18.難交渉
18.難交渉
護衛の役割も兼ねて10名定員ぎりぎりまで魔導士らを乗せてやってきたのだが、丁度10席のテーブルなのは、俺たちの様子を聞いて準備していたのかな?全員席につき、王のベッドへ向きを変える。
「遠路はるばるご苦労様であったな……邪険に追い返そうとしたことを、悪く思わんでくれ。
タッタルン独立後から、人族との付き合いはタッタルンを経由して行うものと、ほぼ慣例化しておったからの……特に2百年前の魔王国進攻以降は、直接エルムグリムから文が届く事すらなくなった。
なのに今になって突然訪問したい旨の文が届き、返事を待たずに大きな魔導船がやって来たなら普通は驚くであろう?警戒するわな?更に文の内容が……我ら妖精族に親密な態度を取り続けているタッタルン王国を貶めるような内容……自国民をあらぬ罪で追い出し、その追放先のタッタルン王国まで含めて糾弾しておった。
これまでに我々が受け取っていた、エルムグリムとタッタルン……それぞれの国の印象と真逆のことを主張している……容易に信じられぬことだ。だが……国際会議の法廷で争っても構わぬという、お主らの言葉から、並々ならぬ決意を感じたので話だけは聞いてみることにした。
我らとともにタッタルンへ出向く目的が、未だに奴隷として捕らわれているやも知れぬ我ら妖精族の子らを含む、獣人族や魔族の子らの開放であると……その捜索のために魔族と協力し合い、更に獣人族の鼻と耳……妖精族の魔力感知が必要であると……言いたいのであろう?」
妖精族の王はベットから出ず、上半身だけ起き上がらせた状態のまま問いかけて来た。
「はっ……ご明察の通りでございます。」
事務長が椅子から立ち上がり、腰を折りながら答えた。
「だがのう……国際会議は4年に一度開催され、大陸棚より向こうの遠洋漁業の漁獲割り当てなど定例で決定されるほか、様々な国家間の諍いなどの仲裁も行われる。
会議の議長国は持ち回りだが、会議開催は常にタッタルン王国……我らも獣人族も共に共同生活が主であり、完全個別に区切った部屋の宿などないので、人族のことを考えると人族の国での開催が望ましく、中間地点であるタッタルンで常に催されてきた。
今でこそより公平にするためにと移動距離の面から、タッタルン最西部の都市で開催されるようになったが、それまではタッタルン王都で常に開催され、我々の代表者が常に出席していた。ほんの20年前までのことなのだぞ……それまでは獣人族の代表者も含め、タッタルン王都迄の道中……馬車で向かったが、我らの同族ばかりではなく、魔族の気配すら感じたことはなかった。
国際会議に魔王が直接参加したことなど一度もなく、常に水晶球で参加していたから奴らは知らなかったであろうがな……我らだって多少の疑念は抱き、移動の際だって注意して気配を探っておったわ。
もしかすると今回国外へ追放した際に、一緒に奴隷の子らを檻毎輸送したのかと思っているのかも知れぬが、財産没収の上国外追放されたのだろ?持ち出す荷物だって制限されたであろうに……お主の国の税関の目は節穴であるとでも考えているのかな?
今更我らが出向いて、どこを調査して回るというのだ?」
妖精族の王はゆっくりとした口調で、それでも的確にこちら側の主張の矛盾点をついて来た。
「なっ……そっそうでしたか……私は昨年開催された会議への出席が初めてであったもので……事情も知らず……タッタルン王都へ入ったことがないものと勘違いをしていて……。」
すぐにもう一度事務長が立ち上がり、顔を真っ赤にして深く深く頭を下げた。
なんと……タッタルンには奴隷の子らの気配など長きにわたってなかっただと?ふうん……そうなると確かに厳しいな……あっ……でっでも……
「そう言えば……エルムグリムで旧議員らの屋敷を捜索した際に、獣人族の子が捕らわれていたと思われる地下の檻がありまして……その子が記していた毎年の年号から推察すると、何と19年前まではそこにいたはずという事が分かりました。
国際会議は4年に一度の開催で、16年前から王都から最西部の都市へ開催場所が変更になったのですよね?ちょっと怪しいと思いませんか?もしかするとその時に、捕らわれていた子らを移動させた可能性もあるのではないかと……余りにタイミングが良すぎて、勘ぐってしまいますよね?」
すぐ様事務長の隣の席から立ち上がり、まだ怪しい点は残されていると主張してみる。
「ほっほう……成程のう……19年前という年代は、魔族が申しておるのかな?」
「はっはい……そうですけど……?」
「年号は王が変わるたびごとに切り替わるもの……それはわが国もそうであるが、エルムグリムもそうであろう?日の光が差さぬ地下で捕らわれた不自由な生活で、一日の長さを推し量ることも難しいであろうに、代替わりする王のたびに年号など……如何様に知りえるのだ?
どうにもその……証拠とやらも怪しくなってきたな……魔族が檻の中で見つけたと主張しているのではないのか?一部の魔族は……未だに同胞が人族に捕らえられているのだと、強く主張しているからな。
エルムグリムへの侵攻も主目的は同胞らの開放であると、我らの下には正当性を主張しておったからな。今度はその目をタッタルンへ向けさせるために、丁度追放された旧議員らの屋敷に大きな檻があったから、捏造した証拠を持って、タッタルンへの侵攻を正当化しようとしているのではあるまいかな?」
妖精族の王が更に矛盾点をついて来た……ふうむ……
「でっですけど……16年前に開催都市が変更になったことだって、ちょっと怪しいですよね?4百年間もずっと王都で開催していたのでしょ?それを……今頃になって……不自然ではありませんか?」
「いや……西方の都市での開催は我が国からの要望で……ここからだと馬車で片道15日ほどもかかってしまうからの……西方の都市で開催するのであれば10日で済む。馬を走らせれば半分で済むのであろうが、馬がかわいそうでな……だから2百年以上前から要望しておった。
だがのう……西部の都市では大きな会場も宿もないので難しいそうで……それがようやく16年前に切り替わったと言う訳だ、宿と会場の手当てがようやく着いてな……。」
「でも……2百年も前からの要望だったのでしょ?しかもタッタルン西部の都市で開催するなら、エルムグリムからは遠くはなるけど公平性を期すると考えたなら、反対する国などなかったはずですよ。
会場だって宿だって、建てる気になれば1年かからないだろうし、何よりタッタルン西部の都市に大きな宿を建てたなら、隣国である獣人国どころか妖精国からだって、大勢の観光客が見込めるんじゃあないでしょうか?タッタルンにとってもいいことだらけだし、2百年も待っていた気が知れません。
元々は、王都開催をやめるつもりはなかったのではないでしょうか?特にタッタルンは、魔王国を扇動してエルムグリムに攻め込ませ、エルムグリムの領土含めて統合しようとしていた腹が見えてきています。
そうなると……今度は西部の都市での開催が面倒になるわけですよ……エルムグリムを統合した際の王都はもっともっと北になるはずですからね……。
だけどやむにやまれず……その理由が19年ほど前に旧議会議長らのお屋敷で捕らわれていた魔族や妖精族や獣人族の子らを、タッタルンへ移送したからではないでしょうか?旧議長らの別荘はタッタルン王都にありますから、そこでの国際会議開催は非常にまずいことになる。
なので……急遽西部の都市に宿と会場を建設して国際会議開催場所を変更した……あくまでも妖精国からの要望を叶えるという名目で……。」
タッタルンの謀略は疑いだしたらきりがないというくらい様々なものがあるが、これまで証拠というものが見つかっていなかった。だが……魔王国との2重の協定書など、少しずつ切り崩せる証拠固めが出来てきたのだ。恐らく国際会議開催場所の変更だって……
「ほっほっほー……面白い仮説だのう……まるで物語のような……流石人族……タッタルンでは小説という読み物が娯楽の一つとなっていて、更に架空の恋物語を劇場で演じる出し物を好んで見に出かけるようだの……しかも高い金まで払って……他人の心の中に興味があるとか……黙っていても互いに心が通じ合う我々には、とてもそんな気持ち……理解しがたいがね……。
お話としては面白いのだが……それにはまず……どうして19年前に移動させなければならなかったのか?という背景を明確にする必要性があるはずだ。
奴隷売買は極刑であり、何も好んで人目につきやすい奴隷の移動なんて、危険な真似をする筈はあるまい?タッタルンの方が、奴隷を禁ずる風潮はより厳しいのだぞ!どうしてわざわざタッタルンへと、移さざるを得なかったのだ?タッタルンからエルムグリムというのであれば……まだわかるがの……。
それこそ……何百年間もじっと地下に隠していたのをどうして?とは思わんかな?」
妖精王は確実に止めを刺してきた……急ぎ事務長の方へ視線を向けるが、小さく横へ首を振った。事務長も、19年前に何か奴隷売買に関連する出来事があったという記憶はないようだ。しかも……エルムグリム内で起きたことのはずだからな……人目に付く危険性を犯してまで移さざるを得ないようななにか……。
「どうした?降参かな?そうであれば、おとなしくエルムグリムへお帰りいただこう。
突き放すつもりはないが、緊急動議に賛成して国際会議での裁定のためにタッタルンへ向かうとなれば、それなりに関心があるという事の裏返しとなるし、ましてやそれがタッタルンがらみの奴隷売買であってはな……タッタルンとは機織り機切り替え工や保全工らの派遣を行ってもらっているから、機嫌を損ねてはまずい。
ただでも高額な工員らの賃金を値上げ……などと要求されることになっては困るのだ。申し訳ないが、妖精国として協力はできん……もしかすると獣人国へも回るつもりかもしれないが、恐らく答えは同じだろう。
悪いことは言わん……無駄な努力とあきらめて、このままエルムグリムへ帰りなされ。」
妖精王がやさしく諭すかのように、帰るよう告げた。
「元からエルムグリムの味方になって欲しいとか、一緒にタッタルンの悪事を暴きましょう……とか思って誘いに来たわけではないのです。あくまでも……妖精族としての魔力探知で、同胞を見つけ出すことが出来ればなあ……と……勿論魔族の子らを見つけることも協力していただきたいのですけど……。」
「だから……先ほども申したように……お前さんたちの口車に乗って、タッタルンやその……追放した旧議員らを国際会議で裁量にかけると同意するだけで、タッタルンのご機嫌を損ねてしまう恐れがあるのだ。
お前さんらはそれなりに覚悟があるようだから止めないが……こちらはタッタルンに何の恨みもないし、疑う気持ちなら……エルムグリムに対する方がより大きいわけだ。
エルムグリムは分裂後、タッタルンから王都迄の南部地域に限って外国からの観光客含めた来客に対応していた。それ以外の地域は完全に立ち入り禁止としていたわけだ。更に魔王国進攻以降は、タッタルン以外の獣人族や我々妖精族へは完全に国境を閉ざすことにした。安全上の理由という名目でな……。
大陸内の国境線もはっきりとしてほぼ安定し、それぞれの民の特性も明らかになってきたところだったから、我らの魔力感知や獣人族の鼻や耳を恐れて……と勘繰ることは出来たが、それでも領地が分裂したり他国からの侵入を許したりと、同情すべき点はあったから騒がずにはいたが、怪しいとは思わぬか?
残念だが……」
未だにエルムグリムの方が、奴隷の売買に関して怪しまれているという事のようだ……だったら……
「だったら……だったらですよ、別に共謀して一緒に来て頂く必要性はありません。エルムグリムと魔王国の2ヶ国で緊急動議を発しますから、国際会議の開催を拒否せずにタッタルンへ来て頂ければいいのです。
勿論裁量の際の判事役もお願いしたいですけど……その際、こちらが示す証拠の品や関係者らの尋問の調書を調べてタッタルン側に不審な点がないとなれば、エルムグリムに騙されてやってきたのだと主張されればいいのです。そうすればタッタルンとの関係が悪くなることはない筈でしょう?
わざわざ御足労願うのですからただで……とは申しません。機織り機は、既にエルムグリム独自に作り上げた2倍は高速で高性能な機織り機がありますから、それをタッタルンと変わらぬ価格でお譲りいたします。しかも切り替えや保全技術は自国民で行えるよう、技術指導は無償で行いますが如何でしょうか?
更に……真珠にご興味はおありでしょうか?これは……エルムグリムで養殖を始めた真珠の試作品……と申しましょうか、真珠になりかけの経過観察のサンプルなのですが……。」
いよいよ奥の手の玉を懐から取り出す。機織り機迄条件に付け加えることとなってしまったが、いずれ妖精国へもタッタルンの暴利排除のために手を回すつもりだったから、構わないはずだ……。
すぐに先ほどの案内役の兵がやってきて、俺の手から数個の玉を受け取り王のベッドへ……
「こっこれは……まだ若いが……それでも真珠になりかけの……しかも真玉の極上物……これを人為的に作られたと申すか?養殖なんて……そんなことが……。」
妖精王は真珠の玉をしげしげと観察したのち、掌に載せたまま天を仰いだ……
「色を塗っただけの偽物の人工真珠ではありませんよ。自然にできる真珠と全く同じ原理で人為的に手を加えただけの……見た目だって……恐らく魔よけの効能だって天然真珠と遜色ないはずです。
如何でしょうか?まだ始めたばかりですが後4,5年も経てば、安定供給できるようになりますけど?
無償で……とはいきませんが、互いに納得できるような適正価格でお届けいたします。」
「今はまだ実験段階であり詳細な見積もりは出来かねますが、それでも恐らく天然物の十分の一程度にまでは値が下げられると踏んでおります。あくまでもご協力いただけるのであれば……と、いう事で……。」
俺の交渉に、ようやく事務長も乗ってきてくれた。研究当事者でなければ、価格予想なんてつかないわけだからな……有難い……。
「ふうむ……条件は、臨時の国際会議開催を拒否せず、更に裁量の際の判事も務めるという事だけでよろしいのであろうな?裁量はあくまでも公正を期すし、貴国やましてや魔族らへの加担など、決して期待されるな。
それでもよろしいのかな?」
「はい、勿論です。会議会場はタッタルン王都を指定しますから、移動で15日……かかるのでしたっけ?遠路御足労願うことになりますけど、ご不満ありますか?」
「ぷっ……いやだと言っても、あくまでもタッタルン王都での開催を主張するのであろう?いいだろう……乗ってやろうではないか……但し……わしは見ての通り……このありさまだから……わしの代理人を立てることになる。それで構わぬな?」
「はっはい……問題ありません。妖精国からの移動に日数がかかりすぎる問題に関しましては、こちらからお迎えの車をお届けしますので、そちらであれば数日もあればタッタルン王都まで到着できるでしょう。時速30キロくらいは出ますし、乗り心地だって荷馬車よりはいいはずです。
陸路を走るのでタッタルンから獣人国経由でお迎えに上がりますから、国境を超える通行手形を発行しておいていただけませんか?さらにその……一つ質問してもよろしいでしょうか?」
やった……ついに妖精族の国際会議への出席が叶いそうだ……10キロ圏内なら魔力感知で同族や魔族の存在を探し当てられると聞いたからな……王都まで行っていただければ、仮にいまだに捕らえられている奴隷が存在しているのであれば、ちょっと回れば所在が明らかになるはずだ。
「ああ……質問であれば、今この場で好きなだけしておくがいい……お前さんはこの世界の生まれではないそうだからな……不思議に思うことは色々とあるだろう。タッタルンへ出向いたときに我らの同族と親しげにされては、タッタルン側からあらぬ嫌疑を向けられては困るからな。
現地では我らが同族には、一切親し気に話しかけないようにして欲しい。
お迎えに関しては……数日でタッタルン王都に到着できるのであれば、有難くお受けしよう。だが……あくまでも会議開催を急ぐがためにエルムグリムが勝手に迎えに来ただけのこと……としておくつもりだ。」
妖精王は感情の抑揚を見せずに、淡々と答えた。ううむ……妖精族はあくまでもタッタルン寄りで、タッタルンの機嫌を損ねることを恐れている様子だな……それは機織り機だけの問題でもなさそうだ……おいおい解決していかねばな……。
「その……妖精国や獣人国では魔族の子らはすぐに見つけられてしまい、ひどい仕打ちを受けるので仕方なく奴隷の危険性はあっても人間の国で隠れて暮らしていたと教えてもらいました。
そうして妖精族も獣人族もひどく魔族を忌み嫌っていることも……だから両国とも絶対に我々には協力していただけないはずと言っていました。
ですが、ここまで話してきてさほど魔族に関しての深い感情など感じられませんでした。妖精族の方たちは、魔族をひどく嫌っているというのは本当でしょうか?また、本当ならその理由も教えていただけませんか?
妖精国や獣人国よりもずいぶん遅れてようやく北方山脈に魔王国が出来たと聞きました。互いに領地の取り合いをしていたとか、過去の因縁とかじゃあありませんよね?魔王国は4百年ほど前から同胞を集め小鬼らを使役して国としての形を作り上げ、ようやく240年前に独立したと聞きましたから……なのにどうしてでしょうか?」
ダッフンバルト2世は聞いても教えてくれなかったからな……彼ら間の確執を……知りたい。
「ふうむ……それは魔族の子の出生に関わることだが……人間がそれを知らんとでも言うのか?」
妖精王が小首をかしげながら尋ねて来た……すぐさま事務長へと視線を移したが、事務長は慌てて首を左右に大きく振って、知らないと全アピール……一体どういう事?




