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14.マーケット開業

14.マーケット開業


《開かれた議会を取り戻しましょう。魔王軍の侵攻に伴い王政が復古し、未だに政治は我々国民の手に戻ってきません。元国会議員議長として、わたしは断固として主権を国民に戻すよう主張致します。》


 北方の集落からの帰り道、立ち寄った街道の宿場町で一泊した翌朝、帰路に就くためバスに乗り込もうとしていたら、木霊魔法で拡声した音声での演説が丁度始まったところのようだ。


「何ですかこれ?」


「ああ……旧国会議長が再任請求を王様に却下されたものだから、なんとか議長に戻ろうと国民に訴えているのだろう。勝手なものだ……魔王国に攻め込まれた途端に議会を解散して、自らが望んで王様に政権を譲ったというのにな……平和になった途端にこれだ……。


 この辺りは議長の地元に近いから、住民を巻き込んで抗議運動につなげようとしているのだろうな。」

 見ると各家家から騒ぎに気付き、大勢の人が外に出てきて皆一様に空き地の檀上を見上げている。


《…………国王の暴挙を許すな!皆で立ち上がって、民主主義国家を取り戻そうではありませんか!》


『おーっ!』

 演説も熱を帯びてきて、聴衆も一団となって熱いエールが沸き起こり始めた。


「なんだか議長の口調を聞いていると、王様が魔王軍侵攻を利用して政権を奪いとったかのように聞こえてくるではないですか。これはまずいですね……いずれ暴動になりかねませんよ……。」


「うーん……エルムグリム国民は愛国心が強く、王様の信望も厚いから、すぐさま暴動とかにはつながらないとは思うが、民主化運動も議長らに先導されると厄介だな。


 帰ったら王様と兵士長も交えて、打ち合わせを持った方が良さそうだな。レルム……悪いが伝令バトを飛ばしておいてくれ。王都に着いたらすぐにでも打ち合わせをしたいとな……。」


「分かりました……急いで王様の予定を調整するよう兵士長にお願いしましょう。」

 レルムはすぐさま走行バスに乗り込むと5分ほどで出てきて、青空に向かって一羽の伝令バトを放った。



 それから走行バスは一路王都を目指し、王城の裏門に到着したときはすでに夜も更けていた。


「あたしはこれから王様たちとの打ち合わせがあるのだが、文美雄は急いで戻らねばならぬだろう?

 丁度夜行の装甲バスが出る時間のはずだから、それに乗って戻るといい……。」


 議長らの恥を知らない感じの民主化運動に対し、どのような対策をとるのがいいだろうかと、俺なりに考えていたのだが、到着と同時に俺にはそのままスーパー堤防住宅へ帰れという……。


「ええっ?でも……俺だっていたほうが……。」


 決して打ち合わせ内容が知りたくて残りたいという、興味本位ではないつもりだ。これまでだって俺の意見は結構採用されていたはずだし、今回だって役に立てると思っているのだが……


「仕方がないだろ……マーケットは明日の午後4時に開店の式典が催される予定のはずだろ?メイン幹事の文美雄が出なくてどうする?夜行で行けば明日の昼前には旧国境駅に着くはずだから、午後のトロッコ列車に乗って行けば、身支度する時間だってなんとかあるだろ?


 こっちのことは心配しなくていい。あたしの見立てでは、どうやら文美雄は対人関係の揉め事には不向きのようだからな……議会のことだって議長の性格だってあたしらにはおおよそ分かっているから、何とかうまく解決できるはずさ。安心してくれ。」


 そうだったあ……俺の一押しのマーケット……ついに今秋オープン……と予定は頭に入っていたはずだが、まさかそれが明日とは……うっかりしていた。


 なんせエルムグリムでも類を見ない規模の、モールとも言うべきマーケットだからな。今ではトロッコ列車でつながっている、漁村や復興途中の旧国境の町からの来客だって見込んでいるのだ。


 品ぞろえだって豊富で、食品スーパーはもとより洋品店からおもちゃ屋、果ては荷馬車屋までも入っている総合マーケットなのだ。


 出店店舗の勧誘は、ハッカクさんとターレムさんが主に知り合いのつてを頼りに、信頼できる業者を選りすぐって行ってくれたのだが、いつの間にかこんなマーケットが欲しい……と言い出しただけの俺が発案者だからと、主幹事として祭り上げられてしまったのだ。


 主幹事と言ったってなんの手当てもつかないし、商品の割引すらないただの名誉職ではあるのだが、それでもオープンに伴うセレモニーでは冒頭の挨拶を任されている。勿論挨拶の文面は、事務長に添削をお願いして何度も作り直したものだ。文面だけ書き終わって終了したつもりでいたのだが、まだこれからだった。


 うっかりすっぽかす訳にはいかない式典だし、挨拶文は日本語なので他の誰にも読めないから代読もきかず、絶対に帰らねばなるまい。急ぎ王城の正門へ向かい、出発間際の装甲バスに飛び乗り旧国境の街を目指す。



 夜行便の為もあるのだろうが、主街道もあちこちに落とし穴を掘ったので、それを全て埋めなおし、固めて舗装しなおしたがそれでも未だ街道の行き来はまばらで、行き来が多ければ踏み固められるはずの地面も柔らかいままだ。時々ぬかるみにタイヤを取られて飛行術を使って脱出する……なんてことを繰り返し、十数時間かかって旧国境の町へ到着。そこから午後一のトロッコ列車でスーパー堤防駅へ向かった。



”パーンッパパーンッ”

 祝砲ならぬ、火炎弾を空中で破裂させるという魔法で盛り上げ、式典が始まった。


「えー本日はお日柄もよく…………。」


 無事式典には間に合い、セレモニー開始の挨拶を始める。多くのお客さんが詰めかけていて、木霊魔法で拡声されて挨拶をするというのは非常に緊張するはずだが、ターレムさんが緊張を和らげる魔法をかけてくれた効果なのか、準備しておいた文面を読むだけの挨拶は無事に完遂できた。


「では、ご入場を開始してください。」

 来賓の挨拶も予定通り終え、テープカットののちに入場が開始された。


 大勢の群衆が一斉に入り口に群がり、そこから散って行く。階を結ぶのは勿論、大河の水車での発電を利用したエスカレーター……3階建てだから階段でも別に良かったのだが、やはりこういった細かなサービスが集客につながるのだ。皆笑顔で、上下方向のエスカレーターに分乗し、思い思いの売り場へ向かっていく。


 地下1階から地上3階までが売り場で、食品フロアは夏冬で温度変化が少ない地下にした。なんせこの世界には冷蔵庫やクーラーなんてものは、今の所存在しないからな。住居ビル隣の温室で栽培されている、バナナにパイナップルなどの南方の果物も、このマーケットの目玉商品の一つだ。


 勿論バナナは室に入れ、十分に熟成してから売りに出している。


 1階は履物やバッグ売り場で、俺が考案して工房で試作を繰り返している自転車売り場も、近く開店する予定だ。そのほかにサッカーボールや野球ボールにミットとバット、バスケットボールにバレーボールに卓球……折角平和になったのだからと、スポーツをはやらそうとこれも工房に頼んで道具を揃えた。


 俺が記憶の限りを振り絞ってルール説明を行い、それらをまとめて公式ルールブックとして開示する予定だ。

 勿論野球場もサッカーグラウンドも河川敷に2面ずつ作ってあるし、体育館だって公民館の隣に建築した。


 永らく海はなかったが川はあったので、夏場の水泳は行われていたようだが、あくまでも浅瀬の水遊び程度で、遠泳なども行われてはいなかったようだ。サーフィンやヨットなどマリンスポーツも流行らせたいところだが、俺は泳ぎはほとんど進まず息継ぎもできない身の上なので、こんなスポーツがあったよ……というだけにしている。


 元々が魔王軍に侵略されかけて国を閉ざし、何とか生き永らえて来ただけ……と言った貧しい国だったようで、娯楽は非常に乏しかった……事務長が言っていたチャンバラ程度……だが、穀倉地帯だって取り返したし、海も戻ってきて漁業だって本格的に始まっている。


 これからは豊かな国となるはずなので、スポーツなどの娯楽も必要なはずだ。


 お洒落とかお化粧とかも案外普及していないようで、まあ……そんなことしなくても天然美女……ばかりの国ではあるのだが、ファッションのこととか、お化粧のこととかサッサーやアーミナたちを通じて色々と元の世界の状況を話している。彼女らは彼女らなりに工房の科学チームとともに、研究を始めたと聞いている。


 それらもすべてここのマーケットを発端に、全国に普及してくれたなら、この国はもっともっと豊かになるはずと俺は信じている。


 マーケット開業を待ちわびるように集まっていた大勢の客たちは全員建物の中に入って行き、式典会場の後片付けを手伝い終え、帰路に就いた。マーケットから出てくるお客たちの様子を窺っていたが、皆笑顔で大きな買い物袋を提げていて、満足そうなのでほっと一息……。



《エルムグリム王のお言葉である……整列せよ!》


 式典も無事終わり今日からまた駅長業務だなと思いながら翌朝、顔を洗ってから日課の体操をしたのち、いつものように駅舎へ出勤して朝便の出発を見送ってから付近の清掃をし、お茶を楽しんでいたら突然、木霊魔法で王様のお言葉が告げられるようだ。


 予告など全くなかったので、皆急いで外へ飛び出し青空を見上げる。丁度朝便のトロッコ列車が到着するところだったので、余計に多くの人だかりが駅前にできた。


《エルムグリムの民たちよ、わしは現行の王政をこのまま続けようとは考えておらん。そもそも今の王政は、魔王軍の侵攻に恐れをなして国家運営を放棄し、全権をわしの承諾を得ずに無理やり譲渡する旨の議決書を提出して逃げ出した、旧国会議員たちによるものだ。


 勇者に加え勇敢な国軍兵士及び勇敢な女性たちの力により魔王軍を撃退し、平和を取り戻した途端に民主化運動を逆手に取り、議会の復活を叫び始めた身勝手な議員たちを復権させるつもりは毛頭ない。


 再び魔王軍が攻め込んで来たならどうする?すぐさま王政復古を議決して、疎開先もしくはお隣の国へ逃げ出すような弱い議会に、この国の未来を託すのか?


 そうならぬよう、もう一度国を愛する者たちの中から議員を募り、国会を運営していただくつもりだ。


 戦後の復興も順調に進み、疎開先から戻ってきた民も落ち着いたであろう来春に総選挙を執り行い、選ばれた議員らに国政を委ねるつもりでおる。


 但し今回からは、参政権は現行通り成人年齢の15歳以上とするが、被選挙権はこれまで情操教育を受けた男性のみとしていたのを撤廃し、成人した国民は男女の区別なく全員が被選挙権を持つものとする。


 民主化の当初、結婚して家庭に入る女性には無理とか、兵役免除を目的の立候補を避けるとか、まともな教育も受けず文字も書けないものに被選挙権を与えないとか、有識者にお願いして規律を作成したのは失敗であったと判断する。おかげで温室育ちの弱い議員だけになってしまったようだ。


 立候補の受け付けは今期末の11月から1ヶ月間とし、12月初から告示して選挙運動を始め、年度末の12月31日に総選挙を行い即日開票とする。


 尚、遊び半分の立候補を避けるため、立候補の際は預入金を治めることとする。選挙運動は定められた範囲内で自費で運営していただくが、選挙戦が終了次第、預入金及び規定の選挙費用は返却するが、一定以上の票数に達しないものに関しては、預入金の返却も既定の選挙費用も支払われないので心して吟味するように。》


 なんと……王様自ら総選挙のお告げだ……しかも職場放棄した議会を真っ向から否定しての……これは旧議員らは立候補しにくくなるだろうな……ざまあ見ろだ。


 だが……なんだか被選挙権について随分と色々と言っていたな……。来季からか……この世界では期初となる元の世界では4月ごろの春が新年だ、つまり1月……。年末は3月ごろという事になる。


「おはよう……王様のお言葉を聞いたであろう?今期末は総選挙だ……文美雄から事あるたびに聞かされていた、元の世界の選挙制度……随分と参考にさせてもらった。これまでより平等な選挙になると思うぞ。」

 振り向くと巨乳なのにスレンダー美女……事務長がほほ笑んでいた。


「あっ……おはようございます。王様たちとの打ち合わせは、議会制民主主義の総選挙の件だったのですね?

 俺が時々呟いていた元の世界の選挙権の話……案外役だったようですね、良かった。


 でも……女性は兵士として戦えないなんて言う法律があったから予想はしていましたが、男性も兵役を終えなければ立候補できなかったのですか……さらに情操教育って何ですか?」


「ああ……情操教育というのはいわゆる大学だ……一般市民は小学校と中学校と女性の場合は女学校へ進み、男性の場合は魔法学校へ進む。そこで魔法教育を受けて兵役となるわけだな……。


 だがしかし、貴族の子息に関しては兵役を免除され高校へと進み、そこから大学へ行く。情操教育を受けたものとは、この大学を卒業したものという事で……これまでは貴族以外は被選挙権はなかったのだ。


 国民が選ぶ議員による政治……なんて言いながら、それは全て貴族の中から選ぶ……正に地元の貴族を応援するだけの選挙になっていたわけだ。


 先代の王さまが政治を国民に帰すとして始まった議会制民主主義なのだが、当時選挙について議論した有識者というのは、大学卒業した学者……つまりは貴族たちの閉鎖された枠組みでしかなかったわけだ。


 権力を一部の人間だけに偏らせないとして英断された先代王の意向は、地域の豪族である貴族らに権力を集中させるという、予期せぬ事態を生み出してしまっていた。


 確かに小学校もろくに通っていなくても、14歳になれば無理やり魔法学校に入れられ、15歳の成人年齢で兵役に就く。平民の中には碌に文字も書けない者がいることは事実だ。だからと言って、全員を否定することや、自分らは兵役免除という保護下にあることをいいことに、兵役奉仕を盾に被選挙権を奪うなど今考えると横暴でしかない。だが……長く続いた形ばかりの議会制民主主義では、誰もがそれを信じていた。


 やはり文美雄がこの世界に来たことは、この世界を変えるために必要なことだったのだろうと、今回改めてそう感じた。」


 なんと……これまでは議会制民主主義と言いながら、実は貴族議員制度でしかなかったわけだ。だからか……自ら議会運営を取りやめたにも関わらず、恥ずかしげもなく復権を主張していたのは……確かにもう一度総選挙を行ったとしても立候補者が貴族に限られれば、自分らの再選は約束されたようなものだからな。


「本当にそうですよ……それもこれも全て……私が召喚元に地球を指名したおかげですからね……。」

 事務長の影から烏帽子帽をかぶった僧服の男性が……やはりレルムか……先ほどの空をスクリーンにした木霊魔法も彼のおかげだな……このために出張してきたわけか……。


「ああレルムさん……丁度いいや……昨日からマーケットがオープンしたのですよ。品ぞろえ豊富ですから、レルムさんも寄って行ってくださいね。」

 折角来たのだから、マーケットへ寄るよう言っておく。


「ああそうでしたね……盛況そうで何よりです。私の家族のために何か土産物を買って行きましょうかね。


 そう言えば……鮮魚を買ってこいと仰せでしたね……マーケットがあるなら、南の漁村へ立ち寄らなくても大丈夫そうですね。助かりましたよ……。」

 レルムは嬉しそうに、駅近のマーケットの建物を見やった。


「そう言えば……ほら……半年分の小遣い……これがなければ、マーケットが出来ても買い物できないだろ?」

 レルムと話をしていたら、事務長から突然巾着袋を手渡された。ずっしりと重いその中身は、何枚もの金貨が入っていた。


「どうしたのですか?これ……。」


「だから……消毒用のアルコールを調達するのに、半年分の小遣いを使ってしまったのだろ?あれは開腹術の成功率を向上させるために必要なものだから、当然ながら必要経費だ。兵士長に話して、出庫してもらった。


 更に様々な醸造所に声をかけて、消毒用のアルコールを大量発注して、それを国中の診療所に配布して衛生面を向上させるよう指示した。普通の疾病や怪我でも診療所で悪化する場合も度々あるからな。衛生を保つことは悪い事ではないはずだ。きれいな布でカーテンや仕切りをすることも伝えておいた。」


「そっそうですか……ありがとうございます。」


 やったぁ……これで思う存分買い物ができる。とりあえず野球のグローブとボールとバット……それからサッカーボールを買ってみよう。以前の俺には無用の長物だったが、今ならハッカクさんやターレムさんという結構仲良しがいるから誘ってみたい。


「そうだ……レルムさんも……野球やってみませんか?」


 レルムも誘って……うまくしたら王都チームとの対抗戦だってできるようになるかもしれない。ルールブックは図解入りで印刷して冊子にしてあるから、それを渡せばいいのだからな……。

 ううむ……楽しみが出来た……。


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