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13.現場検証への誘い

13.現場検証への誘い


「こらこら……賢者殿が奴隷制度に関わっているはずはないではないか……ここに居るエルムグリムの民は全て我々魔族のみならず、小鬼たちにも友好的な方たちなのだぞ!一方的に侵攻して多くの民の命を奪ったにもかかわらずにな……。」


 人間に対しての恨みを事務長にぶつけるかのごときギレージュの発言に、ダッフンバルト2世が怒りのコメント。


 そうなのだ……俺が知っている限り、エルムグリムで魔族の子を奴隷にしているという事実はない……一部、旧議長ら貴族を除いて……だが彼らは追放済みで、確認のしようが……


「ちょっと待ってください……今でも……っておっしゃっていますが、流石に今は奴隷などの悪しき風習は、なくなっているのではないのですか?先日から調査を開始したのですが、貴族らの屋敷を家宅捜索しましたが、地下に檻があったことはありましたが使われておりませんでした。なので何百年も昔の話では?」


「ふん……私が奴隷の身の上から解放されたのは、魔王国建国後の……今からほんの220年ほど前のことです。少なくともその時までは、奴隷制度があったと言う訳ですよ、しかもエルムグリム領内でね!


 飼い主らは自分の奴隷を自慢するため、定期的に仲間を集めて奴隷の品評会を行っており、私もしょっちゅう連れまわされましたが……移動の時間の程度から全てエルムグリム領内ばかりで、しかもその時点で多くの魔族に獣人及び妖精……はては小鬼までをも奴隷として扱っておりました。


 その時分にはすでに奴隷売買も表立っては禁じられていたのでしょう……私もそうですが、成人した後の奴隷が多数見受けられました。ですが私が逃げ出した後、魔王国に魔族が新たに加わった事実はございません。


 複数の魔族を見かけていたにも拘わらずにね……獣人国や妖精国へも魔王様通じて問い合わせましたが、彼らも同族が解放されて加わった事実はないようです。


 では……私同様に扱われていた他の奴隷たちは、どこへ行ったというのでしょうか?」


 ギレージュが吐き捨てるかのように驚愕の事実を告げる……なんと……少なくとも220年前までは奴隷制度が存在し、しかもその時点でまだ多くの魔族たちが奴隷として飼われていた。にも拘らず、彼らが解放された事実はどこにもない……すごく長寿であるにも拘らずにだ……しかもエルムグリム領内で……。


「確かに……魔族や獣人に妖精らの子が奴隷として売買されていた当時の記録を読んだことはあるが、禁呪の護符を額に貼り付けて、普段は魔力を封じていたとの記述があった。


 だが魔族は特にだが……成人した魔族は魔力も力も強く、護符だけでは制御しきれなくなる場合が出てくるため、奴隷とするのはせいぜい3百歳までの子供までで、以降は遠くの山奥に捨て置いたと記述がある。恐らくそれがエルムグリム北部山脈のさらに奥……今では魔王国の領内だろう。


 捨てられた魔族は既に成人していたから過酷な環境でも生き延びることが出来、この盆地ともいえる高山の中の平野を見つけて住みだしたと、魔王国建国当時の資料も読んだ記憶がある。


 成人になってからも尚従順な奴隷とするがために……呪詛を護符ではなく直接肌に刻んだのだろうな……そのほうがより効果が高いのだろう。


 実のところ魔族らの魔力や体力を完全に封じてしまうと護衛の役に立たなくなるというので……奴隷である魔族らの子には、実の我が子の護衛としての役割もあったようだからな……子供たちだけで遊ばせる時は奴隷に我が子を守らせた……その為に絶対服従の……」


「まあまあ……過去の記録はともあれ、ギレージュが打ち明けた内容に興味はありませんか?ほんの少し前までエルムグリム領内で奴隷制度があったという事実……奴隷でしたから移動の際は常に目隠しされ、眠らされておりましたから、解放されたときも同様で、私はどこで飼われていたのか分かっておりません。


 ですがギレージュの場合は自ら逃げ出したわけで……その場所を把握しているわけです。それが……どこだったのかな?」


「エルムグリムの中北部ですよ……解放された場合は北を目指せ……が我々魔族の奴隷らの合言葉のようになっておりましたから、私も北を目指し走りに走って、丸一昼夜走り抜き山脈のすそ野まで辿り着きました。その後も休まずに山の中を歩き続け、5日ほどでこの盆地まで辿り着いたのです。


 奴隷の品評会に連れまわされる時の移動時間は眠らされてはいましたが、それでも日に一度の食事だけは起こされて与えられておりました。顔色の悪いペットでは品評会の評価が下がってしまいますからね。


 それで行くと移動時間は長くて馬車で3日ほど……どれだけ頑張っても現在のエルムグリム領内から外へ出られる距離ではございませんでした。この事実を如何お考えで……?」


 ギレージュが高らかに宣言する……今でもエルムグリム領内に多くの奴隷が監禁されているという、信じたくはない事実を……。


「ぎっ……ギレージュ……さんよ……俺はあんたのことを絶対に許せないほど憎んで来た。だが色々と話を聞くと、人間へ恨みを抱いても仕方がない過去があったという事が分かった。だからと言って、メリアンちゃんを殺したことを許すつもりは毛頭ないが、少しは同情する気持ちは湧いて来た。


 それでその……奴隷として閉じ込められていたのは、何処かのお屋敷の地下室のはずだろ?さっきも話したように、旧議会議長ら貴族のお屋敷の地下には大きな檻が必ずと言っていいほど存在したが今は使われていなかった。しかもそのことに気付いたのは、彼らを汚職や背任行為でエルムグリムから追放した後だ。


 彼らは全員、かつて猛獣を飼っていた名残だと、あくまでも魔族らの子を奴隷としていたことは否定している。戦前の貴族議員以外の貴族は今もエルムグリム国内に多数いるが、彼らに確認しても奴隷を隠している事実はなさそうだ。だけど……証人が現れたならどうなる?都合の悪い事実を隠すことも出来なくなるだろう。


 如何だろうか……我々と一緒にエルムグリムへ行って、旧議会議長らのお屋敷を確認していただけないだろうか?もしそこがギレージュさんが閉じ込められていた場所……あるいは連れまわされたときに見た場所だったりしたなら……今はタッタルンにいる旧議長らを締め上げる口実が出来るはずだ。


 協力していただけないか?うちの飛行船ならば、エルムグリム迄丸1日あれば到着する。何日もかかることではないから、お役目にもさほど大きな迷惑をかけることにはならないだろう?」


 こうなったら当人であるギレージュを連れて、旧議長らのお屋敷を確認していこう。うまくすれば隠し扉なんか見つかる可能性だってある……。


「わっ私が……ですか?あななたちとご一緒……するという事でしょうか?嫌ですよ……どうせ騙して連れて行って、取り囲んで処刑しようというおつもりでしょう?戦争責任追及のためにね……。


 おあいにく様……人間らの狡猾さには慣れておりますから、騙されはしませんよ……。」

 ところがあっさりと断られてしまった……いい案だと思ったのにな……


「どうしたギレージュ……そもそもエルムグリム侵攻の最大目的は、未だに捕らわれているはずの魔族に獣人、妖精らの開放のはずだっただろ?お前が先頭に立って囚われていたであろう場所を特定し、そこから辿って隠されているはずの同胞らの居場所を突き止めるという……なのにどうして断るのだ?


 お屋敷の地下に大きな檻があるなんて……確かに私が見た記憶でもそうだった。だが私の場合は、そこがエルムグリムであったのか、あるいは大陸西方の地域であったのか、記憶があいまい過ぎて今となっては確認のしようがない。だが……お前なら今でも鮮明にその時のことを覚えているはずだろ?


 どうして同行を拒否するのだ?」


「だから……申し上げたではありませんか……騙されて再度囚われの身になるつもりはないと……こいつら人間どもの考え位お見通しですよ……私はにっくき戦争犯罪人ですからね……。」

 ダッフンバルト2世が説得に協力してくれたが、頑としてギレージュは応じようとしない。


「馬鹿を申すな……お前の戦争責任を追及するつもりなら、先日エルムグリム王国を訪ねた時に捕まっているはずだ。多勢に無勢だからな……如何なお前とて何万もの兵に取り囲まれたなら、抵抗のしようもあるまい。


 なのにわざわざ一度は逃がし今度は魔王国まで少数でやってきて、お前を捕らえて帰ろうとしていると申すのか?そのような事……あろうはずもない。」


「ふんっ!人間はかくも愚かで狡猾で巧妙な生き物ですからね。前回の訪問時のように国を代表する使者として訪れたものを捕えては、如何に戦争犯罪人と言えど国際問題となりかねない。


 そこで一旦は解き放ち、今度はわざわざ魔王国までお迎えに来たうえで、参考人として連行して捕らえるという巧妙な作戦でしょう。ただの客人であるならば手荒な真似をしても、国際問題にはならないだろうという浅はかな考えでしょうね……ですが、その手にはひっかりませんよ!」


 ダッフンバルト2世の理路整然とした説得にも応じようとしない……性格がねじ曲がっているなあ……。


「だがなあ……あの時はお前を戦争犯罪人として、エルムグリム王国へ差し出すつもりで連れて行ったのだぞ。如何様にもして下され……と申してお前を差し出したにもかかわらず、既に職位を解かれ階級を落とされたことで、お前の処分は済んでいるようだと、無罪放免いただいたではないか……。


 本当にお前への厳しい処分を望むのならば、前回の訪問時にお前を拘束し、エルムグリム王国にて裁判なりにかけたはずではないのか?わざわざお前の言うように、だまし討ちするつもりで迎えにくる必要性などない。


 お前の母国である魔王国がお前を差し出すと申し出たのだからな……それを断っておいて、あとから迎えに来るというのはどういうことだ?あり得ないだろ?」


「そっそれは……まあ……そうですが……ですが、愚かな人間どもが考えること……私らには理解しがたいものですよ……。」


「どうせお前一人だけで行かせたなら、仮にエルムグリム王さまにお会いした時など、無礼な態度を取りかねないからな。それで魔王国との関係が悪化しては大変なことになる。


 私も同行してやるから、だったら構わないだろ?私は正式な魔王国からの大使として同行するつもりだ。お前は大使のおつきとしてエルムグリム王国を訪問するのであれば、捕らえられる心配もなくなるのであろう?


 良いな?」

 ついにはダッフンバルト2世までもが同行すると言い出してくれた。


「はあ……もう……どこまでお人よしなのか……分かりましたよ……行きますよ。行けばいいのでしょう?ですが……あとで後悔しても知りませんからね。」

 やった……ようやく説得に応じてくれたようだ。


「ありがとうございます……ダッフンバルト2世王子様にはご迷惑をお掛け致しますが、よろしくお願いいたします。あっ……勿論ギレージュ……さん……にも御迷惑を……」


「ふんっ……私はおまけのような言われ方ですね……。」


「いやいやいや……決してそのような……だけどこれだけは覚えておいてくださいね……。


 仮にエルムグリムの旧議員系貴族のお屋敷が、ギレージュさんが捕らわれていた場所だったとして……我々はその証言をもとに、旧議員らの取り調べを行いますが、あくまでも罪を犯していたのは220年前……先代どころか先先々代……くらい前の、すでに死んでしまっている人が対象です。


 では何のために取り調べるのかというと……正に今でも囚われている魔族や獣人や妖精らがいるかもしれないからです……彼らがもし今でも生きているのであれば、それは何としてでも助け出したい。だけど何の証拠もなければ、家宅捜索などもできないのですよ……特に今は他国に住んでいますからね……。」


 まずは旧議員らを取り調べるにしても、その目的は彼らを罪に問おうと言う訳ではないことを、あらかじめ説明しておく。あくまでも捕らわれの身であろう、魔族らの開放のためだ。


「仮に……取り調べて家宅捜索を念入りに行い、今でも魔族が捕らわれていたとするならば、その貴族自体も罪に問われるのではないですか?今では奴隷は重罪なのでしょう?」

 ギレージュの声のトーンが変わった。低く抑揚なく、感情を抑えたような声色だ。


「うーん……まあ……彼らへの処遇というか、扱いに寄るでしょうね。ご先祖様が奴隷として隠れて住まわせていたが、奴隷を持つことはは重罪となったから公にはできなくなってしまい、仕方なく隠れて生活させていたと……虐待などもなく普通に生活させていたとしたなら……罪に問うのは難しいかと……。


 今でも虐待や重労働など……奴隷のような扱いを続けていた場合は、それこそ最高刑は死刑でしょうがね。」


 あくまでもご先祖様がしでかしたことであり、その子孫に罪を問うのは難しいことは告げておく。ようは今現在、どのような境遇でいるのか……奴隷として扱っていたならそれは重犯罪だ。


「分かりました……同行させていただきましょう。」

 ようやく納得していただけたようだ。



「エルムグリム王国から、使者の方がいらっしゃいました。」


 ようやくギレージュが同行に納得してくれたそのタイミングで、衛兵が通路をかけてやって来た。なんだなんだ……エルムグリムで何か問題でも起きたのか?と思って顔を上げたら、衛兵らに案内されてやってきたのは見慣れた顔……なんと兵士長だ。


「どっ……どうしたのですか?何かエルムグリムで問題でも?」

 事務長が慌てて駆け寄って行く……考えることは誰でも同じようだ。


「何を申しておる……文にかかれておっただろ?タッタルンとの同盟の協定書……他国との正式外交文書故、伝令バトに持たせるわけにもいかんから、わしが持って参上した。


 レルムは留守番で……随分と愚痴をこぼしておったが、まさか王様直属の側近が二人とも抜けるわけにもいかないから、今回だけはと涙をのんでもらったわけだ……実際はまあ……くじ引きでどちらが行くか決めたのだがな……わっはっは……。


 タッタルンの二心がある協定には国王様もえらく心を痛めておられるようで、くれぐれも慎重に調査して対処するようにと、仰っておられた。タッタルンは本当に、どうしようもなく劣悪な国に成り下がってしまったようだな……元は同じ国だったというのに情けない……。


 それにしても……いやあ……飛行船は思っていたより快適で……高高度まですぐに達して1日でここ迄来ることが出来た。あれなら魔王国とも……縁遠くなっていた妖精国や獣人国とだって、頻繁に快適に行き来が出来そうで、本当にすごい発明だぞ……流石勇者殿……。」


 真新しいステンレス製の光り輝く鎧兜に身を包み太い巻物を掲げ、笑顔の兵士長はいつになく饒舌だった。


「そっ……そうでしたか……では、少々お待ちください。」

 事務長はすぐさま踵を返し、ダッフンバルト2世の下へ……


「先日お話いたしました、エルムグリムとタッタルンの同盟協定書が只今到着いたしました。エルムグリム王国の軍部最高司令官も兼任する兵士長がお持ちくださいましたが、すぐに魔王様にもお目通り願い、ご確認願いたいと思いますが如何でしょうか?」


「おおっ……それはそれはわざわざありがとうございます。タッタルンとエルムグリム間で同盟の協定がなされていたという件は正に寝耳に水で、魔王様も大変驚いておられました。すぐに謁見室へご案内いたします。


 おいっ、魔王様の居室へ急ぎ、監禁を解いて謁見室へすぐにいらっしゃるようお伝えしろ!」


「はっ!」


 ダッフンバルト2世はすぐに謁見室へ案内してくれるといい、魔王を呼びに行くよう廊下の向こう側に配置されていた衛兵らに大声で告げた。なんと……魔王は自室に監禁されていたのか……まあなあ……情緒不安定気味だったからなあ……


「私は術後の経過が心配なので、患者を病室へ連れて行って診察を続けます。」


「分かりました……謁見室へ向かうのは私と文美雄と兵士長だけで問題ないだろうから、ハッカクとターレム二人はここに残り、残りの兵は到着した飛行船の兵らを私たちが与えられた客室へ案内しておいてくれるか?丸一日寝ていないはずだし、それなりに荷物もあるだろうからね……。


 飛行船はアンカーで固定しておくのを忘れないようにね……。」


『はっ……』


 産後の経過が心配とハルシューさんが病室まで付き添うと言い出したので、ハッカクさんとターレムさんをハルシューさんの下に残し、他の兵士は到着した同行兵を俺たちの客間スペースへ案内するよう事務長が急ぎ指示を出した。


 朝晩のトレーニングと言い、魔王城内で俺たちは行き先を制限されずに自由にさせてもらっているので、到着した兵らの案内をいちいちお願いしないで済むのは助かる……まあ……俺達が乗ってきた飛行船が停泊している中庭と、居室として与えられている2階の一角までの範囲限定ではあるのだが……。


 この範囲内には一切警備兵はおらず、自由にすごしていられるのだ……特にそれ以上奥へ俺たちだけで行くことを禁じられたわけではないのだが、他国の王城故……いくら配慮してくれているとはいえ節度を持って行動しなさいとの事務長の指示があったので、それ以上の行動は控えている。


 まだ見ぬ魔族の王妃や王女など、興味はあるのだがな……。


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