19.出生の秘密
19.出生の秘密
「ほっほう……まあ今では奴隷売買を表立ってやっている訳はないから、一般人は知らぬのかもしれんな。
魔王国へ行ってみたのであろう?お主らが乗って来た魔導船……あれであれば容易に魔王国深部へも到達可能だろうからな。魔族らの移り香が先ほどからぷんぷんしているのはその為であろう?
その時に、魔族の女は見たか?魔王や王子はいても、女王とか王女……あるいは下女の類であってもいい……魔族の女を一人でも見かけたかな?紹介すらされなかったであろう?」
妖精王は小さく頷くと、鋭い眼光で俺に目線を合わせて来た。
「はあ……そうですけど……?まあ、こちらも家族連れで行ったわけではないですし、主目的は研修生を送って行っただけですから、正式な使者としての役割でもなかったので、魔王様のご家族を紹介されなくても不思議とは感じませんでした。それがどうかしましたか?」
ううむ……妖精王の質問の意図が全く読めない……一応息子であるダッフンバルト2世……まあ息子と直接紹介されたわけではないけど、それとなく伝わってはいるからなあ……。
「紹介されなかったのではなく、出来なかったのだ……魔族に女は存在しないからな……。」
「はあ?どどっ……どういうことでしょうか?」
なんともまあ……衝撃的な発言……じゃあどうやって魔族って生まれてきたの?キャベツの葉っぱの間から……なんて童話みたいなこと言わないよな……?事務長へ視線を動かすと、彼女も不審そうに眉を寄せ……どうにもこの話……信じていいものなのか?
「魔族の出生の秘密から話さねばならん……この大陸では長い年月にわたり数の多い人間たちが支配していて、妖精族の子や獣人族の子らが奴隷として時には人間らに飼われていたことは理解しているな?」
「はあ……その残りの子らが未だに解放されないでいるのではないかと……それを今回調査したいのですけど……その為のご協力をお願いしに……。」
だから……奴隷問題でここへ協力要請に来ているんだって……
「彼らが飼い主から日々どのような目にあわされていたのかも知っているかの?」
「はあ……飼い主にもよると聞きましたが、ひどい飼い主は時には鞭で叩いたりもしたと聞きました。」
「肉体的な虐待はまだいい……傷が癒えれば多少は和らぐからな……だが精神的な虐待の場合は、かなりつらいものだぞ……特に……性的なものはな……。
妖精族のおなごは皆美しい……獣人族のおなごはしなやかな体つきでスタイルがいい……しかもどちらも長寿であり、そうであるという事はその分成長が遅いのだ……だから子供のうちは何代にもわたって、そこの主人らの性のはけ口として扱われていたのだ。人間の性は弱く、妊娠の心配はなかったからな。
勿論妖精族も獣人族も男の子だって子供のうちは見め麗しく……こちらも性のはけ口として使われることも多かった。鞭などの肉体的な虐待よりも、性的な虐待の方がはるかに陰湿で、心を傷つけるのだ。」
妖精王が吐き捨てるかのように、厳しい表情で不遇な過去を打ち明けた。なんと……愛玩用って正におもちゃ……として?だけどそれと魔族って……どのように関わって行くのだ?
「それでもある程度成長すると妖精族は魔力が膨大となり、禁呪の護符だけでは抑えきれなくなってくるし、獣人族の方は魔力は多少弱くても、それを補って余りある体力と筋力が成長とともに強化される。
そうなってくると、性のはけ口として使えなくなるから代わりの奴隷を入手して、大人は人知れぬ山奥へ捨てに行くのが通常だ。そうして捨てられたものが集まってやがて妖精国や獣人国となったわけだ。
ところがお気に入りの奴隷だと手放したくはなく……かといって禁呪の護符を体中に……特に額や口に貼りつけると気分が削がれる……という事で……罰として下働きとして飼育していた小鬼らをけしかけるのだ。体中に護符を貼られた状態で両手足を縛りつけられ、小鬼らの小屋へ一晩放り込む……。
勿論一晩中小鬼らに凌辱されることになるわな……ただでも女が少ない小鬼社会……奴らの性への執着は異常を極めるともいえる……そんな奴らに一晩蹂躙されたなら……もう2度とそんな目に合いたくはないと、ご主人にひたすら従順に様変わりすると言う訳だ。」
相変わらず厳しい表情で、じっと俺と目を合わせてくる……こちらの反応を見たいのであろうが、余りの悲惨な事実に対し、こちらは身じろぎひとつできそうにない……かわいそう……と言えばいいのか……いや……そんな事だけじゃあ……では、怒ればいいのか?ううむ……
それにしても……昔は人間が大陸内で圧倒的な力……集団の力だよな……持っていたわけだ……なんと……小鬼すらも下働きとして使役していただなんて……。
「どうしてもお気に入りの子に言う事を聞かせたいと、一人の飼い主が始めたことが効果があると評判になり、瞬く間に奴隷を持つ奴らの中で流行した……ところが小鬼らの性は強く、種族が異なるはずの人間の女をも犯して小鬼の子供を身ごもらせる……そのうちに、妊娠してしまった妖精族や獣人族のおなごが出始めた。
小鬼の子は母親の腹を食い破って生まれてくる……しかも中絶の方法は存在しないし死産もない……お気に入りの子の悲惨な死に方を見たくはないと、飼い主は出産間近になると遠くの山へ捨てに出かけた。
小鬼の子は小鬼のはずで、女が一人と男が5人生まれてくるはずが……腹を食い破って出てくるのは同じだが生まれてくるのはたった一人……しかも男の子だけ……妖精族とも獣人族ともましてや小鬼とは似ても似つかない容姿のそれは……魔族と称されるようになった。
これは保護された妖精族の妊婦の出産に立ち会ったものの確かな情報だから、間違いはない。そう……魔族というのは、妖精族や獣人族のおなごと小鬼との間に生まれた混血……忌み嫌うべき出生の秘密を持った、生まれてきてはならぬ存在なのだ。だから魔族の女性は存在しないのだと、我らは魔族を滅ぼそうとした。
国として形成された後は魔族を探知して見つけると、根絶やしにするため狩りを行った。だが魔族は魔力も身体能力も親種族である妖精族や獣人族をも上回り、追い詰めたが人族の国へと逃げ込まれてしまった。
だが……それも過去のこと……今では魔族を恨んではいない……というより逆恨みという事が、重々認識された。魔族の方が、同族を失った我らよりもよりつらく厳しい環境で生きてきたのだからな……それに……何もしなくても、女性がいない魔族はあと千年も経てば自然に消滅するからな……。」
妖精王が最後は表情をやわらげ、笑み迄浮かべて見せた……なんと……悲惨な出生の秘密……そういえば魔族の出生は特殊……と以前に言っていたな……あれはこういう事だったんだ。魔族は妖精族と小鬼若しくは獣人族と小鬼の混血……で、どちらでもない新たな種が生まれたという事なのだ。
だからあんな太くて長い尻尾があったり、羽が生えている魔族もいるって言っていたからな。そうして混血ならではの……双方の親の優性遺伝を受け継いでいるという事なのだろう。それを嫉んだという事はないだろうが、同族とは認められずに排除しようとしたが逃げられてしまった。
魔族が生まれた根本的な原因として、人の勝手な思惑が……お気に入りの奴隷に言う事を聞かせるための折檻が行き過ぎていたという事なのだろうな……身動きできないように縛り付けて小鬼たちをけしかけるだなんて……とんでもないことをしやがる……。
だからなのかな……魔族が小鬼たちを使役しているとはいえ、小鬼たちに対して無関心……というか、放任主義的だったのは、親種族だから指示しにくかったのかもしれないな……。
だがしかし……魔族がこの先千年ほどで滅びゆく運命だったとは……驚きだ。だがそれは真実……今は妖精族も獣人族も国として独立しているから、人に捕まって奴隷になることなど起こりえないはずだからな。
だから今以上に魔族が増えることはあり得ない……奴隷として未だに閉じ込められている仲間を見つけ出そうと必死なのは、ただでも数少ない同族を1人でも多く……という気持ちからだろうか……。
「はあ……魔族と妖精族や獣人族との関係性を理解しました。あなたたちが魔族を嫌う理由も何となくわかりました。だけどもう……今はわだかまりはないのですよね?そうであれば……公正な裁量をお願いいたします。そうだ……そう言えば……お土産……まだ渡していなかったですよね?」
余りに警戒心の強い態度で、すぐに追い返そうとされていたためか、土産を渡すのを忘れていたのを思い出した……すぐさま飛行船に戻り、巨大な花束と花の種や球根類に魚の干物や海苔などの乾物を持ち出す。
さらにカキやホタテなどの貝類も、バケツに海水を入れて生きたまま運んできたのだ……魔王国へは既に養殖技術を教えて東岸で養殖を開始しているから土産としなかったが、妖精族や獣人族なら……と思い、マーケットに卸される前に列車から直に降ろして運んできた。
「そう言えば……妖精族も稲作を行っているのですね?あと……野菜の栽培に酪農に養鶏迄……我々と食生活がほぼ変わらないようなので、少し意外でした……。」
「なんだ……?妖精はカスミでも食って生きているとでも思っておったのか?」
「いっいえ……花の蜜かなあ……と……。」
妖精族の土産に何を選ぼうかかなり迷ったのだ……なんせ何を食べて暮らしているのか全く分からない。事務長や兵士長に聞いても何も知らない様子であった。
とりあえず、魔王国へ出立する際に土産としてスーパー堤防の花壇で育てている様々な花の種と球根類を詰め込んでおいたので、妖精国へ向かうと決めた時にこちらへの土産とすると決めた。花束は西部の都市の花屋でなるべく豪華に見えるよう、特大ブーケを作ってもらったのだ。
「ほっほっほ……まあ、誉め言葉と受け取っておこう。だが、我々の食生活は人族ものとさほど変わらん……いや、当初は違ったのかもしれんが人族とかかわりを持つうちに……特に人に奴隷として飼われるようになってからは食事は与えられた残飯しかないから、自然と人族と同じ食生活になってしまった。
だが……地上にしろ海中にしろ、生きて動いているものたちの命を直接奪って食することは、妖精国建国当時に戒律として禁じた。今は米や麦、蕎麦、豆やトウモロコシ、芋等の穀類と、ネギや根菜類にキャベツなどの青菜……キノコなども食するし、牛とヤギは乳を、鶏からは卵を頂くし、養蜂もしているな……。
直接屠?して肉をくらうことはしないし、海に潜れば昆布にわかめなどの海藻を採るし、勿論漁だって行う……だが魚や貝など直接食することもしない。魚介類は……外貨を稼ぐための輸出用だな……先ほど話しておった、機織り機の支払いや派遣された職員らの給料を払わねばならんからな。
どれもこれも……人族との暮らしで身につけた知識で成り立って居る……奴隷や下働きとして扱われた人族との関わり自体は悲惨な黒歴史だったが……我々だけで暮らしておったなら、今でもそれこそ花の蜜を採って自生する数少ない花を探して回っていたり、木の実を採取するために森の中を彷徨っておっただろう。
我々が集団で定住生活できるのは……何より国として自立して生活できておるのは、人族と長年関わることで集団生活の手法を身につけたおかげと言えるだろうな……だから……恨んではいないが、さりとて感謝もしてはいない。この大陸に生きる人種の一員として、互いに協力しようとは考えておる。」
案内人経由で手渡された特大ブーケも、妖精王が持てば普通の花束サイズにしか見えない……が、喜んでくれていると考えよう。取り敢えず魚の干物と貝は渡さずに、代わりに乾燥海苔に昆布とワカメを全て持ってきてもらうよう魔導士の1人にお願いしたら、彼はバケツを両手に抱えてダッシュで船へ戻って行った。
「おお……花の種や球根類はうれしいのう……中にはこの国には自生していない、珍しい花もあるようだ。
早速庭の花壇に植えるよう、指示しておくとしよう。ありがとう……。」
妖精王は花の種や球根類を見つめ、臭いを嗅いだりしながら至福の微笑を見せた。おお……喜んでくれているみたいだぞ……ようし……
「あと……天日干しした昆布にワカメ……それと養殖した海苔も持参しました。干した昆布は汁物に入れるとおいしいだしが取れますし、海苔は軽く火にあぶって醤油をつけてご飯と一緒に食べるとおいしいです。
味噌や醤油は作っていますか?」
「ああ……味噌に醤油にぬか漬けやたくあんなどの漬物も……保存食として作っているから問題ない。ふうむ……この海苔というのも海藻の一種なのか?」
「はい……大きな川の河口域に筏を浮かべて、ロープのようなものを張っておけば自然と成長していくみたいです。冬場に収穫して、細かく切り刻んでから天日干ししたものです。良かったら……エルムグリム東の穀倉地帯南に養殖場があるので、一度見学に来てみてください。」
「ふうむ……そうか……香りもいいし、ちょっとつまんでみたが磯の香りが強くて旨いな……ふうむ……わかった……一度養殖とやらの勉強をさせに数人派遣してみるとするか。
だが……これでエルムグリム寄りの裁量をするとは思ってくれるなよ。」
「勿論です。それとこれとは別問題ということで、お願いいたします。」
妖精王は海苔の養殖に興味を持ってくれたようだぞ……こんな小さな付き合いからでも、国交が正常に回復できるのであれば、それはうれしいことだ。だが……菜食主義者……だったとは……最初から分かっていたなら、干し芋に干し柿……等を持ってくればよかったな……。
まあいいさ……獣人族の国への土産とすればいいはずだ……向こうは野菜よりも肉や魚……何じゃあないかな。
「この後はどうするのだ?まさか……獣人国へこのまま出向くつもりか?」
突然思いついたかのように、妖精王がこの後の行動について問いかけて来た。
「はい……このまま獣人国へ飛行船で行くつもりでおりますけど?獣人国向けの土産も積んでありますから。」
「馬鹿な真似はやめたほうがいい……獣人国には気が荒い輩が多いから、魔導船などで直接乗り込みでもしたなら、即刻撃ち落とされかねんぞ。わしらのように、まずは平和的に追い返そう等とは思わん。
ましてや話を聞いてみてやろう……だなどとは思ってくれんだろう。正式な文書による連絡もなしではな。
臨時の国際会議に出席して欲しいだけなのだろ?だったらわしから話だけはしておいてやるから、いきなり空から訪問することは、やめておけ。悪いことは言わんからな……。
迎えに来てくれるという事だったな……どのような乗り物でやってくるのだ?魔導船か?」
「いえ……地上を走る……でも馬で引っ張る馬車ではありません。馬車の客車部分だけで走るみたいな……こんな感じの車輪がついた四角い箱状のもので……。」
事務長に身振りで伝えペンと紙を貰い、簡単な装甲バスの図を書いて見せる。
「ふうむ……奇怪な乗り物……だな……まあよい……獣人国も含めて国境を通るための手形を進ぜよう。どうせ……獣人王にも迎えを出すのであろう?土産はその時に積んでいけばいいだろ?」
「はっ……はい……分かりました。一応……最高で50人乗りですけど、そんな大人数では行かないですよね?」
「なんだ……両国で1台で済まそうと考えておるのか?まあ……どうせ代表者は護衛併せて十人ほどになるはずだがな……獣人族も同じくらいのはずだ。」
「分かりました……勿論それぞれ1台ずつで向かいますが……少人数であれば座席を外しまして……恐らく積めると思うので、機織り機の試供品をお届けいたしますよ。技術者も一緒に送りますので、試し織をしてみて頂ければ、タッタルンに対しても多少は強く出ることが出来ると思いますので、ご確認ください。」
サイズ的にいって、機織り機も大型でなければ装甲バスに積めるはずだ。最近制作の分は、耕運機を運ぶなど貨物にも使えるように、後部をハッチ状に開閉できるようにしてあるからな、座席を外せば十分いける。
味方して欲しいとは思ってはいないが、憂いを払っておいてタッタルンに対して強気に出られるようにしておきたい。そうでなければ、公正な裁量など望めそうにないからな……。
「ほっほう……それはうれしいな……勿論獣人国にも送っていただけるのだろうね?」
妖精王からの問いかけに対し、事務長の顔色を窺う……流石に2台も機織り機に余裕があるのか……と、送る技術者の工面だって不安がある……が、事務長は笑顔で頷いてくれた。
「大丈夫です、両国に機織り機の試供品をお届けいたします。」
「ありがとう……じゃあ獣人王には、機織り機を積んだ不可思議な馬のいない馬車が迎えに上がるから、国境を通してそれに乗ってタッタルンへ来るよう伝えておく。勿論、機織り機の試運転を行い、出来を確認しておくことも忘れないよう伝えておく。
じゃあ……もう遅い……今日は泊っていけ……。」
外に出るとすでに日は暮れかかって夕日が赤かった。案内人とともに、王城近くの小さめのドーム状の土で出来た建物に入って行くと、中は王城と同じような造りで中央が通路で、左右にパーテーションのように仕切られた小部屋がいくつも並んでいた。
部屋の中はそれぞれ木製のベッドとテーブルがセットで置いてあり、ドアはない。
「ここは客人用の住居だ。自由に使ってよい。一番奥が食堂で、食べ物を用意してある。申し訳ないが歓迎の宴は出来ない……我らはタッタルン以外の人間信じない……悪く思わんでくれ。
明日は朝食を終えたらそのまま帰って良い。」
案内人は伝えることだけ伝えたら、トイレやシャワールームの案内もなしにそそくさと帰って行った。
仕方がないのでドーム内を確認すると、通路の中央部分の小部屋間隔がひときわ短くなっていて、予想通りにトイレとシャワールーム(水桶が置いてあり、手桶で汲んで上部の桶に入れるとじょうろのように出てくる)となっていたが、当たり前だがドアはなかった……シャワーはいいがトイレは……特に大はどうする?
食事は栗が入った炊き込みご飯と、山菜のおひたしに玉子焼きと豆のスープ。薄味だったがそこそこ行けた。だが……スープに昆布でだしを取れば……もっとうまくなるだろうに……と強く思った。
翌朝、言われた通りに朝食をすませて出発の準備を始めたが、誰も見送りもなくそのまま飛び立った。




