24.第1回国会開催
24.第1回国会開催
「いいか……開票結果を読み上げるぞ。」
それから2日後の朝便で、王都から分厚い手紙が届けられた。すぐに選挙結果の速報だろうと俺はピンときて、事務長あての手紙を握り締め、駅長業務もほっぽり出して工房へと向かった。どうせ折り返しの昼便(13時発)が発車するまで、まだ1時間以上はあるからな。
事務長に手渡すと、やはり北部地域の開票結果と全国区の開票結果を、レルムさんが手紙で連絡してきてくれたのだと分かった。今では伝令バトよりも、鉄道を使った郵便が一番早く相手の手元に届くのだ。
ううむ……緊張するー……
「まず北部地域の選挙区選挙では、ハルシューさんが圧倒的大差で当選したとなっているな。対立候補者の伯爵位を継いだ次男坊は、最低獲得票に達せず保証金を没収されたようだ。
文美雄の応援演説がよかったのではないのか?伝え聞いた限りでは、文美雄が演説を始めるとすぐに聴衆が山のように集まって来たと……」
「いやあ……そんなことはないでしょう……事務長さんだって応援演説を集めたら、多くの群衆が集まってきたわけでしょ?お子さんがいたら屈んで目線を合わせて、優しく声をかけていたって……俺にはそんな周りを見る余裕なんて全くなかったですからね。ただひたすらその場に着くまでにまとめておいた内容を頭の中で繰り返し続けておいて、その場で一気に放出する……見たいな……中空見ながら演説してましたからね。」
俺なんかより事務長さんの方がはるかに論客だろうし、その場その場で適切な訴えかけが出来たであろう。だからこそ……何の実績もなかったはずの軍関係者の候補者が、当選できたのだろうと俺は思っている。
「あたしの場合はな……まあ……その場を和ませることぐらいしか……文美雄のような積極的な政策もなかったしな……王政を継続させるなんて……そんな大それたこと……。
だが言われてみれば確かに……と、あたしも思ってしまったからな……。
おっとそんなことはいいや……次は全国区の開票結果だな……。」
事務長が焦って手元の書簡に視線を落とし、紙をめくり後ろへ送る。
「おお……ここからが全国区結果だな……まず1位当選者は……エルムグリム・ミシュレニア王子様だ。やはりな……圧倒的多数票を獲得……特に王都周辺ではほぼ王子様だけに投票されたような形だな。次は……」
事務長が用紙をめくり後ろへ送った。
そうか……王子様の心配なんて杞憂でしかなかったと言う訳だ。そりゃそうだ……この国では王様人気が絶大だからな。王子様だって、すごい人気があって当然だ。
「2位当選者は……獲得票数が一桁落ちたようだが……ああ……悪いな、あたしだ……。」
事務長はちょっと渋い顔をした。
「悪いって……何を言っているんですか、おめでとうございます!事務長さんは今回唯一の女性候補者なんですよ、当選して当然とも思われるけど決してそんなことはない!これからの選挙の希望の星です。次回からは女性候補者だって、恥ずかしがることなく立候補できるようになりますよ。いやあ……さすが……!」
必死で盛り立てようと空元気を振り絞る。実にめでたいことなのだ、女性が初めて国会議員に当選したのだからな。まあ……事務長ならば当然のことだが、本人はずいぶんと自信なさげの様子だったからな……。
だが……流石にこれでは厳しいか……?色男の貴族候補者……組織票に支えられて……
「じゃ……続けるぞ……3位当選者は……あれ?ちょっと待て……」
事務長が、焦り気味に用紙をめくり続ける。
「ううむ……3位当選者は得票数差がほとんど見られず、選挙管理委員に通達して各地の獲得票を5回数えなおしたようだ。その5回の集計結果が地域ごとの票数にまとめられて、延々と記載されている。
数えなおすごとに微妙に下一桁の数字が入れ替わるな……だから玉が10個ぴったり収まる箱をいくつも用意して、箱の数をカウントするよう指示したはずなのだが、箱の準備を怠って直接玉の数を数えた地域が少なからずあるようだ。票を数えるのは軍の兵士だが、事前準備を整えるのは選挙管理委員会の役割だからな。
選挙管理委員会も長く続いた信任投票の繰り返しで、随分と堕落しているようだな。」
「選挙管理委員会の堕落程度は俺も感じましたよ。貴族議員候補者の方に場所や時間で優遇していたりね……議員に当選したなら、選挙管理委員会も刷新することは可能ですか?」
「いや……それは難しいだろうな。議員が口出しできる委員会であれば、次回選挙を有利にしなければ全員首だなんて脅かすことだって可能だろうからな……地域の有識者が集って選挙管理委員の選出などを行っているはずだ。今回貴族議員らに有利な采配をしていたのであれば、その事実を突きつけて改善要求することは可能だろうがな。だが……根本的な選抜システム自体を見直す必要性があるのだろうな。
裁判所を通して査察などさせることは一候補者でも可能なはずだから、訴えてみるといい。」
「はあ……分かりました。ラッセールさんの時だったので、連絡とって検討してみます。
それよりも3位当選者はどうなったのでしょうか?」
「ああ……そうだったな……えーと……どれどれ……仕方なく5回の集計結果をそれぞれ候補者で平均して評価すると……おおっ……なんと18票差で、文美雄の当選とある。
5回ともで票数の違いはあるが、どれも僅差で文美雄の票数が勝っていたので、この結果は覆らないとも書いてあるぞ。やったな……。」
「ははっ……なんとか……当選できましたね……ひえー……あぶなかった……そうなると王子様が出馬すると分かった時点で、向こうが候補者を絞って2人だけにしたなら俺は落ちていたはずですね……次はないな……。」
「それはあたしにだって言えることだ。
それに、これでこちら側の候補者13名全員が当選したのだ。予定通りに王政の復古と元老院化の憲法改正を提言するのだろ?三分の二以上の賛成票が得られれば国民審査に進むわけだが、兵士長やレルムにハッカクにターレムと、文美雄の考えに必ず賛同するものがあたしのほかに4人いるんだ。
6票は確定票なのだから、恐らく通ると見てもよい。国民審査も……今回選挙の結果と投票率を見る限り、大丈夫ではないかな……都市部と穀倉地帯の投票率は90%を超えているようだからな。魔王軍の侵攻で被害が出た地域は、戦後の復興途上だから余計に政治に関心があるのだろう。
そうして現状の王さまの政治に満足しているはずだ。だから……期待していいと思っている。
元老院を設立したとして、再度元老院議員選出なんて恐らく国民が許さないだろう……選挙期間の政治の空白もできるし、何より当選したのに王政に戻して後は知らん顔を決めたと批判されるはずだ。
だから議会をそのまま元老院に移行して、任期は続けざるを得ないだろうが、次回選挙も出馬するつもりなのか?あたしは……多分出ないぞ。女性議員の道筋がつけられただけでもう十分だ。」
「そう言えばそうですね……次回は俺も立候補するつもりはありません。そもそも俺が政治家なんて……とてもそんな重責を担えませんよ。元老院議員も一般国民から選挙で選ばれる形にしておけば……議員の任期は4年でしたね?4年もあれば、王様とともに政治に関与したいという人が、少なからず出てきてくれますよ。
勿論保証金の額は下げておくよう、しなければ……でしょうけどね。多分兵士長さんもレルムさんも恐らく今回だけのつもりでしょうし、他の候補者たちだって……そうなると次回からこそが、本来の国政選挙となるはずです。
また貴族議員ばかりが当選するようになったとしても、王様が目を光らせてくれますからね……それでも大変そうなときはまた……皆さんに呼び掛けましょうかね……。」
「そうだな……じゃあ、当面慣れない議員生活で大変だろうが……志の実現のために頑張るとしようか……。」
「はいっ……一緒に頑張りましょう!」
集計に手間取ったために7月3日から始まるはずの議会が、2日遅れで7月5日からとなった。急いで駅長代理を探し……いつも頼んでいるハッカクさんとターレムさんも議員だから、別の誰かを探さねば……知り合いが少ないから困るー……とりあえず魔法兵と僧兵の班長クラスに交代で駅長代理を務めてもらえるよう、ハッカクさんとターレムさんが取り計らってくれた。たすかったぁー……。
翌日の7月4日昼のトロッコ列車で王都に向けて出発できた……何とかギリギリ……。
「多々羅文美雄と申します。21歳で、この世界には大魔導士に間違われて召喚されてきました。6人の妻と4人の子持ち。今は、スーパー堤防駅の駅長をしております。この度の選挙で全国区で第3位とぎりぎりで当選できました。よろしくお願いいたします。」
議会開催となる前に、全員集合したところでとりあえず自己紹介……初見の人が多いからな……をすることになって、当選順……というか当選が明らかになった順で、自己紹介していき俺が最後……。
王都の王城前のメインストリートを挟んだ東側に建てられた、真新しい鉄筋コンクリート製の6階建てのビルが新国会議事堂である。元は2階建てて王城並みの1キロを優に超える長さの細長い建物だったようだが、6階建てとして南北にはずいぶんと空き地がとれた。
その空き地に6階建ての住居ビルを建てて、疎開先から戻ってきた住民に優先的に割り当てたのだ。なんせ王都の城下町は国会議事堂や国立図書館に各省庁の官舎以外は全て私有地であり、スーパー堤防のように区画割りだけして住居ビルを整然と配置すると言う訳にはいかなかったのだ。
図書館や官舎も6階建てのビル化してまとめ、開いた土地に住居ビルを建設して戻ってきた住民に割り当て、それら住民が所有していた土地をまとめ国有地として、そこにまた住居ビルを建設する……というちょっと複雑な都市開発を行ったと事務長が言っていた。
だから今の王都には、住居ビルのような高層の鉄筋コンクリートのビルもあちこちに建っているが、戻ってきた住民が国の補助を受けながら自力で立て直した木造平屋の家々も結構多く、複雑な様相を呈している。
この世界の住宅事情を聞く限り、2Kだった家が4LDKのマンションに代わるのだから、住居ビルに移ったほうが絶対得と俺なら考えるのだが、狭くても先祖代々の土地は離れられないとか、色々な考え方があるのだと事務長が説明してくれた。
ちなみにもともと借家だった住民は、借家近くの住居ビルに独身者なら2DKが、家族持ちなら4LDKが元と同じ家賃で借りられる事になった。勿論家賃は元の土地を手放した旧大家さんに振り込まれるわけだ。
旧国境の町も同様な開発計画の下行われたようだが、こちらの場合は国境警備のための広大な軍の駐屯地があり、その施設は全てスーパー堤防の住居ビルに機能が移ったため国有の空き地となり、そこに住居ビルを並べて建設したので、王都の開発よりも当初の土地で悩まずに済んで簡単だったらしい。
戦後の復興なんて一言でくくられているが、うらでは大変な思いで土地の確保とか割り当てに奔走していた人がいるのだと、しみじみ感じた。
まあ……再開発の詳細は置いておいて、今は真新しい国会議事堂の中の、国会が開催される会議室にいる。
国会……と言っても、テレビで中継されていた国会……社会の授業で、何回か見させられたよなあ……の会議室みたいなすり鉢状の大きな講堂ではなく、普通の教室を一回りか二回り程度大きくしたような部屋だ。
なんせ議員総数が13人だからなあ……大きなシャンデリアが吊るされた中央に配置された、20脚くらいの椅子が周りに並べられている楕円形の円卓に皆が適当に座っているのだが、部屋の角には書記の人かな……ペンを持って誰かが話すたびに必死で筆記している人が2人と、後は警備の人だろうか、ごつい体の兵士が4方にあるドアの横に立っている。
取り敢えず正装という事で簡易甲冑を身につけて出席しているのだが、レルムはいつもの僧服だが、兵士長や他の軍人らしき人達は濃紺の軍服を着ている……あんなのがあるなら欲しかったな……。
事務長はというと……いつもの工房の仕事着ではなく、ドレスまではいかないが、清楚な感じがする淡い色彩のワンピースを着ている……ううん……美しい……スタイル抜群……。
円卓の長手側左右の部屋の空間には、1m位の高さの柵が中間に置かれ、その奥には20脚くらいのパイプ椅子が置かれている。これは俺が国会開催前にリクエストしておいたものだ。
「では……まずは議長を決めるとしようか……あたしは今ここに居る議員らを擁立するよう、先頭に立って活動した、文美雄が適任と考えている。党名は決まっていないが、政党と考えると党首と言ってもいいはずだからな。彼の活動がなければ、今ここにあたしらはいない……。」
自己紹介後すぐに事務長がとんでもないことを提案……まずい……
「ああ……そうですね、多々羅殿なら適任でしょうね。なんせ言い出しっぺですから……。」
「ああ……俺も賛成する。戦後の復興を引っ張っているのも勇者殿だからな……。」
「私も同感です。」「そうですね……賛成します。」
すると我も我もと、俺を議長にしようと賛成票が募って行く……
「まま……待ってください。議長って……議員の数が少ないから、この議員で内閣じゃあないですか……各議員がそれぞれ財務省や防衛省に厚生省など……大臣として各省庁を動かして国を運営していくのですよね?
その中で議長というと……各議員の担当省庁への割り当てとか……いわば統括大臣みたいなものでしょ?
そんな大役……恐れ多くてとても引き受けられませんよ。
俺は全国区で3位当選で、しかも次の候補者と獲得票数が近くて、5回も票を数えなおすほどのギリギリ当選ですからね!そんな俺が議長になってしまっては、国民の総意を反映しているとは評価されませんよ。議長には……全国区で断トツ1位当選だった、王子様が適任かと……。」
王子様……すみません……俺が引き受けたくないがために……
「成程な……いきさつはどうあれ……結果を見て、国民の意思を推し量るか……よろしいのではないのですか?わしも勇者殿のご意見に賛同いたしますぞ……。」
口ひげを生やした、軍服姿のいかつい顔をした叔父さんが賛成してくれた。確か中西部の国軍の指揮者と自己紹介した人だな……有難い、大勢が決する前に間に合った……。
「そうですね……確かに王子様が適任かと……。」
「考え直してみたら、そのようですね……私も同意いたします。」
「私も……」「俺も賛成します。」「私も……」
「仕方がない……王子様で決まりのようですが、如何でしょうか?」
事務長が不機嫌そうに、王子様の顔色を窺う。
「私は18歳で、この中で一番の若輩者です。
現王さまが王政をやめて、元の議会制民主主義に戻すと宣言されて、私は少しがっかりしておりました。
元の議会政治に不信感を抱いていたからです。その為国政選挙への立候補を勧められた時、一も二もなく同意したのです。現王さまに代わって、私が及ばずながらも政治に携わって行くことができるならばと……そうして何とか当選できた次第です。
これといった政治的思想もなく、ただ勧められたから出馬しただけの未熟者の私には、議長を務められる自信がございません。大変申し訳ありませんが、辞退させてください。」
王子様は穏やかな口調で話し、頭を下げられた。王様同様……煌びやかな装飾など一切ない、普通に仕立てられた高級感もない質素な感じすらするスーツに身を包んでおられる。ううむ……王様同様、身分をひけらかさない、穏やかな性格で……恐らく頑固……まずいな……




