11.マーケット構想
11.マーケット構想
スーパー堤防から穀倉地帯を横ぎるトロッコ列車の線路の敷設は、案外早く終わった。なんせ仮設だから、駄目だったら手直しすればいいや……程度の考えで、まずは鋳造で長ーい鉄のレールを作り、土系魔法で畦道の盛り土表面を削って形を整えてから、コンクリート製の枕木に乗せて行く。
レールは極力長く作りたかったが工房では5mが限界で、それ以上はうまく鉄が回らずに巣が入るとかで、鋳造の方法も本番線路用は改善予定で、取り敢えずそのまま敷設することにした。長物のための鋳造技術を上げて行くと、鋳造の班長が決意表明していた。
勿論、夏の高温でレールが伸びる分だけ、レール間を開けることは忘れずに……。
レールの試作からトロッコ用として完成するまでに2週間、枕木用のコンクリートブロックは型枠に砂を混ぜたコンクリートを流し込むやり方で大きさと形を統一し、強度を高めるために細い鉄筋を中に入れて作り、同様に2週間で完成の目途が立った。
その間に田んぼのあぜ道には土を盛ってから硬くならし、川から運んできた砂利をまいておき、魔法兵士たちがコンクリートブロックと鉄のレールを魔法で宙に浮かせながら運んでいき、決められた間隔でブロックを並べてその上にレールを置いたら、女性工員がレールをブロックに固定していくという流れ作業だ。
大規模な土木工事であるにも拘らず、クレーンにミキサー車にダンプカーなど、重機や大型車などどこにもないという……全て魔法でまかなって敷設していくのだからすごい。
穀倉地帯を南北に分断する中央畦道にトロッコ列車用の線路を敷いて、その中央部分に駅を設置。駅はスーパー堤防駅と穀倉地帯中央駅および穀倉地帯西駅と、旧国境駅の4ヶ所にした。穀倉地帯中央駅からは南に向けて線路を敷いて、漁師町との行き来ができるようにした。
「いよいよ一番列車出発ですね……緊張するなあ……。」
穀倉地帯から旧国境の町までのトロッコ列車用の線路の敷設には、2週間ほどかかった。一ヶ月ほどかけて事務長は蒸気機関というものを完成させ、なんと……蒸気の力で車輪を動かし列車を駆動する事を成し遂げた。
勿論蒸気を発生させる熱は火炎魔法ではあるのだが、それでも魔法兵士が1時間交代制で勤務すれば魔力的には十分賄えるようで、休憩込みで2人の乗務員が12時間勤務で朝8時の始発と昼に一便、夜8時の終電の3便を往復運航することになった。利用状況によって、便数を増やしたり時間延長も検討するつもりだ。
路線はスーパー堤防から旧国境の町までの東西線と、穀倉地帯中央駅から漁師町までの南北線の2路線だ。
「何度も試運転を重ねたから、客を乗せて走るのは初めてだが、まあ問題ないだろう。」
2席連結のシートを10列ずつ5両編成のトロッコ列車は、通路もドアもなく、簡単な屋根がついているだけで、遊園地のジェットコースターの座席に動力車を取り付けたような形をしている。
走行中は他の座席へ移ることや、トイレへ立つことも許されない不便さはあるが、なんせ狭い畦道に敷くためにはこの方法しかなかった。その代わりと言っては何だが、スーパー堤防駅を出てから35分で穀倉地帯中央駅に5分間停車し、さらに30分走行後穀倉地帯西駅に5分停車、そこから15分で旧国境駅に到着。
片道1時間半で穀倉地帯を横断できる。これは、現行の装甲車改良バスでさえ片道に5時間以上かかっていたことを考えると、大幅な時間短縮だ。装甲車で舗装されていない柔らかい田んぼのあぜ道でスピードを出すと、スリップしてうまく走行できなかったのを、整備したレール軌道に変更した功績が大きい。
余りに時間がかかりすぎるため、穀倉地帯西側の農地を配分された農家からクレームが生じ、西側の大河の堤防はスーパー堤防化していなかったのだが、スーパー堤防に拡張してログハウスを建築し、農繁期には此方にも住めるよう改善したのだが、これなら通いも夢ではない。
もう少し移住者が増えたなら、こちら側にも集落を形成する計画はあるのだが、元々住居がなかった堤防の上だけに飲料水や下水の問題があり、インフラ整備に今は手をかけていられないので、あくまでも仮の住まいとしているのだ。
王国時代に住居だった土地は、穀倉地帯の中に数戸ずつのスペースで荒れ地として点在していることは分かっているが、そこを整地して個々に家を建てさせようとすると、かの地は何代前の先祖が所有していた……等と所有権を主張するものが出てくるようで、当時の資料が存在していることはしているらしいのだが、代替わりしてからの相続問題が明確にならないので同族内で揉め事の種となる危険性があり、一旦放棄した土地でもあるし、集合住宅建造し土地は農地に転用するという王様の特令を発布して対応することになったのだ。
穀倉地帯南の海岸に作った漁村に関しては、防風林の内側を走行して河口に出てから堤防を直接装甲車で走行するルートを現行運用しているが、田んぼのあぜ道を迂回するルートに変更して、トロッコ列車に貨物車を連結して魚介類の運搬もいずれ行う予定だ。優先順位として……王国内の本線が運航してからとなるが……。
「ほうら……問題なく旧国境駅発の列車が予定通りに入って来た。」
ほぼ予定時刻の3時間30分後に、朝一に発車した列車が往復して戻って来た。どうやら停車時間に再乗車しない客が多く、各駅で発車が遅れ気味のようだが、5分の停車で短ければ今の運航便数なら停車時間を10分にしてもいいかもしれない。
各駅舎のトイレの数など十分な数を確保しているのだが、やはり身動きできないトロッコ列車に長時間乗車する不便さは否めないか……ちなみに俺も何度か試運転時に乗車させてもらったのだが、満員電車で通学していた時に座席座れたときのような感覚で、窮屈さも不便さも何も感じなかったが、人それぞれだからな……。
いずれ王国内に蒸気機関車を走らせる時は連結時間もあるので、停車時間は極力短くしたく……それまでに皆が列車での移動というものに慣れて行ってくれるとありがたいが、今の所王国内は装甲車改良バスが朝昼晩と運航して王都と旧国境駅を結んでいるので、いまなら多少は融通が利くのだ。
トロッコ列車でのどかな田園風景のど真ん中を、風を切って走る爽快感はかなり素晴らしいのだが、冬場や嵐が来た時のことなど……検討は必要だ。とりあえず今の所は雨風が強いときには、僧侶系の兵士を各車に乗車させて、物理結界を施すことを計画している。
乗客……と言っても堤防の住居ビルに入居している農家の家族か親戚などが様子を見に来たりしているようだが、以前は徒歩での旅だけで、穀倉地帯のように途中に宿場町も何もない場所へはとても行き来できなかったのが、トロッコ列車の開発により庶民でも行けるようになったのは、夢のようだと評判はよかった。
装甲バスは定期運航はしているのだが台数は確保できず、基本的には貨物輸送と農業従事者の田畑への移動に加え軍備……兵士の移動優先となるので、旧国境とスーパー堤防間では一般開放はされていないのだ。
これで、やたらと不便だからと敬遠され気味の様子の穀倉地帯への移住農民家族が、増えて行ってくれるとありがたいのだがな……なんせ未だに予定数の半数くらいしか応募が達していないらしい。
田んぼは休耕田になりかけたのだが、今年も実家が農家の魔法兵らが今は代行して耕しているようだ。
魔王軍の侵攻を警戒して破壊していった町々の復興は、順に計画されているが人手の面でまだ先のことになるからと、スーパー堤防住居ビルへの移住が一番いいですよ……と呼びかけたのだが、不便だから元居た街が復興するのを待っていると言った声が多かったようだ。
トロッコ列車の開業から、少しは移住者が増えることが期待されそうな雰囲気なのは有り難い。
当面はトロッコ列車運行に不具合があったら改善しなければならないので、俺がスーパー堤防駅の駅長となって、乗客からの要望を聞いて回るよう事務長から仰せつかっている。
旧国境前駅周辺も開発が始まったようで、元々の王国内の穀倉地帯を耕していた農家たちの町は、王都と同様復興計画の最上位にある。この町が出来上がって農家の人たちが疎開先から戻って来たなら、スーパー堤防住居も今よりもっと人の行き来が盛んになって、便利で住みやすくなるに違いない。
スーパー堤防住居ビルは魔王国との国境線に位置し、防衛の要ではあるのだが、それと同時にエルムグリム王国一の穀倉地帯を担う農家の町でもあるのだ。住民が増えて住居ビルが増築され、大都市となってくれることを望んでいる。
その為には、まだまだ街の整備としてやるべきことは沢山あるはずだ……市場とか……商業施設だよな……今の所は住居ビルには食堂が完備されていて、そこでの食料はまとめ買いしているからいいのだが、戦後復興から回復して豊かになってくると、きれいな服とか宝飾品とか欲しくなってくるだろうからな……。
「実家が……宝石店の兵士ですか?宝石が欲しいのですかな?奥さんたちに贈るのでしょうかな?」
「更に……実家が洋品店の兵士……今度は奥さんたちのドレスでも新調しますか?」
事務長は忙しそうなので、久しぶりにハッカクさんとターレムさんを呼んで、今では3千を超える兵士らの中から、実家が商売をやっている兵を探してもらおうとしたら、とんでもない勘違いをされた。
「そうではなくて……戦後一年以上経過して、そろそろ落ち着いて来たではないですか。こうなると毎日ただ食べられたら幸せ……とは言っていられなくなりますよね?何か娯楽……と言ったものが必要になってくるのではないかと……買い物って、最大の娯楽と言いますからね。
以前川の漁師さんたちから、夏場の暑いときには川に入って泳ぐとか聞きましたけど、今なら目の前に大きな川が流れているし、南の海へ行けば地引網漁していない時なら海水浴だってできると思うのですよ。
そうなるとまずは水着が必要になりますよね?更にレジャーならそんなのでもいいけど、お金がたまって来たならちょっと高級ブランドもの……とか宝石など欲しくなるのではないですか?
だから……そう言う店が入った商業施設……市場でもいいのですが、スーパー堤防に作りたいのです。
でも俺はこの世界の生まれじゃあないから……業者さんとか知らないし……。
住居ビルは全室家具付きベッド付きだから、今の所はいいだろうけど、いずれは自分好みの家具……ランプとかテーブルなどが欲しくなってきそうですよね?出来れば実家が家具屋さんかもしくは家具職人の兵士も、紹介願います。大きなマーケットが出来れば、皆さんもうれしいでしょ?」
すぐさま俺の遠大な計画を打ち明ける。業者探しは人頼りだし、マーケットが入る建物だって、お願いして作ってもらうだけなんだけれどな……でも商業施設なんて待っていりゃあ勝手にその辺に店を構えて商売始めるものと思っていたのだが、1年経ってもいまだにそんな雰囲気すらないのだ。
スーパー堤防の住居ビルや学校が出来てからだって、既に半年近く経過しているというのにだ。スーパー堤防の4LDKは、主寝室にはツインのベッドルームとし、他の2部屋には備え付けの2段ベッドに各部屋に押し入れとクローゼットを組み込み済みと、至れり尽くせりなのだ。
食堂と浴場もついていて売店もあるから、簡単な着替えさえ持ってきたならすぐにでも生活できる状態で、だからなのかもしれないけど、全く商売人がやって来ないのだ。
待っていて来なければ、仕方がないから自分から探してみましょう……といった気分なのだ。
「ははあ……成程……うちの妻もたまにベビー用品……かわいい服とかおむつとか欲しがりますからね。食堂の売店にあるやつは使いづらいとかで……仕方なく伝令バトを借りて、王都から取り寄せているのですが、大きなマーケットが堤防にできるとありがたいですね。」
「おお、そうそう……うちだって娘の成長著しいから、洋服なんてすぐに小さくて入らなくなるのですが、食堂の売店の服はセンスがないから嫌だってだだをこねるので、王都への装甲車を改良した連絡バスの乗組員に頼んで、王都から服を運んでもらうことがありますよ。
確かに……マーケットの要望はあることはありそうですね。」
なんと……ハッカクさんもターレムさんも、それなりに買い物で困っていることはありそうだ。だけど……伝令バトって通販みたいなことにも使えるのか……大したものだ……。
住居ビルの食堂は売店が隣接していて、必要なものなら何でも手に入るコンビニみたいなものだ。缶コーヒーやペットボトルの水やお茶はないけれど、この世界にもお茶に紅茶にコーヒーにココアにジュースなど、飲み物類はほぼ同じものが手に入るし、食堂に行けばグラスやコップに注いで部屋に持ち帰ることも可能だ。
しかし品ぞろえは豊富だが菓子類含め選択の余地はなく、俺はずっと売店で売ってる下着を使っているし、部屋着は作務衣一点で、おやつはポップコーンか干し芋だ。男は下着ならあまり気にならないかも知れないが、女性はそうはいかないだろう。
では、どうして俺がマーケットを思いついたのかというと、干し芋に飽きてきたからだ。この世界にポテチはないのか?といった疑問からだ……商店が並べばポテチだって……と期待している。なければ作ってもらうだけだ……ジャガイモを薄く切って、揚げて塩を振れば……コンソメとかのスープをかけてもいいよな。
やはり選べる喜びというものはあるはずだ。かといって住居ビルではスペースが限られるので、様々な製品を仕入れると言う訳にはいかず、しかも公平でなければいけないので、全ての住居ビルで同じ品物しか販売できないのだ。
「2棟隣の1号棟には、私のお気に入りのブランド服が売っているのよ、でも間に合わなくてすぐに売れちゃうの……きっと勇者がいるビルだから、優先的にいい品物仕入れているのよ、不公平よね!」
なあんて、噂が立っては困るのだ……なんせここは国防の要なのだからな……。
「わかりました……王都東側の集落出身者だったら、商売をやっていても疎開させられて実家は破壊されていますからね。復興を待つよりもここへ進出してきたほうが、既に人口も多いし商売繁盛するかもしれません。
実家の疎開先へ連絡して、商売する気があるかどうか確認してもらいましょう。同じ業者でも複数軒あったほうが競い合って、品質も良くなるし価格も下がるでしょうからね。でかいマーケットが出来るかも知れませんよ。」
ハッカクさんが乗り気で、前のめりになってきた。
「じゃあ俺は……住居ビルの建設チームにお願いして、なるべく駅近くに商業施設を建設できないか、検討していただきます。駅近の方が物流もいいし、皆も来やすいから便利ですよね。」
俺はすぐにマーケットの建物を建築するよう動き出し、それから1ヶ月ほどはマーケット関連で忙しい日々が続いた。勿論トロッコ列車の駅長も兼任しているのだが、こちらは朝昼晩の日に3便の発着の時だけ駅に居ればいいわけで、その間の空いた時間の有効活用が出来た。
マーケットの建設予定地が駅の南側に決まり基礎工事が開始されたころ、暑い夏がやって来た。
とはいえ昨年も感じたのだが、この世界の夏は日本の夏ほどうざく暑苦しくはない。恐らく湿度がさほど高くはないのだろうが、夜も低層階ではあるのだが、窓を開けて網戸にしておけば十分快適に寝られる。
大河沿いの堤防の上という事もあるのだろうが、それでも昨年は大陸中央に近い王都でも何日か過ごしたが、さほど不快感や寝苦しさはなかった。まあ……寝苦しかったならこの世界だったら、風魔法や氷結魔法とかで涼しくするのだろうなあ……もしかしたら王城全体がそういった魔法で覆われていたのかもしれないが……。
スーパー堤防の住居ビルより9ヶ月遅れで王都の城下町の住居ビルが完成したようで、疎開先から戻ってきた人たちの入居がようやく開始されたとのうれしいニュースが入って来た。
同時に、夏恒例……なあんてこれからそうなって行くのかもしれないが、大空を使ったお触れが発せられ、重婚を許された男たちの花嫁ドラフトが、今年もまた開催されることとなった。王都でも重婚カップルがようやく新居に入居する事が出来るため、タイミング的には丁度良いだろうな。
俺は今でも4人の嫁……実質は3人であるのだが……がいるのでもういいと断ったのだが、男女比から未婚女性があまりに多くなってしまうため、どうしてもと言われ仕方なく工房の女性工員ミーティアさんとスーメリアさんを指名した。
仕方なく……とはいうものの、2人ともどうして昨年に指名されなかったのか不思議なほど美しく、スタイルも抜群な女性だ……22歳というのは、15歳成人のこの世界では、やはり年増……なのだろうか。
俺よりも4つ年上だが、年下の子が多い連絡係の子たちは昨年ドラフトで全員誰かしらの嫁となってしまい、指名できなかったのだ。それでも働き者で性格も穏やかでいいし、その上美人でスタイル抜群なのだから、俺としては大喜びだ。
特にサッサーとアーミナが妊娠中で、しかも事務長は蒸気機関開発で忙しく毎晩遅いため、このところご無沙汰だったので、本当は新しい嫁が来てくれるのは、大変うれしい事だった。
俺は頻繁に工房に出入りするから2人とも面識があり、それとなく会話するようになって、どちらも許嫁がいたのだが、魔王軍の侵攻の際に亡くなった事を聞いていたのだ。勿論事前に事務長には相談していて、いいんじゃないか……という許可は頂いておいた。
当然……とは言えないが2人とも快諾してくれて、俺に割り当てられた3室目の住居に2人で入ってもらうこととした。
俺の指名した2人の名は空のスクリーンに大々的に映し出され、以降他の男性陣の指名票を回収して、いよいよ嫁ドラフトが始まるのだ。王都の住居ビルは勿論スーパー堤防住宅も、増築に加速がかかることは確実だ。




