25.議長選出
25.議長選出
「ですが王子様……未熟者と言えばここに居る誰もが当てはまりますぞ。元々貴族という爵位に縛られていた議員制度。我々平民には手が届かぬ世界で、政治に関心を持ったことなど一度もありません。
それは戦後に王様の指揮下で国の復興に携わって来た私ですら、同様です。
ですが此度勇者殿の呼びかけに応じ、私も議員に立候補する運びとなりました。王子様同様に、旧議会政治に疑問を持っていたからです。
ここに居る皆が同じ想いで立候補して当選した、すなわち全員が素人なのです。及ばずながらも我ら全員で補助いたしますから、まずは議長をお引き受け願えませんでしょうか?」
兵士長が、ゆっくりとした口調で王子様を説得にかかってくれた。王様に一番近い人だからな……王子様にだって常日頃から会っているのだろうから……言葉は伝わりやすいはずだ。
「そうです、王子様。我々がお支え致しますのでどうか……。」
「王子様、お願いいたします。」「お願いいたします。」「何卒お願いいたします。」「王子様しかいません。」
「お願いします。」「お願いします。」「どうかお願い……。」「お願い……」「どうか……」「どうか……」
「……………………………………どうやら満場一致……という事のようですね。
私は先ほども申し上げましたように、お声がけされて立候補し、この場にいるような身です。ですがまた、多くの国民の皆様方に支持されて当選したという事も事実です。
国民の総意にお応えするという事が、なおも重要とおっしゃられるのであれば、私が議長を引き受けざるを得ないという事になるようですね。微力ながら議長の大役、引き受けさせていただきたいと思います。
皆様どうか、私をお支え下さいませ……よろしくお願いいたします。」
王子様は全員から背中を押され、諦めたように大きくため息をつくと深く頭を下げた。王様と同様、腰が低いが、思った通りに聡明な御方のようだ。立候補に誘ってよかった……。
「では……ここからは議長主導で会議を取り進めていただきたく……お願いいたします。」
「かしこまりました。たった今議長に就任いたしました、エルムグリム・ミシュレニアです。至らぬ点も多いと思いますが、よろしくご鞭撻のほど、お願いいたします。
早速ですが……本来ならこれから各議員殿たちの役職と言いますか、担当省庁への割り当てを任命する手筈なのですが……私の見識不足で皆様方がいかなる役割に適しているのか分かりません。
ここに居らっしゃる多くの方々が初見の方でいらっしゃいますので……各々得意と思われる分野をそれぞれ仰っていただいてもよろしいのですが、恐らくそれでは重複するだけで広い役職分担には不適と考えます。
本会議の開催期間は本日より3週間と予定されておりますから、まずは皆さまがお考えの政策や法案を提出頂いて、それらの議論を進めたいと考えます。その間に私が及ばずながらも皆様を観察させていただいて、判断させていただきたいと考えます。よろしいでしょうか?」
「それはいいお考えですな。」「それなら適材適所も可能かと……。」「素晴らしいお考えで……」「そうですね、「賛成いたします。」「勿論です。」「賛成します。」「同意いたします。」「賛成します。」
「では……申し訳ありませんが、法案提出または政策展開をお願いいたします。別に順番など決まっておりませんから、挙手をして指名されてから発言をお願いいたします。」
うーんすごい……各人になりたい役職というか得意分野を聞いて行き、その上で担当省庁を決めて行くかと思っていたのだが、確かにそれでは重複は免れない。なんせ軍関係者だけで13人中8人もいるのだ。
レルムと西部の上級魔導士は少々毛色は違うが、所属自体は国軍だからな……ハッカクさんとターレムさんは農業支援などと言い出しそうだが、それだって2人でかぶっているし、医療従事者が2人と工房の事務長と駅長が一人ずつ、後は王子様だ。
聞いた手前、それぞれの経験や現職関連を割り当てる……となるとこれはもう……不可能だ。
それぞれに法案や政策を提出させたうえで、その議論も含めて得手不得手を見極めるというやり方は正しいだろうし、それなりに人を見定められる自信がなければ成り立たない。弱冠18にしてこのような采配を振るえるというのは……凄いとしか言いようがない。
「はいっ!」
こんなに早く法案や政策論争が始まるとはだれも考えていなかったはずだ。俺だって本日は顔見世程度で、議長が決まればいいな……程度にしか考えていなかった。それでも俺にはいの一番に提案したい法案があるのだ。真っ先に手を上げる。
「えーでは、勇者様、発言をどうぞ。」
「はい……私を呼ばれる時は多々羅若しくは文美雄でお願いします。勇者という称号はくすぐったいです。」
「了解いたしました。では多田羅殿、発言をお願いいたします。」
「では……映えある1号議案として、法案を提出したいと考えます。
現行法では、国会開催期間中は書記及び警備担当者含め議員も同様に国会議事堂から外出は許されず、国会終了後も議事内容を外部に漏らすことを禁じられており、議事録は永久保管となっておりますが一般に開示されることはなく、書庫で厳重に封をされて管理となっております。
これは政策が外部に漏れると、政策関連の企業の株が高騰したり該当地域の土地が値上がりしたりと、一部の人間が利益を得たりすることを防ぐのが目的とされているようです。
つまり……都市開発などで何処かの町に大きな市場や公園を建設しようとの計画が漏れたなら、あらかじめその用地を買い上げて国有化しようとするときに高値でつり上げて、莫大な利益が一部の人に行かないよう……との理由からのようです。
ですがその為か土地開発などで用地買収を行う際には、議員若しくはその親戚の用地ばかりとなっていたようで、議員たちの権益の温床となっていたのです。
これらは全て魔王軍侵攻により議会が解散され、国会議事堂が取り壊されて封印されていた議事録が永久保管のために王城に移され、王政時に会計を担当した事務長さんが過去の経理状況を確認しようと議事録を漁っていた時に判明した紛れもない事実です。
数々の汚職や背任行為で旧議員らは現在裁判でそれら罪状が明らかになっているところですが、閉ざされた国会では今後も同様のことが起こりかねません。そこで私は、開かれた国会を提唱致します。」
「開かれた国会とは具体的にはどのようなことを指しますか?出来ましたら事例をあげて私のような者にもわかりやすく、ご説明願えませんか?」
「はいっ……今この会議室をご覧になってお気づきでしょうが、我々が座るこの円卓の左右には柵があり、その向こうには椅子が並べられております。これらは私が事前に国会議事堂を設計する際からお願いしていたことで、それらの椅子には一般の聴衆を招きたいと考えております。
つまり……国会開催中は一般人の見学を受け入れるのです。誰でも申し込めば、会議開催中は会議の様子を見られるし、議事をメモって帰ってもいい。但し、会議の妨げとなる様なヤジや発言は厳格に禁じていただきます。この場で発言や議論が許されているのは、あくまでも選挙で選ばれた我々国会議員だけですからね。
更に議事録は全て各地の図書館で誰もが閲覧できるように、印刷して冊子にまとめて配布するのです。何年何月の通常国会の議事録……等と検索すれば何時でも誰でも当時の議事内容が閲覧できるようにするのです。」
まずは国会を開放して、議事内容をオープンにする提案を行う。
「成程……只今提案がありました、1号議案について皆様方のご意見をお聞かせ願います。」
「はいっ」
「えーでは……ラッセールさん……お願いいたします。」
「はい……中北部の選挙区で当選したラッセールと申します。
今ご提案された、開かれた議会の法案……大変面白いのですが、具体的に議事録にはどこまで記載されるべきとお考えでしょうか?政策論争などヒートアップしていけばヤジなど飛んだり、不適切な言葉が発せられたりもすると思うのですが……私の地元商店街の運営会議などでは、しょっちゅう怒号が飛び交います。
祭りの神輿の巡回経路をどうするかとか、あるいは商店街の大看板をどこに掲示するか程度のことですら……神輿の順路によっては人の流れが全く変わってしまって、自分の店に人が全く流れて来なくなったり、看板だって掲示されている場所が商店街の中心または始まりだという印象を与えますからね。
そうなると関係者にとっては死活問題なわけですよ……国会でも同様のことが起きませんかね?」
「成程……貴重なご意見ありがとうございます。今のご意見に関する……または1号議案に関する質問等もございませんか?」
「はいっ」
「多田羅殿……お願いいたします。」
なんだか会議らしくなってきたぞ……ちょっと後ろ向き気味の意見のようではあるが、どんな意見だってビシバシ出して頂けば、より良い運営が可能となるはずだ。
「議事録はその内容詳細を明確にしておけば、ヤジや怒号などは削除してもいいと俺は思います。記載事項が長くなりますしね……ですが、そのようにヒートアップする会議の方が、静かで誰も発言しようとしない会議よりは、議論しているのだから俺はいいと思っています。
皆さんの多くはその地域の代表として選ばれてきているのですから、多少は地元びいきをして地元のための政策や法案を提出されてもいいのだと、それが代表として選出された皆様の務めではないかと俺は思っています。かといって俺は全国区ですので……全国民のためだから公正だというつもりはありません。
もしかするとどこかの地域や職業に肩入れするかもしれません。ですが必ずそれらがこの国全体を潤すと信じて政策や法案を提出するつもりです。なので……出来ましたら白熱した議論……大歓迎です。
ちなみに……俺がいた前の世界では、国会中継……つまり国会の開催中の会議の様子は、テレビという水晶球を使った木霊魔法の延長のように、誰もが家庭に居てもその様子を同時進行形で見ることが出来ました。
まあ……多くの家庭では見てはいなかったと俺は思っていますけど……たまに補助金とか減税対策に地域の公共事業など、その人に身近な法案が提出されたときには空き時間を使ってみていたのかも知れませんね。俺の場合は学校の社会科の授業で、強制的に見せられました。興味なかったのでどんな議事が上がっていたのかも覚えていません。ですが国を運営する為の議論が公になっているのだという事だけは認識しました。
だから……王都限定になってしまうのは心苦しいのですが、地域の学校の生徒を会議開催中に招待するなんてことも、いいかもしれません。」
取り敢えず元の世界の状況も説明して、普通に行われていることだという印象を与えておく。
「はいっ!」「ではレルムさん、お願いいたします。」
「成程……木霊魔法を強化して、他地域の学校にも上級魔導士を派遣して中継してもよろしいかもしれませんね。戦後の緊張感からか、多くの優秀な魔導士が育ってきているので、近いうちに可能となるでしょう。」
するとレルムが全国中継も夢ではないことを漏らす。
「はいっ」「兵士長さん、お願いいたします。」
「だが……一般人を会議室に入れるとなると、警備の強化の問題もあるな。国民を疑いたくはないのだが、過去にも国会議員が暴漢に襲われるという事件が、年に数回は発生していたからな。だからこそ……国会自体の囲い込み意識が強まり、次第に議事録すら公開されなくなってしまったのかもしれん……。」
ついで兵士長……成程……平和だったと思っていた戦前のエルムグリムも、案外物騒な国だったのだな。だが……旧議員らの汚職の様子を考えると、ひどい手段を使って用地を事前に巻き上げられた人など、恨みを持つ人間が多かったという事は、俺にだって容易に想像がつく。
だけど議事録の非公開は恐らく自分たちの不正が明らかにならない為……だが、そうなると今度は……旧議員派の貴族連中が敵となって襲ってくる可能性は無きにしも非ずだ。
「はいっ」「多田羅殿、お願いいたします。」
「警備に関しては……招待席との間に柵を設けてありますが、ここに物理結界を常時張っていていただこうかと考えております。そうすれば物を投げつけられるなんてことも起こらなくなりますよね?」
取り敢えず俺が準備しておいた、安全策を説明しておく。
「はいっ」「レルムさん……」
「そうなると……見学者らには禁呪の護符を全員額に張っていただくことにしましょうかね。男性は元魔法兵士だった方も多いでしょうから、呪文をまだ覚えている場合もありますからね、念には念を入れよです。」
成程……禁呪の護符なんてものまであるんだ……レルムありがとう。
「はい」「兵士長さん」
「ふうむ……じゃあ、議事堂に入る前に荷物チェックと身体検査をして、禁呪の護符を配布。見学路に護衛の兵士を立たせておくという事で決まりでいいですかね?皆さん……良ければ早速手配いたします。」
兵士長が取り仕切ってくれた。
「賛成します。」「賛成。」「いいと思います。」
「はい」「では、ハルシューさん……」
「会議中は発言やヤジはやめていただくのは当然として、会議を見学した後で感想や意見を聞いておく必要性はありませんか?議事内容が国民生活に反映しているかどうかも含めて、会議の印象をお聞きしたい。」
すると今度はハルシューさんが、有意義な提案をしてくれた。
「はいっ!」「では事務長さん……」
「希望者は全員入れるつもりかな?部屋の容積から言って入れられる上限はおのずと決まってくると思うのだが……先着順などとすると、徹夜するやつも出てきかねんと思うのだが……。」
「なるほど……1週間前くらいからの予約制という事にして、希望者多数の場合は抽選……とかがよろしいでしょうか?他にも何かご提案があれば……。」
「はいっ!」「では……」
国会を開放して議事録は全国配布とただその程度だけ考えていたのだが、実際行うとなると様々な問題点や注意事項があるようだ。建設的な意見が多く、国会の会議公開と議事録配布は全員一致で承認され、予約制で応募者多数の際は厳正なる抽選を行うこととし、特別枠として近隣の学校の社会科見学も入れることとした。
即刻告示して国会議事堂正門前に立て札を立てて宣伝し、予約者を募って明日から公開会議となった。
国会初日は議長の選出と、1号議案の審議でおおむね良好に終了した。
国会議事堂の中には各議員一人一人の執務室が設けられ、さらに旧国会が会議中は外出を認めていなかったために宿泊施設まであった。まあ……スーパー堤防から遠来している身としては、宿があることは有り難い。
更に秘書も議員それぞれに2名ずつつけられるそうだが、俺は秘書は事務長以外の4人の妻に交代でやってもらうと主張し、公的秘書はお断りした。なんせ議員を続けて行く限り、国会期間中は住居ビルに帰れなくなってしまうのだからな……事務長は事務長で忙しいから相手してくれないだろうし、何より妻と離れている時間が長いのは困るのだ。
当たり前だが……外出禁止という事で、秘書用の部屋も議事堂内に設けられているため、毎回2人ずつ連れてくることにした。今回はサッサーとアーミナを連れて(子供たちは彼女らの両親に預けて)来ている。
彼女らも元々王城勤務だったためか知り合いが王都や王城に多く、来られることを喜んでいる様子だ。勿論会議開催中も、我々は自由に外出できるようになった。




