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15.家宅捜索

15.家宅捜索


「ここが旧議会議長のお屋敷で、地下にはかつて猛獣を飼育していたという大きな檻が置いてあります。」


 石積みて作られた大きな城のようなお屋敷の敷地内に飛行船で直接着陸し、事務長が先頭に立って家の中に入って行く。家屋も含めてエルムグリム内のすべての財産は横領や背任の罪で没収され国庫預かりとなっていて、衛兵が常駐して建物を管理している状況だ。


 事務長の話では、不正を働いていない一般貴族の収入では、いくら何代に渡って稼いだとしてもとても購入できそうもない程広大な敷地と豪華な建物であり、払い下げしようとしても値さえつかない状況なのだそうだ。


 このような資産が旧議会議長の兄弟親戚筋まで含めると、この町の中だけであと十数軒あるそうで、今の計画では他の汚職貴族の差し押さえた不動産含め全て壊して更地にした後、鉄筋コンクリートの住居ビルを建設しようという話が持ち上がっているそうだ。


 それにより住宅問題が一挙に解決するし、代替えして手に入れた土地を耕作地にすれば、収穫も増えるので一挙両得……格安で手に入る4LDKの住居ビルは、王都でもすごい人気があるからな……。


「ふうむ……なんとなく見覚え……というか臭いが……獣の臭いがうっすらですが嗅ぎ分けられますね。

 恐らく長い間飼われていたのでしょう……。」


「そうなのか?恐らく私が飼われていた場所とは大きく異なるようだ……なんとなくだが……景色というよりも雰囲気というか空気の香りのようなものが違う……恐らく私はこの地方にはいなかっただろう。」


 ギレージュに続いてダッフンバルト2世が、それぞれ第一印象を述べた。


「と、いうと……この屋敷ではやはり猛獣がかつて飼われていたという事なのですか?魔族ではないと……いや……もしかすると魔族の子らを奴隷にしていたとバレるとまずいと考え、最近になって猛獣をどこかから輸入して飼っていたという可能性だって……色々連れまわされたと聞きましたが、この屋敷に覚えはありますか?」


 奴隷売買は携わっていただけで最高刑は死刑だ。ましてや長期にわたって檻に閉じ込めていたなんて明らかになれば極刑は免れない。あとから誤魔化すために猛獣を飼育していた可能性だってあるはずだ。


「我々奴隷の子がどのような劣悪な環境で飼育されていたのか、未だにご理解いただけていない様子ですね。


 移動などはほとんど身動きできないほどの篭程度の大きさの小さな檻に詰め込まれ、檻には厚い布が掛けられて息をするのもやっとでした。外の景色なんて……ですが臭いは……微かに覚えているものですよ。


 獣と言っても……猛獣ではなく獣人系……の子供だったかもしれませんね。私もそうでしたが、雨予報の前日など、稀に外に出して日光浴させてもらいましたから……日の光に当てないと体が虚弱になりますからね……それでも普通は禁呪の護符を額に貼られ猿ぐつわをつけられ声も出せない状態で、手足も拘束させられていたようでしたけど……。


 私の場合は禁呪は全て入れ墨でしたから……比較的自由に外で活動出来ました。お屋敷の庭だけでしたけれども……ご主人様家族からある一定距離以上離れると心臓が止まる呪詛を、入れられておりましたからね。ご主人様のご子息の散歩に同伴させられましたけど、はしゃいで駆け回った時などついて回るのに必死でした。


 下手に近づきすぎてご子息の体に接触しようものならむち打ちでしたし……かといって10m以上離れると心臓が止まってしまうもので……それはもう……ただただ目で追って一定距離以上離れないように……。」


 ギレージュが俺の発言を突き放すかのように応えた。なんと……本当に……聞けば聞くほど悲惨な……


「では地下室へ……見覚えのある部屋であるかもしれない……。」


 事務長を先頭にお屋敷奥の、暖炉の脇のドアから地下へ……ドアの周囲の壁が10センチほど日に焼けておらず周りの壁の色と異なるのは、ここに大きな書棚が置いてあり、地下への扉をカムフラージュしていたからだそうだ。入る際はもちろん魔法で書棚を浮かせ、移動させていたようだ。


「如何だろうか……恐らく業者を入れ念入りに清掃した後のようで、痕跡など見た限りではどこにもないのだが……おかげで猛獣を飼育していた形跡もなくなり、逆に怪しむ結果となったわけだが……。」

 そうか……既にプロによる清掃済みと言う訳か……


「ここは……多分獣人アルファが暮していた場所でしょうね……彼の臭いがうっすらと未だに残っております。だとすると……檻の鍵はありますか?獣人用の檻は通常よりも何倍も頑丈に作られておりますが、更に鍵部分には何重にも禁呪の護符を貼り付けてあるので、さすがの私でも開けられません。


 恐らくは先代か先々代の……大魔導士とやらが残した護符を手に入れて、貼り付けているのでしょうね。」


 ギレージュはカギを開けて中に入りたい様子だ……だがしかし……エルムグリムを魔王国から守ってくれた大魔導士が残した護符を奴隷の飼育に用いるとは……なんという恥知らずな……確かになにやら全く読めないミミズがのたくったような図柄が書かれた紙が、鍵穴周辺に貼り付けられているようだな……。


 そうだ……例えば飼われていたのがトラやライオンなどの猛獣ならば鍵など不要なはずだ。引っ掻けのフックで事足りる。チンパンジーとかゴリラとかの類人猿系なら鍵も必要だろうが禁呪の護符など要らない。これは……魔族や獣人、妖精などの子供を飼育していた証拠とも言えるな……。


「あっああ……はい……何代も前のご先祖様が使っていた地下室で、当初は檻の鍵など紛失したと言い張っていたのだが、証拠品の押収で旧議会議長の事務机の中から見つかった。


 だけど中は既にくまなく調べたが、毛一つ残ってはいないようだが……。」

 事務長が一緒について入った警備兵から檻の鍵を受け取り、解錠して扉を開けた。


「目立つような場所に、何か残したりするなどあり得ませんよ。そうですね……」

 ギレージュはそう言うと剣を鞘ごと腰から抜き取り、鞘の先で床や壁をコンコンと叩き始めた。


「おお……秘密の隠し場所……だな?」

 するとダッフンバルト2世も加わって、2人で檻の中の壁や床を叩き始めた。


「ここと……ここ……」

「こっちにもあったぞ……。」


 檻の中の左隅の床からギレージュが2ヶ所、ダッフンバルト2世は右隅の壁を指さし、それからその場のレンガの隙間に指先を突っ込んで一気に引っこ抜いた。


「ほうらこれ……生え変わって抜けた乳歯が2本と、躾とやらでいじめられたのでしょうかね、折れた指の爪が一つ……入ってました。レーム……という名前がレンガに小さく刻んでありますね。


 こっちはロレンという名で……最初の年号から考察すると、ロレンが今から900年前から200年間ほどで、レームが700年前に捕らえられ、こちらも200年間飼われていたようですね。ふうむ……アルファの臭いと思ったのですが……」


 ギレージュが取り出したレンガの裏を見せながら、少し首をひねった。レンガの裏側は小さくくりぬいてあって、中には牙や爪などが入っているようだ。獣人の子のものなのだろう。


「こっちのがアルファのもののようだな……乳歯が3本入っている……年代は500年前から……なんと……つい最近……19年前までの年が書かれている……もしかすると成人しているかもしれんな。


 では……いったい……どこに?」

 ダッフンバルト2世が、きょろきょろと檻の壁の状態を見始めた。


「そう言えばその位置……アルファが記録を残したと言っていた位置のようですね……保管場所を聞いていたのにうっかり忘れておりました……。」

 ギレージュが苦笑いを浮かべる……成程……奴隷の品評会などで出会うことがあると言っていたからな。


「檻の中にも他の部屋すべて含めて細工など一切なかった……透視魔法が使えるレルムにも見させたが、隠し部屋もなかったし、敷地内に死体を埋めた形跡もなかった。だから……ここなら北部山脈が近いから、解放されたのかもしれんな……成人してしまうと力も強くなるし、扱いにくくなるから……。」


「以前も申し上げましたが、ここ2百年ほどの間に魔族、獣人、妖精も含めて、人間たちに奴隷として扱われていたものが、解放されて国へ戻ってきたという情報はありません。


 アルファであれば私とさほど年が変わりませんでしたから、解放されていればたとえ冬の雪山であったとしても、そこで命を落とすようなことはないでしょう。獣人国へ、余裕で辿り着けていたはずです。


 だから……考えうるのは、今でも捕らえられたまま監禁されているかあるいはもうすでに……。」

 ううむ……その先は考えたくはないが……


「でっでも……これで少なくとも旧議会議長の館で、獣人の子供が奴隷として長期間にわたって飼われていたことが明確になりましたね。物的証拠が出たし……しかも年代から言って、今の旧議長の代に変わってからでも、引き続き奴隷として監禁していた証拠もある。


 これを持っていって突き付けてやって、獣人の子のアルファをどこへやったのか追及してやりましょう。下手したら死刑ですから、流石に知らぬ存ぜぬ……とはいかないでしょう?」


 取り敢えず証拠が出たのだから、突きつけて聴取すればいいはずだ。うまくすればギレージュを奴隷にしていた奴が誰かだって、芋づる式に辿れる可能性だってある……勿論他の奴隷だった子らの行き先だって……。


「ああ……そうだな……だが1ヶ所だけでは弱い。旧議長の親戚筋併せてまだほかに大きな屋敷が10軒はあるし、他の貴族連中だって地下室付きの大きな屋敷を持っているのがいるから、申し訳ないがもう少し付き合っていただきたい。」


 事務長がギレージュとダッフンバルト2世に向かって、小さく頭を下げた。そうだな……何百年間にもわたって、組織的に奴隷の売買を行っていたという、確実な証拠がなければ旧議員連中を一網打尽にすることは出来ない。もし未だに捕らえられている奴隷がいるのであれば、彼ら全員を救い出すには大捕り物になるだろうからな。


「とんでもない……こちらとしては捕らえられているかもしれない同族を解放するためですから、喜んで……どころかこちらからお願いしたいほどです。では次に参りましょう……。」


 いつもと異なり、ギレージュが事務長の言葉にも真摯に対応している……こちら側の誠意が伝わったかな?



「ここは……旧議長の弟……先ほど行った屋敷の弟の家だ。こちらにも地下室があり、大きな檻がある。」

 議長が警備兵に家の鍵を開けさせ、兵を先行させてギレージュらを案内させる。


「旧議長が議席を譲って自分が全国区から出馬するようになった後は、中北部地域の選挙区から立候補して議員になった。爵位は親から子へ代々世襲されるものではあるのだが、弟が立候補する時点で、兄の旧議長が世襲していた公爵位を何故か弟にも継がせて、爵位を2分した経緯がある。


 本来一人にしか継げないはずの公爵位が何故か兄弟2人で世襲し、当然ながら禄も支払われることになった。正にやりたい放題……他にも兄弟や婿に爵位を分割して継がせ、貴族議員を増やしていっていたようだな。


 そのような事……外目からは全く分からず、王さまですら気づかれていなかったようだ。旧国会の議事録は極秘扱いされていて、一般どころか王様の目にすら触れなかったのだからな。旧議会政治時代、国費が無駄に貴族連中に集中し、国民が貧困にあえいでいたはずだ……。


 だからこそ王様は、権力が一部の特権階級に集中して交代が行われなくなると腐敗が始まるからと……王政を一日でも早くやめたかったのだろうな。そういった点では文美雄が提案した元老院制度……王様と議会が公平に権力を持ち、互いを監視するというやり方は正しいと思えるから、国民も賛成したのだろう。」


 事務長が、そっと小声で教えてくれた。2軒目は旧議長の弟……なんと無理やり公爵位を分割して世襲したって?そうだよな……貴族の爵位を持っていなければ、立候補できなかったのだからな……


「はあ……そのような悪事も全て、終戦以降に明らかになって行ったわけですよね……頭が痛いっすね……で?今は公爵位はどうなったのでしょうか?」


「ああ……勿論不正を働いたわけだから、懲戒処分とした。旧議長も弟も、不正疑惑発覚の時点で自分たちの息子に爵位を継がせて守ろうとしたようだが、懲戒免職として公爵位を取り上げた。更に弟の分の公爵位は不正に取得したものであるのだから、それまでに支払われた禄の返還請求を行っている。


 先ほどの屋敷もこの屋敷も、その不正行為の返還の一部として取り上げたもので、不正受給には公定歩合の10倍の利息が加算されるから、これでもまだ足らずにタッタルンへ持ち出した財産も返還請求している。


 公費を使って輸入した魚介類を自分の会社で売って利益を得ていた不正もそうだが、これまでに犯した悪事を総合すると奴らを丸裸にしたところで到底返却しきれるものでもなさそうだが、まあやらんよりはましと言ったところだ。


 奴らの息子たちは議会議員選挙に立候補するために残っていたのだが、選挙に落選し爵位を失い家や財産全て没収され、慌ててタッタルンへ逃げ込んだようだ。」


 事務長が口角を上げ、苦笑いをつくろう……あきれるというかなんというか……もう何をやっても誰からも何も言われない……そりゃあそうだ、自分らだけでなんでも取り決めて、勝手に国費を使いまくっていたわけだからな……途中から善悪なんて通り越して歯止めがきかなくなっていったのだろうな。


「ふんっ、愚かな人間たちのやりそうなことですよね……自分たちの同胞が受けるべき恩恵を不正に操作して、自分たちのものにしてしまう……他の同胞らが困窮にあえいでいても見て見ぬふりをして、自分らは豪華な衣装に身を包み贅沢三昧で人生を謳歌する……恥ずかしいと思わなかったのでしょうかね……。」


 遥か十mほど先を歩くギレージュが、とても独り言とは思えないくらいに大きな声で嫌味を言う……ううむ……耳が良さそうだ。


「これはこれはお恥ずかしい……確かに……我が国の恥……ですな。ですが……どの人間でも……と言う訳では決してなくて、正しいことをする人間の方が絶対数は多いと思っておりますよ。」

 事務長が舌を出して笑った……彼らのそばでは内緒話はできそうもないな……。


「ごく一部の……ごく一部のものが悪事をする……力の弱い子をさらってきて奴隷として売買し、地下の檻の中に閉じ込めて自由を奪い愛玩用とする……まあ、そうでしょうね……。


 何百万もいるあなたたちにとっては、ごくごく少数の……数十人……数百人のものたちの悪事が、我々魔族や獣人族、妖精族らを苦しめていただけだ……と、仰りたいのでしょう?


 ですが私はそうは思いません……虫も殺したことがないような人だって、そういった環境であれば……誰だって同じことをするのだと、私は知っています。」

 ギレージュが自信満々に、事務長の言葉を完全否定する。


「いやいやいや……それは違うぞ!俺はこの世界の人間ではないけど、だけど俺の知っている限り皆あたたかな心を持った人たちばかりだ……そもそも魔王国への支援だって……今では俺が最初に提案したことになっているが、最初に行ったのは穀倉地帯東側の大河に堤防を作るために技術支援に行った人たちだ。


 家族や親せき……知り合いなどを殺したにっくき小鬼達にも拘らず、実は困窮していたという事が分かって、住処のログハウス作りや河川敷を田畑に作り替える指導まで行ったと聞いた。


 そこで友好な関係を築けた後は魔王国の内情を知ることが出来たし、余りの悲惨さに食糧支援が早急に必要だと俺が唱えた時にも、周りのみんなはすぐに賛成してくれた。皆優しくて、暖かな心を持った人ばかりだと俺は思っているぞ!」


 そんなことはない……少なくとも俺が知っている限りの人たちは……だから猛烈に反発する。


「そうでしょうかね……では、例えば誠実で公正な方がおったと致します。そのような人がたまたま……この……不正を行っていたというお屋敷の息子と知り合い……例えばご学友とかですね……小学校の同級生だったとします。


 中学からは一般の子は魔法教育含め特別な教育を……貴族の子らは高等教育を今後受けることから学校は変わってしまったけれど、おうちが近所のためにたまに道ですれ違うとあいさつ程度は交わしていた間柄……。

 成長してかたや議員となり、庶民の子は兵役をようやく終えて家業の酒屋を継いだとします。


 ある時お屋敷から大量の高級酒の発注を受け、店を継いだばかりのあなたは荷馬車を転がして大樽をいくつもお屋敷に運び入れます。その時にたまたま旧友があなたを見かけます。


 懐かしいという感情があったのでしょう……まだ配達が残っているというあなたに対し、残った酒もすべて買い取るからと引き留め、パーティ会場へ連れて行かれたとします。もちろんそこには……かつての小学校の同級生だった貴族の息子たちが大勢……兵役で長年故郷に居なかったあなたを懐かしみ話も弾みます。


 そのうちに酔いが回り、普段は決して他人に明かす事はない秘密……極々一部の人間だけが知る極秘を友人が打ち明けます……うちには古くから魔族の子を地下で飼っているんだ……先祖代々で……奴隷売買は重罪で禁じられているが、今更どうしようもなく……逃がせば逃げた奴隷があからさまになって罪に問われるからと……他の友人らとともに地下へと案内されます。


 そこには檻の中で護符を額に貼られ、鎖に繋がれた魔族の子が……紹介するよ……とその息子は魔族の子を檻からだし、友人にご挨拶しろと命令したとします。奴隷の子はなんだかわからなくても、ひたすらその友人に頭を下げるわけです……ぶるぶると震えながら……。


 その時にその友人はどうすると思います?こんなことは間違っているから、即刻奴隷の子を開放しろと、友人らにその地下室で叫びますか?貴族の息子に掴みかかって行って、恥を知れ!と叫びますか?」


 ギレージュが振り返り、冷ややかな目つきで俺と事務長を交互に眺め始めた。なんと……もしかして……


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