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15.鉄道開業

15.鉄道開業


 午後になって駅長業務がひと段落したころ、ハッカクさんとターレムさんに一泊帰宅を遅らせたレルムを連れ、マーケットのスポーツ用品売り場で、まずは冬が本番というスポーツのサッカーボールとユニフォーム(下は短パンではなくズボン)に運動靴をそれぞれ購入。河川敷のグラウンドへ向かう。


 特にこのスポーツに精通していた訳ではないので、ボールの大きさや材質、果てはグラウンドの大きさにゴールポストの高さに幅など……細かな数字など知っているはずもない。唯一スポーツで覚えているのは、野球のピッチャズーマウンドからホームベースまでの距離が、18.44mという事だけだ。この数値は事あるたびにスポコン物のアニメや、クイズ番組などで披露されるため覚えていた。


 だがしかし……ここで問題がある……俺が元居た世界の1mと、ここでの距離単位の換算票がないのだ。レルムが召喚元として誤って指定した地球であるため、まあ……当たり前と言えば当たり前なのだが……


 だから野球のボールも大体こんな程度……と、持った時の手のひらの記憶から……球場の大きさもおおまかにこんな感じ……プロ野球中継とかのうる覚えの記憶で確か両翼100mから120m程度に球場によって個性があったな……とか、子供野球で実際に走ったり守備位置についたりした時のイメージ優先で作ってみた。


 今後練習試合など行い、余りに3塁からホームベースが近すぎるとか遠すぎるとか、あるいはファーストまでの距離が云々……と言ったみんなの声を聞きながら、球場の大きさを決めて行くつもりだ。


 野球のボールは確か日本とメジャーでは微妙に大きさや手触りが異なって投げにくい投げやすいがあると聞いたことがあるので、使いやすさよりもレギュレーション重視で、当面は俺の記憶の産物から変えずに行こうと考えている。


 サッカーも同様……確か野球のボールもサッカーボールも表面は革で出来ていたと思っているので、そう言えば……野球のボールの縫い目の数は煩悩の数……ではなかったかと思い出したりしながら、用具の仕様を決めて行った。


 キャッターミットやマスクにプロテクターなどは、いつも通りに俺のつたない絵を事務長に見せて製作していただいた。勿論ファーストミットに他の野手のグローブも同様……バットにヘルメットにスパイクもそうだが、野球は道具が多く準備に金も時間もかかる為、まずはサッカーを通してスポーツの楽しさを分かち合おうと考えている。


 こんなこと……体育の授業ですら何やかやと理由を考えて、教室での居残りを決めていた元の世界の俺には、到底考えもつかなかったことだが、今は一緒に楽しく行動する仲間がいるのだ。


 しかも……俺が話す元の世界のプロスポーツの魅力に対し、興味津々で聞き入ってくれるみんなが……まずはサッカーグラウンドで2人組で対面となり、サッカーボールのパス練習から始めた。


 そのうちに若い魔法兵士や僧兵らが、物珍しいものを見るようにグラウンド周辺に集まって来た。各自が購入したボールは余っていたので、彼らも誘って大人数でパス練習を初めて見たら、皆楽しそうにしていた。

 これなら……すぐにでもチームを作って練習試合だって出来そうだな……。



 レルムは嬉しそうにボールとユニフォームを抱え、大量の鮮魚とともに帰って行ったが、それ以降毎日午後からはサッカー仲間とグラウンドでパスやシュート練習……俺の駅長業務もそうだが、魔法兵も僧兵も、以前は穀倉地帯の畑や田んぼの世話を担当していたのだが、農家の方の移住がほぼ終わり、小鬼たちに対する棚田の農業指導も終了しているため、今では特に決まった業務がない状況だ。


 急な敵襲に備えて毎日魔法の訓練や肉体のトレーニングは欠かさないのだが、サッカーの練習もトレーニングの一環という事で、毎日グラウンド周りのランニングから始まり、一通りパスやドリブル練習をこなして日課とするようになってきた。だからまあ……彼らとしては決してさぼっているわけではないのだ。


 50人百人とあっという間に人数が増えて行き、今ではグラウンドも4面と造成……なんせ魔法兵が河川敷の雑草を火炎魔法で焼き、その後土系魔法で整地して石灰でラインを引けば完成なのだ。2日ほどの作業でグラウンドが出来てしまう……魔法万歳。


 期末の春が来る前に練習試合などもできるよう、練習終わりにはルール説明……と言っても俺が記憶の限り振り絞ったオフサイドとかハンドとか……後はラフプレー禁止にフェアプレー精神に則った取り決めなどだが……を、図解を入れながら時間を取って周知している。


 当面は文句が出ないよう、歩くルールブックである俺が審判をするつもりだが、いずれは審判も育成して俺もサッカー出来ればな……と考えている。



 毎日サッカー練習に明け暮れ2週間も経ったころ、そろそろ野球も指導なんて考えていたら、男性スポーツだけではなく女性向きのスポーツも紹介してくれと、サッサーやアーミナから苦情が来た。


 別にサッカーだって野球だって、男女の区別なく元の世界ではやっていたし、プロリーグもあったはずと説明したのだが、もう少し運動量が少なくて体と体の接触がないものがいいと要望された。


 まあ……この辺りは好みだからな……だったら対面球技のテニスがいいだろうと、ひらひらスカートのテニスウエアを絵に描いて、紹介してあげた。


 テニスコートは河川敷を魔法兵に頼んで整地してもらい、大まかな寸法で白線を引いてポールを立て、漁網を作っているところに寸法を言って特注したネットを張る。当面は土のコートで、いずれは芝を張ったコートも作る予定ではいる。問題はラケットとボールだ。


 ラケットはいつもの通りに事務長に大まかな形とガットという強い糸をテンション効かして強く張っていたと説明して、取り敢えず漁網と同様にくも糸を太めに絡めて作ってくれた。問題はボールで……軟式テニスは確かゴムボールだったが、こっちの世界で見る濃い灰色の天然ゴムとは異なるしな……。


 硬式ボールは野球のボールと同様コルクにタコ糸をぐるぐる巻きにしてから、フェルト……のような毛羽だった生地を探して手ごろなもので覆ってみたところ、かなり硬い。事務長に色々と注文を付けて、中にスポンジを入れたりゴムを入れてみたりして弾み具合などを確認しながら調整した。


 ひらひらのスカートのテニスウェアでコートを左右に走る美女や美少女の姿は、何時間眺めていても飽きることはない(決して元の世界で俺が、女性がひらひらスカートで動き回るのを目的で興味があった訳ではないのだが)……真面目にやるとかなりハードだし、楽しんでやる分にはきゃぴきゃぴできるし、見ていて楽しい。


 若い女性らにテニスは好評価の様子で、メリアンちゃんの妹2人もラケットを持って楽しんでいるようだ。


 パンチら目当てに紹介しただろうって?勿論そんなことはないし、テニスウエアの場合はアンダースコートっていう見せパンを必ず履くのだと説明もしてある。


 そもそも美少女サッサーもアーミナも俺の嫁だから、あんなことやこんなことだってしょっちゅうしているし、住居ビルの各部屋にはキッチン、トイレのほかに小さいが風呂だってついているのだ。普段は食堂隣の公衆浴場を利用するのだが、たまには家風呂がいいだろうとサッサーやアーミナと一緒に入ったりもしていた。


 お互い体の洗いっこなど楽しくしていたものだが、今では家風呂で子供の入浴をさせるのが俺の日課となっている。家族風呂なら子供がギャーギャー泣いても遠慮することないし、なによりおしっこやウンチを漏らしたときの処置も楽だ。流石に公衆浴場では気を使うからな……。


 ちなみに事務長はお湯がもったいないからと、家風呂はどれだけ誘っても一緒に入ってくれない。頑として公衆浴場派なのはちょっと残念。


 ミーティアさんとスーメリアさんは運動は格闘技派のようで、工房作業の後は柔術や薙刀の訓練してから浴場に寄って汗を流してから帰宅していたが、今は二人とも身ごもっているので、運動は控えている。



 そんなこんなでマーケット開業からひと月も経過したころ……


「明日は鉄道の開業式だから、王都に向け出発するぞ。」


 突然事務長に出張を告げられた。そういやそろそろだな……とは思っていたのだが、日程を確認していなかった。どうにもこの世界はカレンダーの月日が元の世界と異なる為、何月と聞いてもその時期がずれてしまうため、何日後とか何時間後とか期間で聞いておく癖がつき、そのうちに元が分からなくなって、その日に気づかなくなってしまうのだ。これを俺は異世界あるあると考えている。


 ちなみにこっちの世界でも1年は12ヶ月だが、ひと月は28日とか27日とかで、1年は333日だ。


 だけど……俺の感覚では1日が恐らく長い……今では随分慣れたが、来た当初は朝はかなり早めに起きていたし、夜も早めに眠くなっていた。時差ぼけのような感じで、最初のうちは結構辛かったのを覚えている。魔王軍の脅威にさらされていたので、徹夜も多かったからその分辛さの理由は成り立っていたのだがな……。


 間違いなく公転周期は短いが自転周期は長いのだろう……多分1時間以上は違うはずだ。そう考えると感覚的な1年の長さは同じ程度かな……と予想されるが、カレンダーが覚えにくいのは仕方がない。



「えー……本日はお日柄もよく……。」


 昨晩トロッコ列車と、夜行便の走行バスの中で事務長に添削を受けながら、何度も書き直したあいさつ文を読み上げる。マーケットの開業式に引き続き、鉄道の開業式でも俺が冒頭の挨拶を任じられてしまった。


 言い出しっぺであるから断れないのだが、こんなことは日ごろから慣れている事務長とかレルムとかがやったほうが、遥かにいいはずなのに……。


 一地方であるスーパー堤防でのマーケットの開業式と異なり、来賓の質や数の違いが半端ない。あの時は大半がマーケットでの買い物を楽しむ客でごった返していただけなのだが、王都での開業式では艶やかな衣装を身にまとった高貴な方たちが何十人と……列席していた。中には……見たことある様な人も……。



「えー……この鉄道もまた勇者殿の知識と賢者の試行錯誤の賜物でして、人の足ではこれまで街道筋を歩いて宿泊を重ねながら10日は掛かっていたエルムグリムの横断が、僅か9時間ほどで叶ってしまいます。


 この高速化で我が国の西の端から東の端のスーパー堤防駅まで、夜行便さえ走らせたなら1日で往復できてしまうという、夢のような未来社会の到来となりました。


 東端の穀倉地帯では多様な農産物が収穫され、更に穀倉地帯南の漁場では多くの水揚げがあります。新鮮な野菜や果物に穀物及び魚介類でさえも、誰もが容易くしかも安価で手に入れられる時代が到来したのです。


 全ての国民の皆様に豊かで住みやすい環境を、これからも整えていく所存ですので、今期末からの総選挙及び議会運営にもご協力お願いいたしますぞ。」


 王様からの暖かなお言葉を頂戴して、会は盛況に過ぎて行った。


 スーパー堤防駅をトロッコ列車で出発して、1時間半で旧国境駅に到着。そこから鉄道本線に乗り換えるのだが、線路の幅の違いから駅舎は分けてあり、トロッコ列車の旧国境駅と鉄道の旧国境駅は別の建屋とした。


 トロッコ列車の駅から道を挟んだ向こう側に鉄道の駅がある。どうして分けたのかというと、エルムグリムを鉄道は東西に横切る線しか今はないが、いずれは南北線も出来るはずだからである。


 旧国境駅と王都手前駅と最西端の駅夫々から、南北線が計画されていて、更に最南端と最北端の駅間をつなぐ計画までが、10年計画として草案されているようだ。


 駅舎が異なるので乗り継ぎ時間は30分を見込んでダイヤが整備されている。


 鉄道側の旧国境駅を出発して王都前駅までは3時間半。10分停車後そこから大きく南側へ蛇行して、王城のお堀をぐるりと回ったところで、王城駅となる。王城前駅からここ迄が低速運転なので15分。10分停車してから又大きく迂回して王城の西側中央へ回り込み、主街道に沿って線路が敷かれて西へ向かう。


 最西端の駅までは3時間で到着するので、おおよそ9時間かけて国内を横断できることになった。5分のオーバーは、いずれ各駅の停車時間を詰めて行って、ぴったり9時間に調整するつもりだ。まあ……運転に慣れてくればより高速化も可能となるだろうしな……。



「これはどうもハーゲル王子様……ご来賓としてご出席ありがとうございます。ですが本日が我が国の鉄道開業の式典だと、良くお分かりでしたね。招待状など出していないはずですが……。」


 式典は大盛況に終了し、一番列車が旧国境駅に向けて出発するのを見送った後、来賓者をそのままにはできないので王城のVIPルームへご案内することになった。やはり招待してもいないのに、隣国タッタルンのハーゲル王子は、来賓者に紛れるかのように式典に出席していたようだ。


 ハーゲル王子以外にも、煌びやかな服装のいかにも金持ち然とした人たちも一緒についてきた様子だ。兵士長の嫌味な言葉が炸裂する。


「お言葉ですな兵士長……我が国とエルムグリム王国は先日協定書を交わした、同盟国ではないですか。なのに貴国の重要な式典に、どうして招待されないのです?先日たまたま議長殿とお会いすることがあり、その時にちらりと式典が開催されるとお聞きしましたもので、勝手ながら出席させていただきました。


 この世界共通の客人と言える勇者様の知識によって作られた、素晴らしい発明だそうではないですか。その技術は当たり前ですが、この世界の民皆で分かち合うべきもの……つまり……我が国にも勇者様においでいただき、技術をご教授願えますよね?


 お嫌……とおっしゃるのであれば、貴国との同盟にひびが入りかねませんよ。魔王国をけん制する意味でも同盟は必須であり、それはお互いに得策ではないと思いますがね……。」


 前回同様VIPルームのふわふわソファにドカッと深く座りながら、ふてぶてしくも立ち上がろうともせずに答えた。王さまだって、来室しているというのにだ……なんという……態度……。


「勇者殿……ぜひタッタルンの民のために、その知識を与えてくだされ。外国へ出向くというのはご不安もあるでしょうが、エルムグリム国会議員で議長を務める私ヒラーレルがご一緒致しますから心配ご無用。快適な旅となりますから……なんだったらタッタルンに永住なんてことも……。」


「おやおや……永住などと……そりゃあエルムグリム王国よりも豊かなわが国であれば、勇者様のお住まいから召使迄、最高のものを揃えさせていただくつもりですがね……ですがそれはまだ……気が早いですぞ……議長殿……いえ……今は公爵殿……というのがよろしいかな?」


 ハーゲル王子の態度にムカついて睨みつけていたら、その隣でこちらもまたふてぶてし気にソファに深く座ってふんぞり返っていた中年オヤジが、俺と一緒にタッタルンに行くと言い出した。


「ハーゲル王子のお隣が……魔王軍侵攻に怯えてあっさりと王様に政権移譲したという、評判の悪い議長ですか?公爵なのでしょうかね?公爵って貴族の中でも偉い方ですよね?」


「ああ……そうだ……やはり彼がタッタルンと通じているようだな。何とかせねば。」


 VIPリームのソファに対面する形で、玉座の脇手前に一緒に立っている事務長に小声で囁いたら、やはり小声で返答があった。なんという……あいつが諸悪の根源……いや……あいつが逃げ出さなければタッタルンだって協定を破るわけにもいかずに兵を出し、戦況が悪くならずに、俺が召喚されることもなかったのかな?


 すると……辿って行けば奴は俺の命の恩人という事に……いや……そんなことにはならない……


「ああ……いやあ……おっ俺などがその……たたタッタルンへ行っても……何の役にも立てませんよ。」


 下手にタッタルンへ行こうものなら幽閉でもされて、戻ってこられなくなる可能性大だからな……技術供与するにしても、事務長がいなければ俺のつたない知識など……ほとんど役に立たないはずだ。それを不満に思われて、真面目に知恵を授けなければ帰さん……と言われても困る……。


「ご謙遜を……勇者様……タッタルンにお越しいただいて、決して後悔させることはないとお約束いたします。元国会議長がご一緒くださるとおっしゃってるのですから、楽な気持ちでご同行ください。最上級の国賓として歓迎いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。」


 ここで初めてハーゲル王子がソファから立ち上がり、深く頭を下げた。


「いやっ……あの……おっ俺にはその……たっ沢山の妻がおりまして……。」


「おおおお……タッタルンでも重婚は認められておりますぞ……わたしにも今はまだ少ないですが20人の妻がございます。なんでしたら奥様方とご一緒にいらっしゃっていただいても、当方としては全く構いませんよ。全員をVIP待遇で歓迎させていただきます。是非ともお願いいたします。」


 何とか逃れようとしているのだが、全く引いてくれそうもない。外国の王子様だと無礼な態度もとれないし、どうしゃべっていいのか分からないから、断るのが難しい……どうする俺……。しかし20人の妻でも少ないって……どういう感覚なんだ?


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