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21.候補者選び

21.候補者選び


 そんなこんなで季節は過ぎ、海苔の養殖でそんなに多くはないが、そこそこの収穫が上がったので漁師町に呼ばれた。他にもホタテやカキの養殖が、3年目にしてようやく始まった。


 勿論スーパー堤防住宅へも分けられたが、王都に向けても出荷されることになった。


 海苔に関しては、俺はA4サイズのすだれみたいなものに貼り付けて天日干しすれば海苔になるのだろうと思っていたが、収穫した海苔の見た目は正に海藻なので、きれいに洗って包丁で刻んで細かくしてから竹の先端で作ったすだれに塗って天日干ししてみた。恐らくこれで間違ってはいないはずだ。


 干して出来上がった海苔を火であぶって、朝食時にターレムさんにお願いして解毒魔法を施してもらった生卵を白米の上に落として醤油をかけ、焼きのりで巻いて口の中に放り込む……はあ……し・あ・わ・せ。


 この世界でも養鶏は行われているのだが、鶏の管理はやはり甘く、病気の鶏からも採卵しているからか、生食の習慣はないから注意が必要だ。茹で卵に半熟などという言葉はなく固ゆでのみであり、目玉焼きですら両面を焼いて食べるという、結構厳格な決まりがある。


 日本の養鶏場のように衛生面が行き届いて、きちんと管理されていればなあ……鳥インフルエンザが見つかったからと、養鶏場の鶏を殺処分するなどというニュースが流れるのは、その厳しさ故のことのはずだ。


 どんな養鶏場でも大半の鶏は元気で健康のはずだから、人が俺の食べ方を真似て1回や2回程度そのまま生で食べても平気だったと聞いたからいいやとは思わずに、俺は常に注意して解毒魔法をかけてもらっている。


 そういえばこの世界でも日本酒のような米の醸造酒は存在し、勿論葡萄酒のワインも存在する。醸造技術があるのでもしやと思ったら、醤油や味噌も当たり前のように存在した。しかもエルムグリム内でも流通していたし、日常の料理にも使われていたようだ。


 だけどどうにも日本の醤油とはちょっと違うような……少しねっとりとして甘味がある様な、微妙な味だ。最初は魚醤とかいう奴かと思ったが、そもそも海産資源のないこの国で魚醤などあるはずもない。まあ……ないよりはましというか……慣れればこれはこれでそれなりに食べられる味という事に気付いた。


 それでも白米に焼き魚に醤油をかけて味噌汁……と言った料理はなく……元々海産資源に乏しかったからだろうけど、味噌汁や煮物のように出汁を取って……なんて料理は今の所存在しない。


 醤油も味噌もソースというか味付けの調味料の一つでしかなく、肉でも野菜でも煮付けたものに、味噌や醤油で味付けした……見た目がグチャッとしたのをスプーンですくってご飯にかけて食べるような……特に出汁もとっていないので、素材の味にうっすらと醤油や味噌の味が追加されたみたいな……よく言えば素材の味がよく分かる……そんな料理が主体だ。


 まあでも……当初は味気ない乾パンや干し肉に干し芋……みたいな生活だったので、たまに焼いた鶏もも肉……味噌をつけて食べる……みたいなものや、今紹介したみたいな煮物料理が終戦後に出されたときには、十分おいしく感じたのは事実だ。空腹が最高の調味料というからな……。


 漁師町では昆布もわかめも採取して乾燥させて、昨年からは本格的に全国へ出荷するようになり、住居ビルの食堂の叔母さん連中に、昆布での出汁取りを教えたら、それから食堂の料理の味が格段に向上した。昆布というのは、それ自身は強烈な味はしないけど、うまみの元だからな。


 うま味に乏しいのかこの世界では肉料理でも何品かとって、少しずつつまむみたいな食事が主だったのが完食率が上がり、品数を取らなくなる人が増えて残飯率が激減したと、食堂の叔母ちゃんが喜んでいた。


 いずれはだしを取った味噌汁も飲めるようになるだろうと期待している。後は……鰹節だよなあ……でも作り方知らないしなあ……3枚に卸して干せばいいのかな?……時機を見て事務長に相談してみよう。


 椎茸はいずれ山に行って見つけたいとは思っているのだが……毒キノコとか怖いしなあと、今の所は尻込みしている。誰かキノコに詳しい人を見つけたなら、その人を頼りたい……。もし見つけられたら生えている木のその部分ごと切り取って持ち帰り、事務長に渡して元の世界では椎茸の菌糸とか使って養殖してますと伝えて、後は丸投げ予定だ。干し椎茸が出来ればこれでまた出汁が増える……。


 養殖に関してはもう一つやりたいことがあるのだが……だが一大事業となりそうなので、ある計画を成し遂げてから提案することにしよう。一般市民として行うには難しすぎるからな……



「立候補?何に立候補するというのだ?トロッコ列車の駅長は選挙など要らぬぞ……そもそも任期など……。」


「そりゃあ決まってるでしょ?国会議員の選挙ですよ。」

「なな……何のためにだ?」

「そりゃあ……」


 6月になってこのまま進めば月の半ばには告示され選挙運動が始まって、末に総選挙で即日開票……7月から国会議員による議会制民主主義が始まる予定なのだ。


 事務長らが必死に調査を続けたことで、旧国会議員らの長期間にわたる汚職及び背任行為は白日の下にさらされ、裁判も始まって有罪確実視されている旧議長らは立候補は出来なくなった。


 だから俺が……と思い立ったわけではない。


「だって……これまでは貴族にしか被選挙権はなかったわけでしょ?今回から一般市民にも被選挙権は与えられるってなったにしても……恐らく誰も立候補しないと思うのですよ。


 だって……選挙運動のやり方だって知らない訳でしょ?ふざけて立候補だけ乱立しないように、立候補時に保証金をとることになっていて、一定票以上獲得できなかった候補者は保証金が没収されてしまう訳でしょ?


 保証金は……兵役終了したばかりの男性会社員の年収に匹敵する額と聞きました。これでは誰も立候補しませんよ……俺には貧乏人は立候補するなって言っているように聞こえます。


 だから……今回立候補してこのような規定を少しは下げようかな……と、いう事と、王様はああいっておられたけど、俺はまだまだこの国には王様が必要だと思うのですよね……。


 だから……議会制民主主義ではなく、元老院制度……王様の補佐機関としての元老院にして、元老院の議員を選挙制にしたらどうかと思っているのですよ……そうすれば王様一人だけの判断ではなくなるわけでしょ?王さまだって、納得していただけるのではないかと……。」


 王様は万人が納得する政治をたった一人では行えないと、議会制民主主義の復活を提案されたけど、それまで行われていた貴族による議会は絶対に民主主義とは言えないものだったと俺は思っている。なんせ汚職まみれの議員らが私腹を肥やすためのような政治だったからな……。


 貴族とかが大半の富を握っているこの国で庶民が権力を持ったところで、今度は一部の庶民が私腹を肥やすことに走りかねないと俺は考えている。だって……やっぱり世の中は銭なのだからな……。


「なるほど……議会制民主主義を元老院制度に……議員になって法律を変えるわけだな?成程……だが文美雄一人が立候補したところでどうにもなるまい……なにせ全国で議員は13人いるのだからな……。」


「勿論知っていますよ……エルムグリムを8つの選挙区に分けて、10人の枠を争うのでしょ?更に全国区で3つの枠で合計13人……スーパー堤防というか穀倉地帯が王都に継ぐ大都市と化してきていますからね……この選挙区に2枠……ここではハッカクさんとターレムさんに立候補していただく予定です。


 2人共に農家出身者で、兵役の合間には穀倉地帯の田畑の手伝いをよくやっていて、農家の方々への評判もいいですからね。勿論、住居ビルの兵士らは2人を応援するでしょうし、この選挙区は勝てると思っています。


 王都の2枠には兵士長さんとレルムさんに、立候補をお願いする手紙を書いてもらえますか?この2枠も頂きですよね?北部の1枠には……ハルシューさん……開腹術の成功率の向上で、かなり有名になったはずだから、立候補すれば確実でしょ?それから全国区は俺と事務長が立候補するわけです。


 これで7枠とれば過半数だ……元老院推進党とでも命名して、党を立ち上げてもいいですよね。」


「はあ?あたし迄もが立候補……だって?そんな暇ないぞ。兵士長やレルムにだって……。」


「ですけど……誰かがやらねばならない事なんです。そのままにしておけば……恐らく立候補するのは旧議長や旧議員らの子供とか親戚……だけになるでしょ?庶民には金がないから立候補できないから……。


 他に候補者がいなければ選挙自体がなくなり当選だし、貴族議員らの資産をいくら凍結したところで、親戚筋に分配した富までは押さえられなかったでしょ?保証金位楽に払えますよ。


 逆に言うと……今の制度だと……いくら貴族のみという制限を外したところで……女性だって立候補できるにも拘らず……悪いことして金を貯めた人にしか、立候補できないのです。


 まずはこの仕組みを直さねば……それには俺たちが立候補する以外に手はないのです。」

 どうしても俺たちがやらねばならない理由を、得々と説いて見せる。


「ふうむ……確かになあ……現行の選挙ルールだと、金持ちにしか立候補はできそうもないな。一定数以上の票が見込めるのであれば、貯金をはたいてでも保証金を積めば可能ではあるのだが、実際には投票結果を待たなければ、獲得できる票など予想できるものではない……素人にはな……。


 だから金持ちだらけの選挙となって……庶民は選んでいるつもりでも、実は選ばされていると言う訳だ。立候補者が金持ちしかいなければ、他に選択肢はないのだからな……。


 そうやって金持ちだけ……元は貴族だけ……だったが、改正されても変わらんだろうと……。


 文美雄の読みは正しいのかもしれん。あたしは選挙などに全く関心なかったし、国の政治はどうでも自分の職務さえ果たしていればいいとずっと思って生きてきた。それで社会の役に立っているのだとな……。


 だが……このままではまた以前と同様の、腐敗政治が始まりかねんと言う訳か……対抗するにはこちら側から立候補者を募って、庶民に寄り添う形の政治に変えるしかない。


 今の所それが実現できそうなのは……やはり王様が適切と言う訳か……確かにな……現王さまは質素倹約を潔しとして、ご自分の生活よりもまずは国民の生活を第一に考えておられる方だ。


 王様の政治を続けていただきたいのだが……王様はご自分のお考えをそう簡単には曲げない御方だからな。その為、我々が議員となって国会を運営し、法律を作って元老院化すると言う訳か……悪くはないな。


 だが……文美雄の考えでは実現はできないな……。」

 やったー……賛成してくれ……あれ?


「どどど……どうしてですか?」


「エルムグリム民主主義連邦は、国民総意の選挙で選ばれた議員らで構成される議会によって運営される議会制民主主義であることと、国王様は国の象徴であるという事は、憲法に謳われている事柄で一般法律ではない。


 魔王軍の侵攻で一旦は王政に戻ったから現時点では無効なのだが、王様が議会制民主主義に戻すと宣言なされたのだから、この憲法も復活することとなる。


 憲法を改正するには、議会の三分の二以上の評決が必要で、さらに国民審査で過半数の評決が必要とされておる。だから過半数の議員を押さえただけでは、憲法の改正はできない。


 さらに国民審査……その時は対抗する貴族らが住民らを巻き込んで反対運動を繰り広げることだろう。中には貴族議員らの汚職によって潤った商人も多いはずだからな。そいつらが扇動して、独裁政治だとかあることないこと持ち上げて運動するはずだ。容易に賛成を得られると考えていると、足元をすくわれるぞ。」


 事務長が俺の考えの至らぬ点を、分かりやすく洗い出してくれた。


「はあ……そうなるともっと多くの立候補者が必要ですね。」


「勿論だ……全国の8ブロック全てで候補者を立てねばならん。勿論全国区も3名必要だ。」


「ええっ……でも……議員の三分の二以上であれば9票必要だから、9人立候補者を立てればいいのではないですか?確実に受かりそうな人限定なら……それで十分かと……。」


「甘いぞ……9人候補者を立てて、1人でも欠けたらどうする?9人中9人が当選することの方が、非常に稀なことなのだぞ。百万を超える様々な考え方を持った人々が、それぞれの思惑を胸に投票するのだからな。


 確かに全国区であれば、人気のある文美雄やあたしなどは当選確実視されるかもしれない。取り敢えず戦果に多大な影響を与えたことになっているからな……戦争の記憶が生々しい今ならかなり有効な印象だ。


 だけどそれでも百%とは言えないのだ。何かスキャンダル……文美雄の女性問題とか……特に重婚を許されているいわば特権年齢だからな……妻たちの処遇に差別があるだとか……あたしだったら、工房予算の使い込み……とかだろうな……でっち上げでも何でもいい……疑わしいことが少しでもあったらそこを突く事があり得るのだ。」


 事務長が神妙な顔で得々と説いてくれる。だけど……


「ええっ……そんな……だって俺は奥さんたちとは皆仲がいいですよ。事務長さんとだって……すっごく仲がいいじゃないですか……。」


 俺は全ての奥さんを均等に愛しているー……と叫ぶつもりはないけれど、そう言うつもりで常に居る。なんせ誰もかれもが飛び切りかわいくて飛び切り美しく、しかもスタイル抜群なのだ……目移りすることはあっても、誰かに飽くことなどありえない。


「だから……何でもいいと言っているではないか。例えば……あたしは工房の事務長業務だけではなく、国の予算の会計担当をしているし、外国からの重要来賓の場合も対応することになっている。


 他にも文美雄の様々な提案を具現化するために、日々研究に没頭しているし、実現の際の予算取りから普及業務まで行っていて多忙だから、今の所は避妊していて文美雄との間に子供がいない。


 仮に文美雄とあたしの仲がうまくいっていないなどと悪い噂を流すとして、突かれるとしたならその点だな。


 だからと言って今から急に子づくりに励む……なんて間もないし、それこそ立候補も出来なくなってしまう。そもそも多忙すぎて立候補して運よく当選したとしても、議会に参加することができるかどうか、さっきも言った通りにあたしは不安を抱えている。


 もしかすると文美雄との不仲を突かれることよりも、議員としての資質というか職務を果たせるかどうかを突かれる可能性の方が高いのかもしれないな……。」

 事務長が難しそうに顔をしかめた。


「事務長さんが忙しすぎるという点は、問題ないのではないですか?」


「どうしてだ?」


「だって……国の予算の会計は、議会が立ち上がれば財務大臣とかが決まって、財務省とかの公的機関が予算を預かるわけでしょ?今は国会自体がないから、国の公的機関を機能させるために……仕方なく兵士長さんが財務大臣の代わりを行って、事務長が財務省の面倒を見ているだけだと思います。


 外国の要人の対応だって同じですよ……外務大臣と外務省ってお役所が行うのです。鉄道とか各都市の住居ビル建設などのインフラ整備は……国土交通大臣とその関係省庁でしょうかね?


 もしかしたら議員に当選した後で、事務長さんが国土交通大臣に任命されることがあるかも知れませんけど、今よりも忙しくなることはないはずです。


 今は兵士長さんとレルムさんと事務長さんのたった3人で分担して行っている、いわば国の政治運営が、これからは13人の国会議員と関係省庁によって運営されるわけですからね。楽になることはあってもきつくなることはないと思っていますよ。」


 そう……国会が運営されるようになれば、兵士長以下3人の業務負担は激減するはずと俺は見込んでいる。


「成程なあ……そう考えると、議会への立候補も可能と思えて来たぞ……。


 だが……そうなると候補者確保だな……クリーンな印象を与えねばならんとなると、兵士関係がいいのだが……そうなるとハッカクとターレムの選定は、間違っていないなあ……二人にはもう同意を取ってあるのだろ?」


「ええっ……まさか……まだこれからですよ……だって半数を超える7人の候補者全員が分かってから……これだけの人が立候補するのでぜひ……と言って説得するつもりでしたから。


 少なくとも兵士長さんとレルムさんのお二人が立候補すると決まってからでないと……遠慮されても困るから……。」


「そうか……分かった。まずは兵士長とレルム……この2人に了解を得ることから始めるとするか。それからハルシューさんだな……確かにな……北部集落での神業の噂は昔から流れていたのだが、成功率が向上したことによって、神話として扱われる可能性大だからな……彼にも要請してみよう。


 今なら王都から開腹術を学ばせるための研修生が派遣されているから、術式を行う以外では手が空く可能性が高いからな……確かにいいところに目をつけた。


 だが……残り6人か……しかも、全国区級の候補者も一人か……選ぶのは容易ではないな……。」

 事務長が話ながら頭を抱えてしまった。


「だから……ほぼ確実な候補者9人でいいのではないですか?」


「そうではないのだ……文美雄の予想通りだと、あたしら以外の候補者は、貴族か元議員らの家族か親戚の元貴族だけという事になるはずだ。彼らが当選して議員になれば、それなりの発言権が得られるわけで、仮に9人全員が当選して憲法改正の評決が通ったとしよう。


 だが絶対反対するはずの旧貴族系議員らが、街頭演説などであることないこと宣伝し始めたなら、半数の国民の票は得られなくなるだろう。獲得票の50%は超えるかもしれないが、醜い論戦を見た国民は政治不信を募らせ、投票場に出向かなくなってしまう可能性大だ。


 憲法改正の国民審査は、選挙権がある全国民の半数以上の賛成が必要となる。投票率が60%だとしても半数……つまり、そのうちの84%近い賛成票が必要となるわけだ。投票率が50%だったなら、その全て……こんなことまずあり得ん。全ての国民に投票に出向いていただくという事は、容易ではないはずだ。」


 事務長がしんみりとつぶやくように言い放つ。


 はあ……確かになあ……投票率なんて……選挙権がなかったころはあまり考えなかったけど、18歳から選挙ってなってその時に調べたなあ……大抵の選挙は……国政選挙になればなるほど低めで……六十何%とかだったような……そのうちの8割強の賛成が必要となるわけだ……。


 そんな時に様々な悪評など流され様なら……しかもそれが国民が選んだ議員らによるものなら……信頼できる……と考える人も多いはずだ。


 ふうむ……国会議員全員をこちら側に……って、そんなこと可能なのか?


「取り敢えず兵士長とレルムに打診して……彼らにも候補者を考えさせよう。それからだな……。」

 事務長は急ぎ書斎にこもり、手紙をしたため始めたようだ。


 ふうむ……今回は俺がある程度段取りして……と思っていたのだがなあ……結局は丸投げに近い形になってしまったなあ……反省……。


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