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20.いざ、タッタルンへ

20.いざ、タッタルンへ


 妖精国を後にして、高い山脈を飛び越え1日かけてエルムグリム王都へ到着。


 ダッフンバルト2世には、協力はできないが臨時の国際会議開催には反対せずに参加する旨の妖精族との交渉結果を伝え、今夕にはタッタルンに向けて出発すると告げた。


 恐らく妖精族は強烈に拒んでくると予想していたのだろう……魔族二人の反応は拍子抜けした様子であった。それで妖精王の言葉を伝えると、少し困ったような表情に変わり、やがて笑みを浮かべた。


「そうですか……我ら魔族の出生の秘密を聞いてしまいましたか……まあ、隠し通せることではありませんからね。どの道……奴隷売買をしていた元貴族連中であれば、知っている内容ですしね。


 そうなのです……我々は滅び行く定めの人種……ですが魔王国という国だけは……形として残したいと、小鬼たちに引き継いで魔王国の存在を願っております。その為……東部方面において、エルムグリムから技術支援の話があった時にも、我々を介さずに直接の支援を望みました。


 我々はいずれ、仲介役が出来なくなりますからね……小鬼たちだけで国を担っていかねばならんのです。その為……文字を教えようとしているのですが……なかなか……魔族文字は表意文字で結構複雑なためか……覚えてくれません。エルムグリムの文字も同様ですね……常用の文字種だけで3千語はある……。」


 なるほど……小鬼たちへの技術支援に関して魔王らは無関心であったわけではなく、小鬼たちが自主的にエルムグリムと関わって自立していくよう、促していたという訳ね。いずれは小鬼たちが魔王国を担っていかなければならないのだからな……だがそれには文字という……記録するための手法が必要となってくる。


 人は忘却する生き物……というからな……ましてや何世代も後になると、きちんと正しく伝わっているものか……伝言ゲームだって、3人目には全く異なる内容になっているからなあ……。


 考えてみれば……太古の時代は文字なんかなくて……まあ言葉だってなくて……その時代のことはあんまりよく分かっていないわけだよな。言葉が出来て口伝で伝わっている内容が、神話だからなあ……。


 文字が出来てようやくその時代のことが、未来へと記録として残せるようになったわけだ。


「妖精族や獣人族は我々魔族を毛嫌いしているし、小鬼たちに至っては同じ人種としても認めていないはずですからね。彼らにお願いすることも出来ません……かといって……あなたたち人間には頼みにくいですよね……人の一生は短くて、何世代も後の話ですから……下手をすると国が様変わりしている可能性だってありますし……ああっ……しっ失礼いたしました。」


 ギレージュのコメントは相変わらず辛口だ……だがまあ……正しくもある……。


「だったら俺がいた世界の文字は如何でしょうか?俺の国の文字は表意表音文字と言って、音の部分と意味の部分が合わさったような文字なのですけど、かなと言う表音文字もあります。


 平仮名と言ってたった46文字覚えるだけ……ああっと……読みによって文字が小さくなったり、濁音や半濁音があるから、それらも数えると85文字……かな……でも基本文字は46で後は約束事で覚えれば簡単です。


 それでも無理なら完全表音文字のアルファベット……ローマ字読みという方法なら26文字覚えるだけで済みます。それと数字……ですね、これは10進法なら10種類の数字を覚えたら、読むだけなら十分です。

 でも……数字の場合は四則演算も覚えなければならないけど……。」


 取り敢えずひらがなであいうえおから発音して言って見せる。更に濁音半濁音にぴゃとかびゃとか、ちゃにちゃっなんて発音もしながらローマ字表記も併せて書いて見せる。ダッフンバルト2世は俺の発音のたびに、俺が書いた文字の横に何かミミズがのたくったような感じの図を描き続けた。


「成程……この程度の文字数であれば……小鬼たちでも覚えられるかもしれませんね。分かりました……今回の問題が済み次第、王都にいる小鬼たちに対して文字教育を行ってみましょう。覚えたばかりの開腹術の極意を、小鬼たちなりに文字として確実に残せるかも知れません。


 本当に……何から何まで……ありがとうございます。」

 一応の説明が終わり、ダッフンバルト2世が深く頭を下げた。


「とんでもありません……俺がいた前の世界のことでお役に立てるのであれば、こちらもうれしいです。他にも何か問題ごとがありましたら、遠慮なくお聞かせください。何でも解決できるとは決して思っていませんが、今回のようにたまたま前の世界での文化が役に立つ場合もありますから……。」


「ははっ……ありがとうございます。今後とも……よろしくお願いいたします。」


「それはそうと……王都の旧議員たちのお屋敷の捜索はもう終わりましたか?やはり、捕らわれていた人は既にいませんでしたか?」

 そう言えば……兵士長らとともに旧議員らのお屋敷と別荘の捜索をお願いしておいたのだった。


「ああ……やはり王都という土地柄、他の地方都市のお屋敷と違い規模が小さく、そのせいでしょうか地下室などもない場合が多く、大きな檻などもどこにも見当たりませんでした。勿論魔族含め妖精族も獣人族も臭いすら感じられず……都会では目立つ恐れがあるので避けていたのでしょうね。」


 ダッフンバルト2世が、王都では収穫がなかったことを告げる。


「まあ……王都ではお屋敷もあまり広くはないので……予想はしておりました。そもそも戦争前に王都の城下町はすべて破壊して、戦後すぐに立て直したお屋敷ですからね。新居だから地下施設に加え檻も備え付けしていないと想定しておりましたが、まあ王都では人が多くて目立ちますからね。


 そうなると……タッタルンでは厳しいかも知れませんな……タッタルン王都にしか旧議員らの別宅はないようでしたから……。取り敢えず地下室は確認できているのですが……。」


 事務長が予想通りであると、小さく頷いて見せた。だが本当に……タッタルンの屋敷に未だに奴隷の子らを隠している可能性は低いかもしれないな……別宅という事だからエルムグリム王都と同じく、あまり大きなお屋敷ではないはずだしな……ふうむ……骨折り損なんてことも……。


「まあでも……妖精族や獣人族に対しては、未だに捕らえられているかもしれない奴隷の子らの捜索への協力をお願いしましたが、もう一つの議題のタッタルンの2重協定があるじゃあないですか。


 タッタルンが魔王国をけしかけてエルムグリムへ攻め込ませたのだとしたなら……そうしてエルムグリムには必ず援護するから応戦するよう協定を結んでいたと公に出来たなら、あれだけ大勢の犠牲者を出した戦争の首謀者はタッタルンにあると言えますからね。十分戦争責任を追及できるはずです。


 しかもそれが2百年前の最初の侵略戦争から行われていただなんて……最早これは卑劣極まる謀略以外に表現のしようがありません。厳しく責任追及して、タッタルンには戦争責任を取らせるべきです。


 奴隷問題での追及は躱せても、こちらはそうはいかないでしょう……動かぬ証拠文書がありますからね。


 タッタルンの悪事を一つでも暴くことが出来れば妖精族や獣人族の見方も変わるでしょうし、3国協力して調査していけば、奴隷問題含めてタッタルンのほかの悪事も明らかにできるのではないでしょうかね。

 まずはタッタルンの悪事を一つだけでも、白日の下にさらすことを目指しましょう。」


「ああ……そうだな……それには妖精国と獣人国……この2国がタッタルン寄りでは都合が悪いからな……早いとこ誤解を解かねばな……タッタルンの裏の顔を暴いてやらねば……な……。


 ようし……早いとこ、準備してしまおう。装甲バスに……来月稼働予定だった機織り機の新作を積み込んでおいてくれ。あたしは派遣する技術者を見つくろってくる……機織りはスーパー堤防よりも王都のが主力だから助かるな……後は土産のラムネとケーキ……ラムネは妖精国や獣人国へも送ってやらねばな……。


 特に獣人国には王都のマーケットで肉と魚介類を購入して凍結魔法処理して置いてくれ。装甲バスなら飛行船よりも重量制限は厳しくはないからな。機織り機もさほど重くはないから、土産は多めにな……。」


「分かりました、丁度飛行船の操船をお願いした魔導士の方がそこそこいますから、協力して準備しておきます。まずは……装甲バスの座席を外して……それから買い出し……ですね。」


 機織り機は高速打撃魔法の縦の動きをトロッコ列車と同じく、2本のシャフトの動きで回転運動に変え、回転軸にカムを取りつけ複雑な動きが出来るようにしている。なのでエンジンやモーターなどついていないので、大きさの割にはすごく軽いのだ。妖精族も獣人族も魔力は人間よりも強いという事なので、問題はない。


「もし我々にお手伝いできることがあれば、何でも致しますが……お申し付けください。」

 するとダッフンバルト2世が、準備への協力を申し出てくれた。


「ああっ……いえ……お客様に雑用をさせるわけにはいきませんので……。」


「ああっと……手伝っていただけるのでしたら……その……水晶球を使った木霊魔法で、魔王国にいるハルシューさんたちの様子を確認願えますか?問題なく進めているのか心配ですし、それにハルシューさんが、タッタルンへ旧議員らの健康診断に出向いて、彼らのお屋敷を確認しているのです。


 まさか未だに奴隷の子が捕らえられたままの疑いがあるなどと考えてもいませんでしたから、旧議員らの何世代前かでも奴隷を扱っていた証拠を突き止めようとしただけで、細かな状況を確認していませんでした。


 ですが、その時の詳細な情報を得ることが出来れば……地下室があったお屋敷は誰と誰で……檻も見つけたなら檻はどこにあったとか……もし仮にハルシューさんが地下室を確認したお屋敷で、今度は入り口が巧妙に隠されていたとすればそこが怪しいことになるじゃあないですか。


 妖精族や獣人族が来てから再度捜索……としてもいいですけど、我々だけの先行捜査で見つけられればなおいいですからね。それこそ国際会議がスムーズに進行できます。


 なんせ妖精王は、皆さんが見つけた奴隷を隠していた証拠の品に対しても、疑いの目を向けているようですからね。かといって、国際会議を招集してから家宅捜索では、それこそ証拠隠滅される恐れがあります。臨時の国際会議開催には議題を事前に伝える必要性があるので、申請時から会議までは時間がありますからね。


 隠し立てする隙を与えないよう、まずは先行で旧議員らの家宅捜索をしましょう。証拠はエルムグリムの彼らのお屋敷で見つけた証拠で十分なはずですからね……。」


 お客様なので事務長は遠慮気味だが、そんなこと言っていられない。ハルシューさんたちの状況も気になるし、なんとしてでもタッタルンで捕らわれた奴隷が未だにいる証拠を見つけて、開放しなければならないのだ。その捜索のヒントとなる情報をかき集めなければ……。


「分かりました……丁度この後魔王様との定時連絡がありますから、その席でハルシューさんらを呼んできていただきましょう。こちらとしても、あらかじめタッタルンのお屋敷の間取り図など入手出来れば捜索が楽ですからね。紙とペンを準備しておきましょう。では……。」


 ダッフンバルト2世とギレージュは、急ぎ王城内の客室へ戻って行った。


 それからは忙しかった……装甲バス2台の座席を10席分だけ残して後は取り外す……一応取り外し可能な形態ではあるのだが、当たり前だが走行中にぐらぐらしたり外れでもしたら怪我するので、振動に耐えるよう太いボルトとナットでしっかりと固定されているのだ。


 スパナでバス床のボルトを一つずつ緩めては外していくのだから、数は多いし魔導士6人と手分けして作業したが、かなり大変だった。


 全て外し終えて後部スペースが確保出来たらすぐに、今度は議事場隣に開業した王都のマーケットへ買い出しに向かう。ここは毎日穀倉地帯南で水揚げされたその日の新鮮な魚が夕方前には届けられるし、穀倉地帯西の山間部で育てた肉牛や豚肉も同様に届けられるので、手土産用に買い漁った。


 勿論タッタルン向けのショートケーキのホールや、各国向けのラムネ……ラムネは各国百本ずつ贈ることにした。もしかしたらタッタルンには既に炭酸飲料位流通しているかもしれないが、まあいいだろう。


 装甲バスを横付けし、買い漁った土産品をバスに詰め込んで王城へ帰って行くと、別の2台には紡績工場で試供品の機織り機が積み込まれて戻ってきたところだった。勿論同行する技術者も一緒に……。

 これで準備は万全……



「では出発する。高速打撃魔法の魔導士と運転手は各車両予備要員含めて5名いるから、夜通しかけてタッタルン王都を目指す。順調にいけば、明日の深夜前には到着するはずだ。


 機織り機を積んだ2台は王都を通過して、そのまま獣人国王都と妖精国王都を目指す。それぞれ頂いた通行手形を所持しているから、通関もスムーズにできるだろう。


 我々は明日の晩タッタルン王都で一泊後、明後日の朝から旧議員らのお屋敷へ行き、奴隷売買に関わった嫌疑で取り調べを開始する段取りだ。この時点でもし捕らわれている魔族の子らを見つけ出すことが出来たなら……そのままタッタルン王国含めて奴隷売買に関わった罪で国際法廷へ訴え出る。


 仮に見つけ出せなかった場合は……仕方がないので、タッタルンの2重協定は国際法違反として国際法廷へ訴え出ることになる。これだけではタッタルンへ大きな打撃を与えることはできないだろうが、国際会議開催で妖精族と獣人族の使者がタッタルン王都へ招き寄せることが主目的だ。


 彼らの能力で、隠されているはずの捕らわれの子らを探し出していただく。


 旧議員らのお屋敷で捕らわれた子らが見つけ出せなくても動揺せず、あくまでも過去に犯したであろう罪の確認であるという印象を与えること。今も捕らわれているという疑いを持っていることを悟られると、その子らの命が脅かされる可能性が高いので、決して漏らさぬようお願いする……。」


 事務長の号令の下、装甲バス3台に乗り込みタッタルンへ向けて出発する。


 我々が乗り込む装甲バスはタッタルン向けなので、土産の荷物は貨物スペースだけで十分収まり座席も取り外してはいない。それでも状況によっては、旧議員らを護送して帰ってくる可能性が高いため……なんせ直近だと19年前まで奴隷の子がいた証拠があるのだからな……警察関係者含めて20名が乗り込んだ。


 装甲バスの座席はレバーを引っ張れば座席が倒れるリクライニングシートなので、一つ置きに座ってフルに背もたれを倒して結構楽に眠れた。



 途中トイレ休憩を行いながら数時間……うとうととしかけたタイミングで、照明の明るさで目が覚めた。


 見ると道路の両サイドには石積みで作られた、頑丈そうな3階建てくらいの建物が建っていて、数人の兵士が通行していく荷馬車や徒歩の人々を呼び止め、書類の束を確認していた。


 成程……ここが国境か……大きく頑丈なポールが上下して、通行する車両を制限しているのかと思っていたのだがゲートのような障害は見当たらず、一直線の広い街道は2車線だったのが1車線に狭められ、流れ作業のように書類確認するだけで次々と人が通って行く。まるで高速道路の料金所程度の確認だ。


 乗っている装甲バスの番が来て、ドアを開けて魔導士兵の1人が通行手形を持って出て行き、通関の役員に提示すると、そのまま右手を上げて先へ進むよう促すだけで通ることが出来た。


 ゲートを通過した先はこれまで通って来た道と変わらぬ片側2車線の道路だったが、照明の明るさでわからなかったが、すでに夜は明けかけていて周りの景色も確認できた。


 後ろを振り返ると、他の2台の装甲バスも何事もなく通関して後ろをついてくる。


 不思議なのは、徒歩で通関する人が案外多いことだ……両手に大きな荷物を持っていたり、体よりも大きそうなリュックを抱えながら歩いているのだが、通関場所の建物以外、後方には建物は見当たらず、眺めても広い原野というか……草原が続いているだけだ。


 一体どれだけの距離を歩いてきたのか……重い荷物を持って……。通関してタッタルン側に入ると、恐らく非武装地帯なのか百mほど先まで何もない草原が続いていて、その向こう側に高い金網フェンスが立っていた。


 金網フェンスを越えると既に街道両脇には家並みがぎっしりと詰まっている……ううむ……エルムグリムと大違い。


 少し距離が開いてわかったが、通関の建物の左右にも高さ10mはあるだろうか……金網フェンスが視野範囲延々と続いていて、恐らくそれがエルムグリムとタッタルンとの国境線なのだろう。一応ゆるゆるではあるけど、通関のような手続きをしなければ国境は超えられないようだ。あれ?でもでも……


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