27.国民審査
27.国民審査
その後も議論を重ね、2週間かけてようやく一つの法案としてまとめた。基本的には王政復古と議会制の併用……君主制民主主義?ともいえるような形の法案が出来上がった。
勿論満場一致で議決された。これにより、王政復古に対する国民審査が行われることが決まり、投票日は2週間後……有権者は現時点で15歳以上の成人であるエルムグリム国民という事になった。
《自分たちでまともな政策展開をせず、王政復古などというバカげたことを言い出して、自らの政治的理念のなさを平然と公言してはばからない、現議員らの言う事を聞いてはいけません。
国民審査の投票では、必ずNOと言いましょう。バカげた動議を提案するバカ議員どもは、議案の否決とともに全員辞職願い、今度こそ本当の議会を確立するための選挙をしようではありませんか。
お忙しければ、わざわざ投票所まで出向く必要性はございません。国民審査は全有権者の過半数の票を獲得できなければ自動的に否決されます。棄権することも、明確な意思表示と言えるのです。
馬鹿な議員どもを議場から追放し、本当の政治を目指そうではありませんか!》
2号議案が成立して国民審査が確定すると、すぐさま議案の反対派による運動が開始された。旧議員派の貴族連中であることは間違いがない。
仮に過半数の賛成が得られなくて、議案が否決されたならどうなるのか事務長に聞いてみたら、議案が成立して王政復古となれば現議会はそのまま元老院へと移行する事になるが、仮に否決されたとしても議会は解散せずに残るのだそうだ。
国民の支持を得て当選した議員が、そう簡単に罷免されることはないだろうといっていた。
但し……議会制民主主義の選挙で議員として選ばれたにもかかわらず、その意義を否定するかのような王政復古を宣言したことをきちんと国民らに説明して、今後どのように議会運営するのかを明確にしなければ政権の継続は難しいだろうとも言っていた。
そりゃそうだよなあ……まだまだこの国には王様の力が必要なんだと、高らかに宣言してしまったのだからな……国民審査で否決されたから仕方がありません……俺たちだけで政治を行います……なあんて方便が通ろうはずもない。潔く議員辞職して、再度選挙で選ばれるしかないのだろうなあ……。
《魔王国の侵攻を跳ねのけてから、皆さんの生活は劇的に改善されたのではないでしょうか?そりゃあ……魔王国からの莫大な賠償金を貰ったから財源が豊富で……とか勘違いされていませんか?
確かに敗戦国である魔王国から多額の賠償金は支払われましたが、それらは魔王国侵攻に際して事前に破壊した、城下町を始めとした進路上の町々の再建費用を賄う為のものでしかありません。
一からやり直すことが出来たために、確かに道路は整然と整備され、住居ビルも立てることが出来て住環境が格段に改善された方も多くいらっしゃるでしょう。ですが賠償金でまかなえたのはそこまでです。
終戦とともに疎開先から戻られて生活のやり直しを強いられた皆さんが、今日まで豊かに暮らしてこられたのは、国民のための正しい政治が行われていたからにほかなりません。
その政治が今後も継続することを、皆さんはお望みではありませんか?
今回行われた王政復古は、魔王国進攻に際して行われた一時的なものであったのかも知れません。王様はそのことをしっかりと理解されて、戦後の復興がある程度なされた時点で議会制民主主義への移行を宣言されました。ですがそのお考えに、私は不満を持っております。
もう少しだけ王様に、この国を導いていただきたい……真の民主主義を行えるくらいに、国民の意識が高まるまでは……そう考えて仲間を募り選挙に立候補して、再度の王政復古を成し遂げるための法案を提出し可決されました。
後は国民の皆様の審議を受けるのみです。王様は誠実な方ですが同時に非常に頑固者だと伺っております。国民審査の可決は過半数票ですが、恐らくそれだけでは納得されないだろうとも……ですので是が否にでも皆さん投票場へ出向いていただき、国民の大多数が王政復古を望んでいることを示していただきたい。
どうかお願いいたします、投票日には皆さん投票場へ向かってください。》
木霊魔法を使って、真新しい街並みの城下町で演説を行う……スーパー堤防の町にはハッカクさんとターレムさんが……その他地域にはその地域選出の議員たちが戻って、それぞれ国民審査へのお願いをしているはずだ。俺と事務長さんと兵士長とレルムは広い城下町担当だ。
国民の大多数が王様の政治を望んでいることを示し、王政を復活させるために運動を展開している。全有権者の8割から9割だなんて……そんな賛成票を得られるとは到底考えていないが、それでも6割から7割近くまで賛成者がいれば、王様の心を動かせるのではないかと期待している。
その為に……投票日までの期間……必死に声を振り絞って叫び続けるする予定だ。
「あー……声が完全にかすれてしまいましたよ……。自分たちの議員選挙の時よりも、必死に声を張り上げて頑張ったような気がします。」
「まあそう言うな……選挙戦の後半にはかなりの手ごたえがあったぞ。反対派の貴族連中の演説会場には、ほとんど人影も見られなかったのに、こちら側には大勢の聴衆がいたからな。
過半数票は、間違いなく獲得できるだろう。問題は……どこまで積み上げることが出来たかだな……王様を納得させる所まで、達してくれたならいいのだが……。」
熾烈な選挙戦を繰り広げ、ついに投票日……俺と事務長は本来はスーパー堤防の住居ビルが地元なのだが、国民審査の投票は国民審査が決まった後の告示期間中に、不在者投票ですでに済ませてある。
昨夕過ぎまで城下町で街頭演説を行っていたので、戻っている暇がなかったのだ。
兵士長とレルムと連れだって議事堂正面の仮設投票場へ向かった。今回も事務長が先の選挙の際に考案した、玉を使う投票方式だ。元老院制による王政復古に対して、YESかNoを選択すると、それぞれの色の玉が追加されていき、後で玉の数を数える方式だ。
勿論数えるのは国軍の兵士がそれぞれの地域で、選挙管理委員の監視の下で行われる予定だ。
「即日開票という事ですけど、議員選挙の時と同様に北部地域の山間の集落の集計に手間取って、結果が出るのは数日先なんですよね?」
「ああ……山間部の集落の集計結果が遅れるのは仕方がないことだ。集落と集落を行き来するだけでも半日以上歩かねばならんのだからな。
いずれは木霊魔法の遠隔通信が行える上級魔導士を配置して、急病患者に対応するための予算申請なども検討したいのだがな……いかんせん肝心の上級魔導士の数が足りなさすぎる。どれだけの予算を通そうとも、要員的に不可能ではどうしようもない。」
「申し訳ありませんね……戦後すぐに魔導士育成を強化しておりますが……上級となると育成にも時間がかかり、今年ようやく4人目が認定された程度……仕方がないので魔力が強そうな新人僧侶を選抜して、木霊魔法を最優先で取得させることにいたしました。恐らく年内には……僻地とも遠隔通信が可能となるでしょう。」
事務長が残念そうにつぶやき、レルムが申し訳なさそうに頭を下げる。いや……別に北部集落の連絡状況の悪さに、苦情を言っているわけではないのだがな……でも、そうか……選挙結果の速報なんかよりも、急病患者の連絡などもっと逼迫した必要性があるわけだ……だから何とか対応しようと……。
「そんなことが可能なのか?」
「はあ……これまでの修業とは全く異なる手法なので……この方法が最適とはとても言えないでしょう。
王都に襲来した無数の魔導船団……から思いつきました。」
「魔導船団……から?それはどういうことだ?話が見えないが……。」
レルムのもったいぶった口調に、事務長が珍しく焦れる。
「巨大な魔導船を浮かせて動かすには、1隻当たり上級魔導士が数十名は必要と考えておりました。数千人が乗船できる巨大で重い船を、上空高くまで浮かせて進むのですからね……ですが王都に襲来した魔導船の残骸には、いるはずの魔族が一人もいませんでした。全てが小鬼たちのみで飛行してきたのです。
当初は墜落した現場から魔族が単独の飛行術で逃げ延びたのかもしれないとも考えましたが、百mまで上昇して焼け落ちた魔導船の残骸からも、黒焦げの小鬼たちの死骸以外は見つかりませんでした。」
「小鬼たちの中にも上級魔導士クラスがいたのではないのか?百万もの兵だからな……。」
「それも考えてみましたが……戦勝後に小鬼たちに対して堤防工事の指導や、ログハウス建築に加えて農地開拓の手順などを教えて戻ってきた兵士らの話を聞いた限り、小鬼たちの中には初級魔法の使い手以外はいないようです。上級の使い手たちすべてが魔導船とともに散った……とも考えられますが……。
仮に上級魔法を使えるような知能が高い小鬼たちが一定数以上いたとするならば、恐らく魔族によって虐げられた生活に反発して、とっくに魔王国は破綻していたのではないかと考えられるのです。」
成程……確かに小鬼たちは穀倉地帯に住処も作らず、畦道に雑魚寝の野宿して農作業に従事していたのだったな。奴らの住処は山奥の洞窟で……それでは不便だろうと、作り上げた堤防にログハウス建築を教えてやり、河川敷を耕して畑にする方法まで指導してやり、すごく感謝されたのだった。
だから……その後も棚田の作り方やエビの養殖技術から、更には漁の方法まで教えた代わりに漁業権を共同でつかえることになったのだった。虐げられてきたというか……魔族はさほど小鬼たちの生活に興味がなかったのだろうな……農業や漁業指導などでも反発するどころか魔王はすごく感謝していたのだからな。
小鬼たちの知能がもう少し高ければ……確かに魔王たちに反発してクーデターを起こしていた可能性は十分あったはずだ。魔王国の代わりに小鬼たちの国が出来上がっていたとしても不思議ではないのだ。
「ちょっと信じがたいことではあるのですが、小鬼たちは初級魔法である単独飛行術の詠唱だけで、あの巨大な魔導船を飛行させていたのだと想定されます。魔力さえ強ければ、つたない詠唱技術でも莫大な魔法効果が得られるという事なのでしょう。
確かに小鬼たちの炎魔法は初級魔法であるにも拘らず、我々の中級……あるいは上級魔法にも匹敵する威力でしたからね。
そう考えて魔力が強い新任兵を選抜し、木霊魔法のみを徹底的に指導して取得させているところです。早ければ年内にでも、地方都市すべてに遠隔通信ができる僧兵を派遣できる予定となっております。
本来ならば初級中級上級と……順に魔法を取得して上達していくものですが、一部のみ特化させた教育方法は、適正とは申せません。ですが遠隔通信さえ可能となれば、王都とつないで遠隔で初級の他の魔法から指導して、改めて取得させていくことが可能です。最終的には何ら遜色のない上級魔導士となるはずです。」
成程……通信技術さえ取得してしまえば、地方に行っても中央とつながって教育は受けられるのだ。
「北部の山間部の集落などとも日常的に繋がれるようになれば……現地の新任兵をわざわざ近くの大都市へ赴任させなくても、地元で新任教育を受けさせることが可能となるわけだ。僻地の守備兵は中級以上の兵に限定され、費用面から少数しか派遣できていなかったが、これからは地元兵で数倍の兵を置くことが可能となる。
雪崩や森林火災などの自然災害の対応にも十分な兵が、通信によりすぐに応援できる形になるはずだ。」
レルムの説明に、兵士長が言葉を付け加えた。
成程……上級魔導士育成が大変だったら無線通信の開発を提案しようかとも考えていたのだが、それだったら必要ないな。なんせ通信技術のことなんて俺にはさっぱりだからな……せいぜい糸電話の説明位で……。
「じゃあ……今回は……数日間の辛抱だ。待とうではないか……。」
「過半数を超えて可決されるかどうかだけなら、恐らく明日の昼には分かりますよ……国民の大多数は都市部に居ますからね、即日開票で大勢は決します。」
なるほど……明日の昼には可決か否決かは分かるわけだ。だが……王様を説得するには過半数越えだけでは無理そうだからな……。
取り敢えず結果待ち……という事になった。
「ううむ……なんとも……微妙な結果と言えそうだな……。」
「そうですね……微妙……。」
翌日……午後一の開票速報で、王政復古の元老院制度が正式に国民審査を通った。全有権者の過半数の賛成票を得られたのだ。だが……開票率70%で全有権者の50%を超えた賛成票という速報値だった。
これをそのまま鵜呑みにするならば、恐らく開票された票のうちの7割強が賛成票という事になる。投票率100%と考えた場合の推定値なので、恐らくもう少し賛成票の率は高めではあるだろうが……それでも80から90%以上の賛成票には……まだまだ遠く及ばない……。
いや……まて……投票率が90%未満であったならば……
「不在者投票も含めた投票率は……なんと……93%という事のようだな……北部地域の山間部の投票率を除いての数値だから……もう少し高くなるだろうな……恐らく元貴族議員関係者らは、票を不正に使われることを危惧して、投票場に向かっていないだろう。
玉の色どちらが賛成票か知らなくても、今回の場合は大多数が賛成票と分かりやすいから票数の操作もやりやすい。それでも投票総数は別カウントだから、投票しに行きさえしなければ不正にカウントされる心配もないはずだからな。」
「成程……そうなると……一般市民にも案外反対派がいるという事になりますね。」
「どんなことにも……反対する輩はいるという事だ……そういった意見も貴重として、汲み上げて行くのが政治という事なのだろうな……。」
「ははあ……政治っていうのは難しいですよね……。」
それから数日して……いよいよ最終結果の発表が行われた。
「開票率100%での結果だ……投票率が何と96%……これは国民のほとんどが投票場に赴いたと言えそうだな……その上で……賛成票が78%……ううむ……目標とした80%には達しなかったか。残念だな……。」
「いやあ……でも……78%って……ほとんどの国民が王様の政治に期待しているという事じゃあないのですか?この結果を持って、王様を説得しに行きましょう……。」
「ああ……そうだな……。」
各担当地域での選挙戦を終え、国会議員全員が王都に戻ってきているので、議員全員で王様の説得に向かう事となった。
「ふうむ……全有権者の78%が王政の復活に賛成しているという事なのだな?ということは……反対だから投票場へ向かわなかったものも含めて22%の有権者は、王政の復活に反対しているという事になる。
ふうむ……」
国民審査結果を伝えられた王様は呟くように小さく発した後、玉座に腰かけたまま腕を組んで目を閉じてしまった。恐らく色々と案じているのであろうな……
「ですが王様……今回の国民審査結果では、投票場に出向いて意思を示した有権者のうちの8割が賛成票を投じているのです。この件を真摯に受け止め、王政にご参加ください。」
沈思黙考する王様に対し、事務長が声をかけた
「なるほどのう……物は言いようだのう……ふうむ……今ここに集う議員諸君らのように、不正を嫌い国民のための政治を目指そうとする者たちであれば、わしが参加せずとも正しい政治が行えると思うのじゃがな……さてさて……」
目を開けた王様は、優しい笑みを浮かべて見せた。
「一つ条件があるのだが……いいかな?」
「はっ……何なりとお申し付けください。」
ううむ……条件って何だろう……王政は現王さま一代で終わらせるとかかな?王子様は元老院の議長だし……あり得ないことはないな……。
「元老院議員は4年に一度の選挙で入れ替わって行くのじゃろ?
王政もその時に毎回継続審査すると言う訳にはいかないかな?国民が元老院議員らによる政治で十分に満足と思える時が来たなら……元老院を国会に戻して選挙制民主主義にまた戻すのじゃ……その約束が出来るのであれば、当面はわしも政治に参加するとしよう。」
なんと……王政の継続も4年に一度審査にかけるという事か……正に国民審査と言う訳だ……。
「承知いたしました。直ちに法改正の議案を作成いたしましょう。」
事務長が答え、これで王政復古が正式に決まった。




