28.第1回元老院会議
28.第1回元老院会議
「では……以上が、4年に一度王政の見直しを国民審査にかけるための法改正案といたします。満場一致で可決されました。」
引き続き元老院でも議長を務める王子様が、木製の槌を軽く叩いて議案可決を告げる。元老院で可決された法案は、この後王城にて催される内閣の承認を経て施行される。
内閣は王様と各大臣によって構成されるのだが、大臣と言っても我々元老院議員から選出されているので、実質の所は元老院ごと王城で王様含めて再審議するといったことになる。
元老院はあくまでも法律作成部門……いわゆる立法府で、内閣が実際に政治を行う行政府という扱いになる。議員数が多ければ、大臣以外の議員も出来るはずだが、なんせ13人だけの議会……全員が何らかの大臣若しくは副大臣の職に就いているため、顔ぶれは全く変わらない。
まあ……大臣は別に議員から選出する必要性はないため、今後は一般からの大臣起用なども十分考えられるが、大臣の任命権は王様にある為、あくまでも王様次第という事になる。
ちなみに俺が何と国務大臣と科学技術副大臣と国土交通副大臣兼務となり、事務長が外務大臣と科学技術大臣兼務。兵士長が国防大臣と大蔵大臣兼務で、レルムが魔法大臣と大蔵副大臣兼務。ハルシューさんが厚生大臣で、ラッセールさんが厚生副大臣と国務副大臣兼務。
ネハイルさんが国防副大臣と外務副大臣兼務で、ブーメリアさんが魔法副大臣と文部副大臣兼務。
ハッカクさんが農林大臣と水産副大臣兼務で、ターレムさんが水産大臣と農林副大臣兼務。南部選出の議員が文部大臣、中南部選出の議員が国土交通大臣となった。
俺には国民の生活を守る国務大臣など荷が重すぎると断ったのだが、スーパー堤防に住居ビルや鉄道敷設など、国民生活を豊かにするための提案ができるのだから適任だと押し切られてしまった。
各大臣副大臣が決まったところで、それぞれの省庁の今年度の予算配分を取り決める予算審議会に入った。
俺としてはトロッコ列車含めた鉄道化を早期に全国展開したいので予算申請を行い、更に戦後の都市整備をエルムグリム東部のみならず西部にまで進めるよう長期計画とし、実現のための年度予算申請を行った。と言っても……全て事務長にお願いして、概算の金額を見積もっていただいたのを提示しただけだ。
更にターレムさんにお願いして、水産資源確保として養殖技術の発展を科学技術省とともに行っていくための予算申請も行った。現状はカキやホタテに海苔などの養殖が始まっているが、たしか……アサリなどは潮干狩りの際に地元の漁師さんたちが浜に貝をまいておくと聞いたことがあるので養殖して居たはずだ。
貝の養殖もそうだが……いずれはブリやハマチ……出来ればマグロ迄養殖できるようにしたい。なんせエルムグリムは海岸線が短いため、大陸内では外洋の漁業権がわずかなのだ。今は魔王国と合同で漁ができるからいいのだが、将来的には独立した資源確保が必要と考えている。
事務長は魔王国への食料支援のための予算申請、ハッカクさんは農林業技術向上のための予算申請と、魔王国への技術支援継続のための予算申請を行った。
兵士長は国防費として国軍増強のためと女性兵士登用となったために女性のための教育機関と官舎増設のための予算申請、レルムは辺境地に木霊魔法に特化した新人僧侶を配置するための法整備と予算申請を行い、南部出身議員は教育制度改革のための法整備と予算申請など、それぞれ担当部門の予算申請を行った。
更に……
「真珠……だと?稀に大きな貝の中から見つかる……極めて貴重な宝玉のことか?形も千差万別で……色が均一で球体に近いほど貴重で価値が高いとされている。魔よけの効能も高く、丸くて色目が美しいものであれば、ルビーやエメラルドのような宝石よりも高額で取引される場合もあるようだ。
尤も……永らく海のなかったこの国では、拝むことも叶わぬ超貴重な宝玉と言われていたのだがな……海が戻ってきた今では国内でも取引されてはいるが……貝を開けて中に入っていたならひと財産……漁師が飛び上がって喜ぶほどの宝石だぞ。」
「はあ……俺が前に居た世界では、偉い先生が真珠の養殖技術を確立されて……庶民にでも手が届く程度の宝石になっていましたよ。黒真珠とか大玉とか……上を見ればきりがありませんが、ある程度の大きさの真珠がずらっと一回り連なった首飾りなどが主流で、そこそこの値段で買えたようでしたね。」
「真珠が連なった首飾りだなんて……恐らくタッタルン王家ですら持っていないほどの高価なものになるはずだぞ……まさか……真珠が人工的に作り出せるというのか?真珠というのは海の神様からの贈り物で、市場に出回るほどの大きさのものは、熟練の漁師と言えども一生に一度お目にかかれるかどうかというくらいに貴重なものなのだぞ……それを人工的に……だなんて……とても信じられん。」
事務長のほかにハッカクさんとターレムさんにも議事堂内の俺の部屋までお越しいただき、内密な相談を行う……これまでの養殖とは大きく異なり、当初は莫大な利権が発生しそうなので、危険なために極秘プロジェクトとしたいからだ。
「中学の時の偉人らの伝記で簡単に習っただけですが、真珠というのは貝の中に入った異物……砂などは常時吐き出しているようですが、欠けた貝殻や尖った石などが貝の体に突き刺さった場合等吐き出せず、貝殻内……つまり体の中で害をなさないように、真珠質……という膜でコーティングするのだそうです。
貝殻の内側……ピンク色できれいなのが多いですが……正にそれが真珠質なのだそうです。
最初は角ばっていても長年経過して真珠質の膜が厚くなると丸まってくるので、貝殻を開けると真珠として取り出されるのだそうです。だから……人工的に異物を入れてやりさえすれば……貝が死なない程度なものを入れてやり、その貝を養殖して何年か成長させるのです。
大きめの2枚貝に最初から丸いガラス玉か……大きな貝の貝殻を丸く加工して入れるのもいいかもですよね……丸い真珠が簡単に得られるのではないだろうかと……想定しています。実際はそう簡単にはいかないでしょうけど……。
まずは……真珠養殖用の貝……ある程度大きさが必要ですが、食用はもったいないので食べないような貝が適当だと思います。異物を入れて育った貝はストレスを常に感じているだろうから……普通の養殖よりは味が落ちるでしょうからね。
食べなくなっても貴重な真珠が得られたらそれでもよしですが……ホタテなんかは貝柱が太くて大きく貝が大きく開くので異物を入れても……吐き出される可能性が高いので……貝の開く大きさも検討してその大きさぎりぎりの異物を入れるのがよろしいかと……。」
取り敢えず知っている限りの真珠の養殖の仕組みを説明しておく。俺だって伝記で読んだだけでその時は実際に自分が養殖に携わるなんて思ってもみなかったから詳細などは知る由もないが、いつものようにある程度の知識さえあれば、後は丸投げで何とかなるだろう。
なんせ今年から本格的にカキやホタテの養殖を始めたのだ。他の貝だって養殖できるはず。
「ほっほう……もしそんな貴重なものが養殖できたなら、宝石としての貴重さは落ちるだろうが、それでも大きな利益を生むことだろうな……エルムグリムの発展のためという事だろうか?」
「いえ……戦勝から住居が整備され、穀倉地帯が戻って更に漁業資源も豊富となり住環境と食環境は、十分と言えるまでに整備されました。国民生活も豊かになってきたはずですからね……そうなると余裕が出来た分、きれいな服を着たくなるだろうし、宝石だって欲しくなるはずでしょ?
いずれはエルムグリム国内の鉱山開発も推進していきたいけれど、流石にそこまでの余裕は今の所なさそうで……真珠だったなら養殖可能かなーって……思ったのです。技術が確立さえすれば3から4年で、立派な真珠が出来ますからね。
でも……出回る当初は……市場価格はかなり高値のはずでしょ?うまく価格設定しなければ、エルムグリムで安く買ってタッタルンで高値で儲ける……なんて輩も出てくるだろうし、これはもう……国の事業として行い、その上でタッタルン側にもある程度公正な値で取引してやらねば……と考えたのです。
だから……成功してこの技術が確立するまでは極秘で……その為元老院の会議では発言しないでいました。元老院の会議も公開制で、議事録は全国に配布されますからね。
そうしなければ、開発競争になる可能性がありますからね。その上で……アイデア料というか、前の世界では特許料と言っていましたが、真珠の養殖技術を教えてやる代わりに利益の一部を貰う……などしてタッタルンでも養殖させるのです。
勿論魔王国に対してもだし……国交がない妖精の国や獣人の国とだって公正な取引が必要となりますね。」
取り敢えず極秘に進める必要性と、成功してからは各国への技術供与も必要な旨を説明しておく。
「このところ友好的な魔王国はさておき、国交のない妖精の国と獣人の国へも技術供与する必要性がありますかね……宝飾というより魔よけとしての真珠は欲しがるだろうけど……。」
「タッタルンとは以前他の大陸との交易で騙され、機織り機の権益でずいぶんと損をさせられた経緯があるから、タッタルンへも技術供与は無用だな……だが……貝の養殖となると海でやるのだろ?
防波堤工事が終わった港の中であればまだしも、海の中ともなると警備のしようもないから、技術が漏れる可能性は十分考えられるぞ、特にタッタルンとはすぐ隣だからな……。港の中では船の行き来の邪魔になるから難しいだろうしな……。
そういった意味では技術を公開して技術料を頂く契約にするというのは、適当かも知れないが……果たしてタッタルンが契約を守るかどうか……生産数や利益を誤魔化すのは当たり前のように行われるだろうな。」
妖精国と獣人国への技術供与はターレムさんが……タッタルンへの技術供与は事務長が反対のようだ。そういや……共同で出資した巨大船で始めた他の大陸との交易で、タッタルンに抜け駆けされたのだったな。
「そう言えば前の世界で子供のころに……大阪かどこかで……汚れた川をきれいにするために貝を養殖することにして、その貝で真珠を作るから出資してくれ……というニュースを見た記憶があります。
汚い川なので貝を養殖しても食用にはできないけど、貝が泥の中の不純物をきれいにして成長すれば、真珠なら作れるという事だったはずです。
だから……真珠の養殖は恐らく淡水の貝でも可能なはずです。川なら海よりも警備が楽なはずなので、当面は川で養殖実験を続けませんか?都合がいいことに川なら、鮭の放流実験の施設があるじゃないですか。その施設を使えば、他に漏れずに実験もできるのではありませんか?」
技術が外国へ漏れないように警戒するのは、例え敵対国でなかったとしても当然の行いだ。最初に技術を確立した国が莫大な恩恵を得るのだからな……共同開発でなければ、例え友好国であったとしても秘匿にしておくのが通常だろう。ましてやちょっと……怪しげな国に対してはだな……。
「おおそうだな……穀倉地帯西の大河の鮭の実験場は、あたしの息がかかった工房の作業員で運営しているからな。秘密は十分に守られるはずだ。早速川でも生きられる大型の貝の選定から始めよう。
貝が決まればどの程度までなら死なずに貝を開けられるかと、どこに球を入れるといい真珠が出来るのかの実験が出来る。球の材質も色々と試してみるとしよう。」
「この貝が海の貝なのか川の貝なのか知りませんけど……確かアコヤ貝……という貝が、一般的に真珠の養殖に使われていたはずです。」
翻訳魔法であれば固有名詞だってこの国の言葉に翻訳されて発せられるはずなので、知っている知識は惜しまずに披露しておこう。そのほうが進みが早いはずだ……。
「ほほう……アコヤ貝……すぐに漁師らに確認してみるとしよう。他にも……淡水で生きられる貝を漁師らに確認だな……。」
事務長が急いで部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ってください。タッタルンへはこれまでのいきさつから……あまり友好な関係は築けそうもないという事は理解できます。ですが……魔王国との戦勝からは、特に何もしかけては来ていませんよね?
もしかしたなら魔王国を陰で操って、エルムグリムに攻め込ませたのかもしれないというのは、俺の勝手な推察で、タッタルンを含めた過去の経緯を考えるとかなり怪しいのですが、でも……俺たちが当選した国会議員選挙だって王政復古のための国民審査だって、旧貴族議員らを支援して何らかの妨害工作に出るのかな……と心配していましたが、王政復古に対しての悪評を触れ回る程度で目立った妨害はありませんでした。
エルムグリムという国の行く末を左右するほどの、重要な案件でしたからね。もしタッタルンがエルムグリムをどうにかしたいと考えていたのなら、それなりの動きがあってもいいと俺は考えていました。
だから……俺の推察はもしかしたならただの杞憂で、タッタルンは関係なくて魔王国が独自の判断で攻めてきただけかもしれませんよね?
疑わしくは罰せずという事で……取り敢えずはっきりするまでは、タッタルンともできるだけ友好的に付き合ったほうがいいと思いますけれどね……。」
俺個人としてはあの……タッタルンの王子という奴はどうにも好きにはなれそうもない人種ではあるのだが、人を見た眼や第一印象だけで判断してしまってはいけないと思っている……特に人と親密な関係を作るのが苦手な俺としては、ぱっと見で判断されるのは辛いと常に思っている。
この世界の俺は積極的に人とも交流できてはいるが、これはあくまでも最初は向こうから俺に対して好意的に接してくれてきたからである。事務長は当初はぞんざいに俺を扱ってはいたが、それでも俺が必死に説明しようとしたら言葉足らずの俺の意図を汲んですごい武器を作ってくれた。
武器が出来てからは皆俺に対して、積極的に意見を求めてくれるようになったし、俺の言葉を漏らさず聞こうとしてくれている……そのような環境でなければ、俺はこの世界であっても未だにたった一人で孤立していたはずだ。
だから……極めて疑わしいとは思うのだが……タッタルンとももう少し友好的に付き合おうとしてみてもいいのではないかと考えている。魔王が典型的な例で、付き合ってみると案外いい人だった……なんてことがあるみたいだからな。
「ふうむ……だが……王様が議会制民主主義を宣言されたのは、すでに旧国会議員らの汚職や背任行為が取りざたされてからであったからな……裁判での審査のために選挙が半年伸びたのだが……次々と元議員らの悪事が暴かれて行って、他国から干渉できるような余裕はなかったのだろうと考えている。
魔王国は、その時点では疲弊していたし、とてももう一度我が国に攻め込めるような体力はなかったはずだからな。それに……タッタルンが1年だけで取りやめてしまった魔王国への食糧支援を、エルムグリムが単独で継続していて、魔王国は好意的な態度に変わってきているからな。
そもそもタッタルンとは同盟を結んでいたのが、魔王国が侵攻してきたときに兵を派遣しなかった。旧議会議員らを保護したから条約は履行しただなどと変な理屈で応戦してきたがな……だから信用できんという考えを変えるつもりはない。
戦後まもなくしてタッタルンのハーゲル王子様が来訪して、我が国が取得した新たな武器の供与を当然のように求めて来ただろ?あれは恐らく魔王国を打ち破った武器類を分析して、その弱点を魔王国へ伝えるためではなかったかと、今では考えている。
だが投石器は詳細は明かさず、他は弓矢に槍と普通の武器だからな。パチンコは脅威には映ったかもしれんが、それでも大量破壊兵器とはとても言えん……そのような武器で負けたのは、魔法一辺倒の戦い方に問題があると悟ったのだろう。それでも……魔王国の状況ではそれ以外の作戦は立てようがなかった。
その為……魔王国を焚きつけて攻め込ませて混乱に乗じて……と言ったことは出来なかっただろう。
更に勇者である文美雄を自国へ無理やりにでも連れ帰ろうとして来訪した際には、王子様とのやり取りの上で貴族議員らの不正が発覚したため、逆に来訪が仇になったといえた。
だから……当面はおとなしくするつもりだけだとあたしは考えているのだがな……。」
そうなのだ……タッタルンと共同で魔王国を支援していく約束を取り付けたのだが、魔王国がエルムグリムと共同で外洋漁業を行うとしてタッタルンへ預けていた漁業権を取り戻した時点で、タッタルンは魔王国に対しての食糧支援を取りやめてしまった。
エルムグリムとしては魔王国と共同で漁業を行いたくて食料支援していた訳ではなく、あくまでも人道的な見地から行っていたのだが、タッタルンは不満を申し立てて一方的に食糧支援を打ち切ってしまった。そのため今ではエルムグリムが単独で、魔王国への食糧支援を行っている。
穀倉地帯東の大河の堤防造成時の河川敷での田畑の開墾指導に加え、山岳地帯での羊や牛の放牧による酪農指導、更に山を切り崩して棚田を作ったり埋立地を使ってエビの養殖指導を開始したりと、少しずつ魔王国でも自立できる後ろ盾はできてきているのだ。あと少し……だと俺は考えている。
「だからこそ……今ならですよ……タッタルンと友好的な関係に修復できるのではないのでしょうか?」
そうしてタッタルンとの関係改善にも力を尽くすべきだとも考えている。なんせ真相は解明されてはいないのだ。疑うだけで遠ざけていては、関係は修復できないのだ。
「ふうむ……どうだろうかな……だがまあ……今では他大陸との交易はタッタルンの独占となっている。
エルムグリムは永らく港を持っていなかったし、貿易用の大型船も今ではタッタルン独自で建造しているからな。エルムグリムでも大型船の建造を視野に入れ、外洋漁業用の中型船建造に力を注いでいるところだが、直接大型船で他大陸に出向いても単独での通商は困難だろう。
真珠の養殖技術をエサにして、タッタルンと共同で他大陸との通商が出来るよう申し出てみるのもいいかもしれんな……向こうにだって十分な恩恵があるはずだからな……。」
事務長が少し渋々の様子ながら、タッタルンとの関係改善を了承してくれた。
続く
国民みんなが望む王政が継続できることになり、これからはエルムグリム復興に一層拍車がかかることと考えます。元の世界でのことを思い出し思い出し打ち明けては後は丸投げの文美雄ですが、いつまでこの幸運が続くのでしょうか……。取り敢えず第2章はここ迄です。
この作品に関する感想や評価など……連載継続の励みとなりますので、お手数ではありますがよろしければお願いいたします。




