19.久々ののどかな日々
19.久々ののどかな日々……
期が変わって二人の嫁のお腹もそろそろ目立ってきたころ、スーパー堤防の住居ビルに新兵の追加と、昨年から開始された1年ごとに課される徴兵義務の交代兵がやって来た。
合計でなんと3千名……1年目からこの地に駐留していた兵を含む2500名は、兵役が終わって1年間だけ教育係として残っていたものや、1年の徴兵義務明けで帰省したものなど含めると残りは何と1500名。
つまり……このスーパー堤防住宅という魔王国との国境に位置し、防衛の要ともいえる地に詳しい兵士は1/3だけで、自分たちの倍の新兵たちを教えて行かねばならなくなってしまった。
まあ……農業や林業支援などで小鬼たちも飢える心配をしなくても済むようになり、また日常業務に励むことで他国へ侵略しようなんて言う考えは起こさなくなるのではないかと思うし、最短で5時間あれば王都から鉄道とトロッコ列車使って兵士を送ってこられるという利便性を掲げ上げ、怒る事務長に兵士長が平謝りで何とか許しを乞うたみたいだ。
王都の兵は1万ほど残っていたが、2年間でおおよそ3倍になったようで、新兵ばかりで使い物にならんと兵士長もレルムもぼやいているらしい。
なんせ魔法兵は親衛隊の2千しか残っておらず、そのうち5百はこっちに来ていたのだからな。昨年の新兵は全て魔法兵として教育しようとしたらしいのだが、教育係が少なすぎてだめだったらしい。5千ずつ魔法兵と僧兵に分けて教育したようだが、今年も同様とするらしく、これでようやく新築された国会議事堂の結界用の僧兵の一万が確保される程度と、レルムは頭を悩ませている様子だ。
魔法兵はまだまだ必要数の十分の一にも達していない状況だ。新たな敵国とみなされるタッタルンが、どれだけの兵力を抱えているのか俺は知らないが、魔王国に対抗しうる軍事大国のようだから、たったこれだけの兵士では心許ないのは、納得できる。
魔王国軍は百万の小鬼の軍勢だけで攻め込んできたからこそ、少数の兵でも作戦で勝つことが出来た。あれが正規の指揮官が帯同する普通の軍勢であったなら、恐らく占領されていたことだろう。魔王は小鬼たちを使役して魔王国を立国したが、小鬼たちに魔法を指導しただけで、他には碌な教育もしていない。
取り戻した穀倉地帯だって、元々共同で耕作していた土地であったから占領後も小鬼たちは農作を続けられただけで、その他の土地を開梱する術を小鬼たちは持っていなかった。
エルムグリムが小鬼たちに技術支援を行うことに対して魔王は全く反対せずに全て受け入れるのだが、魔王自身は小鬼たちのことを同じ知的民族とは考えていないのかもしれない。そりゃあ当時は山間の洞窟の中で狩猟生活をして暮らす、いわゆる野生動物とほとんど変わらぬ生活をしていたと聞いているからな。
だけど魔法を教えたら初級に限るがしっかり覚えて、しかも強い魔力で破壊力抜群の攻撃が出来たわけだから、少しは信じて小鬼たちとともに国づくりをしていたならよかったと思うのだが……。
だがまあ……未だに小鬼たちへの技術支援をエルムグリムに任せっきりの魔王は、余程の面倒くさがりなのか、放っておけば勝手に学習するだろうという放任主義かのどちらかだと思う。
そう言えば期末に行われるはずの国会議員の総選挙……立候補者を募る寸前になって旧国会議員ら全てが逮捕拘留されたため、議員らの関係者から議会制民主主義への弾圧だと非難され、旧国会議員らを逮捕したのは王様の陰謀だとまで騒ぎ立てた。
その上で容疑が固まり裁判で判決が出るまで、逮捕された旧国会議員らが立候補できないのであれば、選挙は一時保留とすべきと主張したため、裁判が終わるまでは一旦保留となった。おかげで暫定的に王政は半年間延期され、6月初に立候補者を募り告示され、6月末に総選挙が行われることになった。
旧議長らの裁判は半年で決着をつけねばならなくなり、容疑者への尋問や捜索による証拠固めが十分に行われない可能性すら浮き出て来た。これらは全て旧国会議長らの差し金だろうと、事務長が歯ぎしりしていた。
そもそも議長らが悪事を働いていたから捕まったわけで、しかもあの話し方では先代王の時分から続いてきた継続的な組織犯罪ともいえる横領……それが今回他国からの抗議により白日化されたというだけであり、仮にそれがなければ正常に選挙が行われていた可能性だってあるわけだ。
そうなると国会議員はその立場が保護されているからなあ……国の政治をあらゆる角度から見なければいけないから、現行の政策を真っ向から否定する考え方だって尊重しなければいけない。だから発言の自由は認められているし、犯罪の疑いがあっても余程の重罪で尚且つ、確実な証拠がなければ逮捕されない。
確実な証拠があったとしても、国会の会期中であれば逮捕もされないという、身分の保証があるのだ。なんせその国会で法案が通って、今犯罪とされる事案が犯罪ではないと法律で定められてしまえば、それは罪にならないわけだからな……。
だからこそ……あのタイミングで元国会議長らの犯罪の影が露呈したことは、正に絶好のタイミングであったわけだ。現行法では疑わしきは罰せずなので、嫌疑をかけられただけで審議中であれば、その被疑者は選挙に立候補できるし、選挙期間中は保釈されて選挙運動だって出来る。
だが……今回の事例でいえば、旧国会議長らの犯罪の疑いは濃厚であり、それらは既に事務長がまとめた、過去のタッタルンからの海産物の輸入履歴が表立っては存在しないことから明らかだ。さらにその犯罪の悪質さから、証拠隠滅の可能性大として裁判所は旧議長らの保釈を認定しなかった。
だから立候補も出来なくなったわけで、その件で関係者らがわめきたてているという事だ。そう……一晩かけて事務長から事情説明をしてもらったのだが、俺はいまだに納得できていない。悪いことをしてそれが見つかったわけだから、素直にごめんなさいしてその罪を償うのが普通ではないのだろうか?
自分ではそれが犯罪との認識はなかったのかもしれない……だけどそれは間違っていると指摘され、周りの誰もがそれは間違っていると判断しているわけだ。
どうしてそんな簡単なことができないのだろうかと疑問に思う……。
まあ……振られた腹いせに自殺の振りをして遺書迄おいて……家族や知人らに不快な思いをさせるであろうことをしでかしておいて、そのままほったらかしなのだ……もう元の世界に戻れないのだから仕方がない……と、自分に言い聞かせているのだが、今にして思えば俺に人を責め立てる資格はないのかな?
犯罪とは言えないかも知れないが、人を傷つけたであろうことには違いがないのだからな……。
そういえば……期というか年が変わって、色々と新しい取り組みが始まった。
昨年から準備していた小鬼たちによる、手漕ぎボートを操っての底引き網漁や、蒸気機関による大型船での外洋漁業も始まるところだ。こちらは魔王国とエルムグリム合同で、小鬼たちも船に乗り込み漁を行う。
昨年秋に大河に竹で1時的に人工の堰を作り、鮭の遡上を妨害して大量に捕らえ、人工授精を繰り返した実験で人工ふ化も成功し、この春半年育てた稚魚を大河に放流した。その際、穀倉地帯の東西両方の大河で放流したため、数年後には魔王国との国境の大河にも鮭の大群が期待される。
大河の河口付近の汽水域では、筏を浮かべて海苔の養殖も始まったし、カキやホタテの養殖はまだ技術確立中ではあるが、汽水域でエビの幼生を捕獲して地上の池で本格的な養殖実験を始め、並行して魔王国の埋め立て地の池でも養殖実験は開始された。
いずれはマグロやハマチなどの養殖も始めようと考えている。なんせエルムグリムは海岸線が短く、外洋の漁獲量の割り当てがほとんど見込めないからな。今はまだ魔王が半々でいいといってくれてはいるのだが……余り甘えてばかりはいられない。
なあんて大変そうに言ってはいるが、俺はアイデアを出すだけで、苦労して試行錯誤してそれを具現化するのは全て事務長に丸投げなのだ。如何にも口先だけ……なのは本当に心苦しい……。
昨年から始めたサッカーなどの球技に関しては、今ではスーパー堤防には20近いサッカーチームが出来上がっている。こちらでチームに参加していて王都へ戻った兵士らもいるから、いずれは王都との代表チームによる対抗試合なども計画しようと考えているところだ。
そうしていよいよシーズン到来なので、バット数本にボール数個とグローブ……はキャッチャーミットとファーストミット含め9個にキャッチャーのプロテクターにマスク1組にファウルカップは人数分……審判用のマスクとプロテクター迄ひと揃えマーケットのスポーツ用品売り場で購入。
ハッカクさんらに頼んで、サッカー以外の球技を希望する兵士らを募ってもらい、早速9人ずつグローブをつけさせて、俺がノックして守備練習を行った。何事も守りが肝心というからな。
一通り守備練習を終えた後、9人のチームをようやく2組作れたので早速練習試合。グローブやプロテクターは守備側が交代で使えばいいので、取り敢えず試合ができる。
もちろん俺が球審から塁審含め面倒を見てやり、どのようなスポーツか説明しながら進めて行く。最初のうちはピッチャーに軽く投げさせて、打たせて取ることから始める。塁にランナーがいても牽制しないし盗塁も当初は禁止しておく。まずはどのようなスポーツか、概要を理解させることから始めるのだ。
なんせ野球はサッカーよりもはるかに細かくルールや取り決めが多いスポーツだからな。別にサッカーが単純というつもりはないのだが、攻守があるし細かいのは本当だ。
軽く投げてもバッティング技術がないので球はさほど飛んでいかないし、守備練習にもなるし走塁の練習にもなる。何よりそれぞれの役割がしっかり決まっているから、連携することもだんだんと分かってくるし、案外評判が良かったので、野球もこの世界で定着しそうなのは喜ばしい。
サッサーたちに勧めたテニスに関しては、ウェアのかわいらしさからも女子に人気が出て、河川敷に10面あるテニスコートは昼間は常に予約で埋まっており、大盛況の様子だ。雨さえ降らなければ夏でも冬でもできるのが、いいようだな……。
時々サッサーたちと一緒にコートに行ってベンチで眺めているが、美少女たちがひらひらスカートで左右に駆け回ってボールを追っている姿は、何時間でも見ていられる。この世界にもしビデオがあれば録画して、繰り返して見ていたいくらいだ……。俺はつくづくインドア派なのだなあ……と、改めて認識する。
いずれは小鬼たちにもスポーツを教えて、国際試合もやりたいなあと想いは膨らんできた。
歯ぎしりしながら国へ帰って行ったハーゲル王子だったが、その後鉄道の輸入に関して何の連絡もしてこない。色々と納期を遅らせるための言い訳を皆で考えている様子だが、未だにいい言い訳が見つかっていないようで問い合わせがないことはよい事ではあるのだが、かえって不気味だ。
にも拘らず、未払いだった昨年送付した武器類の代金と、請求もしていないのに機織り機の保全の技術者と段取り替えの職人の、過剰に支払った給料の差額が、10年間分きっちりと利息も含めて送付されてきたのには驚いた。恐らくこれで過去の清算を行うつもりなのだろうと、事務長が悔しがっていたが、取り返せないはずの損失を一部でも取り返せたのだからよしとすると、王様は満足している様子だった。
事務長が140年前の魔王軍侵攻時のタッタルンとの関係を、古文書で細かく確認しているところだが、怪しい点が見つかったらどうするかという事すら決まっていない。
まさかあからさまに国交断絶するわけにもいかないだろうし……これまでいいように騙されていたことに気付いた側は、どう行動してよいのか難しいものだ。
旧国会議長らの家宅捜索によって、旧国会議員総ぐるみの組織的な汚職や背任行為と思われる、国費を使っての海産物の不正輸入の証拠固めも終わりそうだし、更に国会議事堂で使用されていた輸入家具や文房具品などは、一旦野党議員経営の会社が輸入したものを、倍以上の価格で国が買い取っていたことも判明した。
恐らくそれ以外にも国の重要施設の備品などは、全て旧国会議員関連の会社を通して不当な価格で購入していた疑いがあると、更に厳しく調査継続している。
すべて輸入品という事で高値やむなし……みたいに公表されていたが、そもそもタッタルンからの輸入価格自体もタッタルン市場価格の倍近い値段で、それをさらに倍にしていたのには驚かされたと、調査に当たった兵士長らも嘆いていた。
それら全てを被害額として、まとまり次第タッタルンへも通達して、凍結資産から相当額を返却いただく予定だ。ここまでひどかったとはだれも想像していなかったようで、議長はじめ旧国会議員らは裁判で有罪になり、恐らく生きて刑務所を出ることはないだろうと兵士長が予想していた。
この国では全ての刑が累積されるため、横領みたいな短い刑期の罪でも重犯の場合はその分長くなるようだ。それでも余りにも長期間に渡っての犯罪なので、恐らく全てを賠償させることは財産没収しても無理と予想されている。なんせ先代王の時代からの悪事のようだからな……。
あの時の議長の口ぶりだと、ハーゲル王子とはかなり懇意の間柄で、もしかすると以前からタッタルンにそそのかされて、先代公爵の時代から背任行為のようなことが行われていたのではないのだろうか。余りにも当然のことのように長く行われていたので、議長らもそれが犯罪とは認識していなかったのかもしれない。
そんな諸悪の根源のようなタッタルンには絶対行きたくないし、仮に無理やり連れて行かれたとしても、あの国のためになるようなことは、何もするつもりはない。何十人もの妻を侍らすことができる大邸宅を準備するなんて言っていたが、俺だってこっちでは4LDK住宅を3戸もあてがわれているのだからな。
合計12部屋にリビング3つだ……そこに5人の妻と今は亡き妻の妹2人と暮らしている。亡き妻の妹とはメリアンちゃんの妹2人で、事務長と同じ家に同居してもらっているのだが、当時10歳だった上の妹は今は13歳で、段々とメリアンちゃんに似てきて時折ドキッとさせられる。
下の妹は今は11歳でこっちも美少女……2人ともメリアンちゃんと同室だったサッサーやアーミナと仲が良く、2人の子供……つまり俺の息子と娘だが……とも一緒に遊んでくれたりもしている。
2人とも、いずれは俺の家から嫁に出してやるつもりでいる。
戦時中に成人していなかった(今もそうではあるが……)から重婚年齢対象外であり、嫁ドラフトで指名されて突然という事はないはずだが、俺と事務長がいわば親代わりであり……ある日突然男と一緒にやってきて、娘さんを下さい……なんて言われたら泣くのだろうな……しかもそんなに先のことではないのだ。
<スーパー堤防駅ースーパー堤防駅ー終点です。お忘れ物なきよう、順にお降りください>
なあんてな事を考えていたら、次の列車が来た。
トロッコ列車ほぼ満席の乗客が、トラブルなく下車するのを真剣に見守る。ホームは列車の横を縦長に伸び、進行方向の先が出口なのだが、たまに何を急いでいるのか前の客を追い抜こうと駆け足で進む客がいる。
「お客さーん……駆け足はダメですよ……人とぶつかって転んだり、ホームから落ちたら大変です。お急ぎでも、出口まではゆっくりと歩調を合わせて、順に進んでください。」
そういう時は腹に力を入れて、大声で注意をする。なんせ、ホームや駅舎及び駅舎前の道路の清掃以外では、これしか駅長としての仕事はないといえるのだ。
以前は広い穀倉地帯を農家の方たちが行き来するのに、無料の装甲バスを朝晩走らせていたのだが、トロッコ列車が開通してからはこれで代用することになったため、トロッコ列車の乗車賃は未だに無料なのだ。
だから発券業務もないし、券の確認や回収業務もない。全て無賃なのだから、キセルも起こらないのだ。
穀倉地帯中央駅から南の漁村迄もトロッコ列車で結んだのだが、それを北の山間部まで伸ばし、更にスーパー堤防駅と穀倉地帯西駅からも南北に伸びる路線を追加し、中央を走る東西線と南北線3本を作り、これで農家の方の農地への移動はより高速化された。
当初は穀倉地帯西の河川敷にログハウスを建てて住んでいた酪農家たちも、かなりの家族が住居ビルに引っ越してきた。北の山間部で酪農をしている人たちにも、トロッコ列車の新路線は好評だ。
いずれはそういった業務目的移動以外の方たちからは、乗車賃を頂いたほうがいいと俺は主張しているのだが、スーパー堤防の住居ビルに住んでいる人の大半は、魔王軍の侵攻時に疎開させられ、村ごと破壊されてしまった人々たちだから、迷惑をかけてしまったので、当面は無償のままがいいと王様が望んでおられるようだ。
まあどうせ……トロッコ列車の動力と言えば、火炎魔法……いわゆる人力だからな……元は魔法兵や魔導士で、いわば公務員の扱いだから……まあいいのか……。
石炭火力の蒸気機関で駆動する、旧国境駅から王都を経由して西方を結ぶ鉄道に関しては、勿論有料で運行している。そこそこ結構な金額を取るようだが、ハッカクさんたちに言わせたら、兵士が早足で歩いて3日、荷馬車でも3日、普通の家族なら5日は王都から旧国境までかかる旅なので、3日分の宿泊費程度の運賃は安いのだと言っていた。
もちろん大盛況で、朝昼晩の1日3便の運航は常に満員で、予約は3ヶ月先まで埋まっている状況のようだ。
1日5便に増便を検討しているようだが、そうなるとトロッコ列車も増便が必要で、交代制でやっている魔導士が足りなくなりそうだし、朝昼晩なら業務目的主体とみなされるが、流石にそれ以上は私用の利用の意味が濃く、トロッコ列車も乗車賃を取らざるを得ないと、事務長以下多くの有識者が言い出し始めた。
どの道蒸気機関車も客車も間に合っていないし、まだ先の話ではあるのだが、トロッコ列車が増便されて運賃もとることになったなら、当たり前だが俺一人だけで務まるはずはない。駅ごとにあと2、3人は職員が必要と、駅も増員を要望しているところだ。
まあ……そんなこんなで……穏やかに……時が流れて行く……平和というのは本当にいいなあ……と思うのは、戦火を経験したものだけなのだろうか……。




