.お宅訪問


「夜明け直前に通ったところ、あれ……国境ですよね?書類確認だけで、バスの中を見ようともしませんでした。あれだったら……旧議員らが今も奴隷の子らを捕らえていたとして、国外追放されたときにタッタルンへ檻毎積んでいたとしても、気づかれずに輸送できたのではないでしょうか?


 とりあえず今のところタッタルンとエルムグリムは友好国だから、通関手続きは儀礼的で甘いのですよね?

 フェンスだって10mほどの高さでしかなかったし、あれだったら少し離れた場所で飛行術を使えば、楽にフェンス位飛び越えて国境を超えられますよね?」


 夜が明けてから数時間後、朝食を兼ねたトイレ休憩の時に事務長に先ほど感じたことを確認する。通関後30分ほども過ぎると、街道脇の所々にはショーウィンドウを供えた商業ビルも多く建ち並ぶ、街の風景が一定間隔で見られた。


 どうやらタッタルンはエルムグリムよりもはるかに人口も多く、大都市が幾つも存在するのだろう。エルムグリムもスーパー堤防の住居ビル群や、復興した王都には大きなビルが立ち並んでいるが、都市間の街道周辺は今のところは原野が多く、開発されていない印象が強い。


 だが……タッタルンは住居が建ち並ぶ集落の周りは田や畑などの田園風景が続き、どこも人の手が入っているという印象を受ける。やはり国力の差が大きいということに気付く……だがそれが……長年に渡るエルムグリムはじめ、妖精国や獣人国からの搾取によって成り立っているのだとしたなら……


「いや……国間では輸出入の関税もかかるし、なにも確認せずに通していた訳ではない。我々がタッタルンへ入国する目的は、あくまでも国外追放した旧議会議員らへの追加捜査という名目がある、いわゆる刑事警察機構がらみでの入国だから書類を見せただけで、通過できただけだ。


 他の2台は妖精国向けと獣人国向けの通行手形を持って、国賓として通過したはずだしな……それ以外は荷馬車は荷台部分の荷物を詳細に検査するし、徒歩で通過する場合は荷物はカバンや包みから出して全検だ。


 しかも金網フェンスには物理結界が上空高くまで何重にも施されていて、仮に飛行船を使ったところで飛び越えることなど不可能のはずだ。国境用のフェンスと、前後百m地点にも同様のフェンスが建っていたのを見ただろ?国境を超えるということが、そんな簡単にできるはずはなかろう……?


 もしかすると国境のゲート通過の時に目を覚ましたのではないのか?国境通過者はその前に通関の建物に入って出国審査を受け、その後書類を持って国境の道路を通過してから、もう一度国境を超えた先の建物に入って今度は入国審査を受ける。手荷物はそのどちらでも検査を受けるな……。


 我々は犯罪取り締まりの捜査目的だから、荷物検査などは全て免除されていただけだ。いずれ観光目的でタッタルンを訪問することがあるかもしれんが、その時は間違いなく入念に手荷物検査されることになる。


 今回は特別だと思っておいた方がいい。まあ……ちょっと前までは……貴族とか国会議員とかなどは……その威光と権力をかさに、検査拒否など日常茶飯事だったと聞くがな……ルールルールと厳しく法律を守らせられるのは我々庶民だけで、法律を作っている側のはずの議員連中は守ろうともしないと揶揄されていたものだ。


 それもこれも……今回の戦争以前までのエルムグリムのことだ……。」


 事務長が少し寂しそうな笑みを浮かべる……多くの犠牲者を出した戦争を肯定することはできないが、その戦争のおかげでエルムグリムという国がずいぶんと住みよくなったというのは事実なのだ。


 そうして……また元のような腐敗政治に陥らないよう、しっかりと皆で監視して調整できる体制づくりをしていかねばならないのだな……。


 だがまあ……通関というシステムがきちんと機能していると聞いて、ちょっと安心した。


 だが、そうなるとますますタッタルンで奴隷として捕らわれている魔族や妖精族、獣人族の子らがいる可能性はなくなって行くな……まあ……戦前までは議員らは通関検査拒否出来ていた……なんて話だから、魔王国進攻の際にタッタルンへ議員連中が避難する際に、奴隷の子らとともに移動した可能性はなくはない。


 だが……魔王国進攻の報を受けてからすぐに議会制民主主義を廃止して王政復古を唱え、国会議事堂など全ての建物を破壊するよう指示を出してから避難したわけだろ?議員らだけではなく一般市民だって、タッタルンへ避難しようと国境通過を希望したものたちは大勢いたはずだ。


 だが……魔王国侵攻時点で国境は封鎖されていたと聞いたぞ……タッタルンから来るはずの援軍がやってくる気配どころか国境封鎖で、音信不通だと言っていたはずだからな。そうなると、国境通過を願う一般市民でごった返す国境を、奴隷を乗せた大きな檻を積んだ荷馬車で通過したとは考えにくい。


 そんな目立つようなことは避けて、手荷物だけ持って徒歩でこっそりと裏口から国境通過したはずだ。国境の向こう側に迎えの馬車は待たせてはいただろうが……荷馬車の行列と言ったことはしなかったはずだ。


 そうでなければ進攻と同時に、議員連中は議会解散して王様に権限と責任を全て押っ付けて、自分たちは安全なタッタルンへ逃げた……等と悪い噂が飛び交ったはずだからな。下手をすれば魔王国と共謀していた疑いすらかけられ、戦争犯罪人として指名手配されてタッタルンから強制送還された後で公開処刑されかねない。


 それ位切羽詰まった状況に、エルムグリムは追い込まれていたのだからな……。


 ましてや汚職に加えて国費での輸入品の横流しなどの背任行為等で財産没収され、国外追放されたときに大きな荷物を荷馬車に積んで国境を超えられるはずもないから……この時こそ手提げ荷物一つだけ許されたはずだ。奴隷の子らを一緒に国外へ連れ出せるはず等絶対にありえない。


 そうなると……ううむ……折角うまく説得して妖精族や獣人族をタッタルン王都へ呼び寄せることには成功したのだが、今も捕らえられているであろう奴隷の子らがタッタルン王都で見つかる可能性は、かなり低いと言えるだろう。だがそれなら……彼らはどこへ行ったのか?


 ほんの20年ほど前までは、彼らは間違いなく存在していたはずなのだ……だからこそ……妖精王は、ギレージュらが見つけたとする捕らえられていた子らが残したとする証拠が……レンガの裏に刻印された年号や名前などが……捏造ではないかと疑っているわけだな……。


 奴隷の子らを拉致し続けている悪党は実は他に居て、今ものうのうと普通の生活をしているが見つけられず、丁度旧議会議員らを国外追放したので都合がいいから、彼らに全ての責任を押し付けて事を済ませようとしているのだと……そう考えているわけだな……。


 エルムグリムにとっては犯罪人である彼らを、タッタルンでは保護して普通の生活をさせているのだから、その彼らを奴隷売買に関わったという重罪で告訴できれば、保護しているタッタルンの責任も問えるだろうから……レンガの裏側の文字らしきものは符号で、俺が読めないのは当たり前だが事務長も意味不明と言った。


 奴隷として閉じ込められていた時に申し合わせた暗号のようなもので、勿論エルムグリム語でも何でもない、ただの汚れかひっかき傷にしか見えないものだ。それを……ギレージュは読んで見せたわけだからな。


 はあ……考えれば考えるほど……妖精王の言葉が深く染みてくる……彼らがやってきたときに……国際法廷の場で、ギレージュらが見つけたレンガを証拠品として提出すれば、妖精族や獣人族も奴隷経験したものなら読めるはずだから、彼らに読んでもらえればはっきりするという事でもないだろう。


 ギレージュらがその場でこっそりと、レンガに符号を刻んでいないとは限らないわけだからな。捏造を疑えば、いくらでも疑える……俺も事務長も、じっとギレージュやダッフンバルト2世の動きを観察していた訳ではないからな。お屋敷捜索時には俺たちだって何か証拠がないか、目を凝らして地下室を確認していた。


 何だったらあらかじめレンガを準備して隠し持ち、その場で取り出したレンガとすり替えた……なんてことだって、出来なかったとは言えない。そうなったらつけられたキズが新しいとか古いとか……そのような鑑定すら無意味ということになってしまう。


 だが……彼らがそこまでするのか?という疑問は残る。


 ギレージュの言動から察するに、彼は未だに捕らえられているはずの同胞らの開放に躍起になっているようだ。人間を憎むのも、彼が幼い時に受けた虐げられた奴隷生活の悲痛な経験に加え、未だに多くの奴隷の子らをどこかに隠しているという、疑いを持っているからだ。


 誰でもいいから罪をなすりつけて、そいつを罰してやりたい……という気持ちではないはずだ。だが……エルムグリムと魔王国……敵対する2ヶ国と2重の協定を結び互いを敵対視させていたという……今回含めこれまでの魔王国のエルムグリム侵攻を陰で操っていたという事実が判明した。


 いずれ魔王国を担うことになるはずの、小鬼たちが絶滅の危機に瀕するほどの多大な犠牲者を出した先の戦争……表面上は平和を愛するこの大陸内の仲介役として長年仮面をかぶって応対していたタッタルン……疑いだしたらきりがないのだが、今のところタッタルンが奴隷売買に関与していたとする証拠はない。


 だからこそ……旧議員らに今でも奴隷を隠しているという疑惑をぶつけ、タッタルンの悪事を同時に暴こうとしている可能性は否定できない……だがそんな事……ほんとうにうまくいくのか?


 いや……怪しいのはタッタルンだが……この上魔族にまで疑いの目を持ってしまっては、本当に何を信じていいのか分からなくなってしまう。取り敢えず……今出来ることをやろう……。



 朝食後、延々と南下を続けタッタルン王都へ到着したのは、深夜近くになっていた。エルムグリムと違い、市街地の街道はそんな夜遅くでも馬車が行きかい、警官が交差点中央の台上に立ち、交通整理をしていた。信号なんて……魔法では作れないものなのかなあ……。


 王都の端に到着し遅い夕食をとり宿に一泊することになったが、他の2台は遅い夕食を食堂で済ませたあと、そのまま獣人国と妖精国を目指すようだ。まだ先は長いからなあ……。



 翌朝タッタルン王都の郵便局へ出向き、タッタルン王あてに2件の訴状を速達便で送付してから急ぎ、旧議員らの別宅へ向かう。


 訴状を提出しなければここはエルムグリムではなくタッタルン王国であるため、正式な家宅捜索は行えないのだが、訴状を提出してしまえば各議員連中に連絡され、証拠を隠滅されてしまうという恐れもあるから急がねばならない……それでもタッタルン王都北端の住宅団地にまとまって旧議員らの別宅があったのは有り難かった。こういった情報はハルシューさんの訪問時の報告で受けていた。


「ではまずは、旧議会議長の別宅から捜索を始めましょうか……。」


 旧議会議員らの別宅が並んでいるなかで、一番中央部に近いお屋敷が旧議会議長の別宅のようだ。見た目だけの感じでも、並んで立っている他のお屋敷よりも一回りは造りが大きそうに感じる。


「旧議長宅には獣人族の子であるアルファが閉じ込められていた痕跡があったのでしたよね……ハルシューさんから別宅の詳細間取りを聞いて、図に表してまいりました。地下への入り口は別宅の一番奥に扉があり、そこに地下へ通じる階段があるようです。」


 ダッフンバルト2世が上着の内ポケットから紙束を取り出し、そのうちの1枚を最上面に置いた。


「じゃああたしは他のお屋敷を回って、被疑者全員を旧議長のお屋敷に集めるとしよう。そうしておけば城から訴状の連絡が来ても、証拠隠滅される恐れがないだろうからな。


 悪いが3人だけで大丈夫か?抵抗はされないはずだが一斉に逃げだされると困るから、護衛兵はあたしが連れて行きたい……。」


 旧議長宅の呼び鈴を鳴らそうとしたところで、事務長が別行動をとると言い出した。なるほど……連絡が来る前に全員を一ヶ所に集めてしまおうという魂胆なわけね?それはいい考えと思う。


「ああ……そりゃあ、魔導士千人分くらいは魔力がある魔族の方が二人もいれば……他に護衛兵など要らなくても大丈夫でしょうけど……でも事務長の方こそ大丈夫ですか?護衛兵ったって、魔導士が16人だけでしょ?旧議員らのお屋敷には護衛の用心棒がいる可能性が高いですよ……。


 やっぱりもっと多くの兵を連れてきたほうが良かったですよね……。」


 見た目ででかい旧議員連中の別宅……恐らく部屋数だけで20室以上はあるだろう……数人の家族だけで暮らしているとは考えにくい。用心棒を何十人も雇っている可能性が……。


 我々の装甲バスには帰りに旧議員らを連行して連れ帰ることを考慮して、20人だけでやって来たので運転手も含めて俺と事務長とダッフンバルト2世とギレージュのほかは、16人しかいない。


 一応全員魔導士を連れてはきたのだが、全員中級か下級魔導士……レルムか兵士長を連れてくるんだった。ハッカクさんやターレムさんはハルシューさんが心細いだろうから、魔王国へ残してきたからなあ……。


 かといって……ダッフンバルト2世かギレージュのどちらかをつけるわけにはいかない……向こうの応対によってはギレージュが激怒して、相手をリンチしかねないからだ……その防波堤としてダッフンバルト2世が同行している必要性がある……二人を離すわけにはいかないのだ。


「ほとんどすべての財産を没収され、タッタルン王家の援助を受けて細々と暮らしていたって、ハルシューさんが言っていたではないか。家政婦の類はいるにしても、護衛の用心棒などいないはずだ……だからこれだけの人数がいれば十分間に合う……じゃああたしらは、次のお屋敷から回り始めるとするか……。」


 事務長が魔導士らを引き連れ、となりのお屋敷へと回って行った。



「じゃあ、呼び鈴を鳴らしますね……。」

「ああ、はい……お願いいたします。」


 こっちはこっちで旧議長宅の門についている呼び鈴を鳴らした。


「はーい……どちら様でしょうか?」

 すぐに門のはるか向こう側から返事が返って来た、用心棒ではなく女性の声だ。


「我々はエルムグリムから参りました……旧議会議長のお屋敷ですよね?ちょっとお話をさせてほしくて……旧議長さんは御在宅でしょうか?」


「はい……いらっしゃいます……少々お待ちください……。」

 すぐに中年女性が駆けてきて、門を開けてお屋敷へ案内してくれた。家政婦さんだろうか……。


「どのようなご用件でしょうか?」


「旧議長さんに直接お伝えしたいので……あとこれは……エルムグリムでとれた魚の干物と、乾燥昆布と乾燥ワカメです。」


 一応、旧議長宅にも手土産を渡しておく……このほうが突然の訪問も怪しまれにくいはずだ。


「お気遣いありがとうございます。ではここでお待ちください……旧議長様をお呼びしてまいります。」


 恐らく家政婦さん……は、玄関入って廊下の突き当りのドアを開け、応接間らしきところへ俺たち3人を通した後、そそくさと部屋を出て行った。多分旧議長の知り合いが表敬訪問に来たとでも思ったのだろう、用件をしつこく聞こうともせずに、すぐに呼びに行ってくれた……手土産作戦成功だ……。



「エルムグリムからの客人か……出入りの業者には少し掛け売りの未払いが残っていたはずだから、手土産持ってくるはずもないし……かといってわざわざこんな遠くまで取り立てに来るほどの金額でもない……」


 暫くしてほほがこけ落ち、浅黒い肌の不健康そうな中年男がぶつぶつとつぶやきながら、応接間のドアを開けて入って来た。


「うん……?まっ魔族ー……」

 中年男は廊下で立ち止まったまま、大きな音を立てて思い切りドアを閉めた。


「まっ……待ってください!」

 すぐさまドアに駆け寄り大声で制止するが、男は背を向け既に廊下の向こう側へと走り去って行く。


「捕まえて参りますよ……。」

 一言残し、すぐ脇を一陣の風が通り過ぎて行った……



「まてっ……待ってくれ!わしが議会の議長だったのは、戦前までのことだ!魔王軍が攻めてくると聞いてすぐに議会を解散し、国王に全ての権限を渡したんだ。だから作戦全ての責任は国王にある!魔王国が多くの犠牲者を出して負けたのも全て、国王の責任だ、わしではないっ!だから助けてくれ!」


 5分ほどして大声で命乞いをしながら、一人の小男がギレージュにシャツの襟足を掴まれ、引きずられて戻って来た。先ほどの中年男だ……恐らく彼が旧議長なのだろう。


「旧議会の議長さんで……間違いありませんね?」


「そっそうだ……あくまでも旧……だ。今は王政で元老院制などとわけのわからん事を始めよったがな。


 魔王国進攻時にわしらは全ての権限を放棄したのだ!戦争の犠牲者の仇を討つつもりなら、国王やエルムグリム軍……特に勇者と賢者でも狙うんだな!」


 ギレージュに無理やり応接のソファに座らせられ、俺が旧議長か尋ねたら、とんでもないことを言い始めた。どうやら魔族を引き連れてやって来たので、大勢の犠牲者の仇を取るために、指揮官を探しに来たとでも勘違いしている様子だ。


「俺がその……勇者……ですけど?」

「な……なにっ?勇者?どどっ……どうして……ここへ?」

 浅黒い肌の小男は、細い目を大きく開けて驚いた様子を見せた。


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